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「やぁシロエくん、ようこそギルドホールへ」
かねてより約束していたことが実現した。孤高の策士であるシロエがギルドホールを訪ねてきた。それも友を連れて。顔馴染みの直継と、猫人族の盗剣士のにゃん太、そして小柄な女の子のアカツキ。ギルド嫌いだったシロエがとうとうギルドを作ったらしい。
「やっと自分の家作ったのね、シロエくん。いつかそうなるとは思ってましたけどこのタイミングとは」
「このタイミングだからこそじゃないかな、カンナ」
「その通りにゃ、さすが洸っちいい読みだにゃ」
「ありがとうございます、にゃん太先生。とにかく中へどうぞ」
シロエと洸、それからカンナの出会いは数年前に遡る。当時はまだ放蕩者の茶会は解散しておらず、それでもソロプレイヤーとして名前の知れていたシロエがたまたま同じ大規模戦闘に助っ人として呼ばれていた。あまり多くない付与術師の目を見張るような戦いぶりに洸は心を奪われた。純粋に、こんなにも凄いシロエと話がしたいと興味が沸いた洸は大規模戦闘終了後にシロエに声を掛けた。シロエも洸と自然と打ち解け二人は友達と呼べる関係性になっていた。カンナにしてもシロエに対しては自分が求めるものを隠すことなく近づきあけすけに話した為逆に意気投合した。その伝手で直継とも出会い親しくなった。にゃん太は二人がまだ戦いも慣れていないような頃に戦いのイロハを教えてくれたのだ。それ以来二人にとっては先生と呼べる存在になっている。にゃん太は昔から面倒見の良い紳士だった。
「あ、こっちはアカツキ。腕のいい暗殺者なんだ」
「あれ、何度かご一緒しましたか?」
「ん?俺知ってるかも!ソロプレイヤーのアカツキさんってロールプレイを徹底してるんじゃなかったっけ?へー、女の子だったんだ!でも、ほんと腕が良くてかっこいいんだよね!あ、俺御神っていうんだ!良かったら仲良くしてね!」
「御神、アカツキさんも引いてますよ。すみません私たちも暗殺者で、お名前はよく伺っていたものですから。私は尊です」
テンションの上がった御神のマシンガントークにツッコミも入れることが出来ないほどにアカツキは引いていた。双子神は有名ではあるが、やはり同業者の存在は気になるのだ。その上ロールプレイを徹底していて謎が多いアカツキは御神の興味の的だったのだ。
「アカツキさんってやっぱりあのアカツキさんだったんですね。そっか、女の子だったんだ。でも、現実の自分ができないことをするのがゲームの世界醍醐味だもんね」
「うむ、理解していただけて嬉しい。改めて、暗殺者のアカツキだ。今は主君の護衛をしている」
「あらあら、シロエくんにいいように使われないようにね?腹黒メガネくんなんだから」
「おやおや、カンナも同じ人種だと思ってましたけど?」
相変わらずのやり取りに洸たちは笑っているものの、アカツキはオロオロとしていた。しかし、仲が良いからこそのやり取りなのだ。
「しっかし、相変わらずの綺麗どころばっかりだなここは。俺にとったら幸せ天国祭りだぜ!」
「お前も相変わらずだな直継、パンツパンツ騒ぎ過ぎんなよ?うちの王子様から鉄拳飛ぶぜ?」
「よっ、兄貴元気だったか?ってお茶出してくれんのか?」
「客人はもてなさねぇとな。ギルマスに恥かかしちまうだろ?」
大神は紅茶とクッキーをシロエたちに用意していたのだ。<追憶の彼方>のメンバーはほとんど顔見知りだったので知り合いに会えることが嬉しかった。そんなメンバーに洸とカンナは料理でのもてなしを許可したのだ。
「もしかして、洸くんたちも気付いたのかな?」
「やっぱりシロエくんたちも?そうじゃないかと思ってたんだ」
「僕らの場合、正確には班長が気付いて教えてくれたんだけどね」
洸とカンナの予想では、シロエならばこのことに気付いていると予想していたのだ。おそらく、にゃん太から伝えられなくともシロエであれば自力でもその結論にたどり着いただろう。その後お茶を飲んだメンバーたちは各々話し始めた。
「主君。御神さんと尊さんと話してきても良いだろうか?」
「もちろん、今日は夕飯もご馳走してくれるようだからね。思う存分話してきなよ」
「うむ、感謝する」
「じゃあさじゃあさ、あそこのソファー行こうよ!」
「行きましょう、アカツキさん」
「おい直継、会社のこと話せよ!」
「聞いてくれよ兄貴、可愛い子全然いねーんだよ!」
「にゃん太様、お久しぶりですわ!」
「久しぶりだにゃ、お姫様。月代っちも久しぶりだにゃ」
「お久しぶりです」
「まあ、にゃんさん久しぶりねお元気かしら?」
「これはこれは華乃っち相変わらずお綺麗だにゃ」
「師匠、お久しぶりです」
「要ちも元気そうで何よりだにゃ」
「カイルは初めましてだよね、僕の友人のシロエくんだよ」
「すごい人だよね!ボクはカイル、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、付与術師のシロエです。君の噂は耳にしてるよ」
「うちのメンバー引き抜かないでね?」
「カンナに何されるかわからないからね、やめておくよ」
「相変わらずだね二人とも、本当に仲がいいんだから」
「洸兄ちゃん、これって仲いいの?ボク怖いんだけど!」
夕食も一緒に食べ、洸とシロエは二人で話を始めた。洸としてはゆっくりシロエと会話する時間を確保したかったのだ。ギルドを嫌っているシロエがギルドを作ったのだ、話のひとつも聞きたくなる。
「ギルドってさ、意外といいもんだよね」
「そうだね、今はすごくいい環境だよ。みんな僕のことを本当に理解してくれててさ」
「僕もギルド作って良かったって思ってるんだ。カンナいないと回らないけどね」
「相変わらず続いてるんだね、二人は」
もう二人の関係も五年目を迎える頃だった。付き合いは生まれてから。
「僕がカンナなしじゃダメだからね。シロエくんにもそういう人出来るよ」
「そういう時になったら、でいいかな。いまいち得意じゃないんだ」
「作ろうとして作るものでもないからね。ところでさ、やっぱりシロエくんは味のする料理の情報を何かに使おうとか考えてるのかな?」
「あー…、まぁ考えてないことはないかな。というか現在進行形なんだよね。で洸くんは?」
もうひとつ洸が聞きたかったのは情報の使い方だった。シロエがこの情報を利用しないということはまずあり得ないと踏んでいた。自分よりもアキバの街の現状を感じているであろうシロエならば変革を望んでいるのではないか、そんな風に洸は考えているのだ。
「僕は今のところ表立って動くつもりはないからなー…、でもギルドに利があるならとことん利用するかな。だからさ、力になれることがあれば声かけて欲しいかなって」
「…ありがとう」
「だって友達だからね」
「また連絡するよ、それとさあまり外には出てないみたいだからひとつ情報。どうやらゾーンの私有化が可能みたいなんだ。ここは十分に広いから必要ないかもしれないけど、空きビルとかギルド用に買ってもいいと思うよ」
シロエから得た情報はとても有益だった。今後自分が考えていることを実現させるのであればビルを所有しておくに越したことはないだろう。むしろ、ビルのような場所が無い限り実現させることが困難だ。
「ありがとう、さっそく明日にでも。そうだ、今日はお土産用意してるんだ。カイルの畑でとれた新鮮な野菜、先生なら美味しく料理にしてくれそうだね」
「ごちそうになった上にお土産なんて、何から何まですまない。今度はうちに招待させてよ」
「ぜひ、先生の料理楽しみだな」
友人との時間はあっという間に過ぎ去り空には綺麗な満月が漆黒の闇を照らしていた。