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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
番外編1「ももたろうてきなもの」
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3 鬼を倒してハッピーエンド

 道中は何事も無く、海辺近くの村から借りた小さな船を使い、三人は鬼ヶ島に上陸しました。

 一周歩いても半日かからないほど小さな島には、黄や赤や青い肌の悪鬼が大量にいます。


「鬼って……やっぱ悪鬼なのか」


 呟いた華月は、片っ端から悪鬼達を斬り倒し始めました。悪鬼達は三人を見るなり襲い掛かってきましたが、高レベルの華月達の敵ではありません。


 悪鬼の半分以上は華月の斬撃で、残りは矢鏡の術を食らい、黒い粒子となって消えていきます。さして時間も掛からず、悪鬼は一体も見えなくなりました。


 因みにフィルは、


「僕の出る幕無いね」


 矢鏡の後ろで見ているだけでした。


 華月は生き残りがいないかを確認するために島中を歩きます。そして、たまたま入った洞窟内で大量の金銀財宝を見つけ、


「うわすげー……。でもこれ持っていったら泥棒だよな」


 見なかったことにして洞窟を後にしました。


 ここにある宝は誰のものでもない、海の底に沈んでいたものだったのですが、バカな華月にはそんなことはわかりません。よく見ればコケとかついてるんですけどね。


「…………」


 なにか言いたげに空を見上げる華月でしたが、足を止めることなく船に向かいました。



 …………

 ふーねーにーむーかーいーまーしーたー。


「わ、わかったよ……」


 なにやらぶつぶつ呟きながら、華月はとぼとぼと船に向かいます。


「華月ー! どうだったー?」


 船の傍で待っていたフィルが、手を振りながら尋ねました。

 その横には腕を組んでつまらなそうにしている矢鏡がいます。


「残党はいなさそうだったぜ。これで任務完了だな」


 二人の前で足を止め、華月が答えました。




 その時です。


「イイイイイイイ……」


 不気味な笑い声が響きました。


 三人が目を向けたのは島の中央。そこには一人の少年が立っていました。ぼろぼろな黒いローブを羽織り、フードを目深にかぶって、腰にはトラの毛皮を巻いています。


「よう。お互い苦労するな」


「グレイ――じゃない、えーと…………だ、誰だきさまー名前を言えー」


 謎の少年に向けて、華月が指を突き付けます。


「棒読みだね。ディルスみたい」


「俺はもう少し抑揚があるだろ。多分」


「ないよ。今度録音してあげようか?」


「……遠慮しておく」


 話に関係ないやり取りをしている二人の方に、華月はジト目を向けました。


「せめて反応してやれよ……グレ――あいつが可哀そうだろ」


「まぁ気にすんな。ヘルに付き合うかどうかは本人の自由だ。

 もっとも、ヘルが呼んだからには、ちゃんと理由があんだろうけどな」


「理由……? 遊びたい、とかじゃなくて?」


「それだけの時もある。どちらにしろ、すこーし付き合ってやりゃ満足するさ。

 ――ってことで」


 謎の少年はこほんっと咳払いをして、


「ギイはグレイヴァ。鬼どもの親玉ってことになってる」


『……親玉?』


 華月と矢鏡の声が重なりました。

 華月は不思議そうに首を傾げ、


「それなら、なんで今まで隠れていたんだ? 悪鬼たちと一緒にかかってくれば良かったのに」


「あん? 当然だろ。本物じゃないとはいえ、あれらは悪鬼だ。親玉なんてのはただの設定なんだから、見つかったらボコボコにされちまう」


「え。グレイヴァは悪鬼にも勝てないのか?」


「うるせー、悪いか。ギイは非戦闘員なんだよ」


 無神経なことを聞く華月に、グレイヴァが怒ります。


「でも親玉ってことは、君を倒さなければならないってことだよね?」


 フィルの質問に、グレイヴァは頷いて返しました。

 華月はものすごく嫌そうな顔をして、


「お前と……戦うの?」


「イイイイイイ……」


 グレイヴァは笑顔を浮かべて三人に近付いていきます。そして華月の前で足を止めると、


「華月京と戦って勝てるわけないだろ。即死するわボケ」


「……それ、偉そうに言うことか?」


「強がったところで意味はないからな。つーわけで――」


 言ってグレイヴァは大きく後ろに跳びました。それからばたりと横に倒れます。


「ぐわーやられたー」


『…………』


 鬼の親玉を倒した三人は勝利に喜びました。


「…………ほら。哀れんだ目をギイに向けてないで喜べよ」


「……わ、わーいやったー。任務完了だぜー」


 引きつった笑顔でバンザイする華月と、


「帰ろうか」


「もう少しで終わりだな」


 大人げない二人は空気を読まずにさっさと帰り支度をしています。こんな寂しい大人にはなっちゃダメですよ、華月。


「……こんなぐだぐだでいいの?」


「あくまでアドリブがメインの劇だからな」


 船に乗り込む華月に、矢鏡がそう返します。




 悪鬼を全滅させて満足した三人は鬼ヶ島から立ち去り、村に船を返して来た道を戻っていきました。


 道中、帰るところは無い、という矢鏡とフィルを心配した華月が、


「じゃあとりあえずシンのところに行こうぜ」


 と提案し、結果的に三人一緒にシンの家に向かうことになりました。


 日が暮れる前にはシンの家に着き、華月を先頭に中に入ります。

 囲炉裏を挟むように正座するシンとリンを見て、


「リンさんの言う通り全滅させてきまし……た……」


 嬉々とした様子で報告し始めた華月でしたが、途中であるものに気付き、徐々に声が小さくなっていきました。


「お帰り、華月」


 にこやかにシンがいいました。リンは煩わしそうに三人を一瞥しただけです。

 その二人の前にも、華月達と同じように黒い板が浮いていました。



 シン  神   レベル∞

     攻  : ∞    守  : ∞

     運  : ∞    速  : ∞

     通力 : ∞



 リン  魔王  レベル∞

     攻  : ∞    守  : ∞

     運  : ∞    速  : ∞

     魔力 : ∞



 文字を読んだ華月はゆっくり息を吸い、


「すげぇぇぇぇぇぇぇ! 超チートキャラだ! さすが神と魔王!」


 思わず大声で叫びました。


 それから三人は、叫び声に苛立ったリンによって即座に家を追い出されましたが、すぐ近くに別々の家を建て、リン以外は皆仲良く平和に暮らしましたとさ。




 めでたし。めでたし。




* * *



「なぁヘル」


「なんですか華月?」


「気付いたらここにいて、配役言われて、あとはナレーション通りに動いてって言われて、演技しないとダメだって言われて、わけわかんないままとりあえずやったけど……

 結局これなに? つか、ここどこ? なんで急に劇が始まったわけ?」


「そうですね……

 すべては答えられませんが――まず、ここは〝わたしの世界〟です」


「は?」


「わたしだけが使える術の中、と言った方がいいでしょうか。そこにあなた方の精神だけを招いているんです。

 劇なのはまぁ……ぶっちゃけわたしの趣味です。深い意味があるわけではありません。

 この中にいる間は、ある程度わたしの好きに出来るんですよ。だからあなたたちの服装も、景色も変えられるんです。それならば、普段やらない、もしくは出来ないことをしたいじゃないですか」


「それで劇なの?」


「パロディってやつです。昔から大好きでして。

 それに、この中では時間経過は一切しないですし、ここで怪我をしても死んでも現実には何も影響しないから、ほとんどの方が付き合ってくれるんですよ。

 ――って、今話しても意味ないんですけど」


「意味ない? なんで?」


「まぁまぁ、そんなことはいいじゃないですか。

 ここは癒しの空間、遊び場なんです。楽しければいいんです。

 だから、また遊びましょうね」

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