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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第10話 「セカンドミッション! 空と冥府と新たな世界!」
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10-4 他種族

「――と、話が逸れたな。

 とにかくギイは、お前の話を広めるために魔界を回っていた。

 そして、約半数に伝えたところで――魔王がギイの前に現れた」

「へーいいなぁ俺も会いたむぐ」


 正直な感想を声にしたら、後ろからフィルに口を塞がれた。次いで、しーっ、と耳元で囁かれる。話の邪魔をするな、と言いたいのだろう。


 わかったよ、大人しく聞いてるよ……


 一拍の間を置き、フィルが俺から手を離したところで、グレイヴァは短い溜め息を吐いた。


「お前が世界を渡ったことと、ギイが広めた話で盛り上がっていた妖魔どもを、シンの頼みで魔王が鎮めたことを知ったのはその時だ。

 ギイの作戦がシンにばれたっつーのもやばいと思ったが……お前が地球を出たことが一番やばいからな。ギイは慌てて作戦を変えようとした。

 ――だがその前に、魔王から非常に良い知らせを聞いた。

 "元エルナは主護者になることを選んだ"――ってな。


 だからギイは、魔王にこう提案した。

『戦うことを選んだってことは、そいつは強くなるはずだ。なら、妖魔どもをたぶらかしてそいつを狙うように仕向けた方が良い。元最強の主護者だから自力で片付けられるだろうし、それでシンは安全になる』

 魔王はすぐに賛同し、有難いことに協力までしてくれた。

 ――つーわけで」


 言いつつグレイヴァは片手を肩まで上げ、薬指以外をピッと立てる。


「エルナ弱体化の話を広め直して、騒ぎを復活させたから。

 今後どかどか襲ってくるだろうけど頑張れ。後は任せた」

「えっ! 丸投げっ!?」

「あぁ。だから伝令役を買って出て、説明するついでに謝りに来た」

「しかも『ついで』!? 謝るのが『ついで』!? お前謝る気無いだろ!?」

「まぁな。けど、最初はちゃんと謝る気だったんだぜ。お前が相変わらず失礼な奴だったから止めただけで。まったく……人の話は最後まで聞けっての」


 呆れたように言うグレイヴァに、俺も負けじと不満げな顔をして、


「だってなげぇんだもん。要するに、シンを護るために俺を囮にし直したってことだろ?」

「まぁ……結論だけ言うとそうですね」


 ヘルが淡々と答えた。

 俺は腕を組み、


「だろ? それでいいじゃん一言で。その方がわかりやすいよ」


 と言うと、グレイヴァは三秒ほど間を開けてからヘルに顔を向け、


「……こいつ本当に記憶無いんだよな? ちょっと学付けただけじゃね?」

「いやー……私もそう思っちゃいましたけど…………でも、シンは確かに『変わった』って言ってましたし……」


 ヘルは眉根を寄せて少し考え、次いでぱっと笑みを作る。


「――あ、ほら、やっぱりエルナじゃないですよ。

 だってエルナは、私の話には興味津々でしたけど、妖魔がいないからって地球に行こうとはしなかったんですよ。だから地球のことは知らないはずです。

 それに、エルナはちゃんと女性らしい言葉遣いでした」

「あー……そういやそうだったな」

「人格が変わっても、情報さえ残っていればここまで同じになるってことですよねぇ」

「バカなのは直っててほしかったけどな。

 ――まぁいい。そんなことより次の話だ。お前らの任務についてだが――」

「はーい! はいはいはいはい!」


 グレイヴァの言葉を邪魔するべく、俺はこのタイミングで元気に手を上げた。

 ――ん? なんでそんな嫌がらせをするかって?

 だって、こうでもしないと俺の意見とか聞いてくれなそうだし……なにより、こいつらのペースで進められてるってのが気にいらない。

 他人に合わせんの嫌いだからな……

 グレイヴァはこっちに顔を向けると、チッと小さく舌打ちする。


「うるせぇ。なんだ?」


 おぉ、やっと話を聞いてくれる気に……

 さっき話の邪魔をしたのは正解だったみたいだな。よっしゃ。


 俺は心の中でガッツポーズ取ってから、


「……さっきからすっげー気になってることがあるんだよ。

 気になりすぎて話に集中出来ないから、先にそっち答えてくんねぇ?」


 と尋ねると、


「あん?」


 グレイヴァは不思議そうな声を出し、


「気になること……」


 ヘルは顎に手を当て考え始めた。しかしすぐにポンッと手を打ち、


「……あ。わかりました。グレイヴァの種族のことですね?」

「あったりぃー♪

 変わった種族って言ってたけど、どう変わってんの? 指が四本しかないってだけじゃないよな?」

「そうですねぇ……」


 呟きつつ、ヘルはちらっと背後を見やり、再び俺に視線を戻すとやんわり微笑む。


「予想と違って、少し時間が余りましたから……いいでしょう。そちらから話します。でも普通に教えるとつまらないので、クイズ形式にするってのはどうです?」

「おぉ! いいなそれ! 面白そう!」


 ヘルの提案に、目を輝かせて同意する俺。

 なっがい溜め息を吐くグレイヴァ。後ろの二人は無反応。


「ふふふ……ではいきますよ。――第一問!」


 ちゃんと司会っぽく、鋭い口調でヘルが言う。


「グレイヴァの年齢はいくつでしょう!」

「いきなり難易度たっけぇぇぇぇぇぇぇっ!

 そんなのわかんねーよ! お前ら霊体だろ!? 歳取っても見た目変わらねぇじゃん!」

「確かに私は霊体ですけど、グレイヴァは違いますよ。ちゃんと肉体があります。なので、見た目で判断して頂ければ結構です」

「なんだそうか…………じゃあ――」


 気を取り直し、俺はグレイヴァをじっと見つめ、


「十……二か三?」

「おしい! 良い線いってますが、残念ハズレです!」


 なんだか嬉しそうに言う彼女。

 俺は眉をひそめ、


「違うのか……。じゃ、正解は?」

「正解はですねぇ…………あ、前と変わってないですよね?」


 答えを言う前に、ヘルは顔を横に向け確認を取った。


 おいこら。問題出すなら前もって答え確認しとけ。


 グレイヴァは一拍の間を開け、


「いや、一回戻ったから――今は百四十」

「…………は?」


 思わず間の抜けた声を出す俺。

 ヘルは感心した様子で、へー、と言い、


「じゃあ三年は移動しなかったんですね」

「シンに言われて、清紋結界を確認するために星を一周したからな。

 気付いたらそんだけ経ってた」


 グレイヴァは淡々と応えた。


「いーやいやいやちょっと待てって!

 さすがに嘘だろ!? だってどー見てもガキじゃん! 中学入ったばっかって感じじゃん!

 つーか、全然おしくねぇ!」


 さすがに納得出来ず抗議の声を上げると、ヘルは俺に向き直り、


「言ったじゃないですか、変わった種族だって。"人間"の常識で考えてはいけませんよ。見た目はほとんど同じでも……グレイヴァは"人間"ではないのですから」


 諭すように、静かに言った。次いで、人差し指をピッと立て、


「名は"ヌアザトス"。かなり長命な種族で、五百年以上生きるのが普通だそうです。一度フィルが調べたんですけど……体の作りも成長の仕方も何もかも人と違って、生後一年でここまで成長――つまり成人になり、以後見た目はこのままらしいです。髪は伸びても、老化はしないってことですね」

「ふーん……」

「驚くことに、急所は背中辺りにある"ゼオ"という部位の一つだけで、それさえ無事なら何度でも再生出来るそうです」

「え? マジで?」

「うん。人間だと確実に死ぬくらいバラバラに解体したけど、大丈夫だったよ」


 答えたのはフィル。しかもすげー爽やかに。


 ……それ、爽やかに言ったらダメなやつ……


 俺は肩越しでフィルにジト目を向け、


「では、次の問題にうつりましょう」


 促すヘルの言葉を聞いてから、視線を不審者コンビに戻した。

 ヘルはグレイヴァを手で差し、


「第二問、性別はどっちでしょう?」

「え……多分おと――」

「ハズレ!」

「まだ言い終わってもいないのに!?」

「正解はどちらでもありません。従って、どちらかを答えようとした時点でハズレです」


「なにそれひどくね!?

 つーか、どっちでもないって何!? どういうこと!?」

「そのままの意味ですよ。ヌアザトスには性別が存在しないんです。

 詳しくは知らないんですけど……二百歳を超えると自分の意志で"分裂"が出来るようになって、その分裂体を子供と呼ぶんだそうです。なので、性別が無いのは生殖に必要が無いから、ということになります。わかりました?」

「…………いや、よくわからない……」


 俺が首を横に振ると、ヘルはにっこり笑った。

 ……なんだ。普通に笑えるじゃん。

 どうやら矢鏡とは違い、ちゃんと表情筋も使えるらしい。頻度は低いみたいだけど。


「わからないついでにもう一つ、教えましょう。

 ――グレイヴァ、フードを外してくれませんか?」

「あん? あぁ……いいぜ」


 言ってグレイヴァは、フードに手をかけ、後ろに――って……


「え……」


 目の前の光景に、俺の口から勝手に声が漏れる。


 のっぺらぼう――

 その有名な妖怪の名が、瞬時に頭に浮かんだ。

 しかし、それとはちょっとだけ違う。

 のっぺらぼうは目と鼻と口が無いが、グレイヴァには鼻と口がある。


 ――そう。

 目と眉だけが、顔になかった。綺麗さっぱり無い。肌しかない。


「どういう経緯でこうなったのかはわかりませんが、ヌアザトスには目もないんですよ。

 なんでも、頭部から超音波みたいなものが出せるらしくて、それで物体を認識しているらしいんです。それがあるから、目も必要ないってことですね。

 なのでグレイヴァには、性別も目の必要性も、色ってのがなんなのかもわからないそうです」

「……こうもりみたいだな」

「あ、確かにそうですね。羽がないから空は飛べませんけど」


 からかうようにヘルが言った。

 グレイヴァはフードをかぶり直し、にぃぃっと笑う。


「ただの余談だけどな、初対面でギイの顔を見て驚かなかったのは――シンと魔王と、エルナだけだったんだぜ」

「……エルナは驚かなかったんだ」


 俺はちょっと驚いたのに……


「そういえば、エルナって全然驚かなかったよね」


 不思議そうにフィルが言った。


「エルナには学も常識も無かったから、どれが異常なのかもわからなかったんだろ。……で、不意打ちとかは、気配と勘で察知してたから驚かない」

「……なるほど」


 淡々とした矢鏡の解説に、フィルはあっさり納得する。

 ヘルはこくこく頷き、


「エルナは淡泊なところもありましたからねー。

 ――まぁそれはさておき、次の問題いきましょうか」

「よしこい! 次こそ当てる!」


 俺はグッと拳を握って言った。


「第三問、グレイヴァの強さはどれくらいでしょう? 仲間の中で考えてください」

「…………問題全部むずくねぇ?」

「あくまで紹介がメインですので。

 当てられるとは思ってないので、てきとーに答えていただければ結構ですよ」


 そう言われると当てたくなるよな。……よし、本気で考えてみるか。

 でも強さなんてわかるわけ…………と、待てよ……

 確かこいつ、一人だけで特殊任務を――それも、魔界で活動してたって言ってたな。しかも、方法まではわからないけど、妖魔に情報を流せるほどで……それはつまり、いざとなったら妖魔と戦えるってことで……そんで、魔界には魔族も悪魔もいるはず……ってことは――


「わかった! トップファイブに入るくらい超強い!」


 勝ち誇った笑みを浮かべて、俺は答えた。

 それくらい強くなければ、妖魔だらけの魔界で活動なんて出来ないはずだからな。

 いいぞ冴えてるぞ俺!


 ヘルは一瞬意外そうな顔をして、すぐににこっと笑顔を作る。


「違いますよ」

「えっ!? 違うの!? さすがにこれは当てたと思ったのに!」

「残念でしたね、華月。何を隠そう、グレイヴァは――」


 何故か一拍の間を開けて、


「超弱いです」


 ヘルはきっぱりとそう言った。

 俺は目を点にした。


「…………え」

「はっきり言って雑魚です。普通の人間レベルです」

「その言い方やめろ。傷付く」


 遠慮なくぼろくそに貶すヘルに、耐えきれなくなったのかグレイヴァが言った。

 ヘルは完全な棒読みで、すみません、と謝ってから、


「あ、因みに私は中くらいです」

「中くらいってーと……フィルと同じくらい?」

「大きくわければそうなります。でも、フィルよりは弱いですよ。

 ――さて、紹介はこれくらいですかね。

 一度には覚えきれなかったと思いますが……とりあえず、世の中にはグレイヴァのような方もいるってことだけでも、頭に入れておいてください」


 そう言って、この話を終わらせた。

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