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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第16話「ヒロイン大集合」
105/119

16-6 フィルとヘルは優秀な補佐である

 フィルに助けてもらいつつ、なんとか一晩乗り越えて。


「……なにしてんの?」


 明るい光の差し込むリビングのソファーに足を組んで座る俺の正面で、変なポーズを取っているヘルに向かって訊いた。


 ヘルは右手に持った手のひらサイズの楕円形の板(上半分は透明で、持つところらしい下半分は白色)を、俺に見せつけるかのように近付けたり角度を変えたりしている。



 肉体を作り変えた後遺症か、俺は人生で初めて寝坊した。起きたのはついさっき、ほぼ正午といっていい時間。矢鏡が用意しておいてくれたパンが朝食。


 現在、この場には俺とヘルしかいない。


 アサギとケイは外に張ったテントの中。『寝食の用意はあるので大丈夫です』と言って、家に泊まるのも、夕飯も朝飯も断られた。風呂とトイレはさすがに借りにきたが、それ以外は引きこもって出てこない。ヘル曰く、ケイがフィルを邪魔しないよう見張っているらしい。


 矢鏡とフィルは朝飯後、簡単に診察をしてから出かけたらしい。離れた場所で、まずは矢鏡の身体チェックをしているそうだ。


 矢鏡が終わったら次はアサギで、最後に俺。なので、順番が来るまでは待っていなければならない、というわけだ。しかも運動しちゃダメだとフィルのストップまでかかっている。


「えー……あー……」


 呻くだけで答えることなく、まるで虫メガネのように板を前へ左右へと動かすヘル。板から何度もカチカチと音が鳴り、それからにんまり笑う。


「いやー、すみません。あんまり会えないので今のうちに、と。先日も少し話をしただけで別れちゃいましたし」


「昨日からずっとやってるよな。つか、質問の答えになってないんだけど。

 それ何なの? 虫メガネ? なんで俺に向けてくんの?」


 眉根を寄せてもう一度聞けば、ヘルは視線をそらしてしばし悩んで、


「あー……うーん……

 まぁ、もう教えてもいいでしょう。

 実はこれ、わたしの時代の超高性能小型カメラです」


「ほー。カメラなんだ、それ。レンズないし、全然カメラに見えないな」


 感心してそう返し、それから気付く。


「あぁ、写真撮ってたのか」


「……あれ? 嫌がらないんですか?」


「写真くらい別に。ネットにアップされるのはまずいし、目立つの嫌だし、悪用されるかもしれないから、地球じゃ絶対に映らないよう避けてるけど……

 ヘルは悪用したりしないだろ?」


「それはまぁ。やるとしてもシンや仲間に見せるくらいでしょうか。

 でも華月は気にしないんですね。エルナは嫌がって撮らせてくれなかったので、てっきりあなたも同じなのかと」


「嫌がった?」


 なんでだろ。仲間に見られるくらいなら別にいいと思うんだけど。


「ところで華月、昨日も言いましたけど……」


「何?」


「あなたは今は女の子なんですから、口調を女性らしくして、一人称を『俺』でなく『わたし』にしてください」


「い・や・だ。そこまで徹底する必要ないだろ。矢鏡だって口調そのままだし。なんで俺だけに言うんだよ」


 不満げに返すと、ヘルは俺の前まで歩み寄り、カメラを目の前に突き出してくる。


「これはわたしの時代の技術で、リコゼにも応用されているほどのものです。

 専用の器械に接続すると、まるでそこにいるかのような立体的な映像が現れるんです。しかも前後五秒ずつ動かすことが出来ます。もちろん音声も入りますし、五分までならムービーも撮れます。映せる範囲は一部屋分くらいですけどね」


 そこまで言うと元いた場所に戻り、こっちを向いて口だけで笑う。


「さて、さきほどの問いの回答ですが――

 わたしはあなたのファンだから、です。あなたが多少変わっても、わたしがファンであることは変わりません。その程度で冷めるような情熱ではないのです。


 どんなあなたも好きですので、別に『俺』と言ってても男口調でも良いんですが、それは昨日撮らせてもらいましたからね。今日は女性バージョンが撮りたいと思っただけです。


 欲を言えば、いろんな衣装に着替えてもらって、いろんな写真を撮りたいくらいなんですよ。これでもいろいろと我慢してるんです。少しくらいわがまま言ってもいいじゃないですか。


 それと、ディルスにはまったく興味ありません。なので心底どーでもいいです。

 シンとフィルなら、あなたの次に好きですけど」


 俺は思わず固まった。


 あんまり頭に入ってこなかったが、さすがに『ファン』だとか『好き』だとかいうことばは聞き取れた。


 まさかこんなに堂々と言われるとは……


「生前から勇ましくて強くてかっこいい女性が大好きでしてね。特にエルナはドストライクで、もしグッズがあるなら全種類コンプリートしたいですし、コンサートとか開こうものなら最前列でフィーバーします。それくらい好きです。


 ……正直にぶっちゃけますと、あなたが男性になったと知った時はとてもショックでした。わたし、男性には興味なかったので。


 ですが……ぜんぜん大丈夫でした。あなたなら男性であっても問題ありません、萌えられます。前と変わらずすごく萌えます。以前言ったように、男性なのはもったいないとは思いますけどね。


 しかしこれでも、生前は二次元にしか興味無かったんですよ。けれど天界は二次元が三次元に出てきたような場所でしたからね。アイドルファンの気持ちがとてもよくわかりましたよ。

 ――とまぁ、そういうわけで、実は今結構テンション上がってます。ハイテンションです」


 は、話長げぇー。ぜんぜん覚えられん。とりあえずヘルにとって俺はアイドルみたいなもので、今ハイテンションってのはわかった。


 でも……ハイテンションかぁ……

 表情筋もあんまり動いてないし、声も棒読みに近いんだが……


「そう言う割には淡々と話すんだな。最初に会った時もふつーだったし。よく知らないけど、好きなアイドルと話す時ってもっとこう……緊張するもんじゃないの?」


 問えばヘルは一瞬黙り、それからふふっと小さく笑ってパタパタと手を振った。


「あー最初はそうでしたよー。緊張でまともに喋れなかったです。

 ですが二、三年も経てば、さすがに緊張はしなくなりますよ。お願いもわがままも言えるようになりました。


 あ、そうそう。気付いているかもしれませんが、アサギもあなたの大ファンですよ。

 昨日は『尊敬してる』なんて軽い言葉で返してましたが、実際はシンと同じくらいあなたのことを〝崇拝〟しています。敬語を使うのもシンとあなたの前だけです」


「……ほーん」


 崇拝……なるほど、だから堅苦しい反応なのか……


 そういや昨日の夕飯の時にやっと聞けたのだが、ケイが俺を嫌っているのは、俺とフィルの仲が良いからだって。俺はふつーに友人同士って感じだと思うんだが、それでも相当羨ましいらしい。なんでも、ケイはいつからかフィルに嫌われてしまい、それ以降邪険に扱われているそうだ。だからちょっと仲良くしてるだけでも嫉妬するんだと。


 因みにフィル曰く、センリよりはマシだけど、鬱陶しくて煩わしいから嫌い、とのこと。


 昨晩そう答えたフィルの爽やか笑顔を思い出していると、


「淡々と、とは……あなたに言われたくないですね」


 ぼそっと呟き、ヘルは視線を窓の外――アサギたちのいるテントの方へ向けながら、


「華月こそ、淡々としているじゃないですか。

 わたしが好きだと、ファンだと言っても。アサギも同じだと言っても。

 普通なら喜ぶところでしょう?」


 ふてくされたように言ってから俺の方へ向き直る。


「まぁ、理由はわかっているので深追いはしませんが。

 ひとつ言うなら、エルナが好きだからあなたが好き、というわけではありません。あなたがあなたであるがゆえに好きなんです。つまりあなたであればいいんです」


 俺は十秒ほど考えて、


「……ごめん、よくわからない」


「大丈夫です。きっといつか、なんとなーくわかりますから。

 ――それはさておき」


 ヘルはにっこり笑うと、カメラをさっと構えた。


「女体化を初体験すればさすがに照れるだろうと楽しみにしてたんですが、結局照れなかったから撮れなかったんですよね。

 華月、どーすれば照れてくれます?」


「えっ。照れ……?」


「ドン引きしないでください。言ったじゃないですか、いろんな姿を撮りたいって」


「聞いた。聞いたうえで言う。知らん。

 つか、そーゆー変なこと言うなら撮らせないぞ。エルナもそれで嫌がったんじゃないの?」


「あ、バレましたか」


「図星かよ」


 呆れて言って、ふと気付く。


「なぁ、もしかして、シンとリンさんの写真もある? あったら見たい」


「ないですよ」


 即答。がくっと肩を落とす俺。

 ヘルはふふっと笑い、人差し指をぴっと立て、


「シンと魔王さんは規格外なんです。実体化していても、あらゆる記録媒体に映りません。どうやっても不可能なのです。わたしたちとは違って」


「え、そうなの? てーことは……」


 俺は右手に、術でしまっておいたリンさんの絵を現した。


「これ、すげー貴重?」


「そっ⁉ それはセンリの⁉」


 俺の右手をがしっと掴み、声を荒げて目を見開くヘル。


「なんで持ってんですかっ⁉ よくあのへそ曲がり偏屈反抗期から貰えましたね⁉」


「矢鏡が交渉してくれて、ゴッホ写真集と交換してくれた」


「あぁあの有名な。そんなの用意してるとか……さすがディルス。

 しかし本当によかったですね、華月。シンと魔王さんをそんなにキレイに描けるの、この世でセンリだけですよ。しかも彼は気が向かないと描かないし、描いても隠してしまうので、入手難易度めちゃくちゃ高いんです」


「おーけー、超大事にする」


 俺は真剣な表情で大きく頷き、すぐに絵を物質召喚でしまった。

 それからヘルはカメラを消して、


「あ、そういえば――

 フィルに聞いたんですが、華月、武器を失ったらしいですね」


「あぁ……」


 三分割された大事な刀を思い出し、怒りと悲しみが蘇ってくる。


「シンは今、ちょっと手が離せないので、代わりはわたしが用意しましょう。どうぞ使ってください」


 正面のガラステーブルの上に木刀一本と日本刀五本を並べ、


「ひとまずこれくらいでいいですか? もう少しいります?

 いくらでも――とまでは言えませんが、十や二十なら創れますよ」


「おぉ……! いいのか、もらって」


「もちろんです。けど注意してください。シンのとは違ってただの日本刀の複製なので、あんまり頑丈な物ではないです」


「わかった。ありがとう」


 礼を述べ、有難く受け取った。


 敵のロボからぶんどった鉄パイプは、すでにヒビが入ってたからな。今回は素手で頑張ろうと思ってたが……


 ヘルがいてくれて良かった。






 昼前に矢鏡が返って来てアサギと交代。昼飯後、しばらくしてからようやく俺の番がきた。


 フィルの後に続き、家から一キロほど離れたところで開けた場所に出た。そこで身体チェックをするという。


「じゃあ、始めようか」


 爽やかに笑うフィルの指示に従い、まずは軽く体操。次に木刀でゆっくり素振り。次に肉体強化無しでダッシュ。次に強化有りでダッシュ。


 結果、一時間もかからずにチェック終了したのだが――


 運動してみてよくわかった。

 いつもより動きにくい! めっちゃ胸気になる! 超邪魔!

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