表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第15話「同一と相違」
91/120

15-4 取引

 あぁ可哀そうに。枷を外す手はあっても、それが無理ゲーに等しいとは。


「……哀れんだ目で見てくるの、やめてくれる?

 言っておくけど、俺は諦める気ないよ。実力差はわかっているけど、だからって諦める理由にはならない。いつか絶対に勝ってやる」


 哀れみの目で見ていた俺にはっきり宣言したセンリは、短いため息を吐き、


「――って、そんな話はどうでもいい。いい加減仕事の話をしよう。

 あんたたちの任務は配達だったよね。さっさとよこしな」


 呆れたように片手を差し出す。

 俺はハッとして、


「あ、そうか。そういえばそうだった」


 ちらりと矢鏡を見ると、矢鏡はフィルを俺に寄こして預かっていたリコゼを渡した。

 センリがじーっとそれを見つめる。


 そしてなんと。


 リコゼが薄く光り、その上にぴょこんっと小人が現れた!


「こんにちは、センリ♪」


 小さなプレートの上に乗り、かわいく挨拶したのはデフォルメされたような姿の、手の平サイズまでちっさくなったシン!


 くっそかわいぃぃぃぃぃっ! なんだこれ! マジかわいいんですけど! 手の平サイズなんですけど! 俺も欲しいんですけど! こっちに来てほしいんですけど!


「みんなもおつかれさま。任務は終わったみたいだね」


 俺たちをぐるりと見渡して、にっこり微笑む小人。いや、天使。

 そんな我らが主を、センリはがしっと鷲掴みにする。


「てめっ……なにしとんじゃぁぁぁっ!」


 荒ぶる俺を完全に無視して、


「おいクソガキ」


「ク、クソガキィ!? お前シンに向かってなんつーふもっ」


「すまない華月、ちょっと黙ってて」


 フィルを抱えているおかげで手を出せないってのに、さらに矢鏡の手が俺の口まで塞ぐ。


 ぐぬぬぅ……あとで見てろよ……


「なぁにセンリ?」


 ひどい扱いを受けても、シンはにっこり笑顔で応じる。


「上級悪魔たちだっていうから期待してたのに、実際は魔力と科学技術だけが高いザコで、俺の敵じゃなかったとか。その上、こいつらに俺の計画を台無しにされたこととか。

 言いたい文句は山ほどあるが……ひとまずそれはいい」


 冷めた口調で言いながら、手にしたリコゼを見せつけるように持ち、


「これはどういうこと? 元王佐君が持っていたやつだよね?」


「そうだよ」


 シンは一度目を閉じると、センリの手からするりと抜け出て宙に浮かぶ。


 あ、浮けるんだ。さすが天使♡


 シンは淡く微笑み、


「アデルからお願いされたの。センリに渡してほしいって。

 ……あなたのことを信じてるって」


 そのことばに、センリが意外そうな顔をする。


 アデル……? どこかで聞いたことあるような……


「なぁ、アデルと元王佐君って誰?」


 うまいこと口をずらし、俺は小声で矢鏡に聞いた。

 矢鏡も合わせて小声で、


「それは同じ人物。アデルは元王佐で、氷の主護者。フィルと同じくらい頭が良くて、天界では参謀をやっていたよ」


 応えながら冷静に俺の口を塞ぎ直す。

 そうだ、確か六賢者の話で出てきた名前だ。


 シンはふふっと小さく笑い、リコゼを指差した。


「これからのために、センリのために、いろいろ足しておいたよ。あとで確認してね」


「随分と待遇がいいことで。

 ――で、依頼内容は? そこまでするってことは、次のは大物なんだろ?」


「それも中に入ってるよ」


 横目で見やり、さっそくリコゼを操作するセンリ。親指を表面に滑らせ、


「へぇ……」


 再び爽やか笑顔を浮かべる。

 俺には何も見えないけど、センリの目には文字か何かが映っているのだろうか。


「面白そうだね。たまには褒めてあげるよ、クソガキ」


「ふもっ! ふもふっふもっ!」


 嬉しそうにド失礼なことをいう野郎に、思わず声を出すが――ふがふがとしかならん! ええい、離せ矢鏡!


「『てめぇ、また言ったな』だって。ディルス、そろそろ離してあげて。

 それと華月。私は気にしてないから、どうか怒らないで」


 優しい優しいシンがにこやかに笑って言った。

 言われた通り離す矢鏡。


 これで自由に発言できるが、そーゆーふうに言われたらさすがに怒れん……


「あとこれ、発明マニアからの依頼品」


 シンを掴んでいた方の手に、半透明の小さな黄色いクリスタル(にしか見えない)を現すセンリ。


「今回の悪魔が作ったシステム、機械人形及び武器のデータ、設計図、その他諸々、依頼通りすべて盗ってきた。預けるから渡しておいて。報酬は後で貰う」


「うん、わかった」


 シンはすんなり引き受けてクリスタルを受け取った。今のシンには重いんじゃないかと思ったが、小さな手で触れた途端に消えた。物質召喚はいつも便利。因みにあのクリスタルは、地球でいうUSBメモリのようなものらしい。


 あとついでに。


 このタイミングで聞いたのだが、このシンは本体でもなければ分身でもないらしい。よくわからんけど触れる立体映像なんだと。扱いにくい分身とは違って、通信相手が誰であっても自動的に映像化する(但し相手が拒否した場合は映像化しない)し、リコゼからあまり離れられないし、実体が無いから浮けるしなんでもすり抜けられるし、通力の消費が無いらしい。他にも細かく違うらしいが、それ以上聞いても覚えられないからやめておいた。


 それにしてもあの銀髪め……シンに対してなんて偉そうな態度なんだ……


 タガナと同じく恨みがましい顔をしていたからか、俺を見た矢鏡が、


「華月、センリとは仲良くしておいた方がいいよ」


「…………なんで?」


「性格に難はあるが、かなり有能で多才な奴だから。性格に難はあるが」


 大事なことなので二回言った。もちろん小声で。


「有能っつったって……報酬とか言ってるし。なんか頼んでもお金とか請求してくるんじゃねぇの? そんな奴に頼ることなんてなさそうだけど」


 俺も小声で返し、ジト目を向ける。

 と、


「次はどこだったの……?」


 ようやくノエルが動き出し、リコゼをのぞき込んだ。


「んー……魔王城……? めずらしいね……」


 魔・王・城。


「そ、それはつまりリンさんの家か!?」


「うん……城というより……屋敷だけどね……みんな城って呼ぶの……」


「俺も行きたい!」


 シュバッと手を上げてアピール。

 センリは腕を組み、呆れたような顔で、


「どうやら好みも変わらないみたいだね……

 連れて行くわけないだろ。あんたたちの任務は終わったんだ。大人しく帰れ」


「ついてくくらいいいだろ?」


 なんとか許可してもらおうと、にっこにっこ笑って食い下がる俺。


「邪魔だ。帰れ」


「邪魔しないってー」


「いるだけで邪魔なんだよ」


「気配消すからさー」


「そういう問題じゃない」


 なかなか折れないセンリに、別にいいだろー、と何度も何度も言いまくり。






 結果。


「ったくしつこい! だからあんた嫌いなんだ!」


 舌打ちし、忌々しそうにぼやくセンリ。お、勝ったか?


 続いて長いため息を吐き、シンを握っていた方の手を上げ――


「おおっ!?」


 現したモノを見て、俺は思わず声を上げていた。


 普通の写真よりちょっと大きな、額縁に入った一枚の絵。写真かと見間違うほど細かく綺麗に描かれているのは、腕を組んで不敵に笑うリンさんの上半身。


『わー……』


 揃って感心するシンとノエル。


 それもそのはず。芸術がまったくわからない俺でも、この絵が凄いってことはわかる。素人だけどこの凄さはわかる。生きてるような、という例えはこういうものに使うのだろう。それほど超超超ハイレベルなのである。とてもじゃないが、ひねくれた元殺し屋が描いたとは思えない。


 素晴らしきその絵に、俺はわなわなと手を伸ばし、


「そ……それ……」


「こんなこともあろうかと描いておいて良かったよ。――欲しいか?」


 にっこり笑い、ひょいっと絵を遠ざけるセンリ。


 こくこくと何度も頷きまくる俺。


 めっちゃ欲しいですセンリさん。頼ることないとか言ってごめんなさい。完全に侮ってました。画家っていっても大したことないと思ってました。あなたはすごい人です。


「もう一度聞く。大人しく帰るか?」


 聞きながら、センリがひーらひーらと絵を揺らす。


 絵か、リンさんのお宅訪問か、どっちを取るんだと聞かれているのだと、バカな俺でもさすがにわかる。


 正直すっげー悩む。


 今後リンさんの家に行ける機会があるかもわからないし、今を逃したらもう絵をくれないかもしれない。もしくは別の人に渡すかもしれない。


 なんという究極の選択!


 苦い顔で悩んでいると、センリはリコゼをコートの内ポケットにしまい、代わりに親指サイズの銀の棒を取り出す。その横についた小さなスイッチを押し込んで、上端から出たどうやらライターらしいを絵に近付け――


「あああああわかった! 帰る! 帰るよ!」


 慌てて言った瞬間、すぐさま火が消え、ライターも消えた。

 迷いなく燃やそうとしやがったひねくれ画家さまは、満足そうにふふっと笑い、


「よし、言ったな」


 と言って絵をパッと消した。


 物質召喚で消した。

 この場から消した。


「えっ! くれるんじゃないの!?」


 咄嗟に騒ぐ俺に、センリがすっげー優しい口調で。


「バーカ。俺は『帰るか』と聞いただけ。代わりに絵をあげるなんて言っていない」


「ずるっ! じゃあさっきのは無しだ! 無し!」


「あんたが勝手に帰るって言ったんだろ。自分の発言には責任を持ちなよ」


 はっ、と小馬鹿にしたように笑うひねくれ銀髪を、いっそ殴ってやろうかと思ったところで矢鏡に肩を掴まれた。


「華月。センリはこの性格だから、仲間からの支援をほとんど受けてないんだ。代わりに取引することで必要な物を得ているんだよ。つまり交渉が必要」


 それから矢鏡は、まかせて、と呟き、センリを見据えて片手を上げる。次いで、その手の上にぽんっと教科書みたいな本が現れる。


「地球で天才と呼ばれる画家の画集」


 あ、背表紙に『ゴッホ』って書いてある。

 つか、取引材料は絵画関係でいいんか?


 と思ったのだが、センリは興味深げに表紙を見つめ、


「…………写真か。なら、さっきの落書きとなら手を打つ」


「それでいい」


 そして画集と交換されたリンさんの絵を、矢鏡が俺に寄こしてくれる。


「をー! サンキュー矢鏡!」


 すげー手の込んだ絵に見えるものを落書きと言った件は気になるが、とりあえずフィルを落とさないように受け取って、汚さないよう術で消しておく。


 あとでゆっくり見よう♪


「あぁそれと」


 センリが手に現した白いカード(学生証くらいの大きさで、中心に描かれた円を囲うように装飾がされている)を矢鏡に向けた。


「今回助けてあげた請求書。黒医者に渡しておいて」


 矢鏡が受け取りわずかにカードを傾けると、円から真上に光が伸びて、目の前の空中にずらっと文字が浮かび上がる。おーすげぇ。かっけぇ。


「一三五が二十、四四六六が三百、九一が四百……」


「数字しか書いてないぞ……なんだこれ? 呪文か?」


 最初の一文を読み上げる矢鏡の手元をのぞき込み、俺はおもいっきり眉根を寄せた。


「フィルの薬の番号と必要数だよ。フィルは自分が作った薬に、いちいち名前とかつけないからな。因みに、番号をどういう基準でつけているのかはフィルしか知らない。製作順ではないらしい」


「へー。じゃあ最初の一三五ってなんの薬?」


「さぁ……。成功作だけでも数千種類はあるからな。俺には覚えられない」


 聞けば、失敗作と試作品を含めるとよゆーで一万超えるらしい。風邪薬とか軟膏とかの治療薬は含まずに、である。


「センリは覚えてるってこと? すげぇな」


「さすがに全部は無理だけど、要りそうなものくらいは覚えてるよ。あんたたちとは頭の出来が違うんでね」


 爽やか笑顔で腹立つことを抜かすセンリ。最後のひとこと余計なんだよ。


 呆れたジト目で見ていると、センリが急に真顔で俺をじーっと見返してくる。


「……なんだよ?」


 問いかけるが、返事はすぐには来なかった。

 十秒くらい経ってから、やっと口を開く。


「無知なあんたに、一つ助言をしてあげよう」


 一拍の間を空けて、爽やかに微笑んだ。


「〝隣に立っているからといって、味方だとは限らない〟

 ――精々気を付けるんだな」


 ギリギリ聞き取れるくらいの小声で言って、センリは踵を返し、にこにこしていたノエルを蹴っ飛ばす。但し威力はなかったようで、さっきのように地平線まで吹っ飛んだりせず、体勢をちょっと崩しただけで終わる。やっぱ女性だから手加減してるのかも。


「なんで蹴るのー……?」


「顔がむかつく。――ついてくるなよ」


 首を傾げるノエルから離れ、爽やか口調で突き放したセンリは、薄紫色のサイコロっぽい小箱を指で潰してこの場から消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ