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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第1話 「不可思議な日常」
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1-4 初めてのバトル

「さて、まずは倒そうか」


 と、フィルが言い、矢鏡はフィルに目を向けて、


「お前やるか?」

「僕は非戦闘員なんだけど」


 にっこり笑ってフィルは答えた。

 あれだけ戦えるのに戦闘員じゃなかったんだ……

 なんか、二人で譲り合いみたいなことをしていたから、


「はいはーい! じゃあ俺がやる!」


 俺は元気に手を上げて、前に躍り出た。


『え?』


 声を揃えて驚く二人を無視し、


「というわけでかかって来い!」


 おっさん(ドラゴンになったけど)にビシッと指を突きつける。


「ちょっと華月! 君戦えるの!?」

「さぁな! やったことないから知らねぇ! でもきっとなんとかなるさ!

 運動神経は良い方だ!」


 狼狽えるフィルに、自信満々で言い切った。因みに根拠は無い。その場のノリってやつだな。


「お前らふざけやがって!」


 おっさんはそう言って、獣のような鋭いツメを振り上げる。ぶんっと横に振り、俺はそれを上に跳んで避けた。


「ははっ♪ 当たったら痛そうだな!」


 俺は楽しげに言った。


「まぁ、死ぬんじゃないかな」

「殴られるだけで全身骨折だね」


 矢鏡とフィルが順に呟く。二人はあくまで冷静だった。


「うがぁぁぁぁぁ!」


 おっさんが吠えて高くジャンプする。そのまま俺たちに向かって落ちてきて、俺は右前に飛び込みギリギリ避けた。受け身を取って、立ち上がりながら後ろを向く。矢鏡とフィルの姿はいつの間にか消えていた。

 俺たちを踏み潰そうとして失敗したおっさんに、


「短気だなー!」


 と言ってやる。

 おっさんは鋭い目つきで俺を睨み、


「お前はコロス! お前さえ殺せば――」



 **



「あー……やっぱり華月が狙いだったか」


 華月と魔族より、それなりに離れた崖の上でフィルが言った。華月の姿が、指の一関節より小さく見える。


「嗅ぎ付けるの早いな……」


 フィルの隣で腕を組み、矢鏡が呟く。

 フィルは一度、矢鏡を一瞥し、


「"通力(つうりき)"の量が多いから、感知されやすいんだろうね」


 遠くで敵の攻撃をひょいひょい避け続ける、華月を見ながら言った。


『あっはははははは! やっべ楽しー!』


 華月の声が僅かに聞こえた。

 矢鏡は感心するように、


「凄いなー華月。ちゃんと避けてる」

「記憶が無くても、体が勝手に動くんだろ」


 フィルは当然そうに言った。

 しばらく様子を眺めていると、


『あれ!? そういやどうやって倒せばいいんだ!?』


 華月が頭を抱えて叫んだ。

 矢鏡は呆れたような顔をして、


「無計画なのもそのままか……」

「おバカさんだったからねぇ」


 何気なく言われた言葉に、矢鏡は少し驚いて、


「はっきり言うな……」

「そんなことよりディルス、流石に助けに行かないと。今の彼は、ただの子供だろう?」


 それを無視し、フィルは真顔を矢鏡に向けた。矢鏡がわずかに眉をひそめる。


「それ、本人に言ったら怒られるぞ」

「わかってるよ」


 フィルは華月に視線を戻し、


「…………ごめん。まだ少し……整理がつかないんだ……」


 悲しげな顔で呟いた。矢鏡は横目でそれを見て、そして何も言わなかった。


『おわー! 掠った! あぶねぇー!』


 しばらく経って聞こえてきた華月の叫びに、矢鏡は腕組みを解いた。


「……とりあえず行ってくるよ」


 瞬時に矢鏡の姿が消える。

 一人残されたフィルは俯いて、


「さっさと助けてあげなよ。彼はエルナ(・ ・ ・)じゃないんだから……」


 誰に言うでもなく呟いた。



 **



「うーん……疲れてきた……」


 おっさんの左手パンチを横に避けて、俺はため息交じりに呟いた。

 おっさんの攻撃は殴る蹴る踏みつぶすしか無いし……ちょっと退屈かも……

 因みに辺りは今、結構広い空地と化していた。おっさんが全力で暴れまわったせいだ。花や木々はなぎ倒され、おっさんの巨体で踏みつぶされて肥料みたいになっている。


「華月、少し離れて」

「あれ? 矢鏡、どこ行ってたんだ?」


 おっさんの後ろに、急に矢鏡が現れた。え、瞬間移動? まぁそんなことより……

 俺は大きく跳び退って距離を取る。

 おっさんは矢鏡の方に首を回し、


「げっ! ディルス!?」

「お前は天に帰ってろ」


 パチンッ


 矢鏡がフィンガースナップ(指ぱっちんの別名。こっちのがかっこいいだろ)を使った途端、轟音と共に激しい電撃がおっさんを襲った。

 反射的に俺は両腕で雷の眩しさから目を庇う。ゆっくり腕を下ろして前を見ると、焼け焦げたおっさんはドスンと横に倒れ伏して、すぐに黒い粒子になって散っていった。


「大丈夫?」


 無表情の矢鏡が、俺の前まで歩み寄る。俺は数回まばたきを繰り返し、


「……倒した?」

「あぁ」


 矢鏡が小さく頷いた。

 俺はほっと息をつき、ついでに聞き忘れたことを思い出す。


「なぁ」

「何?」

「お前、なんで魔法使えるの?」

「通力を持ってるから」

「通力って何? 魔力なら分かるけどさぁ……」


 魔力はゲームとかでよくあるしな。あれだろ? 魔法とか使う時の源だろ? 魔力って。

 俺の問いに、矢鏡は簡潔に説明する。


「妖魔が持っているのが魔力で、神と俺たちが持っているのが通力だよ」

「あ、マジで神様いるんだ……すげーな。この世界はなんでも有りか」

「そうかもね」


 俺がそう言った途端、言葉と共にフィルが現れる。こう、シュンッ、みたいな感じで。


「遅くなってごめんね」


 フィルは矢鏡の右横に立ち、にっこりと微笑んだ。俺はジト目をフィルに向け、


「それはいいけど…………あんたらなんで瞬間移動まで出来んの?」

「これも術を使ってるんだよ」

「へー……攻撃系だけじゃないんだ。やっぱ術って便利なものなんだな」


 そう呟くと、フィルは首を横に振った。


「そうでもないよ。出来る範囲は限られているから。人によって使える術も違うしね」

「そうなのか……」


 どうやら、現実の魔法ってのは万能ではないらしい。


「そういえば、ディルスは任務でここに来たの?」

「まぁ……そうだけど……」


 フィルの問いに、矢鏡は微妙な反応で返し、そして何故か俺を見る。


「任務内容…………華月を探すことだったんだよ」

「え? 俺?」

「あー……それでか。なるほどね」


 俺は首を傾げ、フィルは納得したような呟きを漏らす。


「ここが別の世界だって聞いた?」


 矢鏡の問いに俺はこっくり頷き、


「ならわかるだろ? 君がこのままここにいれば、地球では行方不明者になるんだよ」


 この一言で事態が把握できた。さっと血の気が引いていくのがわかる。それはヤバい。マジでヤバい。捜索隊出てたらどうしよう!


 まるで『ムンクの叫び』のように、へろへろになる俺。


「心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと、君が地球上から消えた時の時間と場所に戻すから」

「マジか!? 嘘じゃないよな!?」


 跳びかかるように聞くと、矢鏡は、あぁ、と小さく頷く。そしてこう付け足した。


「それが俺の任務だし」


 ………………

 なんか冷たくない? いや……出会って間もないし、仕方ないかもしれないけどさ……

 フィルと俺が友人で、こいつとフィルが友人だったなら、俺とも仲良かったんじゃないの? 違うの? 友達の友達は他人……的な? あー……でも、これがこいつの標準って可能性もあるのか。よし。わからないし、ほっとこう。


 俺はそう決めて、一人でうんうん頷く。

 二人はそんな俺に構わず、話を続ける。


「華月が僕の所にいて良かったね」

「フィルに手伝ってもらうために来たんだけどな。運が良い」

「それはそうと、華月がここにいる原因は知ってるの?」


 フィルが聞くと、矢鏡は左右に首を振り、


「知らない。だから急いで探しに来たんだよ。妖魔に攫われたのかもしれないと思って」

「あー……そういや、さっきのおっさんも『俺を殺せば』とかなんとか言ってたな」


 俺も顎に手を当てて考える。

 やれやれ……狙われる理由は俺には無いぞ。前世がどうかは知らないが。

 ん? そういえばさっきフィルが、強い奴ほど狙われやすいって言ってたな。で、前世の俺はめっちゃ強かった……と。うん、嫌な予感しかしないな。

 俺の顔が引きつるのがよくわかる。なんとも複雑な気分だ……


「あのさー……もしかしなくても、俺の命危なかったりする?」


 さっきのおっさんは弱い方だって言ってたのに、俺は攻撃を避けることしか出来なかったし。あのおっさんは術を使ってこなかったから良かったけど……矢鏡が使ってたのとか、くらったらおしまいだよなー……。もっと強い奴が襲ってきたら、俺死ぬんじゃないか?


 そう考えて聞いたら、二人はきっぱりと、


『それは大丈夫だよ』


 みごとに揃って断言した。

 その自信はどこから来るんだろうか。


「……根拠は?」


 俺は少しの呆れと純粋な疑問が入り混じった感じで聞いた。

 矢鏡は無表情のままで、フィルはふわりと微笑む。


「だってこっちには――」

「神様がついてるからね♪」


 矢鏡の言葉を引き継いで、フィルが言った。息ピッタリだな。

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