14
初めて前書き書きます。
内容でいきなりいきなり登場する方がいますが、その方についてはシリーズで連載を始めました「最強軍団のにっき。」に書いてあります。
良かったらそちらにも目を通していただけると。
「あの、ひとついいですか?」
それは自分たちの店を開いて二週間ほど経った日の朝のこと。大神の店が休みの今日もいつものように大神の用意した朝食を食べていた時に尊が突然立ち上がった。ちなみに朝食のメニューはスクランブルエッグとベーコン、サラダにスープに焼き立てパンだった。普段あまりないことに全員驚きつつ尊に視線を送れば少し遠慮がちに話し始めた。
「あの、大神兄さんのお店のお手伝いのことなんです。洸さんも華乃さんもそろそろお店を始めると思うんです。私も今はお手伝いできていますがいつでもという訳には…。そこで、アルバイトを募集したらいいと思うんです。それも、冒険者じゃなく大地人の」
尊が突然このような提案を始めたのには理由があった。尊は食料アイテムを販売していたNPCのゴードンと親しくしていた。大災害の日に混乱の中リンゴを売ってくれたゴードンの優しさに心底感謝していた尊はことあるごとに街に出てはゴードンからリンゴを買っていた。つい先日もゴードンが家族を連れて大神の店に食事に訪れた。それまで冒険者ばかり足を運んでいた大神庵であったが、大地人であるゴードン一家の来店に尊は喜びを感じた。それまで味の概念がないと言っても過言ではない状況にあった大地人にとっては味のある食事は衝撃を与えていた。そしてゴードンの次男がぜひ店を手伝いたいというのだ。それまでゴードンの手伝いをしていたものの何か別のことをしたいとずっと考えていたらしい。ゴードンも尊にもしよかったら、と頼むものでこのような展開になったのだ。
「そうですね、どうです兄貴は」
「俺としちゃ手伝ってくれる奴が居るのはありがてぇけどよ、大地人限定か?」
「いえ、ただ大地人の方の雇用も考えて欲しいんです。ゴードンさんの息子さんすごくいい方なんです。それにこの世界の比率から言ったら大地人の方が多いですし、みなさん冒険者の生み出す物に興味深々なんです。うちはどちらかと言えばギルド経営の商業ビルみたいなものですから、他のギルドの方の出入りよりは大地人の方の方がいいんじゃないでしょうか?」
「私は別に反対しないわ。お給料については相談して決めればいいと思うし」
「あれだな、試しに働いてもらうのがいいんじゃねぇか?ほら、今まで違うこと仕事にしてたわけだしよ」
「洸さん、どうでしょうか?」
「いいですよ、都合の付く日に来てもらってください」
こうして大地人アルバイトの研修が始まることになった。尊はその日のうちにゴードンのいつもアイテムを販売している場所に来れば話を伝えた。感謝の印に、といつものリンゴを尊に渡したゴードンは嬉しそうな顔をして帰って行った。自分のやっている仕事は長男が継いでくれることが決まっていたため次男のやりたいことが見つかって喜んでいるのだ。
「私のかわりに大神くんのお手伝いに入ってもらえると嬉しいわね」
「だな、華乃さん抜けたら厳しいわ。でもよ、洸の代わりも必要なんだよ」
「そうね、洸くんいつも頑張ってお皿洗ってくれるものね。お皿洗い番長ね、ふふ」
「いっそ、何人か募集できたらいいんだけどな。どうなんだ、カンナ」
「そうですね、これまでの売り上げで当初みんなから借りた金貨の返済は終わってるしこれからは仕入れ代以外は全部利益ね。二人くらいなら何とかなるんじゃないかな」
「尊の紹介の奴ともう一人か、よし決まりだな!」
洸と華乃の共同の店舗は既に形にはなっている為営業はいつでも可能だった。しかし大神の店の手伝いが忙しくなかなかオープンに至っていないのだ。ちなみに、日中が洸で夜が華乃の割り振りになっている。華乃は星詠みの為夜間のみの営業になるのは当然で、天気の悪い日には休業となる。占い処の情報のみアキバの街には流してあったためうら若き乙女たちはオープンを心待ちにしているらしい。もっとも占いは当たるも八卦当たらぬも八卦のスタンスでいくことは言うまでもない。
「カイルカイル、最近お店の売り上げいいんでしょ?」
「御神兄ちゃん聞いてよ、売れすぎて困る!なんてね!」
「いいねいいね、大口契約の話もきたんでしょ?」
「うん、でもぶっちゃけ無理だよね。大神兄ちゃんの店に卸してるでしょ?その量も結構多いし、ボクの店の分もあるし大口契約は厳しいもん」
「なるほどねー、大変だなー」
「それよりこの前ショータイムやってみたんでしょ?どうだった?」
「それがさ、結構評判で受けたんだよ!俺ちょー楽しくてさ!」
カイルの店は好調な売れ行きで、当初は大神の店の帰りに買って帰る客が大半だったものの今ではリピーターも居り、早い時では夕方には完売となる。新鮮な野菜に商売をしている冒険者などからの仕入れの打診があったのだが現在のところはすべて断っている。カイル自身、自分の店で売ることを楽しみにしている為あまり卸売に力を入れるつもりはなかったのだ。御神はと言えば配膳の仕事は慣れたもので、最近は御神目当てに来る客もいる。もっとも、眠り姫などにいるファンのように憧れているのとは違いどちらかと言えば御神の能天気さに笑いを求めに来ている。稀に御神に憧れる者もいるが。最近では料理の提供までのちょっとした時間などに軽業師としてショーを行っており、なかなかの人気である。
「要、最近結構お客さん来てるみたいだね」
「料理店開くのに色々買いに来る人が多い」
「あれだ、兄貴に包丁プレゼントしたからその噂聞いてみんな買いに来るんでしょ?」
「うむ。あとは武器の買い替えなどで訪れる人もいる」
「要の腕はいいもんね」
実は要の店に訪れる客のほとんどが女性客で要のファンクラブのメンバーだった。扱うものが武器だけでなく金物全般であったことから比較的に誰でも来店しやすいことがファンにとっては幸いだった。大神へのプレゼントの話を聞きつけ自分も欲しいと買って行くのだ。少数派である武器の調達組はゲーム時代からの馴染みが多くどちらかと言えば要と話をしに来ている感が強い。利用する人数が金物店には珍しくそれなりにある為、比較的に売り上げいい方だった。製作に必要な材料に関してはカンナがまとめて仕入れを手配してくれる為余計なことに気を回す必要もなく要にとっては願ってもいない環境になっていた。
「月代さん、姫、二人は大地人の雇用に賛成ですか?私のいきなりの提案で、お二人は一緒に働く訳で嫌だったらと思いまして…」
「あら、私楽しみですわ!あまり大地人の方とお友達になれること少ないんですもの。お友達になっていただけると嬉しいですわね。でもきっと私と同じお仕事はされないでしょうから紹介していただけると嬉しいですわ」
「僕も特に反対ではないよ。むしろ大地人の方と交流のある尊くんに関心しましたよ。偏見があるわけではないですが如何せん交流があまりないものでね。それに僕とあまり変わらない年齢なら僕としても交友を深められると嬉しいですね」
「……よかったです。きっとお二人も仲良くなれると思います」
心配性の尊は大神の店で働く二人に確認をしていた。大神には既に確認してあり、御神に関しては大抵何でも受け入れるだろうと考えたために確認はしていない。この仲の良い兄妹はあまり反対などをしない性質であることは尊も承知していた為しっかりと確認したかったのだ。二人は笑顔で答えてくれた為尊も安心した。もっともこの兄妹も何でも受け入れるわけではなく反対であればはっきりと主張する性質である為、元より言外に賛成していたのである。
こうして<追憶の彼方>にはギルド揃っての懇意の大地人が出来た。その後次男だけでなくゴードンの妻も働くことになり家族ぐるみでの付き合いになったのだった。