ハーライベンツ島(弐)
「どういう・・・ことだ・・・」ルナは唖然とする。目の前のそれに、敵意を向けることすらも忘れて。しかし、その一方でヤシロはなんとなくわかっていたのも事実であった。
「アンタ―何者だ?」誰かもわからない敵に殺意を向ける。
「挨拶が遅くなりました。私は、この島の長―」
刹那の間。
刹那の沈黙。
そして。名を名乗る。
「帝都最高評議会〈天翼十二参議会・十二人が一人―ヘレン・ド・ルアーナ・ウルガス・ファンラー〉です。以後お見知り置きを」そう言った彼は、ふたりを牢屋から出す。
天翼十二参議会―それは、帝都を含む十二の國の長が集まる議会のこと。そこに名を連ねるという事は、死して尚も歴史にその名を刻むという事。この世界で、最高の名誉である。
「なぁ、ウルガス」ルナは呼び掛ける。すると彼は振り向き、「ヘレン、で構いません」と言った。そう言われれば、ルナの性格上、従うしかない。
「わかった。ヘレン、私が皇帝の娘だという事はわかっているのか?」
無言で頷く彼。暫く歩くと外に出た。丁度、灯台の真下にあったらしいあの牢屋。そういえば、潮の香りがしていた様な気がする。
「―。、、、。」ヤシロは周囲を見渡す。自分がこの島を出たときと何も変わらない景色に少しだけ昔を思い出す。
「兄さん―!?」背後から声がする。その声に聞き覚えがあった。この島で、唯一の家族。ヤシロの妹だ。
「セフィロス!!」ヤシロは駆け出す。長く、流れるように滑らかに揺れる金の髪。決して背は高くないが、それでもバランスの取れた体躯は、どこかモデルの様な美しさを醸し出していた。
「久しぶりだね、兄さん」そうして笑うと出来る笑窪も、昔のまま。何も変わらない。
その一挙一動が、ヤシロに〈人〉としての何かを取り戻させていく。
「あぁ。久しぶりだな」そう言って微笑んだ彼らを、ルナは。また―。淋しそうに見つめるだけ。ヤシロとああして笑う事ができるのは、どうして自分ではないのか。また、いつかの悔しさが再燃する。結局、自分には、どんな意味であれ、彼を笑わせる事ができない。仕方ないのだ。なぜなら―敵だから。あきらめよう。ルナは、密かにそう、決心した。
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その夜。
「なんで、こうなった―!!」与えられたベッドは、ダブル。しかも、隣でヤシロが寝ていた。
「眠れん、、、」ルナはベッドから出る。そして、昼間に来た灯台へと登る。入口が見つからなかったので、数回の跳躍で展望台に行く。
「先客がいたか」ルナが展望台に着くと、そこには「あ、こんばんは。ルナさん」セフィロスがいた。
ルナは、セフィロスの隣に立つ。暫くふたりは何も語らなかった。そして、不意にセフィロスが言う。
「兄は、弱い人です」
「え―?」
「兄は、弱い人です。昔から。父を、皇帝の王位継承戦争で亡くしました。母は、私が十歳のときに病死しました。それから兄は私を養う為に帝都に行きました。兄は、今でも給料のすべてを私に送ってくれる。正直、兄はどうやって生計を立てているのかわかりませんが―。それでも、こうして、この島に来てくれて、顔を見せてくれた。私は、そろそろ、兄を安心させてあげたいんです。ですから、私も帝都に行きます。連れて行ってください」セフィロスの懇願とも形容出来るお願いに、ルナは戸惑う。
「それは、ダメだ」ルナは答える。キッパリと、言い切る。
それは、彼女への心配ではなく、彼への心配。彼は、今―危険だから。だからこそ、彼女にあんな兄は見せられない。この娘は、兄のすべてを許容するだろう。だから、彼女を、帝都に連れていけない。それ以前に―。
「帰る方法がわからない」
それが、一番の課題だった。
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TO BE CONTINUED……




