第一章 その希望は絶望に塗り替わった現実の未来 5
ともかくバイトや友人たちとの交友をさておいても、コミケに参戦することは俺の一つのアクティビティなステータスとなっている。
ちなみに英語の成績がクラス下位の俺は、アクティビティの意味やステータスの意味などは皆目理解できていない。オタクは頭がいいなんて言うのははっきりいってただの都市伝説だ。
俺はいつも友人たちとうっかり鉢合せをしないように入念に変装して参戦する。そうすると老朽化したステージの在る会場の右側に様々な装いをしたコスプレイヤーたちが俺を迎え入れてくれる。
「これって法律違反すれすれじゃね?」というような、鼻の下がうっかり伸びてしまうようなウハウハ露出の激しいおねーたまから、「ひっこめくそ野郎!」と思わず罵りたくなるような人物まで様々だ。
しかし、レイティアシリーズが発売されてから未だかつて、「完全許せるレイティアちゃん」のコスプレイヤーさんは発見したことがない。
ちょっと勘違いしちゃってるコスプレイヤーさんたちには非常に申し訳ないと思うのだが、アニメのあの美貌を現実世界にそのまま模写することははっきり言って不可能に近い。
「はぁ…。やはり俺の野望は実現が不可能な永遠の夢なのか」
俺は若干、眩暈を覚えながらこんなところで立ち竦んでいても仕方ないと、DVDを予約した本屋へ向けて足を進めることにした。
打ち直されたばかりのアスファルトにぼんやりと頼りなく俺の影がちらつく。
「俺に、未来はないのか。希望も、ないのか・・・くっ」
悲痛さを込めて、片手で俺は目頭を覆った。
何せ、俺の愛すべきレイティアちゃんは美人でスタイルが良くて、ツンデレツインテールで、人間にはあるまじきウルウルのヴァイオレットの瞳に桜色の肌、ピンクでも桃色でもない、桜桃色の美しくつややかな髪。
特に細身で華奢なくせに肩こりという概念を全く無視した、形の良い巨乳でおっぱいプルンプルンの美少女なのだから、もはや神さまが製造できる人間という代物ではない。だが、もしそういう美しいおんにゃの子が現実世界にいたら、俺は――――。
「変態と罵られてもいい!! とにかく、一発やってください!」
コスプレを!
と叫ぶに違いない。
ぐ、と拳を握りしめ、俺は周りに誰もいないことをいいことに大声を出してしまった。
「オイ、一発どころじゃない。オマエ、確実に死ぬぞ?」
「へ? ガヒャッ!?」
ひゅっとのどから空気が押し出されたと同時に、俺は本日2度目の不幸。
「死にたいのか、ゴミ野郎」
清廉且つ可憐だが、痛烈極まりない「女の声」が耳元でした。