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「よぉ坊主、元気だったみてぇだな」

「ミチタカさんも、今日はよろしくお願いします」





アキバの街に<円卓会議>が発足される数日前、<追憶の彼方>にとっては一大イベントとも言える日を迎えていた。ついにあのビルに拠点を移すのだ。メンバー数十人のうち半数以上が女性である為人手が足りず、かねてより親交のあった<海洋機構>のミチタカに頼み、引っ越し屋もどきをしに来てもらっていた。

もちろん女性ではあるものの冒険者のスペックから言えば成人男性ほどの力はあるのだが、そこは価値観の問題である。女性に重い物を持たせるなどという無粋な真似をしでかすような者はいなかった。ついでに、<海洋機構>所属の大工職持ちにスキル(・・・)を使って改装工事を行ってもらったいた。もちろん、商業スペースについてはごまかして伝え、現在は簡単にだけ改装してもらってある。徐々に形を整えていくのも酔狂だという結論至ったのだ。



「そんなに多くはありませんが、お手数おかけしますわ」

「う、うっす!」



それぞれが、主に女性陣が運びだしの指示をする中眠り姫に声を掛けられた者は顔を赤くし照れていた。アキバの街の噂の姫君に声を掛けられたのであるからその反応も当然で、大きなテーブルを担ぎながら睨むような視線を送る月代には気付かないほどに浮かれている。



「ほらほら、王子そんなに睨まないの!」

「……すまないね、ついつい」

「ったく、そんな心配なら早く引っ越し終わらせりゃいいだろ?御神はちゃんと働け!」








洸はと言えば朝早くに自身の荷物を運び終えている為ミチタカと打ち合わせというか雑談をしていた。共有スペースの家具などの運び出しを他の人に任せてまでもお互いの情報を確かめたかったのだ。洸からすればミチタカがどれほどの情報を持っているのか確認したいのだ。大手生産系ギルドのギルマスであるミチタカの元には、恐らく膨大な情報が入ってくる。それは普通であれば洸のそれとは比にならない量であるはずだが、そこは情報戦を得意とする洸であるからなかなかに負けてはいない。一方のミチタカからすれば、例え自分ほどの情報量を持っていないとしても質の良い情報を手にしているはずの洸から何としてでも情報を引き出したい。


「またなんで引っ越しなんて考えたんだ?お前んとこの人数なら今のギルドホールでも十分だっただろうに。ギルド会館の方が便利じゃねぇか(あそこから出てあのビルに移ったっつーことはなんか企んでんだろ?つーか、なんでこいつはビルなんて持ってやがんだ)」

「そうですね、気分転換ですよ。最近なんだかこの街の雰囲気も変わってきましたし、引き籠っていないで外に出ようと思っただけですよ。(ビルが買えることにはまだ気付いてないのかな?ミチタカさんのとこは職人気質の人が多いからビルみたいな広い店舗ってイメージでもないし)」

「ところでクレセントムーンのあれ、もう食ったか?」

「もちろん、美味しかったですよ」


ミチタカとしてはおそらく本題であろう話題に移って行った。


「あれは衝撃的だったな、しかし。何より俺んとこで一番に売り出せなかったつーのがな」

「まぁ、あれは大変みたいですからね。でも、あれのおかげでこの街が元気になったんですよね」

「大変、ってことは何かしらの情報は掴んでんだな?秘密、教えろよ」

「まぁ、マリ姐さんとも仲良くさせてもらってますからね。でも、僕からは何も言えないです」


シロエが使う手持ちの情報(カード)を勝手に切るわけにはいかない。それにその時は近い、焦らずともミチタカには声が掛かるはずだ。


「まぁ、ヒントと言えばうちのメンバーでさえも苦戦しますね。もちろんご存じだとは思いますが、全員レベルは90です(高いレベルの料理人でないとちゃんと調理できないから、って意味だけど)」

「なるほどな、まぁ簡単に言えるような秘密じゃないってことはわかってた(レベル90でもキツいって?なんなんだよ一体、新しいクエストかなんかか?ちくしょう、わけわかんねぇな全く)」




こうしてギルマス二人の探り合いは洸に軍配が上がり終了となった。そして昼食時となり引っ越しの作業もほとんどが終わり、残りは洸たちだけでも可能な範囲だった。




「今日はありがとうございました、今日のお礼用意したんですけどどちらか選んでいただけますか?カンナ、よろしく」

「ひとつは金貨20枚。現在の相場は正直測りかねますが妥当ではないかと」

「で、もう一つはクレセントバーガー!さっきボクが買ってきたからできたてだよー!」

「ミチタカさん、どうし…って答えは決まってるみたいですね」



<海洋機構>の面々に目を向ければ全員の視線がクレセントバーガーに釘付けだったのだ。今話題の、しかもなかなか買えないあのクレセントバーガーと聞けば金貨よりも断然価値がある。金貨があっても味のする食事にありつけないことの方が多いのだから。そもそも、カンナの言ったように経済活動が活発とは言えない今、それぞれに相場というものが明確に決まっていないのだ。労働をしたことへの対価を金貨に換算するのは難しいのである。それならばいっそのこと、現物しかも入手困難な味のする食べ物をもらった方が喜べる。



「しかし、味がするってのはいいもんだな。ありがたみをこんな処で感じるとは思ってなかったぜ、全く」

「総長、俺を今日の手伝いに選んでくれてありがとうございます!俺幸せっす!」

「俺も俺も!支配人に手伝わされてまさかハンバーガーにありつけるとは思ってなかったもんな!」

「喜んでもらえたみたいで。カイルが並んでくれたおかげですね」



ちなみにコネを使って、などということはなく他の人と同じ条件で並んで買ってきたものだ。






「じゃあ俺らは帰るわ、またなんかあったら声かけろよ」

「その時はぜひ力を貸してくださいね。ありがとうございました」



食事を終え荷車を引いて帰っていくミチタカたちを見送れば、全員が三階の共有スペースに集まった。新しい住処となったビルは一階が店舗になり、二階は倉庫、三階が食事をしたり寛いだりと共有スペースで、四階は女性陣の部屋があるフロア、五階は男性陣の部屋があるフロア。屋上は現在はあまり整備していないが、なかなかの広さがあるため使い方次第では有効に使えるだろう。そして、これからは引っ越し祝いのささやかな会である。


「それでは引っ越し祝いということで乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

「さ、沢山食えよ!今日は煮込みハンバーグだぞ!」

「ハンバーグ、ボク大好き!」


大神の作った夕食を堪能しながら各々新居のことを話していた。


「それにしても、改装すればなかなかいいわね。部屋の壁も綺麗に塗りなおしてもらったし」

「スキルで何とかなる範囲みたいだからね。その境界線は難しいけど」

「まだ色々と情報流せないから試すのも難しいもんね」

「お兄様、私のお部屋カイルさんと要さんがお隣なんですの!お部屋は薄いピンク色の壁なんですのよ!」

「気に入ったみたいだね」

「俺らはそれぞれの部屋の間に物置あるからな」

「尊の部屋はどんななの?俺はね俺はね、白い壁にしてもらったから後でペンキ買ってきて絵書く予定!」

「まぁ、御神くん楽しそうね。描けたら見に行こうかしら」

「私の部屋は普通です。あと、もう少し静かに食事してください」


カイルはハンバーグに夢中で既に二つ目を食べ終えている。最近では大神の料理のレパートリーが増えデザートの類も食後に出されるようになってきた。洸の監修のもと大神が挑戦しているのだ。甘党が多い<追憶の彼方>では専ら最近の楽しみは大神の作るスイーツになっていた。


「大神殿、今日はホールケーキですか?」

「おう!お祝いっつったらやっぱケーキだろ!」

「ボクのいちごもいっぱいだよ!」

「うむ、早く食べたい」


一番の甘いもの好きは意外にも要だったのだ。

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