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踊るキッチン

 降下し暫らくすると、ディオーネの端にある広場が見えてきた。その中心には2階建ての一軒家があり、隣接している格納庫の入り口は夜に帰ってきても分かるように淡い光で照らされている。その光を頼りに、ヴァンはドラグノイドをその格納庫に滑り込ませた。

「よし、出てきていいぞリリア」

 リリアは「うう……ヴァンったら酷いわ……振り落とされそうで物凄く恐かったんだから……」なんてブツブツ言いながらコクピットから身を出す。

 トン――っと、小さな体が降り立ち、物珍しそうにあたりをキョロキョロと見回していた。

「ここは、ドラグノイドの格納庫なんだ。こっちの玄関から家に入れる。さあ……って、リリア?」

 後ろを付いてきていないことに気付き、格納庫を見まわす。

 リリアは格納庫の奥に保管されているガンシップに目をやっていた。

 俺は、リリアの傍に歩み寄った。

「それは、俺がドラグノイドを見つける以前に乗っていたガンシップなんだ」

「そうなんだ。でも、なんで複座式なの?」

「元は親父たちのだからな。俺がガキの頃、よく後部座席に乗せてもらってた」

「ふうん……ねえ、ヴァンの両親はどうしてるの? 家には誰も居ないみたいだけど……」

「ああ、いないんだ。俺が小さい頃に死んじまった」

「え……そうなの……ごめんなさい。あたし、余計なこと聞いちゃったね」

「いいさ。もう昔の話だ。さあ、中に入ろうぜ」

「うん」

 格納庫から出て玄関をくぐった。

 ディオーネでは珍しい木造で立てられた家の中に入ると、照明で照らされた室内の壁は木の不規則かつ緩やかな模様で飾られ、木の香りをほんのりと漂わせている。玄関を入って短い廊下を抜けるとリビングとキッチン。廊下を右に進むと風呂やトイレがあり、その向かいには2階へと上がる階段がある。上った先は寝室という造りだ。

 リリアはリビングに入ると物珍しそうに見回し、壁際に置かれたソファーに腰を下ろした。

「うん。いい家ね! 木造の家って、暖かみがあって好きよ」

「そうかい? へへ、サンキュー。リリアの家はどんななんだ?」

「あたしの家は石作りなの。それと、部屋が沢山あって庭も広いの」

「へえ、いいところに住んでるんだなあ」

 ひょっとして、リリアは結構いいところのお嬢様なのかもしれない。

 大して気にするでもなく、俺はキッチンへと足を運ぶ。当然、夕食を作るためだ。

「さあ、そろそろ飯の準備しようぜ。今日は色々なことがあったからな。もう腹がペコペコだ! リリア、悪いけど手伝ってくれないか?」

「うん!」

 そうしてソファーから立ち上がり、キッチンに向かった。

 どうしてこんなことになるんだろう……。

 俺は、目の前に広がる惨劇を呆然として見ていた。

 台所はありとあらゆる材料が散乱し、コンロからは火柱が立ち上っている。そしてそれを収集しようとあたふたしている人物は俺……ではなく、リリアだった。

「きゃあああ! 火事、火事よ! どどっどうすればいいの!? あつっ!」

 熱せられた鍋から飛んできた油にが手に当たりビックリしたリリアはバランスを崩した。

「あぶねえ!!」

 あやうく床に倒れそうになるところをなんとか支えて、

「だ、大丈夫か?」

「あつ~い……ありがとう」

 よほど熱かったのか、手のひらを擦りながら涙目になっている。

「おまえ……もしかしなくても台所に立ったことないだろ」

 瞬間、リリアの顔が引きつった。目も泳いでいで指と指をこねくり回している。

 ……分かりやすい。

「きょ、きょうは……色々あって疲れてるだけよっ! いつもは……こ、こんなことないんだからっ!」

 はいはい分かった――そう言いながら、肩をポンポンと叩いて台所の収拾にかかる。

「じゃあ、とりあえずその疲れを風呂に入って流してこいよ。飯の支度はやっておくからさ」

「うう……屈辱だわ……」

 そんな悔しそうな顔をしながらこっちを見るなよ……。

「あ゛」

「ん?」

 悔しがっていた表情が一変して真っ青になっていく。手もわなわなと震えていた。

「どうしよう……着替えも何も無いわ……」

 ――!

 その後、急いで台所を片付けた俺はドラグノイドにリリアを乗せて飛ばして閉店間際の洋服店に駆け込んだ(リリアはお金も持っていなかったので当然俺持ちだ)。

 買い物を済ませて家に帰った時にはもう深夜になろうという時間になっていたので、食事もそこそこに済ませる羽目になってしまった。

 そんなこんなで、その日の夜はドタバタのうちに更けていった。

 二人が出会って、長い一日がやっと終わりました。前半はシリアスにテンポよく、後半はラブコメに振ってみましたがいかがだったでしょうか? 僕は書いているうちにまるで「トラどらみたいだな」と思ってしまいました(笑)

 最後は早足でしたがお許しください。これ以上書くとテンション的にお風呂シーンまで書くことになり、そうなるともうこの物語の世界観を崩しかねないと思ったので(汗)

二日目からは物語が大きく動き出す……かも

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