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Night  ~Eternal friendship~  作者: karuno104
第16話「ヒロイン大集合」
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16-3 嫌な予感がぱねぇ

「はっ……」


 ふと気が付けば、真顔のヘルが俺の顔をのぞき込んでいた。


「あ、気付きましたね」


 安心したように言うと、ヘルは一歩右に動いた。


 真正面にいる、嫌そうな目をフィルに向けていた矢鏡と、やけににっこにっこ笑ったフィルが俺の方を向く。


 ……ん? 今一瞬、フィルの手に白と赤の布が見えた気が…………いや、気のせいか。よく見たら何も持ってなかった。


「華月、大丈夫か?」


 心配そうに矢鏡が聞いてくるが、その意味がわからず俺は首を傾げた。


「……? 何が?」


「何がって…………だってさっき……」


「さっき? なんかあったっけ?

 ――あれ? つか、なんで外にいるんだ? 玄関で話してたはずじゃ……」


『…………』


 俺がそう言うと、矢鏡とヘルは困惑したように顔を見合わせた。


 そこでやっと気付く。左側、離れたところに見たことないやつが二人いる。俺を睨みつけジタバタ暴れているピンク髪の少女と、必死に少女を抑えている黒髪の勇者っぽいおじさん。


 俺は二人に目を向けて、


「あー……もしかして、合流相手?」


「えっ……あ、はい」


 答えはしたが、なぜか狼狽えまくっているおじさん。落ち着きがない。


 つーか、なんで少女は俺を睨んでいるんだ……?


 と、疑問に思ったところで。

 んんっ、とフィルがわざらしく咳払いする。


 全員の視線を集めたフィルは、普段通りの爽やか口調で、


「ごめん華月。僕が悪いんだ。

 さっき困ったことがあって、間違って君に薬を打ち込んでしまってね。記憶を失わせる効果じゃなかったはずなんだけど……調合失敗してたみたい。

 だから、ごめんね」


 謝ってはいるけど笑顔のせいで反省しているように見えない。別にいいけどさ。


 続いて、手をぽんっと打ったヘルが、


「そうなんですよ。それで、立ったまま気絶してたんですよ華月は」


 俺は少し考えて、


「えーとつまり……ちょっとだけ記憶喪失?」


「そう」


 即答するフィル。


 矢鏡が困り顔のままなのが気になるが――


「なるほど、そういうことか」


 俺は素直に納得することにした。細かいことーは気にしなーい。


「でも気絶かぁ……初めてしたよ、気絶。気付いたら寝てた、みたいな感じなんだな」


 地味に感動している俺を、おじさんが何か言いたげな目で見てくる。

 そうだ、彼らのことを聞かないと。


「それじゃあ、落ち着いたみたいだし、二人の紹介も含めて一通り話すね♪」


 質問する前に察してくれたフィルが、いろいろ説明してくれた。さすがフィル。


 まず二人の紹介を簡単に。


 おじさんはアサギ、少女はケイという名前で、二人とも今は人間に転生しているが術師ではなく主力らしい。コンビ名は〈熱岩(ねつがん)〉。アサギの特性が〝岩〟で、ケイが〝熱〟だからだって。コンビ名はわかりやすさしか重視しないんだと。


 因みに、エルナと矢鏡は〈夜〉だったらしい。理由は聞かなくてもわかる。エルナ(俺)が〝月〟だからだろう。


 また、ケイは主護者の中ではものすっげー稀な存在――恋心を抱いている者である。お相手はフィル。一目惚れだって。しかもフィル以外見えないレベルの超ベタ惚れ。ケイが女性なので、フィルを男性として見てるのかと思ったが、ちゃんと女性として好きらしい。


「恋愛感情というのは生者には必要なんでしょうけど、私たちは死者ですからねー。生き物のレールから外れた時点で、本当に不要なものになるわけですよ。


 だからなのかはわかりませんが、死んで霊体になると、生きていた頃にはあった本能とか欲とか、生きるために必要だったものが消え去るんです。自然消滅ってやつですね。


 だから、滅多にいないんです。消えるはずの不要なモノを持っている者は。

 あぁもちろん、感情や好みは消えないですよ。それはまた別ですから」


 と、ヘルは語った。


 長くてよくわからなかったが、とにかくケイは俺と同じ〝恋してる仲間〟だということだ。


 俺たち(というより俺)の事情は合流する前にシンから聞いてるそうなので、こっちの話は省略。


 それからアサギ曰く、


「先に、正直にお伝えしますが――

 主力とはいえ、私たちの実力は中級が倒せるかどうか、という程度です。なのでその……大した戦力にはなりません。ですが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」


 とのこと。深々と頭を下げて。


 畏まらなくていいのに、と言ったら、エルナのことを心底尊敬しているから、と断られた。


 逆に、ケイは俺を嫌っているようで、


「けっ!」


 とそっぽを向いて、目線さえ合わせようとしない。理由は後で教える、とケイ以外のみんなに言われた。


 次に任務について。

 フィルがすっげー上機嫌な訳はここにある。


 目的は、ダンジョンごと荒野の真ん中に移ってきた魔族(強さは中級と予測されてる)の討伐、及び近くの国々から攫われた人間たちの救出。但し、最低でも一週間以上経過してしまっているので、その人たちが生きてる可能性ははっきり言って超低い。全員を助けることは出来ないだろう、と二人ともとても悔やんでいる。


 なんでも、敵の拠点は半球体の膜で覆われていて、ケイは普通に入れたのだが、アサギは弾かれて入れなかったらしい。ケイだけで討伐に行くのは危険すぎるため、仕方なく撤退することになったのだ。


 ここで疑問が二つ、とフィルが指を二本立てる。ピースではない。


 一つ目。前提として、人里はシンの結界によって護られているので、妖魔が入るためには結界を壊さなければらないのだが――今回の敵は壊すことなく結界内から攫ったという。むろん、シンに落ち度はない上で、である。ではどうやって攫ったのか。


 二つ目。なぜ敵の拠点にアサギだけ入れなかったのか。最初は分断するためだと思われたが、中に入れたケイがすぐさま外に出られたことから、その線は消えている。


 ただ、アサギ曰くどちらも予想はついているらしい。敵地に着く前に、行方不明者が多発していた国に立ち寄り情報を集めていたおかげだって。


 一つ目の方は、幻獣が協力している可能性が高い、とのこと。基本的に中立である幻獣は、シンの結界に弾かれることはないし、シンに通知がいくこともないらしい。フィルもこれに同意。


 そして二つ目。これが重要かつ大問題。

 シンに詳細を話さずに救援要請だけ出したのは、完全にこのせいである。


「男はだめぇぇ……?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。


「確定してはいないのですが……

 調べた限り、被害者は全員女性だったんです。そして女性のケイは入れましたが、男である私は入れませんでした。

 ならば、その可能性が最も高いと考えられます」


 弱ったような顔ではあるが、はっきりと答えるアサギ。


「割といますよ、性別を気にする妖魔。私たちと違って妖魔は欲まみれですし」


 ヘルはそう言って、アサギの予想に一票。

 矢鏡とケイは無反応。


 …………む? 待てよ、おかしくね?


「いや、ちょっと待て」


 俺は思いっきり眉間にしわを寄せ、自分を指差す。


「女性じゃないと入れないって話だよな?

 けど、俺も男だぞ? 矢鏡もだし。

 俺たちを指名したらしいけど、それなら俺たちじゃない方がよかったんじゃね?」


「それは……

 エルナ殿が女性でしたので、てっきり華月殿も女性なのだと……」


 後ろ頭を掻きながら、すみません、と謝るアサギに、謝んなくていいって、と返してから、


「じゃあ、どーすんの?」


「そこで♪ 僕の出番、というわけだよ♪」


 その問いに答えたのは、心底楽しそうなフィルだった。


 俺は思わず矢鏡を見た。

 矢鏡は嫌そうな顔のまま、無言で首を横に振った。


 諦めろ、ということらしい。

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