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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第4話 「出合いはいつも突然で」
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4-1 まさかの前世とご対面!?

 真っ白な世界。

 上も、右も、左も、地面も。

 その全てが白で染まっている。


 だが、それが全てというわけではない。

 宙には薄青い光が漂い、風も無いのにゆったりと流れている。

 それらは徐々に現れ、溶けるように消えていく。


 幾度となく繰り返される情景を眺めながら、俺はそこに立っていた。

 無意識に、すぐ横を通り過ぎた光の玉を目で追った。それは前方に向かって行って、だんだん小さくなっていき、やがて消える。


 とても幻想的で、とても寂しく、とても綺麗な空間だった。

 地面は存在するようだが、壁も天井も有りはしない。

 この世界が、どれだけの大きさなのかも分からない。

 ただ一つ。これだけは言える――


「なんだ。夢か」


 全く動じず、普段の口調で言い放つ俺。

 ついでに意識もはっきりしてきた。


「あれかな……明晰夢……だっけ? 初めて見たな……」


 誰に言うでもなく呟いた。

 因みに服装は、寝る時と同じで白いシャツと黒いズボン。そして裸足。

 寝た時と全く同じ格好だからかも。夢だとすぐに気付いたのは。

 俺はきょろきょろ辺りを見回し、


「うーん……どうすれば目覚めんのかな……」


 とりあえず真面目な顔で考えてみる。

 景色は良いんだけどさー、やることなさそうでぶっちゃけ暇。

 だってここ、なんもないんだぜ。

 あるのは、触ろうとしても擦り抜けるだけの不定形な青い光だけ。

 直視しても眩しくないが……見てても面白くねぇな。

 こんな味気ない夢を見続けるよりは、早めでもいいからさっさと起きて、シンと話していた方がよっぽど有意義に過ごせるってもんだ。


「――よし」


 目覚めるために、まずは、やれることをやってみよう。

 俺は右手を天に伸ばし、


「目覚めろ! 俺!」


 とか叫んでみる。

 んー、何も起こらんなぁ……

 いろいろポーズも変えてみたが――無駄だった。

 なので次。

 てきとーな方向を決めて真っ直ぐ走ってみた。全力で。

 しばらく走って、息が切れてきた頃に足を止める。

 ――残念ながら、景色も何も変わらなかった。

 というか、俺が疲れただけだった。


「……なんか……おかしくね……?」


 ぜぃはぁと荒い呼吸を繰り返し、顎まで流れ落ちてきた汗を右手の甲で拭う。

 大きくゆっくり息を吐き、一旦落ち着いてから、


「なんで夢なのに疲れるんだ? 汗も出るし……」


 再び腕を組んで思案する。

 そして唐突に――

 誰かに呼ばれた気がした。


 いや――

 誰かが俺を呼んでいる。

 呼び声が聞こえたわけでもないのに、何故か確信を持ってそう思った。

 どこだ?

 向かうべき場所を探して、視線を彷徨わせる。

 しばらくして、ある一点が目に留まる。


「……あっちか……」


 ぼそりと呟いた後、俺は迷わず左に向かって歩いて行った。

 大した時間もかからずに、その場所へとたどり着く。

 景色は相変わらずだが、そこだけに薄く光る白い霧が、まるで異次元への入口のように、アーチ状の塊を作っていた。

 その前で立ち止まり、俺の背より頭二つ分は高い入り口を見上げる。

 何故ここだと思ったのか、何故これが『入り口』だと分かったのか――それは俺には説明できない。何故か分かった。それしか言えない。


 だが、確信はある。

 ここに、俺を呼ぶ人がいる。

 俺は足を踏み出して、迷うことなくその中に入って行った。

 真っ白い霧の中をまっすぐ歩いて、しばし経ち――


 突然、横から風が吹いた。

 視界を埋め尽くしていた白い霧が全て晴れ、青い空と、地面を埋め尽くす色とりどりの小さな花が目に映った。空には雲も太陽すらも無いというのに、ここはまるで日中のように明るい。

 そして時折弱い風が吹き、俺と、すぐそこに佇む彼女の髪を揺らした。

 真っ直ぐ俺を見つめる彼女は、口元に小さく笑みを浮かべ、


「はじめまして、華月京」


 俺に似た声でそう言った。

 誰か、なんて聞くまでもない。


「エルナ……」


 俺はただ、呆然と彼女の名を呟いた。



 **



 前世の名前を初めて聞いたのは、昨日の朝のことだった。

 寝ぼけたフィルが何気に口にした名前に、最初は『誰だろう』なんて思ったが、不思議と慣れ親しんだ感覚がして、すぐに『俺の前世の名前かもしれない』と気付いたんだ。

 それが確信に変わったのは、あの変態が俺に向かって呼んだから。



 **



 エルナの服装は、半袖の白いワイシャツに、同じく半袖で青紫色の羽織り。濃い藍色のズボンに、低めのヒールがある白いサンダルだった。

 矢鏡が言っていた通り、外見はほとんど俺と変わらない。

 髪色も瞳の色も体格も――

 違うところといえば、髪が腰下まで伸びていることと、胸がDカップくらいあること。女性らしいスラッとした体型であり、ヒールの高さを入れて、俺より少し身長が高いことだけだ。おおよそだが、フィルと同じくらいかな。

 俺はふと、左手を顔まで持っていき、ぐいっと左頬を引っ張る。


「いてて」


 うん。痛いわ。


「――ってことはこれ……夢じゃない?」

「そう」


 エルナがにっこり微笑む。


「ここはこの魂の精神世界。本来なら、浄化によって人格が封じられる場所よ」

「へー……そっかぁー」


 俺もにっこり笑う。

 あはは。

 なるほどなー。精神世界かぁー。

 だから俺の前世であるエルナがいるのかぁー。

 俺はこくこく頷き、


「うんうん納得――出来るかっ!」


 途中から我に返って叫んだ。


「ちょっと待って! わけわからん!

 ――つーことは何か!? もしかしなくても俺、浄化されたってことか!?」


 違うよな? そんなわけないよな?

 だって、夜になったから寝ただけだぜ?

 浄化されるようなことはしてないはずだろ?

 それで浄化されてたらおかしいよな? おかしいはずだよな?

 頼むから違うと言ってくれ。俺はまだ死にたくない……

 予想外すぎる展開に、完全に混乱して声を荒げる俺に、しかしエルナは思ったよりも軽快に笑い飛ばし、


「あっはははは! そんなわけないでしょ! バッカねぇー!」


 どこか楽しそうに言う。

 否定されたのは良かったけど……

 エルナに『バカ』って言われると、鏡見て自分で言ってるような気分になるな……

 でも、そのおかげで少し落ち着いてきた。


「……なら、なんで俺、精神世界にいるんだよ?」


 そう尋ねると、エルナはフッと笑い、右手を腰に当てる。


「分かっているでしょう? 同じ魂なんだから」


 堂々と告げられた言葉に、俺は目を見開いた。

 そしてすぐに思い知る。

 今のが愚問だったことを。


 なぜなら、その答えはすでに知っていたからだ。

 俺がここにいる理由も。

 何故、エルナと会えたのかも。

 理屈はさっぱりわからない。ここに来た当初と同じで。

 ――だが、何故かはわかる。



 エルナが呼んだから。

 俺が、エルナに会ってみたいと思ったから。



 俺は無意識にエルナの呼び声に答え、自分でここに来たんだ。

 ――それを突然理解した。

 同時に一つ、思い出す。

 説明の出来ない不可思議なことなど、この世界に来てから起こりまくっているんだから、驚くなんて今更だった。

 術とか妖魔とかが現実に存在するわけだし……そう考えると、自分の前世と対面してるってのは、なかなか面白い状況かもしれない。

 完全に冷静さを取り戻した俺は、ふぅっと小さく息を吐き、


「しっかし……まさか前世に会えるとは思わなかった」

「いやー、全くね♪ 試しに呼んでみて良かったわ♪」


 無意味に手をパタパタ振りながら、すっげぇ明るく言うエルナ。

 矢鏡が『かなり快活で大胆』と言っていたが――

 うーん……想像以上だな。

 前世というだけあって、てっきり性格も俺と同じか似ているものと思っていたが……結構違うなぁ。だって俺、ここまで楽天的じゃねぇもん。……多分。


「さて華月。早速だけど、本題に入りましょうか。あんまり時間も無いことだし」


 エルナが言った。

 切り替えが早いところは同じだな。


「時間が無い?」


 俺は思わずオウム返しに聞いた。

 エルナは小さく頷き、


「精神世界って言っても、夢と同じようなものだからね。

 寝ている間じゃないと、貴方をここには呼べないの」

「つーことは、あと少しで俺は起きるってことか」

「そう。でもその前に、華月に教えておこうと思ってね」

「何を?」


 先を促すように聞いた途端、エルナの目がすぃっと細められる。

 躊躇うような間を開けて、どこか悲しげに微笑んで。


「……ほんとはね、私の記憶を"継がせた"方が早いんだけど……

 でも、それだけはしたくない。だからここで――」


 そして彼女は静かに言った。


「戦い方を教えてあげる」


 と。

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