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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第3話 「次なる予感」
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3-7 さっそく会えたぞ今回のボス

 ぴたりと足を止めるシンたち三人。一歩遅れて立ち止まる俺。


「え? 何?」


 俺はきょろきょろ辺りを見回し、矢鏡とフィルは警戒するような目を前方に向けた。


「……来たか」


 矢鏡が呟いたその途端、フォンッという風の音みたいな微妙な音が鳴り、三人が向ける視線の先、少し離れた場所に一人の男が現れた。

 年は二十代後半頃。やや煤けた白色のロングヘアーに、黒茶色の瞳を持つ、長身の男だった。多分俺より八センチは高いんじゃないかな。顔立ちは、フィルには遠く及ばないが、まぁイケメンには入るんじゃね、という程度。フツメンの俺が言えた義理ではないが。


 服装は、まるで軍服のようなかっちりした藍色の上下に、かなり邪魔そうにしか見えない同色のマント。軍服にはところどころアクセントとして黄色いラインが入っていて、ちょっと豪華な感じがする。色が藍色でなければ、どこかの国の王子様みたいな格好である。

 いかにもファンタジー世界の住人です、という雰囲気がベリーグッド。

 その男はキザな動作で前髪を払い、こちら――というより俺を見やり、


「見つけたよエルナ。まさか君から来てくれるなんて思わなかったが――

 今度こそ、俺のものにしてやるよ」


 気色の悪い言い方に、俺の全身に鳥肌が立つ。


「きっもぉぉぉっ! なんだこいつ変態か!?」


 思わず叫ぶ俺。


「失礼な! しかも『きっも』ってなんだ!?」

『気持ち悪いってことだよ』


 正直に言っただけなのに、何故か声を荒げる男に、俺と矢鏡が冷静に答える。

 俺は数歩前に出て矢鏡の横に並び、ジト目を向けて、


「で? あの変態はなんなの?」

「上位魔族だよ、朝に話してた。さっきので分かったと思うけど、君の魂を狙ってるんだ」


 さらりと言われた言葉に、俺はげんなりと肩を落とした。


「なんでそんなストーカー要素が付いてるんだよ……」


 見た目はファンタジーっぽくていいのに……性格が残念とは。がっかりだ。

 いかにも敵って感じはするけど、なんかなぁ……どうせならカッコイイ方が……

 ――と、待てよ。今『狙ってる』って言わなかったか?


「あれ? こいつ、俺を殺しに来たんじゃないの?」


 男を指差しながら聞くと、矢鏡は横目で俺を見て、


「……それより酷いよ」


 低い声音で呟いた途端、その姿が瞬時に消える。


 ガキィンッ


 次に聞こえた金属音に、反射的に視線を前に戻すと、すぐそこに矢鏡の背中があった。

 矢鏡の背丈より少し長い、魔法使いとかが持っていそうな杖を握り、男が振り下ろしているロングソードを杖の半ばで受け止めている。


 杖の柄は黒で、上端には濃い青色の小さな石があり、それを囲むように銀の装飾がされている。全体的にはクールでシンプルなデザインだった。ちょっとかっこいい。

 ――って、呑気に杖見てる場合じゃなかった。

 矢鏡と男は、手にした武器で押し合い、シリアスな雰囲気を醸し出している。

 ものすごい殺気を放ちながら。


「こいつに手を出すな」

「邪魔をするなよ、ディルス。クズのくせに」


 思ったよりも淡々とした口調の矢鏡に、男は見下すように嘲笑う。

 んー……

 俺は真顔で少し考えて、右手に出した刀を両手で握り、鞘に収めたそのままで矢鏡の頭に向かって振り下ろす。


「ちょっ――」


 体を横に向けながら慌てて避ける矢鏡に、大きく飛び退いて元いた場所まで離れる男。

 お、良い判断。離れなければ、そのまま突きでもくらわそうと思ったのに。


「何するんだ華月」


 非難の声を上げ、それでも無表情の矢鏡をちらりと見やり、俺はやや不満げな顔をした。


「ヒロインみたいな扱いをするな。気色悪い」


 言って刀の先でビッと男を指し、にやりと笑ってみせる。


「どうせなら共闘させろよ。俺は戦うために、ここにいるんだぜ」


 ふふふ……どうよ。なかなかかっこいいセリフじゃね?

 矢鏡は一瞬驚いたような顔をして、すぐに無表情に戻った。

 そして視線を男に移し、口を開く。


「じゃ、捕まらないよう気を付けて」

「りょーかい!」


 即座に返し、俺も男に目を向ける。

 よっし! 燃える展開になってきた――んだけど……

 男は何故か不思議そうな顔をして、じっと俺を見つめていた。

 なんかきもいから、こっち見ないでくんないかな。

 男はわずかに眉を寄せ、


「……やけに大人しいじゃないか、エルナ。どうしたんだい?」

「え。今の大人しかったか?」


 思わず眉をひそめて問い返す俺。

 矢鏡なら避けるだろうと思って、いきなり後ろから攻撃したのに……?

 男に聞いても仕方ないと思ったので、回答を求めて矢鏡を見やる。

 それに気付いた矢鏡は俺を一瞥し、


「まぁ……エルナはかなり快活で大胆な性質だったからな」

「ふーん」


 俺はてきとーに相槌を打った後、左手を腰に当て、刀を肩に掛けてから声を張り上げる。


「おい変態野郎!」

「誰がだ!」

「だって、お前の名前知らねぇし」

「む……ならば教えてやろう! 俺の名はシュバルト! 覚えておけ!」


 律儀にもちゃんと名乗る男。ばさりとマントを翻す。無意味に。


「うわ。吸血鬼みたいな名前だな……じゃなくて。

 いいか、よく聞け! 俺はエルナじゃない! 華月京だ!」

「なにぃ!」


 大仰に驚いて見せるシュバルト。

 おぉ、なかなかノリの良い奴だな。これで変態じゃなければなぁ……

 シュバルトはびしっと俺を指差し、


「どーみてもエルナじゃないか! ふざけるな!」


 その言葉に、俺は再び矢鏡を見た。


「名前からしてエルナは女だと思ってたけどさぁ、もしかして男だった?」

「いや、女性だよ。でも見た目はあまり変わらないかな。

 髪が短くなったのと、声が少し低くなったくらいの差しかないよ」

「まじでか」

「ふむ。そういえば――」


 シュバルトの声に目をやれば、顎に手を当てなにやら考えている様子。


「胸が無いな」

「そこかよ」


 思わずツッコミ入れた後、ハッとして後ろに視線を向ける。

 昨日の夜、胸の事を言ったらフィル怒ったからな。気にするんじゃ……と思ったのだが、意外にも無反応だった。

 ――というか、シンの後ろにしゃがみ込み、白い布をシンの目に巻き、両手でシンの耳を塞いでいた。その状態で事の成り行きを見守っている。それなりに離れた場所で。

 何やってるんだろう……

 気になるけど、後で聞こう。今は敵に集中しないとな。


「まぁいい。エルナの魂には違いないんだ」


 シュバルトが静かに言う。

 視線を戻した俺と目が合うと、シュバルトはフッと笑い、


「今日はあいさつだけにしておくよ。

 この先の町を越えたところに、小さな湖がある。そこに"通路"を繋げてあるから来るといい。最上級のもてなしを用意して待ってるよ」


 言ってくるっと踵を返し、再び鳴るフォンッという風の音と共に、その姿が黒い霧に包まれすぅっと消えた。

 俺は大きく息を吸い、今までシュバルトが立っていた場所に向かって、


「誰が行くか! バーカ!」


 と低レベルな罵声を浴びせる。

 とっさにそれしか思いつかなかったんだよ……


「いや、行かないとまずいよ」


 手元の杖を消しつつ、矢鏡がぼそりと呟いた。

 意外な発言だったので、『へ?』と、間抜けな声を出して驚く俺。


「なんで? だって、どう考えても罠じゃん。

 わざわざ引っ掛かりに行くのか?」


 不思議そうに問う俺に、矢鏡はやたら冷めた目で見返し、


「攫われた人間がいるはずだ。見殺しには出来ない」


 淡々と告げられたその言葉に、俺は思わず、あ、と声を上げた。

 やばい忘れてた……

 そういやそうじゃん。なんとかって町のにーちゃんが攫われたんだった。

 シュバルトがあまりにキモかったんで、そっちの方に気を取られてたよ。


「あー……そうか……。それじゃあ助けに行かないとな」


 刀を消して、素直に納得する。

 正義の味方なんて柄じゃないが、目の前の悪事をほっとけるほど非人情でもないからな。

 いやまぁ……神様のそばにいるのなら、正義ラブくらいの心持ちでいた方がいいんだろうが……さすがに見境なく助けに行くほど、人間できていない。

 冷たい、とは言うなかれ。俺は手近なところで手一杯だし、そんなに器用な方じゃない。

 出来もしないことを引き受けるような、無責任さも持ってないしな。

 ――まぁ、今回のは余裕で手が届く範囲だし、多分、原因は俺だろうし……

 それでにーちゃんにもしものことがあったら――


「やっぱさ、にーちゃんが攫われたのって……俺のせいかな……?」


 ひかえめに尋ねると、矢鏡は腕を組み、


「いや、君のせいじゃないよ」


 てっきり肯定されると思ったが、意外にも否定の言葉をかけられる。

 俺はぱちくりとまばたきを繰り返し、矢鏡は更に言葉を続けた。


「あいつも実験好きの科学者なんだ。だから、そのための実験材料として人間を捕えているだけで、君を呼ぶための人質目的で攫ったわけじゃないよ。

 もし君を呼びだすだけなら、町に行って皆殺しにでもすればいいからな。

 力量から考えて、シンならその討伐任務を俺たちに頼むだろうし」

「そ……そっか……」


 いや……あの……フォローは嬉しいが……

 皆殺しとかさぁ……そんな物騒なことを平然と言うなって。


「とりあえず、シンに報告するか」


 矢鏡の提案にこくんと頷き、じーっとこちらを見やるフィルたちの元へと歩み寄る。

 因みに、シンの目隠しと耳栓はすでに外されており、二人は何気ない顔で立ち並んでいた。


「あの魔族、転移が使えるんだね」


 フィルが言った。


「え。あれ転移だったの?」


 俺が聞くと、フィルはいつもの笑みを浮かべ、


「そうだよ。妖魔の中でも、転移が使えるのって珍しいんだけどね。

 ……僕も初めて見たよ、妖魔が使うところ」

「へー」


 俺は相槌を打った後、どーしても聞きたいことを先に尋ねることにした。


「――ところでフィル」

「なに?」

「さっきまでさ、シンの目と耳を塞いでたよな? あれはなんで?」

「あぁ……」


 フィルは言いつつ、シンの後ろに回り込んでしゃがみ、再びその耳を両手で押さえた。

 シンは視線だけ動かしたが、特に嫌がったりせず大人しくしている。

 フィルは完全なすまし顔で俺を見上げ、


「だって、ああいう変態は教育に悪いからね。

 僕はそんなに気にしないんだけど……そういう余計なことを教えると、過保護な側近たちがうるさいんだよ」

「余計なこと?」


 俺はおうむ返しで聞いて、顎に手を当て少し考える。


「もしかして――昨日の夜、フィルが怒ったのって……」

「そうだよ。万が一、シンが気にするようになったら怒られるからね。

 いつまでも純粋でいてほしいんだってさ。

 ……まぁ、人間じゃないし、本当に必要なことじゃないから、わざわざ教えることはないって理屈もわかるんだけどね。

 だから華月も、シンの前では発言に気をつけた方がいいよ」

「あ……あぁ、わかった」


 シンの側近たちがどんな人なのかわからんが……素直に従った方が良さそうだ。

 最後のセリフを言う時のフィルの目が、真剣そのものだったからな。

 うーむ……そんなに恐いのか……側近たちって。


「因みにさぁ、フィルはその……大きさとか、気にしてたりしない……のか?」


 ちょっとした好奇心から、おずおずと尋ねると、フィルは小さく肩をすくめ、


「気にしてたら、体型を操作する薬でも開発してるよ。

 ――むしろ、僕は無い方がいいな」

「それじゃさらに男っぽく見えるじゃん」

「僕としてはその方が都合がいいよ。いろいろとね」


 にやりと笑って答えるフィル。

 次に俺が何かを言う前に、フィルはシンから手を放して立ち上がり、いつもの爽やかな笑みを浮かべ、パンッと両手を合わせた。


「じゃ、この話は終わり。今後のことを考えようか」


 やや強引な話題転換に、俺は仕方なく黙って頷いた。

 都合がいいってどういうことか、聞きたかったんだけど……

 もしかしたら、シンの親の事と同じで、聞いちゃまずいことかもしれない。

 ――だとすれば、結果的にしろ聞かなくて良かった。

 人を傷付けてまで好奇心を満たすような、そんな野暮なことはしたくないからな。


「シン、あの魔族のことなんだが――」


 空気を読んで今まで静かにしていた矢鏡が、シンにシュバルトとのやり取りを報告する。

 奴の名前と目的、そして指定してきた場所を話し、シンは真剣な表情で黙って聞いていた。


 その間にこっそりフィルに聞いたんだが、シュバルトが現れると同時にシンの耳と目を塞いで離れたので、シンは奴の姿すら見ていないらしい。

 目隠しとか耳栓をした時は、ちゃんと見ないように聞かないように教えているからだって。


「……なるほど。華月を狙っているんだね」


 報告が終わり、シンが呟いた。


「でもさー、俺を捕えてどうするつもりなんだ?」


 当然浮き出る疑問を嫌そうに口にしながら、俺は首を軽く傾げた。


「んー……」


 シンは若干言いにくそうに、それでもしっかりと答えてくれる。


「あのね、妖魔は通力を持った魂を喰らうことで、通力を魔力に変換して自分の魔力容量を増やすことが出来るんだよ。強い者ほど狙われやすいのは、それが理由なの」


 …………えー……っと……


「単純に邪魔だから、じゃないの……? フィルはそう言ってたけど……」

「それもあるが――稀に魂を狙ってくる奴もいるんだよ。

 戦闘技術も才能も大事だけど、基本的には魔力量が勝敗を決めるからな。容量を増やせば、それだけ強くなれるってこと。

 ――まぁ、それは俺たちにも言えることだけど……通力量は増やせないから、こっちは完全に運だな。あとはどれだけ上手く使えるかだ」


 淡々とした口調で言う矢鏡。

 俺は、ふーん、と相槌を返し、腕を組んで心底嫌そうな顔をする。


「因みに、喰らうってのは……どういう風に?

 頭からバリバリ喰われんの?」


 聞かない方がいいかもしれないが……さすがに気になるので聞いてみた。

 だって、もしグロテスクな感じだったら嫌じゃん。それ以外でも嫌だけど。


「んー……」


 とか言いながら、なにやら考え込んでいる様子のシン。

 他二人は知らないようで、俺と一緒にシンの解答を待っている。

 どうでもいいことだけど、シンは『んー』って言うのが癖なんかな。


「前例がないから、私もよく知らないんだけど……

 確か、霊魂の状態を手に持てば吸収できる――だったかな」


 あぁ良かった。とりあえずグロテスクではなさそうだ。


「霊魂って……炎みたいな形をしてるんだっけ?」

「うん」

「でも普通は見えないんじゃなかった?」

「地上だとそうなんだけど……魔界でなら見えるし、捕えることも出来るようになるんだよ。

 魔界で死ぬと、魂は邪気に阻まれて、その場から動けなくなるから。

 ――だから妖魔は、私たちを魔界に誘い込もうとするの」

「……なるほど。それであいつ、湖に来いって言ったのか……

 じゃあ、もしかして通路って――魔界に繋がる道ってことか?」


 俺の鋭い推測に、フィルとシンがこくりと頷く。

 よしよし。さすが俺、やっぱ頭良いなー。シンほどじゃないけど。


「とにかく――その湖に行こう。人質がいるなら、のんびりしてられないもの」


 真剣な眼差しでシンが言う。


『了解』


 俺たち三人が揃って返事。

 やーっと言えたよ、これ。やっぱいいねぇー! まさしく任務って感じで!

 よし! 待ってろシュバルト! てめぇは俺が倒してやる!

 テンション上がってきた俺は、意味無く夕日に向かって拳を握り、決意を固めたのだった。

第3話終了です。

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