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番外編 こんな未来もありえる話3

 これも一つの可能性の世界ってね。会話相手がアリスなのでカタカナ言葉とかいつもより使う事を意識。






 いつもなら能力を使って直接目的地に移動するが、その日の太助はふと、とても元気で知的好奇心が強く口数が多かった、悪く言ってしまえば喧しくも憎めない友人を思い出していた。

 そして目的に向かう途中にある友人の元住居の近くを通る道を歩いていた。


 一般的な人間ならば近づきたくない、そう思わせる不気味さを感じさせる魔法の森。

 その森の中を太助は慣れた様子でずんずん進んでいく。


 やがて日当たりの良い拓けた場所に辿り着き、廃墟を見る。



(……懐かしいな)



 普通の魔法使いと言われた少女が、霊夢と共に老いていく(友が寂しがらない)道を選んだ彼女が老衰で亡くなってから五十年はとっくに過ぎていた。


 所々が朽ちており、苔まみれ穴まるけ。その見た目の中でも家の中心らへんから屋根を突き抜けて堂々と伸びている良く判らない蔓をまとった木。

 その木が星型の花を咲かしたのを初めて見た時にはさすがに驚いたものだった。



(死後でも皆を驚かせた彼女に対して、魔理沙らしいじゃないかとアリスと霖之助さんと一緒に笑った事がつい最近に思えるよ)



 重力に逆らい、一番近い高さで咲いている星型の花に向かって飛んでいく。


 花の目の前まで来た太助は、決して傷付けない様に、優しくその花弁(はなびら)に触れた。



(僕は幽香さんみたいに植物の心は判らないけれど、なんとなく喜んでくれている気配は判るよ)



 少しの間、過去を懐かしんだ太助は手を離し、体を木に向けたままその身も遠ざけていく。



「何年後か判らないけれど、いずれまた来るよ。魔理沙の木」


『おう、またな!』



 いつか聞いた元気な声が、聞こえた気がした。


 霧雨魔理沙を知る者達のみが名付け、そう呼んでいる“魔理沙の木”への挨拶をし終えた太助は、今度は目的地であるアリスの家へと向かって移動を開始する。


 徒歩ならある程度の時間がかかる距離ではあったが思い出に浸る訳でも無いので飛んでいく。飛んでいればあっと言う間の距離。道中何事も無くアリス宅へと着いた。


 家の中に気配をある事を確認。電話が無いと準備無しでは事前に連絡が出来ないから不便だなと思ったものの、それも仕方がないとすぐに自分の思考を否定する。


 スペルカードルールを普及させる際に外の世界に住まわされていた太助が、幻想郷に帰ってきた頃から百年はとっくに過ぎていたが科学的発展は意図的に抑えられ、霊力、気、妖力、巫女や魔法使い、仙人や妖怪等の超常の力、超常の存在が身近なものである様に八雲紫をはじめとした管理者によって幻想郷の文明の具合は調整されている。そんな理由があり、誰かに会う際に電話で連絡をとると言った二千十七年現在の日本にとって常識の手段は幻想郷には存在しなかった。


 過去に場所と場所の境界を弄った移動をする際に、ある事故をきっかけに並行世界や異世界の存在を知った太助。並行世界の一つに科学が発展したせいで超常の存在が生きていけなくなった幻想郷がある事を知った。


 紫が居ない。藍が居ない。橙も居ない。巫女も、鬼も、天狗も河童も神も。唯一その世界で出会えた超常の存在はアリスマーガトロイドだった。


 接触を試みた際に知った事は、その世界のアリスは自身が魔法使いと言う事実を隠し、住まいを転々と変え、老化しない姿に疑問を持たれる前に手段を講じる、そんな強いられた生活だった。安住の地を得られなかったアリスの姿は太助にとってとてもショックな事であった。


 信仰を失った神が信仰を取り戻そうとし、科学を幻想郷に取り入れた結果が人間による妖怪狩り。妖精狩り。魔女狩り。そして神殺しの始まりだった。二柱の神の行いが幻想の存在は滅ぼした。その世界のアリスは、すでに消えていったその世界の二柱の神への恨み、憎悪を忘れないと語った。


 その世界のアリスの在り方は、自身が生きる世界のアリスと余りにも違い、場を離れた後一人になった太助は堪えきれずに涙を流した。


 だからこそ、太助は今この瞬間が幸せなんだと、忘れないと強く思った。


 閑話休題、太助の存在を感じ取ったのか、玄関のドアが開いて二つ、いや、二人の人形が出てきて太助の姿を確認すると両手を上げて喜んだ様子を見せる。



「シャンハーイ」


「ホラーイ」


「やぁ、元気にしてたかい? 上海と蓬莱」



 実際の名前を知らない太助は二人の鳴き声(?)で識別して勝手にそう呼んでいる。そして、人形の本人達のみならず生みの親のアリスすら否定しないものだから太助の中では二人の名前は上海と蓬莱で決まった。


 上海と蓬莱に招かれて家の中へ。アリスの家は洋館。土間は存在せず、太助にとって珍しい構造の入ってすぐ台所と茶の間が一つになった様な部屋に迎え入れられた。太助の知識外で外の世界の言い方をするならダイニングキッチンである。


 観葉植物や様々なぬいぐるみや人形が飾られており、玄関以外にある四つのドアは作業室と私室、客室と風呂場やお手洗い等へ続いている廊下へ繋がっている。


 簡単に家の説明が出来る位には何回か泊まらせてもらった太助を、何を作っていたのか編み物をしていたアリスが作業の手を緩めず座ったまま出迎えてくれた。



「いらっしゃい、太助。今手を離すとおかしくなりそうだったから作業しながらの挨拶でごめんなさいね」


「別に良いよ。アリスなら僕が全く気にしないって知ってるだろ?」


「太助なら、性格を把握した上で私がこう言っているって知っているんでしょ?」


「そうだねぇ、ははっ」


「そうでしょ、ふふふ」



 そんなやり取りをしていると、蓬莱がアリスが座っているお向かいの椅子を引いてくれたのでありがとうと言って素直に座る。そして川の水が上流から下流へ向かう様な自然な流れで上海が太助の分の紅茶を用意してくれた。それに上海もありがとうねと伝える。



「本当に、上海と蓬莱に好かれてるんだって見てて判るわ。駆け出しの頃と違って今は完全に独立してるから、確実に本人の意思で」


「そうなの?」


「そうなの。ほら、二人共照れちゃって隠れちゃったわ」


「照れさせたのはアリスじゃないか」



 呆れた様にため息をつくアリスに太助はいつもの笑顔でつっこみをいれてから上海に淹れてもらった紅茶を味わう。美味い、これがアリスの補助がなければ動けなかった元人形が生み出した味なのかと内心わななく太助であった。



「そうそう。ねえ太助。貴方が次訪れた時に渡そうと思っていた人形があるの」


「人形? 僕に?」


「ええ。予感……なのかしらね。故意か事故か、私やパチュリーでも追いかける事が出来ない場所に貴方が行ってしまうビジョンが脳裏に浮かんでしまったの。だから私とパチュリー、後は咲夜と妖夢。四人で協力して作ったの」


「何というか……物々しいね」



 太助、思わず苦笑。



「物々しいとは言ってくれるわね。けど、皆凄いノリノリだったわよ? 私が素となる人形を組み立ててからパチュリーと二人で術式を組んで、それから魔法スキルを叩き込んだわ。咲夜と妖夢には魔法以外の戦闘スキルと家事……お世話スキルと言えば良いのかしら。幻想郷に居る限りありえない事だけど、さっき言ったビジョンみたいに貴方が孤立した時でも、また日常でも貴方のサポートが出来る様に色々と叩き込んでもらったわ」


「それは……やっぱり物々しいね……」



 太助、やっぱり苦笑。



「だけど、ありがとう。僕の為に皆が頑張ってくれたんだね」


「二回も物々しいと言われたけどまぁ、ちゃんと受け取ってくれるならそれで良いわ。近くに居れば助けてあげれるけど、遠くに行かれた時の不安もこれで激減……いえ、四人がかりでも敵わない程に完成出来たから寧ろ安心ね。上海! 蓬莱! 物の影から太助を眺めてる暇があるならあの子を運んで来て!」



 太助、更に苦笑。もはや空間を切り裂く腕前の妖夢に、人間の成長力を持ちつつも時を制御し不老とかした咲夜、そして魔法使いとして頂上対決を繰り広げるアリスとパチェ。その四人が共闘しても返り討ちにあう人形ってなんと恐ろしい事か。


 アリスの指示を受けて上海と蓬莱が作業室から運んできた人形を見た太助は、どんな怪物が来るのかと思っていたがただただ関心した。



「今の貴方の身長、確か百七十後半くらいだったわね。男性の方が背が低い恋人や夫婦も居るけど、一応貴方に合わせて低すぎない身長を意識してこの子はデフォルトで百七十センチメートルで作ったわ。魔法の力である程度サイズを変えれる仕組みにはなっているけどね」



 アリスの説明によれば、服装はシンプルなメイド服。咲夜のとは違って露出が少ないヴィクトリアンメイドと言われる服装で頭にはカチューシャタイプのホワイトブリム。髪はロングのトウヘッドで腰辺りまで伸びており、今は閉じられていて見えないが目は碧眼。


 服の知識なんて全然無い太助なので説明の大半は理解出来なかったものの、一言だけ、確実に言える事があった。



「凄いね……、アリスにも負けない位綺麗だ」


「っ! え、ええ。この子は最高傑作よ。凄くて当たり前よ。(な、何変な事言ってるのよ……。人形を褒めたんでしょうけど、遠回しに私も綺麗だって言ってるもんじゃない!)」



 舞い上がりそうな気持ちを何とか抑え、動揺を悟られずに説明を続けるアリス。上海と蓬莱からジトーっと見られているが気にしない。



「作動テストで私やパチュリーの魔力で少し動かしたけれど、この子の動力源は魔力に拘らなくても良いわ。寧ろ貴方のハイブリッドエネルギーを想定している。だから、妖力だけ、霊力だけ、気だけって一つのエネルギーで容量いっぱいに充填させようとすれば時間がかかるでしょうね。あと、大気に漂うエネルギーでも敵対した相手の攻撃で生じるエネルギーでも充填は出来るわよ」


「動力源については理解したよ。敵の攻撃をも吸収出来るのは凄い。ところで、戦闘スキルって話だったけどこの子の武装は何を使うんだい?」


「それは太助が用意する必要は無いわ。この子は武器も防具も、必要になったら自分のエネルギーを偶然見つけた物質化の魔法陣を利用して作るから。基本のデザインは女騎士をイメージした鎧を服の上に纏うわ。物語で見かけるヴァルキュリヤと言えばイメージしやすいかしらね。武器は臨機応変で使い分けれる。不思議な事に戦闘スキルの先生が刀やナイフしか使えないのに、ランスでもレイピアでも何でもござれよ」



 そこまでの説明を聞いた太助は、違う意味で苦笑した。ただ、今度の苦笑はしょうがないなぁと言った笑みだったのでそれを見たアリスは普通に笑顔を浮かべる。



「本当にありがとう。しかし、えっと……お世話スキル? 僕の身の回りとなると藍姉さんが拗ねそうだけど普段はどうしたら良いと思う?」


「それは貴方が作り出す亜空間に入れておけば良いと思うわ。それと亜空間に入れっぱなしって状態は気にしなくても良いわよ? 貴方と移動する時にたまに通らせてもらう時に判った事だけど、あの空間は貴方そのものって感じ。だから、貴方に包まれている感覚なのよ。自制してるんでしょうけど、貴方のお姉さん達は入り浸りたいとか思ってる可能性もあるわ。それも、高い可能性で」


「それは……。自分では判らないけど、簡単に解釈すればすぐ傍に居るって感覚を得られているって事?」


「そうね。簡単に解釈すればそれで間違えじゃないわ」



 説明の為に喋り続けたおかげか喉が渇いたアリスはすでに冷めてしまった紅茶に口をつける。そして、最後の仕上げを太助に伝える。



「それじゃあ、最後の仕上げよ。太助、この子のエネルギーを容量いっぱいになるまで充填してあげて。この子はエネルギーを満杯に初めてした相手を主と認識する。そうしたら、名前を付けてあげて」



 アリスに言われて判ったと、未だ動かない子に触れて気、霊力、妖力の三つを合わせたハイブリッドエネルギーを送る。


「名前、実はヴァルキュリヤと聞いた時点で一つだけ浮かんでいたんだ」


「あら、聞かせてもらっても? それとも一番初めはこの子にだけ聞かせる?」


「アリスはこの子の母親の一人だから聞いても問題無いよ。名前は、ブリュンヒルド。オーディーンに背いたって話もあるけれど、僕の言葉に頷くだけでなく、自分の意思を持って行動出来る子になってほしいって意味も込めてね。……と言うか、命令で動く自動人形? 自分で判断する自律人形? そこ聞いてなかったよ」


「大丈夫、貴方の指示を優先するけれど自分で考えて判断も出来る自律人形よ。そして、今は人形だけど貴方の力の影響でそれ以上に進化も出来るつもりよ」


「そっか」



 いわゆる付喪神とか……そんな感じだろうかと考えていると、エネルギーの充填が終わったのか。太助が手を離すと人形の子はその瞼を上げ、そして太助を見つめた。



「初めまして、僕の名は八雲太助。そして君の名は、ブリュンヒルド。よろしくね」



 主を得て、名前を与えられた子。ブリュンヒルドは嬉しそうに笑みを浮かべ、従者の手本の如く綺麗に頭を下げた。






 一応本編よりも未来の話だから、ブリュンヒルドは本編では出れない。何故こんな話作ったしと自分につっこみ。

 下記はブリュンヒルドがどんだけの強さなのかの脳内設定的な内容なので興味があれば読み続けて見て下さいな。

 未来の成長したアリス、咲夜、パチェ、妖夢の四人を弾幕ごっこじゃないリアルファイトで同時に相手にしても返り討ちに出来る。

 エネルギーの物質化と大気中からでも敵の攻撃からでもエネルギー充填が出来る事から消耗しようが破損しようがエネルギー吸収からの物質化で自己修復を無限に可能。

 リアルファイトなのに時止めや次元切り相手に勝てる理由は学習能力とエネルギーを吸収する際に相手の能力に適応出来る仕様なので魔法にも、時間操作にも、空間を切る剣術にも適応してしまったから(そんな無茶な)。

 太助のエネルギーで契約されたのと太助の亜空間に滞在し続ける事で、境界操作や亜空間にある程度干渉出来る位に適応。破壊さえされなければ何にでも適応してしまうので、ルール無用の戦闘になれば絶対的な忠誠相手のご主人様である太助以外では手がつけられない。手に負えない一例として時間制限ありだけれども自分をいくつでも複製出来る。

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