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「ゴブリン王の帰還」は<エルダー・テイル>(ゲーム)時代、2ヶ月に一度起きるイベントである。<七つ滝城塞>(セブンスフォール)ゾーンへの入り口は、二ヶ月のうち一週間だけ解放され、その期間中、ゴブリンの王を討伐すると強力なアイテムを手に入れることが出来るという。比較的多くのプレイヤーたちが参加していたイベントであったこともあり、大きな被害が生じることはなかった。









「いやー、すっかり忘れていたね」

「呑気なこと言っている場合じゃないわよ、洸」



すっかり忘れていたイベントに気付いた洸たちであったが、何故か洸は呑気にお茶をすすり始めた。カンナと要は珍しく慌てた様子を見せている。実際、ゴブリンの軍勢が街を襲撃してきたとすればいくら冒険者であるとはいえ被害は少なくないだろう。しかし周辺の小さな村落の被害は大きくひとたまりもないだろう。長い付き合いであるカンナも、今ばかりは洸の考えが読めなかった。



「とりあえず、僕たちは自分たちに出来ることをやるべきだよ。焦ったところで、今更ゴブリンを抑えるは難しいだろうし」

「…そうね。でも、だからと言って呑気にお茶を飲むのは違うわよ?」

「せっかく要がお茶を淹れてくれたから、と思って。これだけ飲んだら仕事に取り掛かるよ」


















「ゴードンさん!来たよー!」

「御神さん、それに尊さんも。本当にありがとう、恩に着るよ」

「いえいえ、ゴードンさんの頼みですから」



一方、目的地に到着とした御神と尊は依頼主であるゴードンに挨拶をしていた。<追憶の記憶>はゴードン一家とは家族ぐるみでの付き合いとなっていたこともあり、今回の依頼を引き受けた。クエストの内容自体は、二人で一時間もあればこなせる程度のレベルである。もっとも、いくつか引き受けている上に時間指定のクエストもある為一日ではこなせないのだが。良かったら、と出してくれもてなしのお茶をありがたくいただく二人。村人たちがそれぞれの家庭で良かったら、と持ち寄ってきてくれている為一つひとつは心の籠った手料理であることが一目でわかった。



「そろそろ始める?時間指定から始めた方がいいと思うし」

「そうですね。他のクエストの準備運動も兼ねて始めますか」



手始めに消化したクエストは、低レベルのモンスターが時間指定で発生するというもの。三ヶ月に一度発生するクエストで(現実世界(リアル)では週に一度)、近隣の森での戦闘によりモンスターを殲滅することで消化することが出来るクエストである。もっとも、時間換算しなおせば一週間の間に二時間おきに発生するクエストであり発生率は高い。初心者から中級者一歩手前までのプレイヤーにとっては使いやすい回復系アイテムがドロップするのだが、おそらく<追憶の彼方>のメンバーにとってはあれば使う程度のアイテムである。



「よし、完了!楽しかったー!」

「御神は少し遊び過ぎですよ?もう少し真面目にやってください」

「はいはい。でさ、このドロップアイテムどうする?俺らも使わないことはないけど、ダザネッグの魔法鞄マジック・バッグもいっぱいになっちゃうしさ」

「ゴードンさんたちで分けてもらえばいいんじゃないですか?冒険者相手に販売すれば、多少なりとも収入は得られますからね。私たちはご飯などを出してもらってますし」

「賛成!明日からは荷車借りてこようよ!採集系のクエストも荷車あれば楽だしさ!」

「そうですね」



クエストは一時間程で完了し、大量にドロップしたアイテムを抱えて村へと戻る。魔法鞄マジック・バッグに入りきらなくなってしまったアイテムを腕一杯に抱える姿は、とても何十体とモンスターを倒してきたとは思えないほどのんびりしていた。もっとも、低レベルモンスターとの戦闘は二人にとっては遊びレベルだったこともあるのだが。



「尊、気付いた?」

「…私の勘違いではないみたいですね。発生数、ですよね?」

「うん。俺さ、結構仲良くなった初心者くんたちとこの手のクエストによく遊びに来てたんだけど。いつもより多い気がするんだよね。戦闘自体は慣れたのに、思ってたより時間かかっちゃったしさ」

「何があったんでしょうか?」

「あ、ゴードンさん!終わったよー!」

「…聞いてないですね」

















「姫、ボクにも飲み物とって!」

「はいどうぞ、運転大変でしたら私代わりますわよ?」

「いーのいーの、ボク結構楽しんでるからさ。それより、あれでしょ?きれーだね!」



領主会議への派遣組はエターナルアイスの古宮廷が見える距離にまで辿り着いていた。シロエからの援軍要請ということもあり、最速で着くように馬をとばして来たのだ。道中、戦闘も起きず比較的順調に進むことが出来たということもある。エターナルアイスの古宮廷の美しさに、珍しくカイルがはしゃいでいる。眠り姫と華乃は絵本に出てくるお城みたいですわね、なんていつものペースで話している。



「大神も大変ですね。料理の腕を認められているからこそですが、手伝いに呼ばれるとは」

「気楽なもんだぜ?メインは先に行ってるやつが作るわけだし」

「貴族に何を出すか正直困りますからね」

「メニューだのなんだの考える奴は大変だろうな。俺は貴族の作る料理の方が興味あるけどよ」

「滅多に見れるものではありませんからね」



到着次第、早速カイルの馬車から食材を下ろし始める月代とカイル。先発で来ていた<円卓会議>のメンバーに食材を引き渡し、タイミングよく顔を出したシロエには洸から預かっていた請求書を渡す。付き合いはあってもこういうところはきっちりしている洸はやはり頼れるギルマスだ。大神と華乃は既に料理人たちと合流したようで姿が見えなくなっていた。眠り姫は月代に付いて来ただけで仕事がないため、ニコニコと仕事が終わるのを待っている。その姿を見かけた貴族達が興味津々で様子を窺っている。



「シロエくん、僕ら三人はこれでギルマスからの仕事は終わったのですが」

「何か手伝うことがあれば、ボクらに言ってよ!」

「それは…ありがとうございます。ですが、いいんでしょうか?」

「洸くんからはシロエくんたちの手伝いを頼まれていますからね。もっとも、お役に立てればの話ですが」



結局月代と眠り姫は貴族たちとの交流の手伝いを、カイルは料理人たちの手伝いとなった。その夜、洸からの念話で全員に「ゴブリン王の帰還」について告げられることになるとは誰も想像していなかった。







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