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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第3話 「次なる予感」
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3-5 現段階では最強ではない

 あ。そうそう。

 わかってると思うが、俺たちが今向かっているのは、ダズさんが言ってたナレミアの町だ。

 フィル曰く、ここから結構近い町で、十日ほど歩けば着けるらしい。


「――に、しても」


 結界を通り過ぎてしばらく経ってから、真面目な口調でフィルが言う。


「華月の修行に専念するため、のつもりで聞いたのに……まさか本当にいるとはね。

 それも、わざわざ結界外で待ってまで、人間を攫うような酔狂な奴か……

 ――どう思う?」


 何が、と聞こうとしたけど、後ろに目をやってすぐに止めた。どうやら、矢鏡への問いかけだったらしい。うむ。なら俺は静かに聞いていよう。

 フィルは視線だけを矢鏡に向け、矢鏡はどこか嫌そうな顔でフィルを見返した。


「……見当はつく。俺の知る限り、そんな事をする奴は一人だけだからな……

 ――はっきり言って、かなり面倒な相手だ」

「へぇ……」


 フィルが感心したような声を上げる。口元に小さな笑みを浮かべ、


「君がそこまで言うなんてね。そんなに厄介なのかい?」

「……あぁ」


 短く答えて、矢鏡は何故か俺を見やる。


「少なくとも、今の華月じゃ相手にならないな」


 ぐっさぁっ!


「うっわ! 急に罵倒してきやがった! さすがの俺も傷つくぞ!?」


 なんとなく足を止め、振り向きざまにびしっと矢鏡を指差し、目を吊り上げて怒鳴る俺。

 つられるように立ち止まる他三人。


「今の君の実力は、高く見ても精々中の下。それで倒せるのは下位までだよ」

「……中の下って言われてもな……。それ天界での話か?」


 訝しげな顔で問う俺に、フィルが爽やかに笑いかけ、矢鏡に代わって答えてくれる。


「その認識でいいよ。言い換えると、今の華月の強さは大体二百五十位くらいってことだね。

 因みに、下の下が常人レベル。通力量がほぼ無くて、体術とかの技能も乏しい感じかな」

「へー……。つーか、前世が最強の剣士だったって割に、俺って結構下なんだな」


 それでも普通の人間よりはかなり上だが……なんか悔しいな。

 ――あ。わかったぞ!


「もしかしてさ、最強の剣士って言っても、剣士の中で最強ってだけ?

 天界では普通だったり――」

『まさか』


 俺の推測を揃って否定するフィルと矢鏡。あんたらほんとに息ピッタリだな。

 矢鏡が呆れたような顔をして、


「エルナはちゃんとナンバーワンだよ。誰もが認める、最強の主護者だ。

 ……君はまだ肉体強化も使えてないし、剣士としての腕も未熟だから順位下がってるだけ」


 その説明に、思わず顔をしかめる俺。


「……なんか、親の七光りで会社に入ったは良いけど、その後失敗して信用失ってる人の気持ちが少しわかるな……」

「大丈夫だよ。君は必ず強くなるから」


 何故かきっぱりはっきり言い切る矢鏡。

 その自信はどこから来るんだ……?

 つーかそれ、お前が言うんだ。さっきは罵倒してきたのに……

 よく分からん奴だな、ほんと。

 俺にとっては意外な反応が返ってきたため、返事も出来ずに固まっていると、そっぽを向いた矢鏡がぼそっと呟く。


「――というか、最強になってもらわないと困るし…………シンが」


 最後の名前に反応しないわけが無く。


「よっしゃぁぁぁっ! 目指せ最強!」


 ぐっと拳を握り、無意味にどこか遠くの空に向かって気合を入れる俺。

 シンのためなら全力で! 恋の前には、些細なことなど目に入らん!


「……君さ、ほんと上手いよね……華月の扱い」

「慣れてるからな」


 フィルと矢鏡がなんか言ってるが、俺の脳には届かない。

 しばしの間、遠くに見える山を眺めつつ、ひとしきり心の中で舞い上がった後、


「――と・こ・ろ・で」


 俺はくるりと振り返り、嫌味のこもった笑みを浮かべて矢鏡を見やる。


「もちろんお前は強いんだろうなぁぁぁぁ?」


 あんだけえらっそうなこと言っといて、並だぜ! とか、百何位だぜ! とかだったらマジでキレるからな。いや、百位辺りが強いか弱いかはわからんが。


「ディルスも強いよ。三番くらいだから」


 答えたのはフィルだった。

 俺はしばし真顔で硬直し、眉根をひそめ、


「……エルナの次の次……?」


 ちゃんと聞こえたんだけど、確認を込めてもう一度聞く。

 今度はフィルだけでなく、シンも一緒に頷いた。

 フィルはにっこり笑い、ぴっと人差し指を立て、


「だからねー、君たちのコンビが一番強くて一番有名なんだよ♪」

「ふーん……」


 そこでふと、俺はある事に気付いた。


「あのさー、ちょっと気になってたんだけど――

 相方とかコンビとか言ってるけど、そういうの決まってんの?

 なんか聞いてるとさ、俺――じゃない、エルナと矢鏡で組んでたみたいだし」


 なんか、今更ーって感じがしなくもないが……きっと気のせいだろう。


「あー、そういえば言ってなかったねぇ」

「聞かれなかったからな」


 和やかな口調のフィルと、いつも通りの矢鏡が順に言う。


「あ、でも説明する前にちょっと待って」


 何故か知らんがシンが制止する。俺たち三人は反射的にそっちを見やり、シンが進行方向である北を指差しているのを確認。そのまま流れるように、その指が差す方に視線を移す。


「敵来たから」


 見ると、赤色悪鬼三体が、こちらに向かって駆け来ていた。その距離わずか二百メートル。つまりは目と鼻の先だな。

 ……話に夢中で全然気付かなかったなぁ……

 つーか、こんな近くに来るまで教えてくれないとか……ひどくね?

 絶対、矢鏡とフィルは気付いてただろ。そっち向いてたんだから。

 俺はフッと笑い、


「話の腰を折るなぁぁぁぁっ!」


 ドガッ!


 俺も全力で駆けて行って、先頭にいた一体の顔面に跳び蹴りをくらわせる。

 よっし! まともにカウンターで入った!

 俺はそいつが後ろに倒れるその前に、左手に剣を出し、右手で抜刀。瞬時に柄を持つ位置を替え、二刀流のつもりで握る。一体目のすぐ後ろに並んだ残り二体の頭に向かって、


「ふんっ!」


 右のは剣で、左のは柄で、両手を交差させるように同時に攻撃。そいつらが走ってきた勢いを使ったナイスな戦法で、右の奴は口から上が切り離され、左の奴はなんか鈍い音と共に顔が変形して、三体がほぼ同時に地に転がった。

 俺はスタッと一体目の向こう側に飛び降り、血払いをして刀を収める。踵を返し、他三人がこっちに歩み来ているのを視界に入れ、


「で、何の話だったっけ?」

「任務の相方」

「あぁ、それそれ」


 何事も無かったかのように、話を戻す俺と矢鏡。

 うーん……慣れたなぁ、俺も。

 シンたちが俺に追いつくのを見計らって俺も歩き出し、特に意識してるわけではないが、自然とさっきと同じ並び方で移動再開。ついでに刀は消しておく。


 俺は説明を求めて三人を見やり、矢鏡とフィルがシンの背中を見つめていたので、俺もシンに視線を移した。こういうのは総大将であるシンに聞けってことだろうな。


「で、どうなの?」


 そう促すと、シンはにっこり笑って俺を見上げ、


「んー……じゃあ順番に話そうか。まず、任務は二人以上で行うことになってるの」

「うん」

「仲間の中にもいろんな人がいるから、当然相性の問題が出てくるでしょ?

 だから基本的に固定メンバーで動いてるんだよ」

「あぁ、それでエルナと矢鏡で固定だったってわけだな?」

「そう。ただ、任務内容によっては相方変えたり、増やしたりすることはあるよ。

 今回がそのいい例かな。フィルは控えメンバーだし、私がこうして一緒に行くこともほとんど無いからね」

「そうだったんだ……」


 最後の言葉に、俺は内心がっかりする。

 だってさー……それってさー……次の任務からは、シンと会う事がほとんどなくなるってことじゃん。連絡は通信機で出来そうだし……

 普通に考えて、神であるシンがいるのって天界だろ?

 で、どう考えても天界って死者しか行けないだろ?

 でも俺生きてるだろ?

 つまり、会う機会が全くないかもしれないってことだろ?

 多分間違ってないだろ?


 ――え? だろだろうるさい? 仕方ないじゃん……

 好きな人に会えるの、この任務が最後かもしれないんだぞ。

 ……まぁ、それでも俺は、シンのためになるなら頑張るけどな!

 全く会えなくなるわけじゃないし! …………多分……

 いや、もうよそう。このまま考えててもキリないし、更に落ち込みそうだ。

 賢明(ツッコミは無しだ)な俺はそう判断し、そしてふと、ある言葉を思い出す。


「そういえば、非戦闘員だってフィルも言ってたな……

 控えメンバーってそういうことか」


 因みに『補佐』と呼ぶのが正式らしい。基本的に天界で待機してて、臨機応変に対応するのがこのグループ。

 ついでに、バリバリ任務をこなすのが『主力』。エルナ(俺)とディルスはこっち。強い人のほとんどがこれに当たる。まぁそうだろうな。

 最後『術師』。さっきも説明受けたけど、本来の役割としては、人間でないと出来ないことをやるバックアップ専門の人たちのことを指すようだ。金さんとか。


「因みにさぁ、フィルはどんくらい強いの?」


 聞き忘れてたんで聞いてみた。


「僕? 僕は真ん中くらいかな。今の華月とあまり変わらないよ」

「そうなの? 強そうに見えるのに」


 正直にそう言うと、フィルは爽やかに微笑み、


「それはどうも。でも実際大したことないよ、君たちに比べれば。

 ――だから、いざという時は助けてね♪」

「おう!」


 俺はしっかり頷いた。

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