後継者の育成も大変な様です
夕飯を終えて数時間。
外はすっかり暗くなり、闇夜に輝く月が照らす博麗神社はどこか儚げで。灯篭や本殿の居住空間から漏れて見える光源が、その場を幻想郷の中でもまた更に幻想的な光景を生み出していた。
十八になった霊夢ちゃんの後継ぎとして、次世代の博麗の巫女として選ばれた霊歌ちゃんは四つとまだまだ幼く、お昼の修業中に顔を出すと落ち着かなくなる理由から夢の世界へと旅立っている時間帯に僕はお邪魔させてもらった。
それはそうと亜空間移動が三年前から出来る様になった僕は紫姉さんが持つそれに似た能力を身につけたのではなく。空間にスキマの穴を開けたのは本来の能力として物事に干渉する力が覚醒して、紫姉さんのスキマ移動に似た感じで空間に干渉して使ったから出来たと言う事だった。
干渉する程度の能力。能力とは成長するものなのか理解した訳では無いけれど、程度と言う言葉で気持ちだけでも制限をしなければ何でもやれ過ぎてしまうので正直僕には過剰な能力だと思う。
目覚めてしまったものは仕方がないとして、自身の能力と向き合って扱える様に努力を続けた結果とは別に、ただ単に勝手知ったる他人の家の言葉通りに慣れた動作で屋内に入り居間まで向かえば、少し大人になった霊夢ちゃんが出迎えてくれた。
ちゃぶ台の上に飲みかけながらも湯気が立つお茶と片手に食べかけのお煎餅を持って。……夕飯足りなかったのかな?
「やぁ、遅くにごめんね」
「ううん、そろそろ太助さん来てくれるかなって」
否定の言葉通りにその表情は優しく、自分の身体的な成長は棚に上げておいて、再会してからたった三年でこうも少女は女性になれるんだなと思った。
そんな女性になった霊夢ちゃ……いや、ちゃんって歳じゃないから呼び捨てにしてほしいって言われたんだっけか。
女性になった霊夢は優しげな表情から、はぁ、とため息を一つ。呆れた表情で自分の部屋で眠っているであろう霊歌ちゃんの方に顔を向けた。
「時間が遅くなるのは太助さんが悪いんじゃなくて、太助さんが来ると集中力が駄目になる霊歌が一番駄目なのよ。太助さんの方にばかり意識が向かって修行にならないわ」
「その点、霊夢ちゃ、霊夢は僕が顔を出すといつも以上に気合が入っていたとは紫姉さんからよく聞いてたけどね」
「そりゃだって、太助さんの前では良い格好で居たいじゃない」
「……そうだね。そうだった。思い出せば修行をしている霊夢はいつも格好良かったよ」
思い返してみればと、素直に褒めてみれば僕の言葉に、でしょ? と嬉しそうにする霊夢。
「それにしても早く次世代の巫女から今代の巫女になってもらわないと困るわ」
「仕方ないよ。霊夢だって四つの頃はまだまだだったでしょ?」
「それはそうなんだけど……ね!」
僕の言葉に判ってるんだけどと返した霊夢は両腕を伸ばして後ろに倒れる。修行の賜物と言うべきか後頭部を畳にぶつける様なドジはしなかった。
天井をじぃっと見つめながら、霊夢は言葉を続ける。
「だって、早く世代交代して博麗の巫女を現役引退出来ないと私」
今度は、少し表情を歪めてうあぁぁぁとうめき声を出し始めたよ。
「いつまで経っても太助さんと一緒になれないぃぃぃ」
手足をバタバタとさせてうめき声がうがぁぁぁ! と唸り声になったよ。
「そりゃまぁ、博麗の巫女が一つの勢力に肩入れしたらいけないからねぇ。何だかんだ言って僕は八雲だから」
そうそう。二十歳になった僕は、十八歳になった霊夢の告白を受け入れていたのでした。
早苗ちゃんは独立出来る立場じゃなかったからごめんとは言っておいたけど、東風谷一家の目線がなかなかどうして、隙あらばって感じで内心怖い所です。
「他の奴らが行動に移す前に霊歌を育てきれないと……一人占め出来る時間が……猶予がどんどん減っていくぅ……」
ただまぁ、人の世で過ごした常識が身についていた僕に皆が言ったんだ。
半人半妖の僕や、妖怪である私達に人間の常識は通じないって。
……いやいや、咲夜は半人でも妖怪でもなくて人間じゃなかったっけ? え? 老化もその反対も能力で制御が出来る? ……えぇ?
告白イベントをかっ飛ばす綾禰クオリティ。(`・ω・´)




