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「僕らは大事なことを忘れていました。恐らく、あと数日でイベント発生です。みなさんも馴染みの『ゴブリン王の帰還』です。これから大規模で広範囲の戦闘が始まると思います。既に周辺部族の戦力は肥大化していると考えられます。ここまでくると、少数で対処できるものではなくなっているはずです。僕の予想では、<円卓会議>はなんとかして鎮圧しようと動くはずです。表舞台はシロエくんたちに任せればいい。なら、僕たちは僕たちなりの戦い方で大切な人を、大切な場所を守りましょう」





洸から各地のメンバーへ念話が飛ばされたのは、夕食時だった。内容が内容なだけに一波乱ありそうだと頭を抱える者、思いっきり動けると喜ぶ者。両者の声が洸の元に届いたが、それはそれぞれらしい反応ではあった為不謹慎ながら笑ってしまった。ギルマスとしての指示も同時に出されていた。派遣組はカイル以外は残り情報収集。大神、華乃の両名は使用人側に接触し情報の広まり具合を確認。また眠り姫、月代の両名は領主たち貴族と接触し大地人側の対応を確認。カイルは即時アキバの街に戻り、戦闘時の補給に必要な食糧確保。クエスト組の御神、尊は村に留まりゴブリンの襲撃から村を守る。対応の仕方は二人の判断に任せることとし、必要であれば村人全員をビルへ避難させることも可能。以上の指示は念話が切れ次第即刻開始すること。各地のメンバーへの指示が出し終わると、洸はソファーに座りこんだ。カンナはそっと洸の目の前にお茶を出した。



「さすがに疲れたよ。さて、次は二人への指示かな。要は現段階ですぐに使える装備品の在庫の確認。あとは積極的に武器の整備を受けて欲しい。これから始まる戦闘には必要不可欠だからね。出来れば知り合いの刀匠にも同じようなことを伝えて欲しいかな」

「早速仕事に取り掛かる」

「よろしく。あとはカンナなんだけど…、正直僕自身も何をするべきかわからないんだ。要のようにサブ職で今すぐ何か出来るわけでもないし。できることと言えば書類整理くらいだよね」

「私はそうだけど、洸に関しては占いが出来るじゃない。今後のことを占ってみたら?」

「うーん…、こういう時はあんまり役に立たないんだよね。やっぱり喜ばれるのは恋愛関係だったから、そっちは得意なんだけど」



カンナの現在のサブ職は交渉人であり、今すぐに何か出来るかと言えば答えは否である。事が進行すれば活躍の場は増えると予想できるのだが、すぐに行動できるわけではない職業だ。洸のサブ職はと言えば占い師だが、ソウジロウの一件のように占いと言えば恋愛関係の依頼ばかりだった為その方面のスキルレベルばかりが上がっていた。もちろん恋愛関係以外の占いスキルも上げていない訳ではないのだが,

スキルレベルは低く占いの命中率も低くなる。



「なら、ここは参謀として色々と考えるのがいいんじゃない?」

「シロエくんがいるからね、彼が動き出すまでは僕は大人しくしているよ。ということで、僕もカンナと書類整理をするよ」

「…忙しくなったら書類どころじゃなくなるだろうし、一緒に片付けましょうか」



それぞれの為すべき仕事が決まったのは、日が落ち始めてアキバの街が茜色に染まる頃だった。












「ってことで、俺と尊は予定より長くこの村にいることになりました!泊めてもらう代わりに何でもするんでじゃんじゃん言いつけてください!」

「急で大変申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

「そんな、我が家は大歓迎ですよ。特別なおもてなしはできませんが、何日でも泊まっていってください」

「ありがとー!そうだ、これゴードンさんと村の人達で分けてください!冒険者に売れば結構いい商売になるはずだから」



村への長期滞在が決まった御神と尊は、改めてゴードンに挨拶していた。話の核についてはパニックを避けるために曖昧に伝え、洸にしばらく手伝いをするように命じられたことにした。すんなり事が運んだため、御神は本日の収穫であるドロップアイテムをゴードンに渡し始めた。その数の多さとそのまま商品に出来るという話に慌てるゴードンだったが、尊が自分たちには必要ではないのだということ、泊まらせてもらうお礼だから受け取って欲しいということを伝えると受け取ってくれた。明日以降は次のクエスト発生の一週間後までは他の採集クエストと何でも屋をする予定だ。大地人と冒険者では圧倒的に冒険者の身体能力の方が高い為、何でも屋は比較的喜ばれる。もちろん、<大災害>以降の話であり大地人と特に親しくしている御神たちだからこそ気付いたことだった。その後部屋に案内された二人は同じ部屋であることに一瞬驚きつつも、二段ベッドであることに懐かしさを感じ笑みが零れていた。



「尊、二段ベッドとかなんか懐かしい感じするよねー。今日の夕飯なんだろうね、俺超楽しみ!」

「初めてですからね、奥さんの手料理を食べるのは。それより、御神はベッド上でいいですよね?」

「え、上で寝てもいいの!?やったー、尊ありがとー!」

「でも、上で暴れたりしないでくださいよ?でも御神のことだからテンション上がって跳ねたりしてベッドが抜け落ちでもしたら…」

「大丈夫だってば!さすがに俺もそこまで子どもじゃないって!相変わらず心配性なんだから!だいたい魔法鞄(マジックバッグ)にドロップ品入りきらなかったのも、尊の心配性の所為で持ち物多いからなんだからね!」

「でも、万が一に備えることは決して悪いことでは…」

「姐さんのチェック入らないといつもこうなんだからー。そんなとこも可愛いなって思っちゃうけどさ」



御神が最後に落とした爆弾に顔を真っ赤に染める尊。それを見て楽しそうに笑う御神の声に、なんだか入って行き辛くなっているゴードンがドアの向こうにいることは、珍しく二人して気付いていない。



「(お二人が交際されているのは知っているが、なんともどうしたものか)」



















「えー、ボクだけとんぼ返りなの?なんかみんなだけ楽しそうでズルいよ!これから暗くなるのに、一人で帰れって言うの?荷馬車が無ければ召喚笛使うけどさー」

「確かに、カイルが一人で夜道を行くのは私も心配だわ。せめて今日は一晩泊まって、明日の朝に出発にした方がいいんじゃないかしら」

「だな。洸の奴も、カイルを危険な目にあわせてぇ訳じゃねぇだろうし。ま、一晩こっち楽しんで帰れ!」



エターナルアイスの古宮廷でしばし休憩をとっていた五人は、洸の指示を確認するとそれぞれが行動に動き出した。大神と華乃は元々呼ばれた仕事の追加という形で与えられた仕事をこなせる。月代と眠り姫に関しては表立って貴族との交流をする予定はなかったのだが、どうやら現実世界で培ってきたものを披露する時がきたようだ。そしてカイルはと言えば、一人アキバの街への帰還を命じられむくれていた。自分のみがいつものアキバの街での仕事になり、他のメンバーがこちらでの仕事を割り当てられていることが羨ましいのである。今から帰還することもカイルの戦闘能力を考えればそこまで大きな危険があるとも言いえない。しかし、一番年下のカイルにはメンバー全員甘くなる部分がある。今回の判断もそれが顕著に出ている。もちろん、念話で洸にもしっかりと許可を取りカイルの出発は明日に決まった。



「あとでお部屋に戻ったら、貴族の皆様とお会いする時のお洋服を選ばなくては。どんなものがいいかしら?お兄様と合わせるのもいいですわよね」

「そうですね。僕は後でシロエくんに貴族の方の情報をいただいてきます。全員の方とお会いしている余裕はありませんからね」

「もー仕事の話終わり!ボクお腹すいたからご飯にしようよ!しばらくはみんなバラバラでのご飯になっちゃうんだしさ。大神兄ちゃんのご飯思う存分食べて帰るんだから!」

「分かったよ、カイルの好きなもん作ってやるからちょっと待ってろ」



五人が借りていた部屋は客室というよりは、従者などが使用する区画にあったので厨房が付いていた。カイルの好きなものをと大神と華乃は腕を振るい始める一方で、眠り姫とカイルは服を出してどれがいいか相談している。そしてそれを見つめる月代の目は普段通りの保護者の目だった。








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