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-----大神殿で冒険者が復活した



「どうやら、冒険者の僕らには戦闘での死はないようだね」

「ひとまず森での戦闘はリスクが減ったわね」



戦闘時に死んだはずの冒険者が大神殿で復活したという情報は直ぐにアキバの街に知れ渡った。その情報を得た多くの冒険者や戦闘系ギルドは一斉に街の外へと出掛けて行った。死というリスクが無いと分かれば戦闘を重ねレベルを上げることを目指す者も少なくない。ノウアスフィアの開墾によってレベルの上限が上がったはずであり、根っからの戦闘馬鹿や強さこそり絶対とする多くの者たちは経験値を求めていたのだ。



「でもさー、なんか変な感じだね」

「変な感じとは?」

「だってさ尊、死がないなんて変だと思わない?」

「確かに、御神さんの言う通りかもしれませんね。まるで人間ではなくなってしまったみたいですわ」



本来迎えるはずの死というものが訪れないということは自分自身が別の何かに変質してしまったかのような感覚にさえなる。かつてNPCと呼んでいた大地人たちには当然のように戦闘に負ければ死は訪れる。自分達冒険者だけが異質は存在なのだ。



「でもまぁ、とにかくこの事実は変わらないし受け入れるしかないよ。僕らの活動範囲が広がったとポジティブに捉えるのがいいんじゃないかな」

「ま、これでゴブリンにいくら近づいても大丈夫ってことだしね!俺の夢に一歩近づいたってことで!」

「御神、まだ諦めてなかったんですね」

「当たり前じゃん尊!だって可愛いじゃん!」



少し暗くなりかけていたメンバーたちだったが、御神の発言で全員の顔に笑みが浮かんだ。



この日からそれぞれが森へ戦闘訓練に出掛けて行った。大神特製の弁当を持って出掛けることはどこかピクニックに出掛けるような気分になるのは御神やカイルだけではなかった。日々の楽しみが大神の作る食事以外、現状なにもないのだ。普段ならば生活費に多く投資されるであろう食費というものが今現在ほとんど投じられていない為、街の経済活動はほぼ停止状態だ。しいて言えば戦闘が再開されたことでポーションや武器の整備に多少消費するくらいである。生活費を稼ぐために働くこともなく、差し迫ってやることも特にはない。ここ最近なんの楽しみもなかったメンバーたちにとって森での訓練はひとつの娯楽になっていたのだった。基本的に戦闘能力の高いメンバーばかりである為多少の怪我はあるものの神殿送りになるものはいなかった。








「わぁ、お兄様今日のお弁当はサンドイッチですわ」

「美味しそうだね」



今日は二人で、いや今日も二人で訓練を行っていた眠り姫と月代は少し早めの昼食をとっていた。神祇官の眠り姫と武士の月代であれば基本的に戦闘は月代の役目になるのだが、眠り姫にも戦闘の感覚を取り戻させるために月代はなるべく手を出さないようにしていた。もっとも、戦闘自体は身体が感覚で覚えているためにコマンド操作のような面倒くさい作業はなかった。これは洸が気付きメンバーに伝えてくれていた情報のひとつだった。どうもこの世界に来てすぐ、感覚だけでステータスが出せたことをヒントにしたらしい。そして、いつも以上に運動をした眠り姫はお昼を待つことが出来なくなったのだ。



「こちらは卵でこちらは海老とアボカド、どれから食べるか迷ってしまいますわ」

「はい、おしぼり」

「ありがとうございます。それにしてもこうやって森に来るのも楽しいですわね、お兄様」



楽しそうな表情で話す眠り姫の姿を微笑ましげに見つめる月代。どんどんと成長していく彼女が可愛くて仕方ないのだ。とはいえ、ただ可愛がっていては成長に繋がらないと昼食をとりながらアドバイスをしていく。それが彼女の身を守ることに繋がる。サンドイッチを加えながら真剣に聞く姿は小動物のようにも見え愛くるしい。これは単なる欲目ではなく恐らく誰の目から見てもそのように映るだろう。現実では高校の教師をしている月代にとって教えることは慣れている為、眠り姫にもわかりやすい説明でありすんなり頭に入ってきた。


「午後、実践してから帰りましょうか」

「ええ、きっと上手くやってみせますわ!」


そうやる気に満ちた表情で告げればデザートに付いていたリンゴを食べ終えた眠り姫。月代は手を差し伸べ眠り姫を立たせれば、敷いていたシートを鞄に入れ歩き出した。午後は実践訓練となるようだ。





「いいですね、あらかたの動きは身体が思い出してくれたようなので今日はこれくらいにしましょうか」

「はい、お兄様。今日は沢山動いて楽しかったですわ!久しぶりに沢山運動しましたもの!でも、今度来るときは後衛の練習がしたいですわ」

「姫の仰せのままに。帰りましょうか」



神祇官としては珍しく両手剣を扱う眠り姫は、普段その大剣を振るうことは少なくほとんどが魔法詠唱による後衛の為なかなか動くことはないのだ。二人の戦闘を目にした者から戦場の女神の噂がアキバの街に広まるのもそう先のことではなかった。








「戻りました」

「ただいま帰りましたわ」

「あら姫お帰りなさい。今日は沢山戦ってきたのね、泥だらけじゃない」

「聞いてください華乃さん、今日は魔法に頼らず戦闘してきたんです!」

「まぁまぁ、楽しかったってお顔に書いてあるわよ。夕食までにお着替えしてらっしゃいな」



帰宅した頃にはすっかり日も暮れ、夕食の準備も整っていた。今日は珍しく他のメンバーたちはのんびりと過ごしたらしく既に揃っていた。二人が着替えて食卓に着けば夕食が始まった。今日はシカ南蛮とグリーンサラダ、それからお大神特製スープだった。先日双子神コンビがシカを一頭仕留めてきたのだが、少し熟成させた方が美味しいからと今日まで食卓に上がることはなかった。燻製などの保存食も作っていたのでその命は無駄にすることなく全て頂けるようになっていた。カイルの畑の新鮮な野菜はもちろん無農薬であり、下手にドレッシングなどをかけずとも素材の味のまま楽しめる美味しい野菜だった。



「このスープ美味しいですね、さすが兄貴」

「だろだろ?これが俺特製スープよ!長年の研究の賜物だな!」

「こんなに美味しいお料理作れるのに、なんで大工さんになったんですか?」

「ん?そりゃ、これは単に俺が旨いもん食って健康な身体作りたいから料理するってだけだからな。それに大工はいいぞ!木材だけで立派な家が建つんだから!ほんとすーげよ!」

「兄貴の趣味みたいなものですよね、僕もお菓子作りとか趣味でした。こっちでは作れないみたいですけどね」



このあとそれぞれの趣味の話で盛り上がり夜は更けていった。


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