やっと気づいたその気持ち
ついにそっち方面にも思考のリソースを振り出した太助君。
おはようございます、太助です。
霊夢ちゃんの『空を飛ぶ程度の能力』は始めの頃は言葉通りだったらしいけど、紫姉さん曰く霊夢ちゃんの能力は概念の域に達しているとの事で。
僕の理解を超えた意味を含んでいるんだろうなとは思っていたんだけど、霊夢ちゃん本人から私の能力はあらゆる邪魔者から太助さんの手を引いて大空へと羽ばたき目眩く愛の世界へと誘う為の能力なのよと力説されてからやっぱ僕の理解を超えてたんだって判った。
それと先日幻想郷にやってきた早苗ちゃん。人里に行くと高確率で出会い、出会った際には際限無くお喋りを続けて本当に楽しそうだなって判る様子で僕も現世から幻想郷に来たばかりで不安じゃないかと思っていたからほっとしたもんだ。
早苗ちゃんとのお喋りの中でどんな能力なのか聞いてないのに教えてくれたんだけど、『奇跡を起こす程度の能力』はちょっとした事から大きな事まで何でもござれらしいんだけど、大きい奇跡には人間業じゃない呪文詠唱が必要との事で内心何でもござれとは違うじゃないかなって思った。
ついでに僕の能力の『けわいを感じ取る程度の能力』は先の二人と言わずに幻想郷において最も地味な能力じゃないかなと思っている。単純に意識するとあらゆる気配を感じ取れるだけ。最近じゃ特定の人を意識して能力を使うとどの方向にどれだけ離れた所に居るのか、体調とかも把握できる様になってきたけど何とも地味だなぁと思う。一番の収穫は花々を求めて移動する幽香さんの居場所をすぐに見つけられる事かな。
ちなみに、紫姉さん曰く『けわいを感じ取る程度の能力』の他に『干渉する程度の能力』を幻想郷で過ごしているうちに開花させたらしい。正直どういう能力なのか判らなかったんだけど、未来を思えばとてつもない強力な能力よと紫姉さんに言われた。
どう言う事なのと混乱していたら僕のハイブリッドエネルギーも干渉する能力のちょっとした応用を無意識に実行していたから訓練もそれほどしないで出来た芸当らしい。能力って凄い、そう思いました。
さて、僕についてはついでだったけど、何故霊夢ちゃんと早苗ちゃんの能力について回想したのかと言うと。
「私の勘が太助さんと会えるって言うからここに来たのよ」
「勘と言う不確かな物に頼らても困ります! 私は太助先輩と会える様に奇跡を願い本日のお仕事を終えて飛び立ちこちらに来たんですから!」
「確かに太助さんの存在は奇跡そのものだけど、奇跡に頼らないと太助さんと出会えない様な人はもう帰ったら? この後太助さんと二人でゆったりと過ごそうと思ってたんだから」
「奇跡だよりとは聞き捨てなりませんね! 霊夢さんこそ勘だなんて偶然出会えたらラッキー程度な考え方で行動したって事じゃないですか!! それなら出会える運命を手繰り寄せた私の方が太助先輩と過ごす権利があります!!」
「ラッキーって何? とりあえず馬鹿にされた事は判ったわ!!」
午前中の日課と言いつつも不定期に行ってる美鈴さんとの修行の為に紅魔館前に訪れたら、とりあえず不思議な力でこの場に居合わせたらしい霊夢ちゃんと早苗ちゃんがいがみ合っていたから。
幻想郷において超常の人達にとって騒がしい事は日常茶飯事。美鈴さんが近くに生えていた木から作り出した机と椅子を利用して美鈴さんと僕の二人は霊夢ちゃんと早苗ちゃんの戯れ合いをお茶を啜りながら眺めている。
「私は外の世界で先輩とまるで家族の様に毎日を過ごしていたんですよ? 時には遊んで、時には将来を語り合ったり。そうです! 私と先輩は未来を共に語り合う仲なのです!!」
「あら? それを言うなら私なんか赤ん坊の頃から一緒に過ごしてたから。外の世界に行っちゃう事はあったけど、時には一緒にお布団に入ったり、時には一緒にお風呂に入ったり。過去を見れば兄妹の様な関係だったでしょうけど、これからは兄妹を超えた関係になるわ!!」
「お、お布団!? お、おおお風呂!!!?? ま、まさか太助先輩のあんなトコやこんなトコを見たって言うんですか!!!!????」
「そうよ! 私と太助さんは裸で過ごした仲なのよ!!」
何て事を言うんだ霊夢ちゃん。……正直最近になって霊夢ちゃんの好意は家族のそれじゃなく、恋人に求めるそれだと判った。
言い訳……になるけれど、まだ小さい頃の事だけど僕は紫姉さんと藍姉さんとそれぞれと一緒に、あるいは三人で入浴したり一つの布団で寝たりしていたし、お互いに好きだったら普通の事だと言われて育っていた。
今になって過剰だったと気づいた霊夢ちゃんのスキンシップも、家族である姉さん達のスキンシップで耐性みたいなのが出来ていて、妹を相手にしていた気分だったけど……。
幻想郷の外での生活と、幻想郷の中に戻ってきてから仲良くなった皆との交流で過剰なそれだとやっと気づけた。
前に姉さん達に問い詰めたら家族である前に男と女だと声を大にして言われてしまいました。
「お二人共……凄いですねぇ。いや、とにかく凄いですねぇ……」
「……お恥ずかしい限りです」
美鈴さんの微妙な表情と共にこぼれた言葉に顔が赤くなるのを感じる。
「人に好かれる事はとても素敵な事ですよ、太助君。あの二人程過激には出来ないですけど、私も好きですから」
「……え?」
びっくりして隣でお茶を優雅に啜っていた美鈴さんの顔に振り返る。僕と目が合うと美鈴さんは嬉しそうにニコッと笑顔を向けてくれた。
「初めは気の素養があった上での興味で、次に可愛い弟子が出来たなって感じになって。少しずつ成長していって少しずつ大人になっていく姿を見てましたら……ね?」
いつもの元気な笑顔とは違って、優しそうに、大切なものを見ている様な美鈴さんの微笑みを見てしまった僕は……。
「あ……えっと……」
ドキドキしてきて、体が暑くなって、けど目が離せなくて……。
「んふふー。大丈夫ですよ、太助君。妖怪は長生きですからね!! 焦らずじっくり落ち着いていけますが、霊夢さんと早苗さんのお二人は私と違って恋よ愛よと熱くなれる時間が短い人間ですからね。私はお二人の後からでも良いんです」
そこまで言って、いつの間にか弾幕ごっこで勝負を始めた霊夢ちゃんと早苗ちゃんの方に視線を向ける美鈴さん。
そんな美鈴さんの事が、暫くの間意識から離せなかった。
本人に自覚は無い無自覚で太助の他者に対する好感度は精神的に頼りがいがある人が上がりやすいって裏話。




