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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第3話 「次なる予感」
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3-2 人の地雷は避けて通るべし

 はい、皆さんおはようございます。華月京です。

 早速だけど。


「夢じゃなかったぁぁぁぁ良かったぁぁぁ……」


 朝日の差し込む部屋の中で、俺は一人、ベッドの上で悶えていた。

 これで昨日の出来事が全部夢だったら、俺はもう、厨二病だと言わざるを得なくなる……

 だが、現実だったからセーフ。ほっと安堵する俺。

 ……因みに。さっきのセリフはめっちゃ声を抑えて言った。何故なら――


 俺はちらっと隣を見やる。

 もう一つのベッドの上では、頭まで布団をかぶった矢鏡が寝ていた。寝方は多分、半胎児型。恐らく壁側を向いているのだろう。俺からは後頭部(金髪)しか見えない。


 こいつ……意外と朝弱いのかな……

 自慢じゃないけど、俺は結構強い方だ。目が覚めた瞬間から、意識がはっきりするからな。

 いつも通りがばっと上体を起こし、見慣れていない部屋を見渡して、今に至るわけだ。

 俺は布団を足元に追いやり、あぐらと腕を組む。


「さぁーて。どうすっかなぁー……」


 時計が無いから正確な時間はわからないが……恐らく、六時か七時くらいだろう。体内時計には自信あるから、多分あってると思う。

 ここが自分の家なら、身支度をした後に朝食を取るのだが、残念ながらここは異世界。腹が減っても、食堂に行かないとメシは食えないし、しかも俺は今無一文だ。

 俺はもう一度、ぴくりとも動かない矢鏡を見て、


「……シンとフィルは……起きてるかな?」


 思いついたから即行動。一応矢鏡に配慮して、なるべく音を立てないように移動する。部屋を出る前に洗面所に行き、鏡を見ながら身支度。つっても、服装はそのままだし、寝癖もないから、やることは少ないけどな。

 俺はこっそり部屋を抜け出し、対面のドアをノックする前に、


「おはよう、華月」


 少しだけドアを開け、シンが微笑みかけてきた。


「おはよ。……起きてたんだ」

「私は寝る必要ないもの。

 ――こっちに来てもいいけど、まだフィルが寝てるから静かにしてね」


 俺が、うん、と頷くと、シンは静かにドアを開け、俺を招き入れた。そのまま右の方のベッドに行き、ぽふんと腰掛ける。

 俺はドアが閉まるのを待ってから、そろそろと奥の方へ移動。フィルの横を通り、窓際のテーブル横にあるイスに座った。ちらっとフィルを見る。

 備え付けの枕はなく、代わりに左腕を枕にしていた。うつぶせで寝ているため顔は見えないが……壁側を向いているっぽいな。布団は顔までだった。


 でもうつ伏せかぁ……苦しくないのかな……。特に女性は――あ。フィルは平気か。

 昨日の殺気を思い出し、ふむ、と納得する俺。あれは恐かったなー……ほんと。

 あぁ、因みに俺の寝方は、王様型に近いらしい。親が言ってた。

 しばらくしてから視線をシンに移すと、シンはにこっと笑った。


「……ずっと起きてたんだよな? 暇じゃなかった?」

「平気だよ。慣れてるからね」

「……そっか」


 やっぱり神様なだけあって、かなり長い時間生きてるんだろうな……

 あ。そうだ。なんだかんだで聞きそびれたことがあったんだった。


「なぁ、矢鏡から聞いたんだけどさ……日本に戻る時は、俺が消えた時間と場所に戻れるんだよな?」

「んー……まぁ、出来るよ。制限時間があるけど」

「え。マジで?」


 思わず聞き返すと、シンは笑顔のままこっくり頷いた。


「場所はちゃんと指定出来るけど、時間は前後四年くらいしかずらせないの。

 だから、この世界にいる時間が四年以内なら、華月が転移してきた時間に戻せるよ」


 シンの説明に、俺は訝しげな顔をする。


「神様なんだから、過去とか未来とか……自由自在なんじゃないの?」


 そう聞くと、シンは少し困ったように微笑んだ。


「時間の流れを変えることは、誰にも出来ないんだよ。もちろん、私にもね……

 それに私、全知全能ってわけじゃないよ」


 そうかぁ……? 十分凄いレベルだと思うが……


「……何の話……?」


 いつの間にか目覚めていたフィルが、いつもより若干トーンの低い声で言った。むくりと体を起こし、完全に据わった目でこちらを見やる。

 おー……クールビューティー。朝からイケメンだな、フィル。


「おはよう、フィル」


 シンが笑いかけて言った。


「うん……」


 フィルはまだ少し寝ぼけているようで、ほけーっとした様子で返事をした。

 俺はフィルの方に顔を向け、


「今さー、シンが『自分は全知全能じゃない』って言ったんだけど……そうなのか?」


 フィルはこてっと首を傾げ、口元にうっすら笑みを作った。


「んー……? そうだなぁ…………全知全能ではないね……

 僕が初めてシンと会った時なんて、剣の使い方もわからないくらい、無知で無力な普通のお子様だったしねぇ……」

「へ……へぇー……随分はっきり言うんだな」


 間延びした口調で言うフィルに、少し驚く俺。

 自分の主なのに……すげーな。

 気にしないのかな、という軽い気持ちでシンを見ると、ばっちり目が合い、


「実際そうだったから」


 全く気にした風もなく、にっこり笑うシン。


「私はね、死んだ日まで、ほとんど家から出たことなかったの。

 だから、その時に知ってたのは、育ててくれた人が教えてくれた少しの言葉と、天界に来てから分かった通力とか術のことだけだったんだよ♪」


 …………?


「育ててくれた人――って、親じゃないの?」

「違うよ。私、生まれてすぐに捨てられたから」


 シンはにこやかに笑って答えた。いや……それ、マジで笑い事じゃねぇだろ……

 反応に困りまくって、苦笑いを浮かべて固まった俺を一瞥し、フィルがいつもの爽やかな笑みを浮かべる。どうやら、大分意識ははっきりしたようだ。


「まぁ、込み入った事情は置いといて――」


 フィルなりに気を使ったのだろう。さらりと流し、話題を戻す。


「知識が無いと困るから――ってことで、僕たち皆で、シンにいろいろ教えようって事になってね。その時はまだ、数人くらいしか天界にいなかったんだけど……

 シンは教えたことをすぐに覚えて、絶対に忘れない記憶力を持っていたから、あっと言う間に博識になったんだよ。

 ――だから、シンは全知全能ではないけど、それに最も近いとは思うよ」

「へぇー……」


「因みに、僕は医学と理学、エルナは剣術を教えた。ディルスはまだいなかったから、シンの勉強会には参加してないね。

 その頃はシンですら天界から出る方法を知らなくて、何もすること無かったから、丁度良い暇つぶしだったんだよ。育児みたいで楽しかったなぁ♪」


 にっこり微笑み、思い出を語るフィルに、シンも懐かしむように、そしてどこか嬉しそうにふふっと笑った。

 それを見て、俺は内心ほっとする。

 さっき、シンが過去を話した時に浮かべた笑みは、完全に作られた笑顔だったから……

 俺、やばいこと聞いちゃった……? って少し不安だったんだ。でも良かった……

 フィルが助け舟を出してくれなかったら、シンを傷つけていたかもしれない。


 助かったぜ、という意味を込めて、じっとフィルを見つめる。

 そんな俺に気付いたフィルは、ウインク一つを返してくれる。恐らく、俺の気持ちを理解した上で。

 さすがフィル。気付いてくれると思ったよ。

 心の中で、フィルへの賛辞を送りつつ、俺は俺で話を変える。


「――ところでさぁ、最初の話に戻るけど……この任務四年以内には終わるよな?

 こっちに来た時と同じ時間に戻れないと、マジで困るんだけど……」


 やや不安げに尋ねる俺に、フィルは不思議そうな顔をして、


「結構時間を気にするんだね。地球はそんなに厳しいところなのかい?」

「あー……まぁ、一日でも姿が消えようものなら、かなりヤバいことになるな」

「へぇー……。でも、その辺は心配ないと思うよ。時間がかかる任務はほとんどないし。

 死なない限りは大丈夫じゃない?」


 ベッドから足を降ろしながら、不吉なセリフを吐くフィル。

 俺は何とも言えない、複雑な顔をした。


「……一応聞くが……もし俺が異世界で死んだら、地球ではどうなんの?」

「えーと……その場合、地球では永遠に行方不明者になるね。死体は転移出来ないから」


 少しだけ、困ったような顔で答えるシン。それを聞いて、俺が心底嫌そうな顔をしているのを見た途端、


「あ! でも大丈夫だよ! 私が必ず守るから!」


 慌てたように付け足した。

 そのことばに、俺は不満げな目をシンに向け、


「その気持ちは有り難いけど……俺は守られる側より、守る側がいいの。

 それに、寿命だってあるんだぜ? 任務に行って、年取って帰ってくるのを繰り返せば、あっという間にじじいになるじゃん」

「あ、それは無いよ」


 しかし正論のはずの俺の言葉は、フィルによって、あっさりと否定される。

 ほんとだろうな?


「僕たちもまだよく分かってないんだけど……

 世界はね、個々で時間の流れ方が違うみたいなんだよ。時間軸上は大体同じだけどね。

 簡単に要約するけど――肉体の寿命は、生まれた世界で生きた年数だけ加算されるんだよ。つまり、他の世界にいる間は、全く歳を取らないようになってるんだ。

 ……まぁ、霊体には関係ない話だけど」


 訳を尋ねると、そう返ってきた。


「あー……? ってことはさぁ、元の世界に戻らなければ、不老不死ってことじゃね?」

「うん、そうだよ」


 まさかの人類最大(多分。望む人は少なくないはず)の夢、不老不死が身近に!


「でもねぇ……世界を渡れる人間は僕らの仲間だけだから、必然的に妖魔と戦うことになるだろうし……そんなに長くは生きられないんじゃないかな」

「そうなの?」

「霊体だと頭部を破壊されるか、首を落とされない限り平気だけど、肉体だともっと弱点増えるからね」

「あー……だからか。俺が初めて悪鬼と戦った時、矢鏡が『頭を狙えば一撃だから』って言ってたのは」


 初戦のことを思い出して、ふむ、と納得する俺。

 何故霊体だと頭が弱点になるのかは分からないが……まぁ、その辺はどうでもいいか。


「――さて、僕は身支度してくるよ」


 フィルはそう言い残し、洗面台の方に消える。

 俺はしばし、シンとたわいない話をして、ついでにちょっと大きな小銭入れみたいな赤い袋をもらった。中を開けて見ると、五百円玉サイズの金銀銅の円形と長方形の硬貨、計六種類がそこそこに入っていた。


 因みに単位は『ジール』。表記だと『J』が崩れた感じの文字だった。

 なんでも、ほとんどの世界では、このジールという硬貨が金銭として使われているらしい。


 世界や国によって、作成するときの表のデザインが違う(そりゃそうだろ)が、それは全く気にしなくて良い、とのこと。何故なら、矢鏡が言ってたバックアップの人(俺は金さんと勝手に呼ぶことにした)が、めんどくさいから、という納得の理由で、長い年月をかけ、表のデザインが違っても、裏の中央に書かれた『J』の文字と、硬貨の形と大きさが同じなら使えるようにしたからだって。


 方法はいたって単純。

 この通貨を発案したのが金さんだからだ。シンの力を借りて、多くの世界を渡りながら、作製した通貨を『表のデザインは自由』と伝え広めたらしい。

 地球でも広まっていれば、国際的に楽になりそうだけど……偽造問題とか起こりやすいだろうから無理だな。

 実際、地球にジールが流通してないのはそのせいだって。普通は、偽造する方が金がかかるからやらないそうだ。


 ――と、話が逸れたが――

 俺も少しは持っていた方がいいってことで渡された硬貨は、聞けば大きな家が建つくらいはあるらしい。

 やった! 脱・無一文! しかもいきなり金持ち!

 一応説明しておくが、大きい順から長方形の金銀銅、次に円形の金銀銅となる。

 丸い銅が一ジールで、銀になると十ジール――というように、一桁ずつ繰り上がる方式だ。

 俺は赤い袋……いや、サイフを消し、シンに礼を述べた。

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