研究の成果
星新一さまのショートショートを参考にしてます。かなり近い時もあります。
感想、アドヴァイスあったらください。作者は決して怒ったりしません。むしろ、力になります。
どうぞよろしく。
あるところに、花好きのA氏という人が住んでいた。彼はとても花が好きで、いつも花のことを考えていた。
また、A氏は博士でもあったので、花に関する研究の第一人者として名を馳せていた。
ある日A氏は、花作りをより楽しむことはできないだろうかと考えた。そのためには、花作りにおいての苦痛を取り除かなければならない。A氏にとってそれは、花が咲くまでのもどかしい時間だった。
花好きの人の中には、A氏の考えを邪道だと思う人もいるかもしれない。確かに邪道である。しかしA氏は、花が好きなのであって、花を育てるのが好きなのではなかった。だからである。
A氏はその研究に没頭した。そしてそれは、案外簡単にできた。
A氏の発明は粉末状で、それを肥料代わりに一度振りかけてやることで、あらゆる植物の成長が著しくなり、超高速で花を咲かせるというものだった。
A氏はさっそくそれを試してみた。庭の隅にアサガオの種を埋め、それに発明品を振りかける。
すると、見る見るうちに芽が出てきた。すぐにたくさんの葉が付き、花が咲いた。
「おお、これは素晴らしい効き目だ」
A氏は喜んだ。
しかし、喜んだのも束の間、その花がどんどんしぼんでいくではないか。そしてすぐに枯れた。
「ははあ、どうやらこの薬は、育つのも早くするが枯れるのも早くしてしまうらしいぞ」
A氏は新たな開発に取りかかった。最初に作った粉末とその設計図は、庭の隅に捨てた。
つぎにA氏が作ったのは、四角い形をした機械だった。赤い大きなボタンが一つ付いており、先にはアンテナのようなものが生えていた。
これは、赤いボタンを押している間だけ粉末と同じ成分が照射され、植物の生長を促進する。そしてボタンを離すと照射をやめ、成長が普通どおりのスピードに戻るという仕組みだった。
A氏はこれも試してみた。庭の隅にアサガオの種を埋める。そして機械を向け、赤いボタンを押した。
ところが、何も起こらない。
A氏は首をひねり、アサガオの種を掘り起こしてみた。そして直接成分を照射する。
すると、アサガオは芽を生やし、やがてきれいな花を咲かせた。A氏がボタンを離すと成長は止まり、アサガオは見事な一輪の花となった。
つまり、成分が悪かったのではなく、成分を照射するパワーが弱すぎて土を貫通しなかったということなのだ。しかし、パワーを強めるにはこの機械は小さすぎ、一から作り直さなければならなかった。
A氏は新しい研究に取りかかり、この機械と設計図はまた庭に捨てた。
A氏は次々と発明を重ねていった。しかしそのどれもがA氏を満足させる機能を持たず、そのたびにA氏はそれと設計図を庭に捨てた。
ある日、A氏はまた新たな発明品を生み出した。しかし、庭にはもはやアサガオの種を埋めるだけのスペースがなかった。今までの失敗作で埋め尽くされていたのである。
A氏はこれらを、きちんと廃棄することにした。かなりの大荷物であるが、頑張れば何とかなるだろう。
A氏は失敗作をゴミ捨て場まで引っ張っていき、まとめて捨てた。
「ふう、これで新しい発明品を試すことができる」
A氏は鼻歌交じりに帰って行った。
一方、A氏の捨てた失敗作たちはゴミ処理場で焼却されていた。しかし機械なのであまり効果は得られず、その機能は維持されていた。
それらはそのまま、埋立地に運ばれていった。
ある時都心では、埋立地に芝生を植え、その上に公園を作ろうじゃないかという話が浮上した。これにはだれもが賛成し、早速作業に取り掛かった。
芝生が植えられ、ほかにもきれいな花が植えられた。花畑ができ、木陰ができた。人々はそこに集まって来、自然を楽しみに来ていた。
今日も開園時間が近付いている。外では人々が、今か今かと待ちわびていた。やはり、疲れた都心の人々を癒すのは自然に違いない。
ところがこの時、大きな地震が起こった。これにより公園は甚大な被害を受けることになるのだが、この時それに気付いた者はいなかった。
通常通り開園された。人々は待ってましたと言わんばかりに駆け込んでいった。
ところが、中に入った人々はみながっくりと肩を落とした。自然がすべて枯れ果てていたためだ。この原因はいまだに解明されていない。
しかし、読者の皆さまならわかるだろう。
そう、公園中の自然を枯らしたのはほかでもない、A氏の失敗作だった。開園直前の地震によって起動し、植物の成長を早めてしまったのだ。