14-5 目が良すぎるとな、見たくないものも見えるんだよ
矢鏡に氷の足場を作ってもらえばいいんじゃないか、とか。
ひとまず銀髪さんとフィルを上の出入口に放り込もうか、とか。
真剣に考えていたのだが、しかし。
『ぼぁっ!? な、なんだ!?』
なにやら様子がおかしい。
振り向いた悪魔はマグマを見るなり、驚きの声を上げたのだ。
ってことは……あれは仲間じゃない……?
全員の視線を集めた縦長のマグマは、じゅーじゅー音を立てながら徐々に黒ずんでいき――突然真ん中あたりから、ぬるっと人の手が飛び出てくる!
それから程よく筋肉のついた腕、青い髪、割れてはいないが余計な脂肪もついていない腹、引き締まった足が次々現れて。
マグマオブジェの前によろっと立ったのは、海の主護者ノエルサーガ!
しかも一糸まとわぬ姿!
つまり全裸!
Z・E・N・R・A!
メガネはかけているが服は着てない! パンツすらない!
つまりフ・ル・ティ・ンッ!
「ギャアァァァァァァァァァァッ!」
俺は即座に顔を背け、声を張り上げた。
「モザイクだモザイク! モザイクをかけろぉっ! モザイク班を呼べぇぇぇっ!」
目の良さは一番の自慢ポイントだが、こういう時だけは嫌になる。
「……落ち着いて華月。同じ男だろ?」
「そういう問題じゃねぇっ! 俺は他人のなんて見たくねぇのっ!」
呆れたようになだめてくる矢鏡に叫び返し、目線はモニター外だがノエルに向けて、
「なんで服着てないんだよっ!?」
『あー……燃えちゃったの……
その下溶岩の中だから……落ちないように気を付けてね……』
のんびり声がモニターの向こうから返ってくる。
じゃあなんでメガネは溶けてないの? というツッコミを入れるのは、
『き、貴様っ! マグマにまみれても死なんのかっ!?』
視界の端で、驚きうろたえ後ずさる悪魔に邪魔された。
次いで、
『あー……通力が切れたら……さすがに死ぬよ……』
「それよりよく見えるな、あんなに遠いのに……。さすが華月」
ノエル、矢鏡の声が重なる。
うーむ……タイミングを逃した。仕方ないから後で聞こう。
とりあえず、敵から目を離すのはよくないので、アレを見ないよう注意しながら、ゆーっくり視線をモニターに戻す。
――と、ようやくノエルはバスタオルのような布を現わし、腰に巻いた。
よし、これで見ても大丈夫だ。
それからノエルは悪魔に笑いかけ、
『あー……さすがに恥ずかしいから……服着るまでちょっと待ってくれる……?』
『待つわけあるか〝ダークランス〟!』
答えつつ悪魔が手を振りかざすと、大量の長くてでかい真っ黒な槍がノエルを取り囲むように虚空に出現、と同時に獲物へと突き進む!
逃げ場のなかったノエルの姿はすぐに見えなくなり、代わりにそこにはウニのオブジェが出来上がった。
「マスタァーッ!」
タガナの悲痛な叫びが響く中、槍はキンッと乾いた音を立て、瞬く間にすべて溶け消える。
その中心にはもちろん無事なノエルが立って――
おおっ!? 服着てる! 一瞬の早着替え!
「よく見ておくといいよ華月、あいつの戦い方は独特だから」
俺だけに聞こえるよう、ぼそりと呟く矢鏡。
ほーう。独特とな?
俺は目をカッと開き、モニターをガン見。
独特と言った意味はすぐにわかった。
『うーん……』
呻くノエルに息つく間もなく襲い掛かる、黒槍、炎の波、炎の槍、マグマの塊、稲妻、巨大のこぎり、巨大岩二枚でサンド、レーザービーム、その他もろもろ。
だが、それらは宙に現れ直進し、ノエルへとたどり着く前に、すべて光の粒となって消えていく。
ノエルはただ棒立ちしているだけなのに、一つとして攻撃は届かない。
「召喚は見えれば対象に出来るからな。ノエルサーガは廃棄専用の異空間を持っていて、そこに全部飛ばすんだ。攻撃を当てたいなら直接殴りにいくしかないよ」
「……すげぇ」
解説する矢鏡に、素直に感動する俺。
悪魔の技が『これぞ魔法』というのもあり、最新技術盛り込んだ実写版アクションバトル映画を見ている気分になってくる。
これはかっこいい。マジでかっこいい。ファンタジー好きにはたまらん魔法戦だ。
これならノエルも、やる気なしサボり魔には見えない。
『ちょっと待って……オレは戦いたくないの……』
そんなことはなかった。
朗らかにふざけたことを言うメガネに、
『ならば大人しくやられるんだな!』
悪魔は攻撃の手を止めることなく叫び返した。そりゃそうだ。
『うーん……じゃあ……しょうがないなぁ……』
ノエルは若干困ったように微笑むと、ゆーっくり片手を真上に上げる。そして、
『〝幻結界・白絶〟』
唱えた途端、ぶわっと空気を揺るがして部屋中に細かな青い光が充満した。
悪魔は一瞬狼狽えたが、すぐに持ち直して決めポーズ。
『〝ブリッツバースト〟!』
目が痛くなるほどの稲妻を生み出していたその術は、何故か発動しなかった。
『んん!?』
何が起こったのかわからないらしく、驚いた悪魔はもう一度呪文を唱えたが、結果は同じ。
俺もどーなってんのかわからない。
『わずかな時間しか……持続出来ないけど……
今この空間では……ほとんどの術が発動しないよ……』
手を下ろしながら解説するノエル。
なにそのチート魔法。お前かっけー技多くね? ずるいんですけど。
『な……っ!? そんな術があるなんて聞いたとこもないぞ!?』
『使える人……あんまりいないから……』
身構える悪魔にやんわり応えつつ、ノエルは両手を軽く広げる。
お、とどめか? とどめを刺すのか? どうやって倒す気なんだ?
わくわくしながら見ていると、ノエルは軽く息を吸い、
『〝カディ〟〝タウラ〟〝ルビ〟〝アイル〟〝ゼツ〟』
聞いたことある詠唱をして、ノエルの左右に二つずつ、小さいけどこれまた見たことのある魔法陣が展開。ついでに俺の周りにも魔法陣。タガナ、矢鏡、銀髪さんの周りにも。
『全員しゅうごーう』
その言葉が聞こえた瞬間、目の前が白い霧で覆われる。続いてパーンッとガラスが割れる音がして、即座に霧が晴れると――
景色は一変。
モニターの変わりに本物の悪魔が正面に立ち、謎の機械がところどころに置かれている。悪魔の背後には、様々な場所を映した小さなモニターがいくつも並んでいる壁と、横に長いなんかハイテクな操作盤。
両手が引っ張られる感覚は消え、足元には堅い床。
一秒前までは縦に並んでいた仲間たちが、今度は左右一列に並んでいる。プラス保父さんスマイルのノエルサーガ。
俺たちを呼び出したってことは……こいつ、マジで戦う気ないなっ!
ふざけんなサボり魔。こちとら魔法戦を楽しく見てたってーのに。まぁ、手の痛みを我慢する必要はなくなったけどさ。
「ぐぅっ!」
俺たちが全員揃ったことで分が悪くなったのか、悪魔が呻いて後ずさる。
「因みに……他の悪魔はもういないから……彼女を倒せば終わりだよ……」
「え、そうなの?」
すげーゆっくり頷くノエル。俺は、ふーん、と返して鉄パイプを現わしながら悪魔に視線を移した。
幻結界とやらが切れたら、あの凄まじい魔法が襲ってくるかもしれないからな。武器は出しておいた方がいいだろう。
――とか考えていたら、部屋中に舞っていた青い光が消え失せた。効果切れるの思ったより早かった。
「……月を相手にするなら場所を変えたかったが……やむを得ん」
悪魔がぼそりとそう言って、後ろ手で操作盤の上を何度か叩く。
すると、シュインシュインと音が鳴り、謎の機械たちと左右の壁が床に吸い込まれる。そして開いた壁の奥から大量の空飛ぶ〝なにか〟がなだれ込んできた。
人型のそれは全部同じ見た目で、簡単に言えば若い女性の両手足をごっつい機械に変えたような感じ。さらに顔も改造されている。目が黒い板だし髪ないし耳三角だし。まぁ間違いなくロボットだろう。その数なんと百体以上!
「さきほどの試作品とは」
「わけが違うぞ?」
「完全にわしの外見」
「能力をコピーしてある」
ロボット軍団の内四体が、同じ声で順に言った。『かえるの歌』思い出した。
続いてロボットたちは両手に持ったいかついバズーカっぽいものを構え、
『さぁ――本体がどれか当ててみるがいい』
全員揃ってにやりと笑った。




