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「メニューどうすっかなー…」
店の開店はアキバに<円卓会議>ができた次の日から頼みたいと洸に言われ、大神は悩んでいた。大衆食堂にすることは決まっていたのだがメニューが決まっていなかったのだ。洸によれば明日には<円卓会議>が結成されることになるだろうとのことだった。大神としてはガッツリ食べられる丼ものをメインにしようと考えているのだが、それでは客層が限定されてしまうのではないかという考えもあり悩みどころなのである。かといってメニューの幅を広げ過ぎても料理を作れるのは大神一人であり手が足りなくなる。
「俺的にはカレーとか作り置きできるもんとさっと作れる丼ものがいいけど…」
「なんだ、迷っているのか?」
「月代的にはどうよ?」
そして今日は同世代の二人が月代の部屋で話していた。普段は妹につきっきりの月代ではあるが新居では部屋が別の階にあり、訪ねにくいこともあり友人と時間を過ごしていた。
「僕も、まぁ基本的には大神と同意見だよ」
「だよなー」
「ハンバーグとかもタネさえ作っておけば焼くだけじゃないか」
「たしかに!ならハンバーグとステーキもメニューにしとくか!」
「女性にも意見を求めたらどうだ?」
ということで華乃に意見を求めることに決めた大神は月代に声を掛けてきてくれと頼み、お茶を淹れなおしていた。月代が呼んできた華乃が来れば経緯を話し意見を求めた。
「今のメニューは何かしら?」
「カレーとビーフシチュー、親子丼とかつ丼とかき揚げ丼だろ?あとは数量限定のステーキセットにハンバーグセットに焼き魚定食っつーとこかな。ハンバーグとステーキは基本和風だけな。華乃さん的にはどうよ、このメニュー」
「女性目線でアドバイスをあげてください」
「んー、そうね。女性としてはサイズが別であると嬉しいわ。例えば、カレーライスのSは金貨2枚でMは金貨3枚とか。沢山食べれなくて残すのはもったいないもの」
「なるほどなー!それ採用させてもらいます!」
「あとは甘いものも欲しいわね。あんみつとかいいんじゃないかしら?私大好きよ。大神くんのお店、基本的に和食メインなんでしょう?」
大神の店は『食事処 大神庵』という名前にする予定だった。大神は小さい頃から和食を好んで食べていた為得意料理も和食の方が多かった。その為店を開くなら和食メインでという大神の希望があったのだ。給仕のメンバーの仕事着も先日カラシンのもとで揃えてある。和装で揃えてあるのだが動きやすさを重視して揃えた為袴など大正装束に近い。自身は表に出ることはほとんどない為動きやすさのみ重視した作務衣だ。お世辞にも作務衣自体の見目はよく見えないのだが大神が良いため成り立ってしまうのが不思議なところである。厨房の入り口に掛ける暖簾も大胆な大神の字で店名が書いてある。どうやらこの程度の作業は可能らしい。
「甘いもんあったら女の子でも来れるだろうしな、よしそれも採用で!」
ようやくメニューが決まればその横で既に月代がお品書きと紙に書いていてくれた。高校教師を生業としている月代の文字は癖がなく読みやすい文字である為打って付けだった。
「金額は会計担当様に相談した方がいいぞ」
「そうね、カンナさんに決めてもらえば間違いないわ」
二人の助言を受けた大神は二人とのお茶の時間を楽しんだ後カンナの元へと向かった。恐らく洸の部屋にいるだろう言う大神の予想は見事に的中した。
「よ、カンナちょっと相談いいか?」
「ええ、どうしましたか?あぁ、価格設定のことですか?」
「そうなんだよ、金額決めてくんねぇか?」
「分かりました、少しお待ちくださいね」
カンナが金額を書き込んでいる間に洸とカンナの書類に目をやれば、店の事業計画や仕入れ先などの打ち合わせをいているようだった。ギルドの中心に立つ二人が全体の流れを上手く作ってくれるのは今もゲーム時代も変わらない。それを支え、守ってやるのが自分の仕事であると年長者としても守護戦士としても考えている大神だった。それに元々頭を使うより身体を動かすことの方が好きである為任せられるのなら任せてしまいたいとも思っているのだ。
「当分自給自足か?」
「野菜はずっとカイルの畑のものを契約農家として買っていくつもりなんだ。カイルも身内価格にしてくれるって言うし。肉や魚は当分は自分たちで獲ってこようかと思ってる。これから経済ちゃんと動き出せば適正価格も見えてくるだろうし、魚屋や肉屋も出てくる。そうなったら仕入れようかと思ってるよ。ずっと狩りをするのは大変だからね」
「早いとこみんな商売してくれるといいな。んでもって、沢山飯が食えるようになればいいんだ」
「本当にその通りだわ、早いところ経済が動いてくれないと私の交渉人のスキルが活躍の場を失っちゃうんだもん。価格きまりましたよ、全て書いてあります」
カンナから渡されたお品書きには綺麗に金額が書かれていた。あとはこれを何枚か月代に書いてもらえば足りるだろう。手元に見る分と壁に貼る分、どちらもあればなお良しだ。
「助かった、ありがとな」
「月代いるか?」
「どうした?」
大神は再び月代の元を訪ねた。お品書きを書いてもらうこと、それと渡しそびれていた仕事着を渡すために。月代の分とついでに眠り姫の分も預けることにした。
「すまねーな、俺よかお前の方が字が綺麗だから頼まれてくれ」
「これくらいなら、それよりどうでしたあの二人は」
「あ?二人でいることわかってたのか?いやなに、いつも通りしっかりしてたよ二人とも。全く俺らの方が年上だってのに」
「それでも、たまに見せる顔はまだまだ子供です。それに二人も成人して何年か経ってるんだ、十分大人」
「そりゃそうだけどよ、頼もしすぎて」
「できた、いいんじゃないですか?我らがギルマス殿とサブマス殿ですから。この服はちゃんと姫に渡しておくよ」
「そんなもんか。ありがとよ、助かった。あんまりシスコンばっかりしてんなよ、じゃあな」
「大きなお世話ですよ、おやすみなさい」
月代の部屋を後にして御神にも仕事着を届ければ、自室へと戻った。お品書きに目をやりながら自分の店に思いを馳せた。この世界に来てしまい自分の大工の腕は振るうことは叶わないだろう。アキバの街が落ち着いた頃に大工職を持つ冒険者に技術指導をするのもいいだろうと考えていた。今の自分には美味しい料理の提供が出来る、それが出来るだけでも自分はまだいい方だ。戦うこと以外に目標がある、それだけで自分らしく此処で生きていくことが出来る。自分が提供した食事が力に変わり、原動力になるのならこれほど喜ばしいことはない。明後日に控えた店のオープンに期待高まる。その感覚はまるで遠足が楽しみで仕方のなかった小学生の頃と同じだった。