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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第4話 「出合いはいつも突然で」
23/119

4-5 リンさんの正体

 一同が言葉を失って――


「どういうこと……?」


 長く感じた沈黙を破ったのは、真剣な口調のシンだった。

 矢鏡とフィルも、真面目な表情でリンさんを見つめている。

 リンさんは答える気がないのか、じっとシンを見返すだけ。

 再び訪れる静寂。場に流れるはシリアスな空気。


 そして――

 何のことかさっぱりわからず、困り顔の俺。


 いや、だってさぁ……

 俺、エルナのことよく知らねぇし。

 だからさー、ぶっちゃけ何のことだかさっぱりわからん。

 とりあえず、空気を読んで黙ってはいるけど……ほんとはいろいろ質問したい。


『エルナのことってどんなこと?』

『俺は何に気付かないとダメなんだ?』


 ――とか。

 後者についてはめっちゃ重要だしな。俺の生死に関わるみたいだし。

 でも今は聞ける空気じゃない。誠に残念ながら。

 仕方ないから今は背景になっていよう……


「リン」


 答えを促すように、強い口調で名を呼ぶシン。

 それでもリンさんは答えない。

 さすがにじれったくなったのか、シンはわずかに眉を吊り上げ口を開き、


「教える義理はない」


 もう一度名を呼ぶ前に、リンさんによって冷たくあしらわれる。

 唖然とするシンに、彼女は不機嫌そうに眉根を寄せ、


「それはこいつらの問題だ。シンが手を出すことじゃない。

 ――そんなことより、お前は自分のことでも考えてろ」


 一方的に告げると、ざぁっという風のような音と黒い霧とともに消えてしまった。

 シンは静かにため息を吐き、視線を右下に落とした。

 俺はその横にそろそろと移動し、


「リンさんと仲悪いの?」


 と声をかけると、シンは地面を見つめたまま苦笑いを浮かべ、


「いや……そんなことないよ」

「え? じゃあいつもあんな感じ?

 クールでかっこよかったけど、優しいようには見えなかったぞ?」

「はっきり言うなぁ……」


 近くで矢鏡が呟くが、んなもん無視無視。

 シンはちらっと俺を見上げて、言いにくそうに力無く答える。


「……ちょっとね、怒らせちゃったの……」

「……なんかやったの?」

「うん……まぁ……」


 曖昧に答えた直後、はっとしてにっこり笑顔をつくり、


「あ! でもリンは優しかったよ!

 怒ってるのにお願い聞いてくれたし、忠告とか心配とかもしてくれたし!」


 と必死にフォローする。

 忠告……はありがたいけどさぁ……

 俺からすればなんのこっちゃだし、謎が増えただけなんだが。

 というか、シンの言う"優しい"の定義が若干ずれてるような気が……

 まぁいいか。

 俺はしゃがんで目線を合わせ、


「そっか。ほんとにリンさんと仲良しなんだな」


 にっこり微笑んで言うと、照れているのか、シンの頬がわずかに赤く染まり、なんだかすごく嬉しそうな顔をして、うん、と小さく頷いた。

 うっわー♡ かっわいいー♡

 これこそ『守ってあげたい系女子』というやつだな。

 でも、できれば青年バージョンで見たかった……

 ついでにリンさんの笑顔も見てみたい。


 ――うん、やばいな。

 二股はダメって分かっているが……選べる気がしない……

 どっちも好きだわー。

 俺は立ち上がり、腕を組みつつ難しい顔で悩み唸って、


「ってか、シンとリンさんって双子だったんだな」

「そうだよ」


 いつもの笑顔で答えるシン。

 その顔をじっと見つめて、ふと思う。

 俺……この顔が好きなんかな……?

 いやでも…………やっぱ性格だよな。二人ともストライクだし。特にリンさん。

 うーん……やっぱ片方にするべきだよなぁ~……いやでもどっちもステキで――


 ~中略~


 ――いいか。このままでも。選べないし……

 しばらく悩んだ結果、保留にすることに決めました。

 優柔不断とか言わないでくれ。どっちも魅力的なんだからしょーがないんだ!

 ――というわけで、次を考えるとしよう。聞きたいこともあるし。

 俺は無意味に一つ頷き、


「そういえばさ、リンさんって何者なんだ? シンの姉妹ってことは神様か?」

「いいや。神と呼べるのはシンだけだよ」


 応えたのは矢鏡。

 俺はそっちに顔を向け、再び訪ねるその前に――


「魔王だよ」


 フィルが言った。どこか冷淡な口振りで。

 迷わずフィルに視線を移し、そしてちょっと驚いた。

 いつもの爽やかな笑みは消え、かわりにあるのは感情を殺したような無表情。冷めた眼差しは右の方に向けられて、俺たちを映そうとはしない。


「え……?」

「彼女は魔界の頂点に立つ魔王だよ」


 二つの意味で驚いて、思わず聞き返した俺に、フィルはもう一度言った。


「え? だってシンと双子で……えぇ?」


 完全に混乱して慌てふためく俺。

 頭を抱え、変なポーズを取り、あわあわと無駄に手振りをつけ、


「いやいや、なんで神の姉妹が魔王? 魔界の頂点ってことは、妖魔を統治してんの?

 じゃあリンさんって敵だったってこと? だから妖魔の騒ぎをなんとかできたのか?

 いやでも、リンさん悪者には見えなかったし……」

「敵ではないよ。――けど、味方でもない」


 そんな俺に、フィルは淡々と告げる。


「シンには頼れる味方だけどね。主護者にとってはそうじゃない。

 彼女が大切にするのはシンだけで、僕らは足手まといの邪魔者か、暇つぶしの余興としか思われてないのさ。

 だからもし――

 僕らのせいでシンの身が危うくなることがあれば、彼女は迷わず僕らを消すだろうね」


 その言葉が嘘でないことは、シンの悲しげな顔を見てすぐにわかった。

 リンさんは主護者たちを邪険に扱う。

 ゆえに、主護者のほとんどがリンさんを良く思っていないらしい。毛嫌いしている人も、少なからずいるそうだ。


「……フィルも?」


 ひかえめに聞くと、フィルは何気ない顔を俺に向け、


「いや? 僕は嫌ってはいないよ」


 拍子抜けするほど、平然と答えた。

 いつも通りの爽やかな感じで。


「え……じゃあ、さっきまでびみょーな顔してたのはなんで?」

「んー……」


 訝しげに問う俺に、フィルはシンの口癖のように静かに唸り、眉をひそめて弱ったような顔をした。


「嫌いではないんだけど……苦手なんだよね、彼女。できれば二人だけで会いたくないなーってほどには」

「そうなの?」

「うん」


 完璧超人だと思っていたフィルの苦手なもの発覚。

 でもそうか……確かにリンさん、かなりクールというか、冷たい感じだったもんなぁ。

 俺てきにはそれがまた良いんだが……あ。

 ふとある事に気づき、矢鏡を見やる。


「でも矢鏡は好いてる方だよな?」


 断定に近い問いかけに、矢鏡は一瞬だけ『なんでわかったんだ?』と言わんばかりの不思議そうな顔をして、すぐにいつもの無表情に戻った。


「好き……というか、尊敬かな」


 俺の洞察力ビンゴ!

 やっぱあれは尊敬の眼差しだったか。矢鏡の表情見分けるの難しいからな……当たるとちょっと嬉しい。


「リンさんは魔力だけど、本来のシンと同等の力があるし……何より凄いと思うのは、何者にも屈しない強い精神だな」

「おぉ……」

「言ってなかったが、術は精神力で操るものなんだ。だからリンさんは術の使い方がとても上手いんだよ」

「まじか! さすが魔王さまだな!」


 思わずこぶしを握って感激する俺。

 やっぱリンさん超カッコイイ! ぜひ仲良くなりたい!

 ――まぁ、その前にまた会えるか分からないけど……

 いや、多分そのうち会えるな。根拠はないけど、なんかそんな気がする。

 俺、直感にはかなり自信あるし……多分間違ってはないと思う。

 次会った時はリンさんの笑顔が見れるといいな、という想いを胸に秘め、俺は進行方向である道の先を眺めた。


 あ、そうそう。

 因みにだが、リンさんは魔界の王者ではあるが、統治はしていないらしい。

 ……まぁ、妖魔には協調性が皆無の奴ばっかだって言ってたもんなぁ……


「――にしても」


 突然、シンが口を開いた。


「華月は何に気付かないとダメなのかな?」

「あ! それそれ! それ聞き忘れるところだった!」


 言われて思い出し、俺はぽんっと手を打った。


「え? 忘れてたの?」


 矢鏡が呆れたように言うが、んなもん無視無視。

 反応したら認めたも同然だからな。……あんま意味ないかもだけど。

 俺は不安そうな顔をするシンを見つめ、


「気付かないと死ぬんだよな? しかも近いうち」

「……そう言ってたね」

「でも気付けって言われてもさ、俺はそもそも前世の記憶とかないし、エルナのことも知らないし……さっぱりわからないからお手上げなんだが」


 ふぅっと小さく息を吐き、両手を上げて降参のポーズ。

 シンはそんな俺を真剣な眼差しで見上げ、


「リンは出来もしない事をやれとは言わない。

 だから、今の華月にも出来ることがあるんだよ。その答えは教えてくれなかったけど――」


 途中でことばを切って、シンははっとして再び顎に手を当て視線を落とし、それきり黙りこんでしまった。


「え、なに? なんかわかったの?」


 さすがに気になったので聞いてみたが、反応なし。

 矢鏡とフィルとも顔を合わせたが、小首を傾げたり、左右に首を振ったりと、こっちもわからない、というジェスチャーを返してくれただけ。

 仕方ないので、しばらく待っていると――


「……もしかして……」


 やがて、シンは顔を上げて俺を見て、


「エルナ、自分の意志で死んだのかも……」

『…………』


 そのことばに、矢鏡とフィルが驚いた顔をする。

 俺はぱちくりと瞬きを繰り返し、


「え……なんでそうなんの?」

「だって、最後まで見てたってことは、リンはエルナを殺した人を知ってるんだよ。でも、それが誰かは教えてくれなかった。

 ――つまり、教えられないような意外な人物が殺したってことでしょ。相手が妖魔なら普通に言えるだろうし……そもそも、エルナに勝てそうな人がリンくらいしかいないもの。そう考えると自殺の可能性が高いと思う」

「え……エルナが? あの自由気ままで楽天家で完全に我が道を行って立ちふさがるものはすべて蹴散らすあのエルナがか?」


 完全にないわー、とでも言わんばかりに動揺する矢鏡。

 こいつのエルナのイメージすげーな。つーか、俺のこと言われてるみたいでびっみょーにムカつくんだが。

 シンは少し考えたあと、引きつった笑みを浮かべ、


「いやほら……そんなエルナだからこそ、ものすごくショックな出来事があって――とか、あるかもしれないし……」


 自信が無くなってきたのか、後半から徐々に声が小さくなっていく。

 矢鏡とフィルはちらりと視線を交わし、俺はふむ、と大きく頷いた。


「つまり、俺が気をつけてりゃオーケーってことだな」

「……まだエルナの死因がそうと決まったわけじゃ――」

「よし。すっきりしたことだし、出発しようぜ」


 矢鏡のちっさい声を遮り、提案する。


「でも華月――」


 まだ何か言おうとする矢鏡を目で制し、


「想像したって答えなんか出ねぇだろ。いちいち考えんのも面倒だし。

 それよりはさ、実際に起こってから対処した方が楽だと思うぞ」


 と言ってやる。

 因みに建前。本音はこれ。

 もう話についていけん。つーかめんどい。かなりめんどい。

 俺、難しい話嫌いなんだってー……

 もちろん、表には出さないがな。シンがいなかったら言ってたかもしれないが。

 すっげぇ強引なまとめ方だけど……まぁ、いいよな。

 三人は一度顔を見合わせて、そしていつものように、三者三様の反応をする。

 シンは微笑み、フィルはふふっと笑い、矢鏡は無表情に戻る。


「それもそうだね」


 とシンが言って、


「さすが華月」


 とフィルが呟く。

 矢鏡は無言。

 俺は話題を変えるため、てきとーな話を引っ張りだし、一行は再び旅路に着いた。

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