表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第18話「気を抜いたら負けるぞ、今回」
112/120

18-2 気付くのが遅かったらやばかった

 あれから二十分ほど彷徨っただろうか。


 ぐねぐねと曲がりくねった道を進んでいた俺たちは、やがて通路の突き当り――大扉の前で足を止めた。

 ぴっちり閉じたその扉は鉄製で、長い間閉ざされたままらしく、隙間まで錆び付いて固まっていた。


 それだけなら、使われてない部屋だと判断してさっさと通ろうとするんだが……


「……なぁ」


 ちらっ、と横に立つ矢鏡を見やり、後ろには聞こえないよう小声で言う。


「いるよなぁ、なにか」


「あぁ、いるな」


 ジト目を俺に向け、同じく小声で返してくる矢鏡。


 部屋の中からは音もしないし臭いもしないし、なにかが動いている感じもしない。

 しかし、微かになにかの気配はある。

 一体だけか、あるいは複数かまではわからない。


 俺は扉を指差して、


「人の気配はしないから、目的の大部屋ってことはないよな?」


「そうだな。後ろの人間たちが言っていた使い魔の姿も見当たらないし。

 それに――こっちの様子を窺ってる感じがする。獲物が罠にかかるのを待ってるってところか」


「え、マジ? 矢鏡はそこまでわかるのか。すげーな」


「慣れってやつだな。

 きっと華月も、もうすぐわかるようになるよ。向けられてくる害意とか、敵意とか」


 そこまで言うと、矢鏡は踵を返して後ろを向いた。

 釣られて俺も視線を動かせば、アドラさんたち含め、全員が怪訝な顔で俺たちを見ていた。


 あ、そっか。

 すぐ倒しに行こうと思ってたけど、ちゃんと話さないと……


 矢鏡は扉を指差して、


「敵がいる。片付けてくるから、君たちはここで待っていろ」


「て、敵……?」


「化け物が……中に……」


 率直に告げた矢鏡のことばに、彼女たちはざわつき、不安そうに顔を見合わせた。


 あーうん、そりゃあ怖がるよなぁ。さっき襲われたばかりだしなぁ。


 しかし矢鏡は彼女たちのことなどまったく気にしたふうもなく――というより完全スルーしてアサギとケイに視線を移し、


「念のため華月と俺で行ってくる。

 アサギ、ケイ。こっちは任せる。異変があれば連絡してくれ」


「あぁ」


 真剣な顔つきで答えるアサギと、強張った顔で頷くケイ。

 アサギはすぐに彼女たちに指示を出した。


 みんな揃って通路を少し戻り、離れたところで座り込む。そしてアサギは手前の方、奥にケイという形でアドラさんたちを挟み、各々武器を現わした。


「ご武運を」


 アサギが言って、矢鏡も俺に視線を移し、右手に杖を現してから小さく頷いた。

 準備完了ってことだな。


 なら早速――と行きたいところだが、その前に。

 ちょっと気になることがある。


「なぁ矢鏡」


 俺も右手に刀を現わして、軽く首を傾げる。


「お前もこっちに残った方がいいんじゃないか? 戦力的に。

 横とか下からアドラさんたちが襲われたらやばいんじゃないの?

 アサギたちは敵の速さについていけないんだろ?」


 アドラさんたちに聞かれたら多分めちゃくちゃ不安にさせるだろうから、矢鏡だけに聞こえるよう小声で訊いた。どーでもいいけど俺さっきから小声でしか話してないな。


 通路の壁も床も堅そうな石のブロックを使って作られてはいるが、そのどれもがボロボロでひび割れており、開いた隙間からは土やら砂やらがにじみ出ているのだ。俺が軽く小突いただけで壊せそうな状態なんだから、どこから敵が現れてもおかしくないだろう。


 それで心配して言ったのだが、矢鏡は無表情のまま淡々と、


「これくらいの距離なら感知出来るから問題ないよ。入り口から離れすぎなければ、だけど。

 それに、部屋の中にいる敵がアサギたちを攻撃しようとした場合、見えていた方が対処しやすい」


「あー、そういうことか。

 てーことは……護りは矢鏡に任せていい?」


「あぁ、華月は攻撃に専念してくれ。その方が戦いやすいだろ?

 俺は様子を見ながら、余裕があれば加勢するよ」


「わかった。ならそっちは頼んだぞ、矢鏡」


 そう返し、俺はゆっくり静かに息を吐いてから扉の片方に手をかけた。


 錆び付いてはいるが、俺がほんのちょっと力を入れたら、ミシッだのベキッだのと音を立てて奥へとズレる。わずかに隙間が出来たところで中を覗き、敵の姿が無いことを確認してから押し開ける。なんとなく全開にするのは良くない気がして、半開きで止めることにする。留め具まで錆びているせいで、手を離しても勝手に閉まることがないのは有難い。開いたままならこっちの音がアサギたちに届くからな。


 俺はきょろきょろと周囲を観察しながら慎重に中に入った。続く矢鏡。


 またしてもだだっ広い部屋だった。アドラさんたちと会ったあの部屋と同じくらいの大きさで、天井の高さも明るさも同じ。

 ただ、地面は違う。砂と土がまばらに混ざっているし、歩きにくいほどではないが畑の土のようにやわらかい。

 コケまみれの太い四角い柱が何本も左右に並んでいることと、枯れた雑草のようなものがあちこちに生えていることも違う点。

 それと、正面の壁にある別の扉。


「見てくる」


 俺は振り向きもせずに言って、警戒しながらど真ん中を歩いていく。

 意味を察してくれた矢鏡は、入り口の傍から動かなかった。


 一歩、二歩、とやわらかい土を踏みしめて、刀を握る左手に少しだけ力を込める。


 ふむ……

 さっき矢鏡が言っていたのはこれのことか……


 部屋に入るまではわからなかったが、確かに嫌な雰囲気だ。

 どこからか見られている気もする。多分、地面の中かな。

 入ったのが普通の人なら、トラップ部屋だと気付かずに、何もない部屋だと安心して通ろうとしていただろう。アドラさんたちのように。


 だが俺は、俺たちは普通じゃない。

 向こうが仕掛けられるタイミングを待っているように、こっちは仕掛けてくる時を待っている。

 まだ人質部屋も見つけてないんだ。こんなところでもたもたしてられない。


 変に警戒されないよう、念のため殺気は抑えている。

 時間がないからと焦りそうにもなるが、それもなんとか抑えつける。

 だから早く仕掛けてこい。


 今か今かと思いながら、ゆっくりと歩を進める。

 部屋の中心まであと半分というところで――




 ――来た。

 思った通り真下からだ。




 轟音と共に俺ごと土砂が吹き上がる。

 俺の視界は百八十度回転し、床より天井の方が近くなった。


「おぉ」


 上下逆さまのまま床を見れば、ばかでかい木の枝(俺の胴体より太いから枝じゃないかもしれない)が地面から何十本も突き出ていた。その内の何本かが俺の周りを囲むように伸び、一本が俺の右足首に絡みついている。


 トラップの中でも有名な、ロープで木に吊るされるやつに引っかかった気分だ。怪我する感じの奴じゃないからって避けなかったのは俺だけど。


 伸びた枝に引っ張られるかのようにして、続いて本体も姿を現す。複数の枝を絡ませて円筒形にしたような見た目だった。その上面から、まるで髪の毛のように枝が生えている。少し前の部屋で見たイソギンチャクっぽい抜け殻とそっくりだ。大きさは全然違うけど。抜け殻は大人二人分くらいのサイズだったが、こいつは本体だけでも俺の家くらいある。


 それが三体。俺の真下に一体、次の扉の前に一体、視界の端で突っ立ったままの矢鏡の前に一体出てきた。


 アドラさんたちを襲っていた妖魔と同じくらい素早いが、今回は助けなきゃいけない人もいない。油断しなけりゃ大丈夫。


「よし、あとは倒すだけだな」


 小さく呟いて、俺は勢いよく抜刀しながら周囲の枝を切り刻む。支えを失ったため落下するが、その間に鞘を消し、足に絡んだ枝を投げ捨てて余裕で着地。



 ――の、予定だったが。


「――っ!」


 斬った途端、斬られた枝たちが俺の胴体目指して一直線に伸びてきた。どうやら刺し殺すつもりらしい。


 俺は即座に鞘を消し、刀を振り回す。枝の硬さは普通の木の幹くらいかな。

 だが、枝たちは斬っても斬っても伸びてくる。次から次へと伸びてくる。

 俺の足に絡まっていた枝もとっくに斬って外しているが、向かってくる枝たちの勢いがすさまじいせいで宙から降りられん。


 矢鏡は正面に立ちはだかる別の一体から攻撃されており、槍のごとく突き出される枝を軽やかに避け続けている。それも入り口付近から離れないように、かつ入り口の方に枝がいかないように。上手いこと誘導し、杖で弾いて軌道を変え、あまり飛んだり跳ねたりはせずに無表情で躱している。やるな矢鏡。


 因みに残りの一体は枝をうねうねさせているだけで動き出さない。


「なんだこれ、どっから生えてきてんだ? 百メートル……いや二百メートルは斬ってるぞ? おかしくね?」


 下を見れば、俺を攻撃している奴の周りに、俺が斬った枝がどっかんどっかん降り積もって山を作っている。もうすでに本体部分より山の方がでかい。こんだけの量があの体に収まっていたとは思えないんだが……


「忘れたのか、華月。幻獣には秘力がある。これはそいつらの技だ」


「あ! そっか! 幻獣も魔法使えるんだったな!」


 じゃあどんだけ伸びても不思議じゃないな。

 おーけー、謎は解けた。

 倒そう。


「行くぞ!」


 笑みを浮かべて気合を入れ、斬るのをやめて枝を弾く。それから、勢い余って天井に突き刺さる枝たちを足場に使い、身を低くして本体へ突っ込む。

 けど、上面から斬るのは枝が邪魔で難しいだろう。


 故に、本体にある程度近付いたところで枝の間から外に飛び出し、たまたま進行先にあった近くの柱に着地。直後に柱を蹴って、真横から本体に斬りかかる。


 だが――


 べぎんっ


「えっ」


 横薙ぎは出来ずに終わった。


 強化してあったにもかかわらず、日本刀が根本から折れて飛んでいってしまった。本体にはちょっとした切り傷が付いただけである。


 うっそまじかよ、と心底驚いてその場で固まりそうになったが――天井を刺していた枝たちが向かって来たので慌てて後退する。刃の無くなった刀ではもう斬れないが、ポイ捨てはよくないので一応消しておく。


 続々と刺してこようとする枝先をひょいひょい避けつつ、ちらちらと矢鏡を見やり。


「矢鏡! こいつやばいぞ! 超かてぇ!

 自惚れじゃないはずだけど、俺が斬れないって相当やばくね⁉」


「やっぱりヘルが複製したやつじゃダメだったか……

 華月、多分心配ないよ。

 硬いのもあるだろうが、刀の方が華月の力に耐えられなかったんだと思う。量産型の日本刀っぽかったし」


 あ。そういや、ヘルが言ってたな。頑丈じゃないから注意しろって。

 やっぱりシンから貰った刀、すげー良いものだったんだなぁ。


「でもさー、同じ刀があと四本と、木刀一本しか持ってないぞ」


「じゃあ、燃やしてみるか」


 そう言って、矢鏡は扉まで大きく退って杖を回した。


 途端、矢鏡の頭上にいくつもの赤い円が現れる!

 直径五メートルくらいのその円はすぐに魔法陣へと形を変えて――


「〝フラガン〟!」


 矢鏡が発するのと同時に、植物たちの本体部分からぶしゃーっと白い霧が噴き出す。

 火を防ぐために水出したのかな、と考えながら俺は霧を避け――


 次の瞬間、魔法陣から一斉に炎の柱が射出された。


 そして、


「げっ⁉」


 大爆発が起こった!

 なんで⁉


「おわぁっ!」


 爆風によって吹っ飛ばされ、危うく壁に激突するところだったが、ぎりぎり体勢を整えられて両足で着地出来た。そのまま地面に降り立ち息を吐く。


 爆発する直前、一瞬早く飛び退いていたおかげで丸焦げは免れたが、咄嗟に頭をかばった両腕はちょっと焼けてひじょーに痛い。すぐさま回復をかける。


 その間に周りを見れば、矢鏡がいた場所に大きな氷のドームが出来ており、天井を支える四角い柱は何本か吹き飛んでいた。


 対して敵三体は何事もなかったかのようにぴんぴんしている。


「すまない華月! 無事か⁉」


 氷のドームが砕け散り、焦った様子で矢鏡が叫ぶ。

 一度相談した方が良いと思い、敵が再び動き出すより先に、俺は素早く矢鏡に駆け寄った。


「ちょっと焦げたけど治したから大丈夫。

 それより、爆発するなら先に言ってくれよ。びっくりしたよ」


「本当にすまない。

 けど、今のは炎を放出する術であって、爆発するものじゃないんだ」


 俺と同じく視線は敵に向けたまま、弱ったように言う矢鏡。


「じゃああれか、敵が霧みたいなの出してたけど、それが爆発するものだったってことか」


 言われてみれば確かに、一直線に発射された炎が霧に触れた途端に爆発していた。

 つまり、普通の霧ではなかったということだ。

 触れたら燃える水なら前回の任務で見たしな。それと似たようなものなのだろう。


「引火性の高い液体なのは間違いないな。面倒な植物だ」


 淡々と、無表情で矢鏡が言った。

 俺は、ふむ、と頷き、


「とにかく、火は効かないってわけだ」


「雷撃系も効きそうにないし、硬いならあまり効果は無いと思うが氷系で攻撃するしかないな。

 華月は直接殴るか蹴るかでいいんじゃないか?

 刀が脆いだけで、君の力ならきっと効く……」


 矢鏡はそこでことばを切った。

 植物たちが動き出したからだ。



思ったより長くなったので中途半端で切ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ