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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第14話「万能コンビ」
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14-7 これは耐えられない

『おとうさん、あれはなに?』


 まだ小学生にもなっていない頃、テレビでやっていたどこかの遊園地の特集。

 ジェットコースターを紹介している後ろで、くるくる回っていた大きなティーカップたち。


 明るい音楽と笑い声、たまに悲鳴も混ざっていたが、乗っている人たちはみんな楽しそうだった。それを指差して聞いた時、


『あれはコーヒーカップという乗り物だよ。あとパパって呼んで。パァパって』

『やだ』


 今思うと名前しか教えてくれなかった不親切な父親の言葉を受け流し、ジェットコースターばかりでほとんど見えなかったコーヒーカップを、いつか乗ってみたいなぁ、と思いながら見つめていたことをよく覚えている。


 でも、俺の見た目がこんなだから、昔から人が集まる場所にはいけなかった。

 遊園地にも。映画館にも。動物園にも。プールにも。海にも。ゲーセンにも。


 だから、実際どんな感じなのかは知らない。

 知らないけど、コーヒーカップは遠心力を楽しむための乗り物だってことはわかる。きっと外側に吹っ飛ばされそうになるのが面白いんだろう。



 ――だから、多分。


 この回転速度がもっとずっと遅かったら、似たような感覚を味わえたんじゃないかなー。






「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっ!」


 今回二度目のみっともない叫び声が、回転のせいで変に響く。


 俺たち含め部屋中のものが、壁というよりもはや床となった石壁にへばりついている。重力が何十倍にもなっていた部屋がかわいく思えてくるほどの圧力だ。


 回転が始まった瞬間、ガラクタ(ロボットと黒槍)も降ってきたのだが、運のいいことに俺と矢鏡には直撃しなかった。ただ一人、ノエルだけはガラクタアタックをモロに食らって埋もれているけど。


 まぁほっとこう。こいつは心配しないってことでオーケーオーケー。俺の七割パンチくらっても無事だったし。マグマも効いてなかったし。マジで不死身そうだし。


 そんなことより、この現状を早くなんとかしなければ――


「ぎ、ぎもぢわるぅうぅうぅうぅうぅっ!」


 正直な感想を叫びつつ、腹から込み上げてくるなにかを必死に抑える。


 目が回るとか、そんなレベルじゃない。

 内臓がぐるぐる掻き回されている感じがする。


 出る。マジで出る。

 何が、とは言わないがこのままだと出るっ!

 メシ食った直後じゃなくてほんとよかった!

 それでもなにかしら出そうだけど!


「大丈夫?」


 こんな状況ですら鉄仮面の外れない矢鏡が、片膝立てて聞いてくる。回転音っつーか風を切る音っつーか、それがものすっげーうるさい(肉体強化使ってなかったら鼓膜破れそう)せいで、矢鏡も珍しく大声を出している。


「うぇっ……おぅ……こ、これで大丈夫に見えるなら……眼科か脳外科に行け……!」


 なんとか四つん這いを維持しつつ、なんとか言い返す俺。


「お前は……気持ち悪くねぇの……?」

「俺も頑丈な方だから。

 けど、この状況で出口を探すのは少し厳しいな」


 きょろきょろと辺りを見回す矢鏡。


 正直、今は出口とかどうでもいい。

 それより回転だ。回転を止めてくれ。


 つーかこれ勝手に止まるもんなのか……?

 回転の後に……なんか……確か、なんかするって言ってたから……止まるよな?

 でもいつ止まるのかわからない……


 のどまで上がってきた胃液を飲み込み、咄嗟に片手で口を押さえる。


 もうだめだ限界だ。

 今すぐなんとかしないと……


 ――あぁくそっ! 腹立ってきた!

 もういい! 隠すとか言ってる場合じゃねぇ!

 こっちが最優先だ!


 根性でよろよろ立ち上がり、俺は鉄パイプを右手で握った。

 怪訝な顔で矢鏡が見上げてくる。埋もれてはいるが、ノエルの青い髪も確認した。


 それから目を閉じ、軽く息を吐く。




 初式、三の迅――『銀鉤(ぎんこう)




 鞘に納める動作で鉄パイプを左側に移動し、左手を添える。次いでエルナ式剣技の基本――通力を纏わせ固めて刀身を形作る。それを光より速く、何よりも硬く鋭くイメージしながら、細く長くまっすぐ伸ばす。正確には測れていないが十キロ以上伸ばせるのは確か。


 直線状にあるものすべてを貫いて、限界まで伸ばした最長の刀が一瞬で出来上がる。


 そして目を開けた。


「回ってんじゃねぇよっ!」


 部屋とは逆方向に一回転。

 発生した風圧が矢鏡とノエルとガラクタを吹き飛ばした。


 一拍遅れて四方の面に線が刻まれる。線は太さを増していき、数秒後には隙間に変わって、そのまま上下に離れていく。隙間から眩しい光が差し込んでくる。


「華月、縦にもー……」


 その時のんびりボイスが耳に届いた。

 頭で考えるより早く、指示通りに体が動いていた。


 刀を維持したそのままで、今度は縦に回転斬り。そこまでが具現化の限界。粒子となって刀が消える。


 要塞は徐々に回転速度を落としながら、きれいな切り口から四つに割れていく。


「ありがとう華月……あとはまかせて……」


 立ち上がり、両手を広げたノエルが笑った。


 直後、青白い光が視界を満たす。

 空間がゆがみ、遠心力が完全に消えた。


 それが空中要塞インジデットの最後だった――のだが。

 正直よく覚えていない。


 もちろん、フィルやタガナや銀髪さんたちのことなどまったく頭になかったぜ。

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