表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第一章 その希望は絶望に塗り替わった現実の未来  2

 お兄様手づから丹精込めて作られた、愛情たっぷりの朝食を何度か喉の奥に突っ込んで飲み込むこと数分。俺は行ってきますのあいさつもそこそこに、鞄も持たずに家を飛び出そうとした。



「めぐちゃーん!鞄、鞄!! 忘れてるわよっ」



 玄関を出て、白い門のあるアプローチに出た時だった。



「あ?」



 鞄なんて人生に不要だぜい、と昨日まで豪語していた俺の頭上から、兄貴――いや、お兄様の野太い声が聞こえたと思った瞬間。



「めぐちゃぁああああああああんっ。ふんっ!!」



「え?―――――へぶっ!!」



 顔面に、俺のなにも入っていない黒いくたびれた通学鞄が激突した。



 ちなみに財布は学生服のケツのポケットに突っこんであるので―――今日は予約していたアニメDVDの発売日なのだ―――持っていくものなどない、と思っていた俺がばかだった。そうだ、お兄様がいらっしゃったのだ。




「めぐちゃーん。イキテルー? ちゃんと学校でお勉強するのよー」



 鞄の金具が鼻頭にぶつかって激痛が走ったのも一瞬のこと。衝撃を受けて後方の、よりにもよって柊の茂みに吹っ飛ばされた俺は、チクチクする枝や葉にさらに痛みを与えられ、軽く悲鳴を上げた。



「いぎいいいいいっ」



「鞄は男子のたしなみ! もっていかないなんて、アリエナーイ!」



 ぶり、とウィンクを一つ送ってくれたお兄様の表情はやわらかだ。



「やだいけないっ。これじゃ、アリエールのイメージタレントの生田君に申し訳ないわぁ」



 しかし、二階の窓からとはいえ、まぐれもなく俺の顔面に命中をさせた兄貴の技量はとても恐ろしいものだった。



 青い空、白い雲を背景にローンが後10年以上残っているといわれている一軒家の俺の部屋の窓で、イチゴ柄の図体のでかいお兄様が俺に手を振っている。



 何だろう、この不思議な感覚は。



 ああ、そうか。



「なんだか俺、最悪な一日が始まりそうな予感がするー」



 むしろ最悪というより、災厄に見舞われる一日であるとは、30秒後までからっきし予想していなかった。言葉って、本当に恐ろしい。 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ