可能性
「ふぅ―」ヘンゼルは息苦しい中で戦っていた。それを皇帝の背後の窓から眺める、もう一人のヤシロ。唯一皇帝の推薦無くして隊長に登り詰めた存在―ヘンゼル。実力はお墨付きのヘンゼルの攻撃をヤシロはナ安々と避けながら1発、また1発と確実にヘンゼルに当てていく。一方、ヘンゼルは、的確に内臓を揺らす拳のせいでまともに立つことも出来ない。それでも、震える足で立ち上がろうと藻掻く。口から滴り落ちる血を拭い、霞む視界の中に彼を見る。はっきりと見えない。けれどわかる。そこに[闇]がいないと。ならば勝てる。自分はこんなモノではないと奮い立たせる。もう一度息を吸い、吐き出す。そして彼は、決死の覚悟で魔法を使う。目の前の[停滞者]―ヤシロを殺すために。
「これで、カタをつける!![血壊]―!!」
発動時の出血量に比例して身体能力、五感を上げる魔法。ただし、出血と判断されるのは体外に出た血。内出血はカウントされない。だが、それで充分だった。既に半分は出血していたのだから。これだけあれば―。身体能力はヤシロの数倍にはなるだろう。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ヘンゼルはナックル―[ナイトメア]を強く握り、駆け出した。
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「失礼します。―ヤシロ様!?」皇帝の部屋に入って来た女性。スーツに身を包み、金色の髪を高い位置でまとめた彼女。名を、サレンテ・フライト―と言った。
「久しぶりだな、サレンテ」ヤシロは微笑む。
「お久しぶりです。ヤシロ様。アリシェラはどうですか?」彼女―サレンテは、ヤシロの部下で爆弾魔のアリシェラ・ハントと親友。ヤシロがアリシェラをスカウトしに行った帰り、宮殿に寄ったらたまたまサレンテに会ったのだ。それ以来サレンテは親友を助けた人、として恩を感じているらしい。
「相変わらずだよ。爬虫類嫌いも、アイス好きも」
クスッと笑うサレンテ。2人の関係を理解する皇帝。
「、、、で、サレンテ。何の用かね」
咳払いをしてサレンテに要件を尋ねる。サレンテは「は、ハイッ!!陛下、停滞者について、新たな可能性が出て来ました」
「新たな可能性―!?」1番驚いたのは皇帝ではなく、ヤシロだった。
「ハイ。停滞者とは、漆黒のスライム状の異形。怪異―そう言っても良いでしょう。彼らは人型にしか変異出来ない―それは鉄則です。ではここで疑問が浮かびます。何故―」
「何故、感情があるのか、だな?」ヤシロが割り込んで尋ねる。それに静かに頷き、刹那の間を開けて続ける。
「何故感情があるのか。その答えが、新たな可能性です。その可能性は―」
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〈パァァァァァン!!!!!!〉ナックルが爆ぜる。ヤシロの体に穴が開く。その直ぐ後に―。
【ドロリ】と音を立て、穴が謎の黒い物体で塞がれていく。その黒い物体にこの場の誰もが見覚えがあった。それは、
〈停滞者〉と同じモノ。
そう、サレンテの提示した新たな可能性は―。
〈停滞者とは、人である〉という可能性だった。
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TO BECONTINUED……




