025 unique quest-3
VRMMO〈ゲルタニア〉出身の為政者プレイヤーであるLoLoは、ソレイア共和国の大統領に関するプロジェクトを引き受けたことで、ここ最近は〈ラウンド・テーブル〉の中でも特に忙しくしていた。
攻略者パーティーの四人から大統領を選ぶ。
字面にすると非常に簡単な案件に思えるが、〈ラウンド・テーブル〉で協議をはじめた際にはさんざん揉めたものだ。公平を期すならば、トッププレイヤー四千人に投票権を与えて、『選挙』を行えば良い。最初に出された案だったものの、LoLoはきっぱり反対した。
『何が面白いんですか、それ?』
プレイヤーによる投票で『選挙』を行えば、結果は見えている。
間違いなく、aaaaが勝つ。〈勇者〉と呼ばれる男の実力、実績、老若男女を問わない人気は、やはり桁違いである。それは〈実績値〉という目に見える数字でも証明されている。
ALICEは世界一の美少女であり、アイドルポジションで熱烈なファン層を持つ。ただの人気投票ならば〈勇者〉を上回る可能性は十分あるだろうが、今回はやや分が悪い。
CAGED-BIRDは、過去のイメージがネックである。VRMMO〈リオール・オンライン〉を荒らし回った当時、被害を受けたプレイヤーたちは、更生後の現在も許し難い感情を持っているはずだ。
HAYATEについては、論外。
結果の見えている勝負では盛り上がらない。LoLoはそう思っていた。攻略者パーティーが、運営の想定を超えてボスモンスター『皇帝』の討伐を成し遂げてしまった以上、本来のシナリオに代わるだけのイベントを用意しなければいけない。
攻略者パーティーの四人が、あくまで自分たちの問題として話し合えば良いだけではないか――そんな意見が出た際にも、LoLoはやはり反対した。
『だから、何が面白いんですか、それ?』
命題は、βテストの参加者、トッププレイヤー四千人が楽しめること。
プレイヤー全体を巻き込んで展開するはずだった運営のシナリオが崩壊したため、〈ラウンド・テーブル〉というプレイヤー集団が自主的に代わりを用意する。云うは易く、行うは難し。LoLoは大言壮語を吐くつもりはなかった。慎重に物事を進めたいと考えている。
「結果の予測できない、トッププレイヤー全員が楽しめるイベント……例えば、『異世界バトルGP』のような歓喜と熱狂を、今一度――」
やるべきことは、既に決定済みだ。
そのための仕事が山積みで、LoLoは悪戦苦闘している。
仮想世界の標準時で深夜を迎えても、当然ながら、お構いなしだった。雇用している多数のNPCたちを、LoLo自身がログインしている間は、指揮者のように操り、ひたすら働かせ続けている。
「現実でこれをやったら、社員はみんな辞めるでしょうね」
慣れ親しんだVRMMO〈ゲルタニア〉ならば、ここまでの苦労はしないだろうが、新世界〈THE FIFTH WORLD〉では、すべてを一から築き上げなければいけない。それこそ本当に、イベント会場すら支柱の一本から建設するところからスタートしなければいけなかった。
為政者プレイヤーにも得手不得手は存在する。バトルに生きる交戦者プレイヤーが、例えば、戦士と魔法使いでは全然違うように、人心掌握に長けた為政者がいれば、金儲けが上手い為政者もいる。
LoLoは元々、イベント企画は好きであるし、得意だ。その自負だけでなく、〈ラウンド・テーブル〉という看板を背負っている責任もあり、〈THE FIFTH WORLD〉で初めての大規模イベントを絶対に成功させようと意気込んでいた。
そんな中、LoLoは、突如として死亡した。
――非戦闘フィールドのため、死亡ペナルティは回避されました。
立ち眩みのような、一瞬の違和感。
ライフは、気が付けば『0』になっていた。
システム音声の通知により、LoLoは完全に遅れて理解する。
夜の執務室で、配下のNPCや手伝いの友人プレイヤーたちと、今後についての会議を行っている最中だった。はじまりの街という非戦闘フィールドだったため、痛みを感じることもなく、死亡ペナルティも発生しない。まるでシステムエラーと錯覚してしまいそうな出来事だったが、突然の異変はLoLoだけでなく、周囲のプレイヤーやNPCにも起きていた。
次々と悲鳴。
執務室にいた者たちは、全員がダメージを受けており、LoLoと同じく、幾人かは死亡していた。
皆は驚きながら、「攻撃された?」と疑問の声を発する。部屋全体を巻き込むような範囲攻撃を受けたということだろうか。それにしては、室内がまったく荒れていない。
「PK? でも、何のために?」
非戦闘フィールドでプレイヤーやNPCを襲っても、ペナルティとして罰金を受けるだけで、メリットは何もないだろう。
不穏な空気が立ち込める中、一人のプレイヤーがつぶやいた。
「やばい」
何かを察したように、青ざめる者が他にもいた。
彼らの共通点は、VRMMO〈クロス〉出身のプレイヤーという点だった。
「あの時と同じだ。〈虐殺鬼〉が、また始めやがった」
その二つ名を聞いて、他のVRMMO出身者まで眉をひそめる。
プレイヤーキラーである彼のことを嫌っている者は非常に多い。
「どういうことですか?」
LoLoは冷静に尋ねるが、彼らは取り乱していた。
「ああ、畜生。落ち着いている場合じゃないぞ。〈クロス〉以外の奴でも、世界中でニュースになったから知っているはずだ。あいつが〈虐殺鬼〉と呼ばれるようになった由来だよ。仮想世界の歴史上で最大最悪の『ジェノサイド事件』だ。間違いない、〈虐殺鬼〉はまた同じことを始めるつもりだ」




