14-4 ようやく全員集合?
「おおぅ……」
思わず茫然とした声を漏らす。背負っていたタガナを降ろしたのも無意識だ。
大きく開いた扉の向こう側には、二人の人間がいた。
一人は想像していたよりもピンピンしているノエル。矢鏡とタガナが言った通り、死んではいないし、怪我もしてなさそう。
もう一人は見たことない銀髪銀目の若い男。多分二十代前半。手にした大振りのナイフと赤いコートがファンタジーっぽくて良い。デザインが良い。
二人は現在進行形で激しい攻防を繰り広げていた。といっても、攻撃しているのは銀髪の男だけで、ノエルはにこにこアホ面を浮かべながら避けることしかしていない。
感心すべきはそのスピード。
時速二百キロって大したことないなぁ、と勘違いしそうになるほど尋常じゃない。遠くから見てんのに衝撃波がくるぜ。ぼんぼんくるぜ。髪ぼさぼさになりそうだぜ。
……まぁ、俺はもうちょい速く動けるけど(どやぁ)
でも良い勝負は出来るだろうな。
銀髪男の攻撃は鋭く動きに無駄が無いし、ノエルはノエルでかすりもさせていない。ハイレベルVSハイレベル。因みに銀髪男は、気の弱い人なら一発で気絶するんじゃないかなーというほどの強烈な殺気を振り撒いている。部屋の外にいんのに威圧感すげぇ。
予想外な状況と、予想外なノエルの速さ(ぜってー動き遅いと思ってた)に、加勢に入るのも忘れて眺めているわけだが――
「あははー……照れなくていいのにー……」
「その盛大な勘違いを今すぐやめろ! 何言っても好意的に取りやがって!」
銀髪男に斬りかかるのは、止めて正解かもしれない。どー見てもノエルが敵に襲われているようにしか見えないが、今の会話からすると敵同士ではないだろう。
「いちおー聞くけど……あの瞳孔全開で怖い顔してる銀髪さんがこの要塞の悪魔……じゃあないよな?」
「あぁ、彼は敵じゃない」
腕を組み、淡々と答える矢鏡。
「名前はセンリ・イールレイス。水の主護者で、ノエルサーガの相方だ」
泉の女神像、崩壊。
絵筆を握り締める鬼を新たに思い浮かべながら、俺は隣にジト目を向け、
「……なんで仲間同士で戦ってんの? それもガチで。ノエルに腹が立つのはすげーよくわかるけど……これケンカってレベルじゃねぇよ?」
「そうだな。片方は本気で殺しにかかってるし。でもいつものことだよ」
「いつも!? いつもこんな!? コンビなのに!?」
「センリはノエルサーガを嫌悪してるんだよ、とてつもなく。八千年くらい前に組んだ時からずっと、任務中だろうが敵陣の中だろうが所構わず戦ってる。
普通は気の合わない者同士が組むことはないんだけど、あいつらだけは特別に、シンから強制されて一緒にいるんだ」
「え、シンが? なんで? あの二人嫌われてんの?」
「いや、それはない。というか、シンに嫌われるような奴は天界にいない」
ほーん、と返しながら、俺はまた、アクション大好き人間なら大興奮間違いなしのバトルに視線を向けた。
俺達がのんきに話している間にも銀髪さんは、
「殺す! 今日こそ殺す!」
などという物騒な言葉を吐き、武器を振り続けている。彼の周りに『殺』という文字が浮き出てきそうな気さえしてくる。
やっぱりサボり魔と一緒だとストレス溜まるんだなぁ……
でもそこまで仲悪いのに、なんで相方変えたりしないんだろ?
「シンのことだから、ただの嫌がらせってわけじゃないよな……
実はあの二人、前世で悪いことしまくってて、その罰でとか」
「マスターはそんなことしません! 悪事を働いていたのは水の主護者だけです!」
冗談のつもりで言ったらまさかの返し。
肩越しに後ろを見れば、タガナはムッとした顔をしていて(お。やっと表情変わった)、
「マスターをあのような異常者と一緒にしないでください!」
「異常者!?」
バッと顔を正面に戻し、銀髪さんをじっくりと眺める。
確かに今は鬼みたいな顔してて、画家っつーか……どっちかってーとヤのつく職業とか、盗賊とかのイケナイお仕事をしている人にしか見えないが――
「ノエルは優しい良い人だって言ってたけど……違うの?」
「そう言うのはノエルサーガとシンだけかな。
まぁ、良い奴じゃないけど悪い奴でもないよ。異常なのは間違いないけど」
「異常なのは間違いないのか」
矢鏡の返答で、銀髪さんがどーいう人なのか、ますますわからなくなった。
それから、
「おぉっ!」
俺は両手でガッツポーズを作っていた。些細な疑問は吹っ飛んだ。
胴体を真っ二つにしかねない横薙ぎを、寸前でしゃがんで避けたノエルの頭に、銀髪さんの切っ先が振り下ろされて――からの真剣白刃取り!
まるで映画のワンシーン! お見事! かっこいいぞ二人とも!
二人はそのまま競り合うが、やがてじりじりとノエルが押され始める。
銀髪さんの方が力がある、というのもあるとは思うが、どっちかってーと体勢が悪いってのがでかい。
さぁどうするノエル! このままではやられるぞ!?
「あれ?」
手に汗握る戦いを目にして地味に感動している横で、何かに気付いたらしい矢鏡が呟く。続いて俺の名を呼び、俺に見えるように右側の壁を指差す。
追ってそちらに目をやれば――
「あれ?」
おかしなことに、ノエルが空けた大穴が上の方に見える。
「んん?」
タガナに避けてもらって、俺は何歩か下がり、見上げてみる。
こちら側では、確かに頭上に穴がある。
ノエルの大穴は、最初はずっと廊下を繋いでいたが、途中から部屋と部屋を繋ぐようになった。前の部屋では床すれすれだったのに、次の部屋では天井付近に出る――などという位置のズレがあることはたびたびあったが、方向までずれていたことはなかった。だからこそ穴を通らず、ふつーにドアを使ってノエルを追っていたのだが。
「うーむ……
おかしなことには慣れたつもりだったけど、構造が物理的におかしいのにはまだ慣れないなぁ。違和感が半端ないぜ」
「あの……華月、そこじゃなくて……」
おずおずと言い、ちょいっちょいっと右を差した指を振る矢鏡。
首を傾げ、再びその隣に並んで再び指が差す方を眺める。
その先には、部屋中にぼこぼこ湧いてるクレーターが一つと、同じく部屋中にごろごろ転がっている大小様々な瓦礫が――って、おや?
丁度穴の真下、でっかい瓦礫の左下からわずかに覗くのはオレンジっぽい茶髪。
「あれって……もしかしてフィル?」
「多分」
「あんなところで何やってんだ?」
「好き好んで床に寝転がるわけがないから、多分気を失ってる」
「えっ! まさか怪我してるんじゃ……!?」
言って、あわてて駆け寄ろうと部屋の中へ足を踏み出す。
――同時だった。
開くでも引っ込むでもなく、床全面が一瞬で消失するのと。
俺の左手を矢鏡が掴むのと。
ナイフを捨てた銀髪さんがノエルを蹴り倒し、両腕を振って俺とフィルの方へ極細の糸を飛ばすのと。
続いて、矢鏡は現した杖を壁に突き刺し、咄嗟に伸ばした俺の右手に糸が絡みつき、ぴくりとも動かないフィルの腰に巻き付いた方を銀髪さんが引っ張った。
本日何度目だろう、と頭の片隅で考えながら浮遊感を味わい、糸を握り締めることしか出来ない俺と違って、銀髪さんはフィルをしっかり小脇に抱え、不自然に真っ暗な底へノエルを蹴り落とし、俺達を支点に振り子となってスイングする。
むろん、無様に壁にぶち当たるなんてヘマはしない。きちんと着地して、二十メートルほど下のところで宙吊りになる。
糸が細いせいで右手がちょっと――いやけっこう痛いが今は我慢。
あと少しでも糸が長ければ、フィルと銀髪さんはブラックホールのような謎の暗闇に飲まれていただろう。それほどギリギリの位置にいるのだ。
あの闇が何かはわからないが、俺の勘が落ちたらやばいと言っている。銀髪さんのことはよく知らないけど、フィルを抱えているからには助けねば。
「マスター!」
ぽっかり空いた頭上の出入口から、唯一罠を逃れたタガナが顔を覗かせ叫んだ。
と。
『本当に愚かなやつらめ。敵の懐の中で仲違いをするなどと……』
呆れたような老婆の声が響き、正面の壁にでかい画面が現れた。そこには様々な機械が置かれた広そうな部屋と、中央に黒い布で顔も体も隠した悪魔が映っている。
『おかげで楽に始末することが出来るがな。
それの先ならば、たとえ不死身と名高い海の主護者といえども生きられまい』
「やっぱりヴォーラか」
ぽつり、とつまらなそうに呟く銀髪さん。強烈な殺気はすでに収まっている。
俺は真下を見やり、
「ヴォーラ?」
「異空間への片道切符だよ。要塞の入り口であんたを飛ばしたものと同じ。あれは形も大きさも自由だから、こういうことも出来るのさ」
視線を返してはくれないが、なんかすげー爽やかな声で爽やかに答えてくれた。雰囲気が先程までとは全然違って、まるで別人のよう。それだけノエルが嫌われてるってことか……
『システムはすべて修復した。散々小細工をしてくれたが、ムダになったな。
――さぁ終焉の時だ。遺言だけなら聞いてやろう』
そのことばを合図に、モニターの上下左右の壁が細かく割れ、銃口らしきものが大量に伸びてきて俺達に向く。
さらに映像の中、悪魔の右後方にでかいマグマの塊が生まれた。遠くにいるためよく見えないが――このタイミングで出してきたってことは、間違いなく最後の切り札。ならば低級やキメラではなく、悪魔その二の可能性が高い。悪魔は全部で三体だから、もしかしたらもう一体は近くにいて、襲う機会をうかがっているのかもしれない。
対する俺達(タガナ除く)は全員両手が塞がっている状態。しかも矢鏡の片手を撃つだけで、もれなく全員が落下する。
さてどうしたもんか……




