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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第8話 「華月の災難」
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8-4 イケメンとフツメンの差

 宮間と佐野は、今日は逃げなかった。むしろその逆で、俺がフィルの件について問い質す前に、二人の方から話しかけてきた。


「ごめん。まさかこんな騒ぎになるとは思わなかったんだ……今回はさすがに反省してる。フィル先生のことは広めるべきじゃなかった」


 気まずさからか、俯き視線を逸らして宮間は言った。

 続いて、その隣に立つ佐野が申し訳なさそうに呟く。


「ごめん華月君……俺が宮間を止めていれば……フィル先生のファン達に恨まれることなかったのに……」


 俺は自分の机の横に鞄を掛け、沈んだ様子の二人と対峙する。教室内にいる他のクラスメイト達が、授業の準備や友人達との会話の合間にちらちらこっちを見てくるのがちょっと気になるが、始業時間を考えると場所を移している暇はない。

 ふぅっと小さく息を吐き、遠い目をして俺は言う。


「いや、それ自体はどーでもいい」

『……え』


 二人が驚いた顔をする。


「そんなことより、皆の誤解を解いてくれ。宮間の広めた情報が正しいってんなら、恨まれよーが嫌われよーが、仕方ないって諦められるからいいけど……誤解が原因でってのはちょっとなぁ。ただでさえ色恋沙汰には慣れてねぇってのに……」


 困ったように呟くと、


「いやいやいやいやちょっと待て。俺の情報は間違ってねぇって。誤解じゃねぇって」


 宮間は何故か必死な様子で訴え、土曜日のことを話し始める。内容は俺が予想した通り。やっぱりな、と俺は思った。別に勝負していたわけじゃないのに、何かに勝ったような気がして嬉しくなる。

 まぁそれはともかく――


「えーっと、俺の言い方が悪かった。宮間を疑ってるわけじゃないんだ」

「あん? じゃあ何が誤解なんだよ」


 俺の言葉に、宮間が訝しげな顔をする。

 俺は心の中でフィルに詫びつつ、にっこり笑って、


「フィルが言ったのが嘘なんだ。佐藤先生を諦めさせるために、そう言っただけなんだよ」

「そんなのわかんねぇだろ」

「あんなに頭良い人が、簡単にばれるような嘘つくとは思えないけど」


 すぐに否定してくる宮間と佐野。

 なんということだ……

 同じ新入りでも、イケメンとフツメンでは信頼度ですら違うのか……


 嘘だという根拠をちゃんと説明すれば、もしかしたら信じてくれるかもしれないが、試してみようという気にはならない。だってめんどくさいし。頑張って説明しても信じてもらえなかったら嫌だし。

 情報発信源である宮間と佐野の誤解を解き、真実を皆に伝えてもらうのが一番楽で手っ取り早いと思っていたが……この様子じゃ、諦めた方がよさそうだな。今まで通り、絡まれたり問題が起きた時になんとかした方が、頭使うよりずっと楽だ。

 そう結論を出した途端、


「――とりあえず」


 言いつつ、ぐいっと肩を組んでくる宮間。自然と窓を向く形になる。

 距離が近く横を向けないため、横目で見やると、宮間は声を潜めて続きを話す。


「今、フィル様ファンクラブが二つに割れてる。半数以上は『恋を見守る派』だが、さっき華月を追いかけてた奴みたいな『過激派』もいる。その中にも、直接ちょっかいをかけてくる奴と、裏で何かしてくる奴がいるから、気をつけろよ」


 ……心配してくれんのは有り難いが、どう気をつければいいんだよ……



 **



 昼休み。

 宮間と佐野が学食に行くと言うので、俺は昨日と同じく相談室で昼食を取った。

 そして、教室に戻ると机の中に入れていた筆箱が無くなっていた。

 仕方なく、矢鏡に頼んでシャーペンを借りた。

 矢鏡は訝しげな顔をしたが、美術室に置き忘れたみたいだ、と言ったら、納得したのか無表情に戻った。今日の四限が美術で良かったと思う。

 不思議なことに、教室移動がある六限の理科が終わった後、教室に戻ると筆箱が机の中に戻っていた。中身は無くなる前と同じだった。



 **



 次の日。

 三限後の短い休み時間に、トイレに向かって歩いていると、後ろから何かが飛んできた。

 それは、反射的に一歩横にずれて避けた俺の傍を通り、十メートル先の廊下に落ちてころころ転がりやがて止まった。

 周りにいる数人の生徒と共に、飛んできた物を確認する。硬式テニスボールだった。


 ここで、飛んできた物ではなく飛んできた方向を確認していれば、投げてきた奴が誰なのかわかったと思う。だが、そんなことはしない。

 生徒達が困惑したような顔を俺に向ける。

 俺は表情を変えずにボールを拾い、近くにいた女子にどこに返せばいいか聞いたら、テニス部員に渡しておいてくれるっていうから頼んだ。礼を述べ、トイレに行った。


 その後教室に戻ると、何故か矢鏡が廊下に立っていた。俺に話があったようだが、要件を聞く前に中央階段から現れたフィルによって連れて行かれた。校長先生が呼んでいたらしい。後で話そうと思ったけど、放課後になっても矢鏡は戻ってこなかった。



 **



 ファン達に絡まれるようになってから数日が過ぎた。現在木曜日。

 この間に、とりあえず殴らせろ、と追いかけてきたのは十二人。

 下駄箱か机か鞄の中に入れられた、『呪』とか『転べ』とか『ハゲろ』とか書かれた紙は二十一枚。

 廊下で後ろか横から飛んできた、もしくは、中庭で上から降ってきた物は、テニスボールの他に、野球ボール、バスケットボール、湿った絞られた雑巾、ほうき、ちりとり、鉄製バケツなどなど。

 不思議なことに、最初の筆箱以外、私物が無くなることはなかった。

 事態が解決したのはこの日の放課後。

 休み時間のたびに、校長含む先生達やフィルに呼ばれるようになった多忙な矢鏡を尻目に見やり、そういやあれから話してないな、とぼんやり考え始めた頃。

 超意外な展開で。



 **



 授業終わったし帰ろうと思って昇降口に行くと、来客用の下駄箱のところにいた、矢鏡の執事の一人であるクラウスさんと目が合った。彼は上品な動作で持参して来たらしい黒い靴と履き替えている最中で、下履きの革靴をしまうとにこっと笑い、階段近くで突っ立っている俺の前まで歩み来る。


「お久し振りです、華月様」


 周りにいる、俺と同じく颯爽と帰宅しようとしていた数人の生徒達が、執事服を物珍しそうに見つめる中、クラウスさんは優雅に会釈した。

 そういえば、草加さんとは何度か話したけど、クラウスさんとはちゃんと話したことないなぁ、と思いつつ、俺は矢鏡より高い彼の目を見上げた。


「あぁ、久し振り。でもなんでここにいんの?」

「若様から、今日は帰りに行きたい場所があるから迎えに来てくれ、と承っておりまして、こうして参上した次第でございます」

「……そんな畏まらなくていいのに」


 堅苦しいの嫌いだからそう言ったら、クラウスさんはどこか嬉しそうにやんわり微笑み、


「……華月様も、若様と同じことをおっしゃるのですね。

 ――それでは僭越ながら、少々砕けた言葉を使わせていただきます」


 言って、こほんと咳一つ。


「知っていたら教えてほしいのですが、若様はまだ教室ですか?」

「いや、教室にはいない。というか、昼休みにどっか行ったきり戻って来てないんだ」

「おや、それはおかしいですね。若様は無断欠席をするような方ではないのに……」


「てっきり家の用事かなんかで早退したんだと思ってたけど……違うみたいだな」

「えぇ。早退する時は必ず私達に連絡を下さいますし。しかも今日は、放課後に迎えに来るよう頼まれていますから……早退はもちろん、校外にも出ていないはずです。――といっても、校内に忍び込んだ誘拐犯によって連れ去られてしまっていた場合は別ですが……」

「ははは。矢鏡がそんな簡単に誘拐されるわけ――」


 呆れ口調でそこまで言って、途中で言葉を切った。

 …………いや、まてよ……


「……? どうしました?」


 急に黙ったからだろう。クラウスさんが訝しげに聞いてくる。

 俺は腕を組み、眉根を寄せて、なんとなく俯いた。


「……矢鏡の居場所、わかったかも」

「本当ですか?」

「多分だけどな。……確認して来るから待ってろ」


 そう言い残し、目的の場所を目指して歩き出す。

 俺の推測が正しければいいが、もし、万が一間違っていたら――

 とにかく謝ろう。疑ってごめん、と。

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