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最終回

 * * *


 あれから、既に五日が経っていた。

 死んだと思われていたグレイス王が生きていることが分かったのは、戦争が終わった二日後のこと。王宮が爆発したのが八日前だから、実に五日間もの間グレイス王は崩れた王宮に閉じこめられていたことになる。発見された時は意識もなく、かなり衰弱していたという。

 あの爆発の中、なぜ助かったのか。聞けば、リリーナ様と喧嘩した直後に受け取った小包を腹いせに投げつけたのだとか。おかげで爆発に呑まれることなく、崩れた瓦礫に出来た隙間のお陰で窮地に一生を得たらしい。

 ベッドの上で目覚めて早々、息子のカーティス王子が起こした一連の事件を知らされ、そして死んだことを聞いた王は大層嘆いた。心身共に衰弱した王は、今も特別医療施設で療養中だ。


 ――コンコン。


 静まり返った室内に、ノックの音が響いた。それに応え、入るよう促す。

「失礼します。ライデン様。そろそろお時間です。ご準備を」

 室内に入ってきたのはアロイス王子に仕える秘書だった。赤縁の眼鏡と相手を和ませる優しい笑顔が印象的な女性。名は確かミリアといったか。

 短く返事を返しライデンは立ち上がると部屋を出た。

 通路を進みながら、ミリアは少し遠慮がちに口を開く。

「リリーナさま、大丈夫でしょうか……王が無事だったとはいえ、療養中の王の代理として身を削っていらっしゃるリリーナさまはとてもお疲れのようにお見受けします……今にも倒れてしまうのではないかと心配でなりません」

 掛けていた眼鏡が少し下を向く。まるで自分の主のことのように心配そうに俯く小柄な秘書に、ライデンは元気付けるように、

「大丈夫だ。リリーナ様はお強い。そうでなければ、あの混乱をこうも短期間で治められるものか」

 事実、リリーナさまの手腕は見事なものだった。戦争で傷ついたディオーネ民衆へ物資の補給を真っ先に進めた。一連の事件で疲弊したディオーネ民衆の怒りを一心に受け、それにもめげずに手厚い補給を続けたのだ。アロイス王子の援護もあり、少しずつその行為は受け入れられ、ディオーネ復興は着実に進んでいる。

 そして次に着手したのが、ガイアの端に存在していたスラム街への支援活動だった。フィアと同じような人をもう増やさないため。そして、カーティス王子のような悲しみを繰り返さないために。

 そして今、リリーナさまはここディオーネでカーティス王子と更なる復興に向けた会談のため足を運んでいる。その会談も、もうすぐ終わる予定だ。

 会談の部屋の前に着くと、扉の横に見知った人物が壁に背を預けるようにして立っていた。

 一般のそれより頭一つ分ほど高い身長に見合うがっしりとした体躯。歴戦の戦士を物語る鋭い眼光。その手には細長い棒が握られている。その先端には刃が付いており、鋭い切っ先が周囲に警戒の光を静かに放っている。

 ライデンたちに気付いたらしく、無精ヒゲをひと擦り、壁から背を離して向き直る。

「ようライデン。空じゃ世話になったな」

「リードか。モビーディックから船員と共に脱出したあとすぐに病院に担ぎ込まれたと聞いたが……いつ復帰したんだ?」

「ああ、今さっきだ。目覚めたのは二日前だけどな」

 そう言うとリードは愉快そうに笑う。ライデンはそんな反応を見て、

「そうか。また病院から脱走したんだな」

「なんで分かった!?」

 やっぱりかと言い、くつくつと肩を揺らす。

「しかし、お前も既に復帰していたとはな。ライデン。斬られた胸の傷はそれなりのもんだった筈だ。無理は良くないぜ?」

「その言葉、そっくり返そう。貴様も脇腹の傷が痛んで辛いから、壁にもたれ掛かっていたのだろう?」

 その言葉に、リードの方眉がピクリと吊り上がった。

「ほほう。本当にそうかどうか、試してみるか?」

 低く言葉を漏らし、肩に掛けていたガンスピアをひと振り。後ろに引いて構えた手に力がこもった。こちらも背負っていたガンランスに手をかける。


 ――ガチャ。


「……部屋の前でなにをやっているのです」

 リードとの間にあった両開きの扉が開き、広い通路に響く綺麗な音色。しかしそんな音色とは裏腹に、向けられたのは冷たい眼差しだった。

 その眼差しを向けた主――リリーナは凛とした姿勢で通路の中央へと歩を進める。その瞳と似た緑色のドレス姿。足下まですらりと伸びたスカートに控えめにあしらわれたフリルが揺れた。

「まぁまぁ、リリーナさま。彼らなりの挨拶なのでしょう。大目に見てあげようではありませんか」

「アロイス王子」

 優しさを感じさせる声を響かせ、リリーナに続くように部屋からアロイスが通路へと歩み出る。声と同じく、穏和な雰囲気を醸しだし、朗らかに微笑んだ。

「会談は滞りなく終わりました。これからリリーナさまを高速艇までお送りますが、護衛のほうよろしくお願いしますよ。リード、ライデン」

「「はっ」」

 アロイスに敬礼と共に返事を返し、リリーナの後へと続いて歩きだした。周囲には護衛のため他にも竜騎士が居るがその人数は正直心許ない。ガイアもディオーネも、先の戦争で失ったものはあまりに多すぎた。

「それで、奴の容態はどうなんだ?」

 次いで歩きだし横に並んだリードに向けて小声で訪ねる。

 リードはゆるりと首を振り、

「容態は安定しているが、まだ意識が戻らない。全く、あんな無茶をするからだ」

 一つ深いため息を付き、その眼光に影が差す。瞳に浮かぶのは大事な者を危険に晒した自身への不甲斐なさか。

「アースドラゴンがため込んだ粒子の爆発を間近に喰らったせいで奴の身体はボロ雑巾みたく吹き飛ばされたんだ。無理もない」

 そこで一旦言葉を切り、先頭を行く小柄な少女を見る。

「しかしあの時ドラグノイドを操縦していたのがリリーナさまだったとは……今でも信じられん」

「そうだな。全く、肝の据わった姫さんだぜ。あの若さで王の代理が務まるのも頷ける」

 いくつかの角を曲がり、外へ通ずる扉が開く。清々しい風が通路に流れ、雲一つない空からは午後を過ぎ傾き始めた太陽の日が扉から遠慮がちに通路を照らす。

 扉を潜ると目の前には会談のために乗ってきた高速艇が待機していた。

「しかし、リリーナさまとてまだ一五。相当な負担なのも違いない。表にはお首にも出していないが……未だカーティス王子を亡くした傷も癒えてはいないだろう。国の大役を担うには、余りに小さな身体だ」

「そうだな……っと、すまん。通信が入った。後の護衛は任せるぜ」

 そう言いリードはポケットに入れていた通信機を取り出すと耳に当てた。

 高速艇の外壁の一部がゆっくりと開き、階段が地に伸びていく。その手前まで行きリリーナは振り返ると、アロイスと別れの言葉を交わしている。

 ライデンは高速艇の横に待機していた漆黒のドラグノイドの背に乗り出立に備える。アースクリスタルがもたらすエネルギーの奔流がドラグノイドの隅々まで行き渡り、ドラグノイドの四つ目が赤い輝きを放った。

「――はあ!? じゃあ、どこに行ったってんだ!!」

 途端、リードの大きな声が響きわたる。直後、ライデンのドラグノイドからアラームが鳴り響いた。

「レーダーに反応だと? 移動速度が早すぎる……これは!?」

 空を見上げた先には、蒼い粒子の尾を引く純白の翼。とてつもない速度で迫るそれは、瞬く間にライデンたちの頭上スレスレを飛行。巻き起こる風が少女の髪をなびかせ、その髪を片手で押さえながら少女はエメラルドグリーンの瞳を輝かせて白い翼を追いかけた。

「ヴァン!!」

 くるりとターンして再びこちらに向かって降下。リリーナの側に降り立つ白きドラグノイド。その上に立つ人物に、少女の笑顔が輝いた。

「迎えに来たぜ。リリーナ!」

 少女の手を引きドラグノイドの背に乗せる。その背に立っていた少年の額には包帯が巻かれており、余った帯が風になびいた。

「おいヴァン! 病院から抜け出したうえにこんなことして、どういうつもりだ!」

「あれ? リードにだけは言われたくないな。今頃マリーさんが鬼の形相でこっちに向かってるぜ」

 その言葉にリードの顔色が青に染まる。ヴァンは次いで、

「ライデン。悪いけどリリーナは俺が責任を持ってガイアまで送り届ける! またな!!」

 言うが早いか、白い翼が大きく羽ばたいて粒子の尾を引き飛翔していった。



 * * *



 天から降り注ぐ陽光がアースの広大な大地を温かく照らし、雲一つない空をそよ風が撫でる。そんな大空の中を蒼い粒子の尾を引きながら突き進む白き翼は陽光を浴びて一際輝き。風を掴まえて羽ばたく。そんな翼の上ーー

「きゃあああああああ!!」

「お、おい落ち着け! うまく操縦できないだろ!」

「いきなりこんな高いとこまで上昇して怖くないわけないじゃない!」

「わ、分かったから……ちょ、いててっ!」

 怖がる少女の腕に首をロックされたヴァンがその腕を叩く。腕に入っていた力が緩められ、絞られた肺にようやく新鮮な酸素を取り込んだ。

「お、お手柔らかに頼むぜ……ついさっき病院のベッドの上で目覚めたばっかりなんだ」

「ご、ごめん……けどヴァンが悪いのよっ」

 ようやく落ち着きを取り戻し、しかし首に回した腕はそのままに、言う。

「もう、なに考えてるのよ。ガイアのお姫様をさらうなんて、前代未聞だわっ」

 ぷいっと顔を逸らして頬を膨らませる。しかしすぐに笑みに変わった。

「良かった、本当に……ヴァンっ」

 その腕に再び力が込められる。応えるように腕を回し、少女の背に優しく添えた。腕の中で感じる温もりを離さないように。

『リリーナさま。私にも声をかけてもらえると嬉しいです』

「ハル!? 無事だったのね!」

『はい。あの時は正直駄目だと思いましたが』

 機械音声と共にドラグノイドが首を振る。

「良かった。でも、どうして? モビーディックはアースドラゴンに破壊されたんじゃあ……」

「ああ、システムコンピューターは滅茶苦茶になっちまって遠隔操作が出来なくなっちまったけど、ハルの本体、つまりAIボックスは奇跡的に無事だったんだ。お陰でまたこいつに乗れたってわけさ」

 そう言ってドラグノイドの頭を叩く。直後、通信が入った。音に驚いてヴァンは腕の温もりをひとまず離すと、開いたモニターにライデンが映しだされる。

「リリーナ様をさらって行くとは……覚悟は出来ているんだろうな」

 向けられた鋭い眼光がヴァンを見据える。だがそれを真っ直ぐに受け、はっきりと言った。

「もちろんだ。俺はリリーナのボディーガードだからな! 追いかけてきても無駄だぜ。怖い竜騎士さまから守って無事にガイアまで送り届ける。それが、俺がリリーナから受けた依頼だからな!」

 返事に、ライデンはふと笑みをこぼし、

「依頼とあらば仕方ない。今回の護衛はお前に任せるとしよう。頼んだぞ」

 二人の表情が明るくなる。ライデンにサンキューと返事を返し、モニターは消えた。

 リリーナはイタズラっぽい笑みを浮かべ、

「依頼をまだ覚えてるなんて。そんなに報酬が欲しいの?」

「報酬? ああ、何も考えてなかったな」

「うそ!?」

 どちらともなく、空に笑い声が響く。ひとしきり笑い、

「依頼は口実さ。その……とにかく逢いたかったんだ。ベッドで目覚めて、居ても立ってもられなかった」

 絆創膏が貼られた頬を掻きながら、少女を見る。目が大きく見開かれ、頬が朱色を帯びていき、エメラルドグリーンの瞳には雫が浮かんだ。

「あたしもだよ……ヴァンっ」

 綺麗な声音と共に少女の雫が蒼空に舞う。 小柄で勇敢な少女を腕の中へと引き寄せて重ねた唇は、翼を撫でる風のように柔らかく、陽光のように温かかった。アースの空はどこまでも澄んで、白い翼から溢れる蒼い粒子が舞っていく。羽ばたき続けよう。守りたいものが溢れるこの空を――。


この度は本作を読んでいただきありがとう御座いました。これでフルメタルドラグーンは完結となります。ご感想、問題点などドシドシください。いずれはブラッシュアップし改訂版をアップしたいと思います。

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