第一章 その希望は絶望に塗り替わった現実の未来 2
お兄様手づから丹精込めて作られた、愛情たっぷりの朝食を何度か喉の奥に突っ込んで飲み込むこと数分。俺は行ってきますのあいさつもそこそこに、鞄も持たずに家を飛び出そうとした。
「めぐちゃーん!鞄、鞄!! 忘れてるわよっ」
玄関を出て、白い門のあるアプローチに出た時だった。
「あ?」
鞄なんて人生に不要だぜい、と昨日まで豪語していた俺の頭上から、兄貴――いや、お兄様の野太い声が聞こえたと思った瞬間。
「めぐちゃぁああああああああんっ。ふんっ!!」
「え?―――――へぶっ!!」
顔面に、俺のなにも入っていない黒いくたびれた通学鞄が激突した。
ちなみに財布は学生服のケツのポケットに突っこんであるので―――今日は予約していたアニメDVDの発売日なのだ―――持っていくものなどない、と思っていた俺がばかだった。そうだ、お兄様がいらっしゃったのだ。
「めぐちゃーん。イキテルー? ちゃんと学校でお勉強するのよー」
鞄の金具が鼻頭にぶつかって激痛が走ったのも一瞬のこと。衝撃を受けて後方の、よりにもよって柊の茂みに吹っ飛ばされた俺は、チクチクする枝や葉にさらに痛みを与えられ、軽く悲鳴を上げた。
「いぎいいいいいっ」
「鞄は男子のたしなみ! もっていかないなんて、アリエナーイ!」
ぶり、とウィンクを一つ送ってくれたお兄様の表情はやわらかだ。
「やだいけないっ。これじゃ、アリエールのイメージタレントの生田君に申し訳ないわぁ」
しかし、二階の窓からとはいえ、まぐれもなく俺の顔面に命中をさせた兄貴の技量はとても恐ろしいものだった。
青い空、白い雲を背景にローンが後10年以上残っているといわれている一軒家の俺の部屋の窓で、イチゴ柄の図体のでかいお兄様が俺に手を振っている。
何だろう、この不思議な感覚は。
ああ、そうか。
「なんだか俺、最悪な一日が始まりそうな予感がするー」
むしろ最悪というより、災厄に見舞われる一日であるとは、30秒後までからっきし予想していなかった。言葉って、本当に恐ろしい。