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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第5話 「魔界」
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5-2 RPGならラストフィールド

「おー! すっげー!」


 星ひとつ無い真っ黒な空。そこに漂うのは雲ではなく、暗い青や紫色の、大小様々な光のベール。それらはキレイとは程遠い不気味な光を発しながら、右から左へと流れていく。辺りは夕暮れ時のように薄暗く、生暖かいような肌寒いような空気が満ちていた。

 禍々しさしか感じられない鬱蒼とした森と、ただ地面がむき出しになっているだけの荒野が混ざり、地平線の彼方まで続いている。

 その光景を目にして、俺のテンションはかなり上がっていた。


「これが魔界か! なんか"いかにも"って感じでいいな!」


 俺たちが今いる場所は、荒野の端にある崖の上。そこには石造りの巨大な城が建っていて、入り口であるアーチ状のでかい木の扉が、なぜか崖側を向いている。観音開きのその扉は、俺たちに入って来いと言わんばかりに、手前に大きく開け放たれていた。通路の出口はその正面、少し離れたところにあった。

 俺は崖の淵ぎりぎりに立ち、遠くの景色を眺めた。崖下には森が広がり、時折、木々の間でうろうろしている悪鬼たちの姿が視界に入る。面倒だから無視するけどな。こっちに気付いてるわけじゃないし。

 一通り見回してからくるっと振り向くと、扉の前に佇む二人と目が合った。

 矢鏡はいつも通りの無表情で、フィルは何気ない顔をしていた。


「ご機嫌だね、華月」


 フィルが言った。

 完全に舞い上がっている俺は、右手にガッツポーズを作り、


「だって魔界だぜ! 魔界! しかも城! いかにもラスボスって感じじゃん!」


 多分ものすごく嬉しそうな顔で言った。

 やっぱRPGって言ったらこうだよな! まさに王道! 基本は大事!

 しかも、生まれて初めて瞬間移動を体験したからな。この状況で喜ぶなって方が無理だ。口元がにやけるのも当然と言えよう。

 だが――


『…………』


 矢鏡とフィルは、そんな俺に冷めた視線を返すだけ。

 二人の淡泊すぎる反応に、マックスまで上がった俺のテンションが徐々に下がっていく。

 十秒あまり沈黙が続き、


「冷たっ!」


 テンションが通常まで戻ってから、俺はツッコミを入れた。


「なんでそんなにクールなんだよ……一人ではしゃいでる俺がバカみたいじゃん」


 不満げに眉根を寄せてそうぼやくと、矢鏡が若干困った様子で、


「いや……一応、敵の本拠地だし……」

「確かにそうだけど……」


 普通に正論で返された。

 でも少しくらい反応してくれてもいいのにな。俺に危機感が無いだけか?

 ──というか、一応ってなんだ。一応って。完全に敵地じゃ──あ。リンさんがいるからか。

 俺は短くため息を吐き、


「まぁいいや。行くか」


 二人を促して、城へと足を踏み入れた。



 **



 薄灰色の石壁と、同じ色の床。

 天井は二階分くらいの高さがあり、片側の壁にはいくつか燭台が張り付いているが、普通のロウソク並みの光量しかないため、城内の薄暗さは外とほとんど変わらない。

 入り口正面には壁が広がっており、左右に廊下が伸びていた。

 俺は右側の廊下の先を見て、大分離れた突き当たりで左に折れていることを確認した。逆も同じようになっていた。どうやら左右対称の造りになっているらしい。


「どっちに行く?」


 壁に背を向け、二人に問いかけた。因みに、俺から見て右側にフィル、左側に矢鏡が立っている。

 フィルは爽やかに微笑み、


「その前に一つ、提案があるんだけど」

「提案……?」


 思わずオウム返しで問うと、フィルは数歩右に進み、こちらに振り向く。


「二手に別れない? 魔族を倒す方と、攫われた人間を探す方に。三人一緒に行動するよりは合理的だと思うよ」

「え? わざわざ? 一緒でも変わらないと思うんだけど……」


 変態の居場所もわかってないから、どちらにしろ探すことになるし。

 それに、どこかに罠が仕掛けられている可能性もある。それならバラバラに動くより、一緒にいた方が安全だろう。

 フィルがそのことに気付かないわけが──


「だって、あの魔族を倒すだけなら華月がいれば十分だろ?

 ただついていくだけなら、別々に動いてさっさと任務を終わらせない?」


 …………


「それもそうだな!」


 にこにこ笑って言うフィルに、俺は笑顔で即答した。

 なるほどそういう意味だったか! それに気付かないなんて、俺もまだまだだな!

 フィルは矢鏡を一瞥し、無言を肯定と受け取ったらしく、そのまま話を続けた。


「じゃ、別れ方だけど──魔族討伐に二人、人間救出に一人にしよう。

 魔族は華月を狙っているから、自動的に華月は決まり。あと一人は、力量から考えてディルスだね。あの魔族のことも知ってるみたいだし。

 で、余った僕が人間を探す──これでどうかな?」

「え、フィル一人で大丈夫か? 武器ないんだろ?」


 フィルが戦ったのは、初めて悪鬼と会ったあの時だけ。

 それ以降は、メイン武器である薬がないから、と戦闘は一切していない。

 城内に変態以外の敵がいるのかどうかは知らないが、悪鬼くらいはいると思う。つか、いないとおかしい。ダンジョンの中が雑魚だらけなのはRPGの基本だからな。戦闘を避けるのは難しいはずだ。

 それで心配して言ったんだが……どうやら、その必要はなかったようだ。

 フィルはふふっと爽やかに笑い、


「それは大丈夫。シンがいてくれたおかげで薬が作れたから、ストックは十分にあるんだ。だから普通に戦えるよ」


 と応えた。

 聞けば、妖魔用の薬を作るには特殊な素材が必要で、それは地上では手に入らないらしい。シンが創ってくれたから、材料が揃って迅速に薬ができたんだと。あの家と研究室を繋げたことも大きいらしい。


「なんで今まで黙ってた? 昨日今日で作ったわけじゃないだろ?」


 抑揚の無い声で矢鏡が尋ねた。


「草原を抜ける前には完成したからね。言わなかったのは、今日まで僕の出る幕はなかったからだよ」

「あー……」


 フィルが答えて、俺は素直に納得した。

 ここ数日、矢鏡しか戦ってなかったもんなぁー……


「そういうわけで、僕の心配はしなくていいよ。

 僕たちの侵入はばれているだろうから、魔族は華月の方に行くと思うし」

「……そうか」


 そのストーカーっぽい表現はかーなーり嫌な気分になるが、まぁ、仕方ない。

 さっさと倒して、あんな変態のことなど忘れよう。それに限る。

 俺は後ろの廊下を親指でさし、


「じゃ、俺たちはあっちから行くよ」

「気をつけてね、二人とも。終わったら通路のところで落ち合おう」


 言ってフィルは片手を上げ、きびすを返して歩き去る。

 その背が廊下の先で右に曲がるまで見送って、それから俺たちも歩き出した。

 俺が先頭。数歩遅れて矢鏡が続く。

 突き当たりを左に曲がると、かなり奥までまっすぐ伸びて、その先で二つに別れているのが見えた。入り口正面とは違い、燭台が左右の壁にかかっているため、先ほどよりは明るくなっている。

 敵の姿はまだ見えず、罠らしきものもなさそうだ。

 しばらく暇そうだから、今のうちに聞いてなかったことでも聞くか。


「そういやお前、なんで学校じゃ話かけてこなかったんだ?

 俺がエルナの生まれ変わりだって知ってたんだろ?」


 歩きつつ、前を向いたまま尋ねた。

 落とし穴とかあったら嫌だからな。ちゃんと警戒はしておかないと。

 故に、矢鏡の表情は見えないが……どうせいつもの無表情だろう。

 矢鏡はびみょーに間をあけた後、


「いや……エルナが死んだことも知らなかったよ」


 意外な答えが返ってきた。

 転校初日に会った時も、この世界で会った時も平然としていたから、てっきり知っているものと思っていたが……


「だから驚いて……戸惑っていたから、話しかけられなかったんだ」

「ふーん……

 ──てーことは、俺がエルナだってのは、すぐにわかったのか」

「あぁ。長い間一緒だったからな」

「どれくらい?」

「一万年くらい」

「はぁっ!?」


 これにはさすがに驚いて、思わず足を止めて振り返った。

 つられて止まる矢鏡。やっぱり無表情だった。


「一万年って……お前、そんなに昔の人だったの!?」


 あれ、でも一万年前って……そもそも人類誕生してたか……?

 うーん…………わからん。歴史は一番苦手だからなぁー……

 腕を組み、難しい顔で悩む俺に、矢鏡は淡々と言う。


「いや……割と近代だよ。約二千年前だから」

「は? それだと計算合わないじゃん」


 わけがわからなすぎて、ちょっと強めの口調で返した。

 すると矢鏡は困ったようにわずかに眉をひそめ、


「……順に話すよ」


 と言って、説明を始めた。


 曰く、以前聞いたように時間の流れに逆らうことは、神であるシンにも出来ないが、一つだけ例外があるらしい。

 それは、セロが死んだ時だけは時間軸を無視できる、というもの。

 その理由はシンもわからないそうだが、普通の人も、通力持ちも、魔界に飛ばされ妖魔となる者も──セロである魂だけは、死後、過去と現在と未来にランダムに飛ばされるという。但し、通力持ちと妖魔になる魂は大体過去に行くらしいが。


 例えばシンは、今よりもずっと未来で生きていたらしい。そして死後、シンの魂は今から約二万三千年前に飛ばされ、そこで初めて天界を創り、徐々に仲間が集まって今に至る。

 もちろん、双子であるリンさんも同じ。近くで生きていた者同士は、同じ時間軸に飛ぶのが普通らしい。

 つまり──


「シンって……二万三千歳だったんだ……」


 あまりにも、あまりにも予想外すぎる事実に──俺は呆然とすることしかできなかった。

 だって二万三千って…………すっげー年の差やん…………リンさんもだし……


「約、ね。正確には知らない」

「で、お前は一万年は生きている……と」

「一万と千年くらいかな。エルナの方が先に天界にいて、しばらく経ってから組んだから、付き合いの長さは一万くらいだけど」


 ………………うん。少し落ち着いてきた……

 俺は額に軽く手を当て、長く息を吐いたあと、


「オーケー……とりあえず理解した。……この世の壮大さをな……」


 後半だけぼそっと呟いた。多分聞かれてはいない。

 因みに、どの魂もシンたちより過去には行っていないらしい。だから妖魔が現れたのはシンより数千年経ってからだし、主護者一人目なんて五千年後に来たという。

 マジすげーな。規模が。


「……一応聞くけど、矢鏡も主護者たちも年齢とか気にする? 年上には敬語使え、とか」

「そんな奴いないよ。シンは他人行儀とか、堅苦しいの嫌いだから」

「あぁ、だから呼び捨てでいいって言ったのか。タメ口でも怒らなかったし」


 出会った頃を思い出して、やっぱりシンは優しいな、と思った。

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