第一章 その希望は絶望に塗り替わった現実の未来 4
レイティアちゃんのことを思い浮かべると、体中に電撃が走ったかのような表現困難なエクスタシーが心を満たす。
「あー。現実世界にレイティアちゃんがいたら、どんなに俺は幸せだろうか」
二次元は二次元で最高! なのは当然のことなのだが、現実世界にキャラクターが実在となるとちょっと俺は躊躇してしまう。
というのは、俺が友人連中の誘いを「急用の法事」あるいは「腹痛のためのトイレから出られなくなった注意報」を発令させ、断っていることと関連している。
「現実にいてほしい気もするんだが、やはりそれはファンタジーなんだろうなぁ」
顎をしゃくって哲学人のように軽く迷走した俺は、十字路の一時停止の白線で歩みを止めた。
「やっぱね。クオリティなんだよ」
お前はどこぞのプロデューサーか、と親友に突っ込まれそうなセリフを吐いて俺はふかぁく、ため息をつく。
俺が今、脳内の想像力をフル活動させて回想しているのは、祝日などでよく開催されるコミックマーケットの現場である。
「レイティアの涙」シリーズは、俺が認めた超最高峰のアニメのため、もちろん俺と心を同じくする同志たちは全国にたくさん存在し、一部のコアなファンからは「レイティア教団」なるものも組織されるほどの熱狂ぶりである。完全ファンタジーのアニメに現実を持ち込むのもどうよ? と思いながら、俺はちゃっかりその404番目の会員であったりする。あ、ちなみに年会費は教団ナンバーとレイティアの紋章を刻印したラミネートの印刷代として700円ほどかかる。
まあ、そんなに有名且つ熱狂的なファンもいるわけで、必然的に「レイティア」を取り扱ったブースも多いし、コスプレイヤーさんたちも多い。
俺がクラスメイトに秘匿している秘密の一つに「オタクだということ」があるのだが、もちろんクラスの中に「レイティアファン」は存在する。
本当は大声で彼らと肩を並べ、「俺もレイティア命だ―――!!」と叫びたいのだが、そうしてしまうとクラスの女子生徒からは白く冷たい目で見られ、「オタクな変態野郎」というあだ名がつきそうで嫌だし、現実から完全隔離された世界で生きていきたいわけでもない。望むのは平穏且つ安定した未来なのだ。
つまり、そう、俺は―――。
中途半端なオタクであり、隠れオタクなのだ!!
「生きにくい世の中だよな。オタクにとってさ」
秋風が、詩人のようにつぶやいた俺の言葉を優しく攫っていった。