決着
「ライデン、もう一度フルバーストを喰らわせるぞ!」
言葉にハルが応えてドラグノイドの口が大きく開く。その奥から覗く砲門と両翼に固定されていたガンブレードの銃口が前方に突きだし粒子が集束し始めた。
横に並び飛行するライデンも手にしたガンランスをアースドラゴンへと構える。鋭い切っ先が三方に開かれ、その中心に現れた巨大な砲門へと粒子が集束していく。
「発射!」
夜闇を貫いて進む二つの光球が煙の隙間から覗くアースドラゴンの頭部に着弾。一際大きな爆発が巻き起こった。
「どうだ!? あの二発を喰らって無事な訳が――!?」
立ち込める爆煙。しかし突如巻き起こった暴風に吹き飛ばされ煙が晴れていく。その下から現れたのは、しかし、巨大な翼から粒子を大量に放出させて再び粒子の壁を纏ったアースドラゴンだった。
「しぶとい!!」
口がガバッと開いて膨大な粒子が集束していく。
ヴァンとライデンは翼を翻し回避行動に移る。
直後に放たれた光はしかし、こちらとは違う方向の虚空へと放たれた。
「モビーディック!?」
アースドラゴンの横からモビーディックの巨体が衝突。そのままアースドラゴンごと加速を付けて飛行していく。
「ハル。どうするつもりだ!」
『私がアースドラゴンを粒子の壁ごと潰します!』
モビーディックの巨体が進行方向を地面へと変えた。
「まさか――ハル!!」
『ヴァン。後を頼みます!』
言葉が終わると同時。モビーディックはアースドラゴンごと大地に衝突した。激しい地響きと共に大量の土煙が巻き起こり大地が形を変えていく。
直後、一条の光がモビーディックの船体を貫いて天を薙いだ。推進部から発せられていた光が途切れ、大地を抉る力を無くしたモビーディックは前進が止まった。光に貫かれた船体は爆発と炎に包まれていく。
「そんな……ハルーーーー!!」
続けざまにモビーディックの巨体が光の帯に分断されていく。切り離された船体が大地へと斜めにずり落ち、その間からアースドラゴンがその身を起こした。モビーディックの超重量をまともに受けたアースドラゴンは全身を覆っていた粒子が消失し、全身は己が流す体液でまみれていた。消失した粒子の壁を形成せんと、翼を大きく広げる。
はたして、粒子は全身を包み込むに至らなかった。
「どうやらもう全身を覆うほどの粒子は残っていないようだ! ヴァン! 今しかチャンスは無いぞ!」
返事がないサポートAIに、溢れた涙を腕でグイっと拭う。
「ああ……これで、決着をつける!」
周囲の仲間たちが一斉にアースドラゴンへ砲撃していく。しかし粒子の壁を無くしたアースドラゴンは翼を大きく羽ばたかせて大空へ飛翔。放たれた一斉放火は虚空を凪いだ。
見上げる。アースドラゴンは上昇しながら身を翻したアースドラゴンが口を開く。底を着いたと思われた粒子がその一点に集束。星の見えぬ夜空に、蒼い太陽が上っていく。
これまでとは何か違うその強い輝きに冷たい恐怖が背中を駆け抜けた。
「まずい! 奴はあの一撃でこの戦場を全て消滅させる気だ!」
ライデンは漆黒の翼を羽ばたかせ一気に飛翔していく。
「ライデン! 一人じゃ無理だ!」
次いで自身の機体を翔ろうとし、機体が突然高速でスピンした。コクピットからリリーナの悲鳴が響き、自身すら吹き飛ばされかねないほどの唐突な挙動に、慌てて外部操作を解除する。
「い、いったいどうしたの!?」
ヴァンは苦々しい表情を浮かべ、
「外部操縦は……サポートAIの補助無しではコントロールしきれないんだ。今のこいつは、手綱を無くした暴れ馬だ」
「そんな……」
リリーナの表情に影が差し、ヴァンは歯を食いしばり空を見上げる。
竜騎士たちがその後を追い次々に飛翔。アースドラゴンを食い止めようとエネルギー砲を放っていくがアースドラゴンはそれらを回避しながら尚も上昇していく。
拳を握り、自分にはもうなにも出来ないのかと思った。その時、
「あたしが……あたしが操縦するわ」
「な、なんだって?」
「あたしが操縦する。ヴァンはアースドラゴンを止めることだけ考えて!」
「そんな、無茶だ!」
その言葉に、リリーナはしばし困った顔を浮かべ、
「……ねえ。あたしと初めて会った時のこと、覚えてる?」
「い、いきなり何を」
「あたしはヴァンに、竜騎士から逃げ切ってほしいって無茶なお願いをしたわ。その時ヴァンは大笑いして、快く引き受けてくれた」
優しい声音。少女は懐かしむように微笑みを浮かべ、
「ヴァンはいつだって他人のために動いてくれる。それが無茶なことだなんて投げ出したりしない……あたしもそう。だから無茶だなんて言わせない。だって、まだやってもいないんだもの!」
モニターに映る。強い意思を秘めた真っ直ぐな瞳。
ヴァンはしばし呆気に取られ、ふっと一つ息をつき、言った。
「分かった。操縦は任せる! 一緒に、アースドラゴンを止めよう!」
「うん!」
その言葉を合図に、機体が一気に天高く飛翔した。
「発射!!」
ライデンが構えたガンランスから高エネルギー砲が放たれ、更に上昇していくアースドラゴンへと突き進む。巨大な光弾はしかし、アースドラゴンの口へと更に集束され続ける粒子の渦に阻まれて弾けた。
「くっ……粒子の奔流が強すぎる! 機体の上昇高度も限界だ。こ、このままでは……」
その時、ライデンの横を白き翼がすり抜けた。白き翼は高度限界を超え、なおも上昇していく。
「ヴァン!」
「ああ、任せろ!」
このドラグノイドの推進力は通常のドラグノイドを凌駕する。この機体なら、まだいける!
「リリーナ、もっとだ! もっと加速してくれ!」
リリーナの操縦に応え両翼から粒子が更に爆発的に放出される。アースドラゴンとの距離が縮まっていく。
両翼のガンブレードを掴み重ねる。粒子の刃が共鳴し巨大な剣と姿を変えた。その切っ先を前方へ突き出す。
消滅させてたまるか!
ガンブレードの先端から、粒子が溢れだしていく。ヴァンを、ドラグノイドを包み込んでいく。
ここには、守りたいものが沢山あるんだ!
粒子の層が空気の抵抗を受け流していく。更に加速していく!
アースドラゴンが翼を大きく広げた。自身を包み込むほどだった粒子の奔流はその中心部へと残らず集束。思わず目を閉じたくなるほどに光を放つ蒼き太陽は、一瞬グッと凝縮したかと思うと溜め込んだ粒子を一斉解放された。目前まで迫っていた白き翼を呑み込んでいく。
はたして、光の柱を白銀の翼が突き破った。
手にした巨大な剣を大きく振り被り、力の限り振り下ろす!
「これで、終わりだあああああ!!!!」
交差。
天地を穿つ光の柱が止み、アースドラゴンの断末魔が響き渡った。
アースドラゴンの額のクリスタルの亀裂が広がっていく。その中心には、ガンブレードが深々と刺さっていた。一度生じた亀裂は、そのままアースドラゴンの全身まで及び、亀裂の奥から蒼い光りが溢れ出してガイアの大地を淡く照らしていく。光は安らかに弱まって――消えた。




