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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
番外編1「ももたろうてきなもの」
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2 道中で仲間を集め

 青い空と白い雲の下、森と平原の境目を現すように緩やかな弧を描いて伸びる土の道を、華月は鼻歌交じりで歩いて行きます。リンから貰った刀を肩に担ぎ、周りの景色を見て楽しんでいました。


「いいねー、のどかで。こーゆーの好きだなー」


 言いながらきょろきょろ見回していると、ふと、道の先に何かがいることに気付きました。

 目を凝らしてよく見ると、道の森側にある大きな石に、一人の人間が腰かけているのが確認出来ました。


 人間は黒いローブにつばの広い黒いとんがり帽子をかぶり、人間の背丈より長い杖を手に持っていました。杖の柄は黒色で、上部には青い石とそれを囲むような銀の装飾がありました。人間は華月の方に背を向けているため顔は見えません。


 人間が視界に入った瞬間、華月は一旦足を止めて数秒考え、人間を不審者と判断して無視することに決めました。人間などそこにいないとばかりに平然と歩き、徐々に人間に近付いていきます。


 あと十歩ほどで人間の横を通る、というところで――人間がぴくりと動きました。スッと立ち上がり、帽子を押し上げながら振り向きました。


「君を待っていた。鬼ヶ島に行くんだろ?」


 淡々とした口調で人間が言いました。

 あせた金髪と同じ色の三白眼を持つ、華月と同じ年頃の少年でした。


 華月は思わず立ち止まり、露骨に顔をしかめます。


「は? いやあの……ちょ、ちょっと待って。タイムタイム」


 片手を上げつつ慌てて言って、少年を上から下までじっくり眺め見て、


「なんで? なんで犬じゃないの? これ『桃太郎』だよな? ここで出てくるのって犬のはずだよな?」


 そう尋ねると、少年はこっくり頷きました。

 華月は完全に戸惑った様子で、


「じゃあなんで犬じゃないの? ――というか、お前は何なの?」


「俺は矢鏡、魔法使いだよ。師匠に言われて君を手伝う事になってる――という設定」


「いやいやいやいや! これいつの間にRPGになったんだよ!」


「さぁ……」


 自称魔法使いは小さく首を傾げました。

 呆れたように溜め息を吐いた華月は、ぐるりと周囲を見渡して、


「おいヘル、出てこい。説明しろ。桃太郎って言ったよな? どうなってんの?」


 突然わけのわからないことを言いました。


「いや、わけわからなくねぇから。当然の疑問だから」


 こらこら華月。今回わたしはナレーションだと言ったでしょう。こちらに話しかけちゃダメですよ。


「あとさー、矢鏡の恰好なんでこれ? ぽいっちゃぽいけど……どっちかってーとヘルっぽくね? 黒魔術師」


 無視しないでください。はぁ……まったくあなたは……仕方ない人ですね。確かにわたしは普段黒ローブを着ていますけど、黒魔術師みたいな服はあまり好きではないですよ。なんか根暗な感じがするじゃないですか。


 それと、題名は『桃太郎』と言いましたけど、改変しないとは言っていません。原作そのままだとつまらないでしょう。オリジナリティってやつです。


 華月だってその方が面白いと思うでしょう?


「あぁまぁ……確かに」


 納得していただけてなによりです。では、時間もないので再開しましょう。

 さぁ出番ですよ。


「やぁ。楽しそうだね♪」


 突然、平原の方から若い男の子の声が聞こえてきました。

 反射的にそちらを向いた華月は、目を大きく開けて驚きました。


「いつの間に!?」


 すぐ近くに、オレンジに近い明るい茶髪とエメラルドグリーンの目を持つ、誰が見ても美形だと認めるほど顔の整った少年が立っていました。綺麗な装飾のされた薄水色の外套がよく似合っています。


「今来たばかりだけど……まぁ、気付かないのも無理ないよ。ここまでは姿を隠す薬を使ってたから」


 爽やかに微笑んで言う美少年に、華月は不思議そうな顔をして、


「……なんでわざわざ?」


「驚かせようと思って」


「あぁ……そう。ところでおもっくそ『少年』って言われてるけどいいの?」


 華月、次ナレーションに反応したらメイド服着せますよ。服装くらいなら、わたしの思うがままだと、ちゃんと教えましたよね。それとも実際に変えてあげましょうか? 着物姿に変えた時と同じように。


「…………」


 華月は頬を引きつらせると、長い溜め息を吐いて美少年にジト目を向け、


「ところで……あんたは何? 医者?」


「僕は僧侶だよ。名前はフィル・フィーリア」


 美少年はひらひら片手を振りながらそう名乗りました。

 じゃあ俺も名乗らないと、と思った華月が口を開く前に、


「あ、君の名前はわかるよ。華月君」


 フィルに言い当てられました。

 華月は呆れた顔をして、


「おいおい……駄目だぞフィル。ちゃんと初対面っぽくしないと――」


「いや、大丈夫だよ。気付いていないのかい?」


 フィルはふっと笑って、華月の右の腰下辺りを指差します。

 その先を目で追い、そこにあった物を見て華月は心底驚きました。


「……は?」


 ぎりぎり手が届く距離に、真っ黒で半透明な四角い板が浮いていました。とりあえず触ってみようと思った華月は手を伸ばしましたが、すかっと擦り抜けて触れることが出来ません。そして、板には白い文字が書かれていることに気付きました。



 華月  剣士  レベル72

     攻  : 850    守  : 275

     運  : 777    速  : 640

     通力 : 999



「おおぅ……」


 自分の前に浮かぶ文字を読み、華月はなんとも言えない複雑な顔をしました。その後すぐにはっとして、他の二人の足元を見ました。予想通り、自称魔法使いとフィルの前にも黒い板が浮かんでいます。


 自称魔法使いの前の板には、



 矢鏡  魔法使い  レベル97

     攻  : 780    守  : 350

     運  :   4    速  : 810

     通力 : 705



 と書かれ、フィルの前の板には、



 フィル  僧侶  レベル50

      攻  : 500    守  : 500

      運  : 500    速  : 500

      通力 : 500



 と書かれていました。


 華月はしばしの間呆然としていて、やがてふっと爽やかに笑い、


「いくつかツッコんでいいか?」


 他二人の視線が集まるのを待ってから、華月は大きく息を吸って、


「なんだよこのステータス! マジでRPGじゃねぇか! あとなんだよこの数値! 俺のレベル最初からたけぇな! 矢鏡なんてほぼカンストだし!

 つーか矢鏡の運ひっく! カスじゃん!」


「……悪かったな」


 ぼそりと呟いた矢鏡を無視し、華月はふーっとゆっくり息を吐いて落ち着いてからフィルに目を向け、


「あとさ、すっげー気になんだけど、フィルのステータス綺麗すぎじゃね?

 なんか操作っつーか……改変されてない?」


「ただの偶然だよ。ある人がてきとーって言ってたし♪」


 フィルは爽やか笑顔で答えました。


 単純で素直な華月は『そうか。ただの偶然か』と素直に納得しました。矢鏡は疑いの目でフィルを見ていました。


 フィルはくすりと笑い、


「それより君達、鬼ヶ島に行くんだろ? 僕も混ぜてくれないかな?」


「別にいいけど……フィルはどういう事情で?」


「僕は近くの村人達に頼まれた――ということになってるんだ」


「ふーん……。じゃあまぁ、みんなで一緒に行くとするか」


 華月がそう言った途端、


『パッパラパッパッパーパンッ』


 という軽快な電子音がどこからか聞こえてきました。


「なに今の音!?」


 華月はきょろきょろ視線を彷徨わせましたが、自然の中に変わったものはありません。

 警戒する華月に、矢鏡が言います。


「効果音だろ。仲間が増えた時の」


「……もう『桃太郎』じゃねぇな……」


 華月は完全に呆れてしまいました。

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