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疑惑

 ハッチが異音を立てて開いていく。開いた隙間から衝突で巻き起こった煙が入り込んで粉っぽさが鼻をついた。

 周囲に敵が居ないか注意しながら、コクピットから躍り出る。

「ってて……なんとか無事に乗り込めたな」

 まだ衝撃で朦朧としている頭を振って室内を見回す。

 備品置き場かなにかだろうか。奥行きのある部屋に棚がズラリと並んでおり、さっきの衝撃でそれらが滅茶苦茶に薙ぎ倒されていた。

 今居る位置から少し離れた部屋の隅にはドアがあり、どうやら出入り口はその一カ所だけのようだ。

「ハル。ここからどういけばシステムルームに辿り着ける?」

『この部屋を出て右の通路を、分岐を左に曲がってすぐの部屋がシステムルームです』

「了解だ」

 コクピット内に差したままのハルに手を掛ける。

『分かっているでしょうが、私を抜いたらすぐに逃げてください』

「ああ……行くぞ!」

 ゴクリと喉を鳴らし、勢いよくハルをドラグノイドから抜き取るとすぐさまきびすを返してドアへと駆け出した。

 ドアの横に小さなパネルを視界に捉え、

 認証タイプか。なら――

 腰に差していた先端の折れたガンブレードを構えてドアの横にある認証パネルに数発撃ち込む。パネルがスパークを起こし、ドアがスライドした。

 後ろは!?

 肩越しに後ろを見る。ドラグノイドの目が強く光り、その口が大きく開かれて粒子の光が溢れていた。

「や、やば!!」

 開いたドアへ向け、床を大きく蹴って身を斜めにダイブ。直前まで居た所の床が爆発を起こし、ヴァンの身を襲う。後ろからの爆風に突き飛ばされ、床を転がるようにドアをくぐり抜け、

 ガンッ!

「がっ……は!」

 壁に身を叩きつけられて一瞬息が詰まる。続く背中からの痛みに耐えながら目を開くと、ドラグノイドが姿勢を低くし再び発射態勢に入っていた。

 急ぎ身を起こし横に跳躍。直後、先ほど背を打ち突けた壁にエネルギー砲が炸裂して壁が爆散した。

 爆煙に煽られながら前転。すぐに身を起こしそのまま左通路奥へと駆けていく。

 分岐を右に曲がり、少し進んだところにドアを捉える。その上にはシステムルームの文字があった。

 パネルに光弾を撃ち込むとスパークを起こしてドアがスライド。そして勢いよく駆け込んで足を止めた。

「これが、ハリスシステムか」

 部屋の中には、一面を覆うほどの巨大なコンピューターが鎮座していた。

 コンピューターはいくつものモニターと操作パネルが明滅し、様々なデータが表示されては消えていく。中央の操作パネルの横には辞書ほどの大きさをした差し込み口があり、そこから幾重にもコードが伸びてその下に置かれた大型バックほどの金属ケースに繋がっていた。

「このケースが、ハルに代わるAI……」

 再びモニターに視線を戻す。瞬間、モニターに何かが煌めいた。

 ゾワリ――と背中を悪寒が走りぬける。

 反射的に、床を蹴っていた。

 直前まで居た場所を、鋭利な何かが空間を裂く音が響く。

 前転しながら腰のガンブレードを抜いてすぐさま身をひねる。立ち上がるのももどかしく中腰のままガンブレードを構えようと、

「うっ!」

 顔を上げると同時、ヴァンの喉元に鋭利な刃物が突きつけられていた。

 先手を打たれ、ガンブレードを構えようとしていた腕もピタリと止まる。

 突きつけられたのはレイピア。それを握る人物の顔を捉え、

「なぜ、ここに来ることが分かった……カーティス」

 剣を構えた人物――カーティスは陰湿な笑みを浮かべ、

「なぜ? 愚問だな。ハリスシステムは元々そちらの技術だ。システムでアレを操っているのに気付いた貴様たちは、モビーディックに突入しここを襲うことを思いついた。そうだろう?」

「く……」

 こちらの考えが既に読まれていたことに、ヴァンは奥歯を噛みしめた。

 ヴァンの浮かべた表情に、カーティスは笑みをより深める。右手に持った細剣が優位を誇示するかのようにユラユラと揺れる。

「しかし、たった一人でここまで乗り込んでくるとは無謀な賭けに出たものだな。その勇気は賞賛に価する……最後に、名前くらい聞いておこうか。勇敢なる騎士よ」

 ヴァンは顔を上げてカーティスを睨み、

「……ヴァン。ヴァン・フライハイトだ」

「ヴァン?」

 その名を聞いたカーティスが眉をひそめた。

「貴様、ドラグノイドを駆るギルドハンターか」

「!?」

 突然の問いに、今度はヴァンが眉をひそめる。

「なぜ、俺のことを知っている」

 怪訝な顔を浮かべ問うヴァンに対し、しかしカーティスは顔を左手で覆うと喉を鳴らし笑った。

「ああ、知っているとも。……なぜなら貴様は我が父、グレイス王を殺した張本人なのだからな」

「なに!? ふ……ふざけたことを! なんの根拠があってそんなことを――」

「王宮宛の届け物」

 その言葉に、心臓が大きく跳ねた。

「貴様は四日前、王宮へ届け物を至急届けてほしいという依頼を受けてガイアへと出発し無事に王宮へと届けた。違うか?」

「そ……それが、なんだってんだ」

 声が掠れる。ひどく息苦しさを感じながらも答えた返事にカーティスは満足そうに笑みを浮かべ、

「その届け物は、爆弾だったのさ」

「な――!!」

「貴様が届けた箱が王の下へ運ばれ、その数分後……爆発が起きた」

「そ、そんな……嘘だ!」

「いいや、本当のことさ」

 心臓が早鐘をうち、呼吸が乱れる。背中からどっと汗が吹き出し広がっていく。

 視界がグラつき、ガンブレードを握る両腕の力すら抜けて床に垂れた。

「観念したか。さあ、貴様には死をもって償ってもらおう」

 カーティスの持つ実剣が喉元へとゆっくりと近づいていく。剣先がプツリと浅く食い込み、そこから赤い滴が首筋を伝った。


「どう……して?」


 この場には全く似つかわしくない、綺麗で澄んだ、しかし悲しみに満ちた声が静かに響いた。

 カーティスは驚きに振り向き、

「な、なぜ……ここに」

 カーティスが声を震わせる。

 ヴァンは頭を上げ、カーティスの後ろ、入ってきたドアへと視線を移動させた。

 この場にもっとも居てはいけない人物に、ヴァンだけでなくカーティスも動きを止める。

 開きっぱなしになったドアへと手をかけ、もう一方の手をその胸に当てて静かに佇む、悲しみに満ちた表情を浮かべる少女がそこには居た。

「リリーナ……」

 困惑に揺れる視線がヴァンへ向き健気にも笑顔を浮かべると、一旦目を閉じて再びカーティスへと視線を戻した。

「答えて、兄さん……どうして、ヴァンが父上を殺した犯人だと、知っているの?」

「……なぜだと? そんなの、あの時になにが起こったかを考えればすぐに分かることだ!」

 しかしリリーナはゆっくりとかぶりを振り、

「いいえ。あの爆発のあと、兄さんはすぐに王になって戦争を起こすことに必死で、まだ具体的な検証までは出来ていない……そんな状態で、そんなことが分かるはずがないわ」

 ヴァンの喉元に突きつけられた細剣が震えだす。

「ましてやディオーネギルドの、一介のギルドハンターであるヴァンを知っているなんて、どう考えても不自然よ」

「黙れ……」

「兄さん……父の仇を取るのは嘘なのではありませんか? 父の死を理由に、本当は三ヶ月前に亡くなったあの人の仇を取ろうと――」

「黙れえええ!!」

 実剣がヴァンの喉元から離れて振り上がる。それを握るカーティスの狂気の瞳は、彼女を捉えていた、

「逃げろ! リリーナ!!」

 叫び声を上げる。床に垂れていた腕を上げ、ガンブレードのトリガーを引き絞ろうとして、直後、轟音と共に船が激しく揺れた。

「きゃあ!?」

「あ、危ない!」

 床に肘を付いていたことが、この時ばかりは大きなアドバンテージとなった。揺れにいち早く対応したヴァンは床を蹴り、体勢を崩し床に打ち衝けられる寸前のリリーナを抱えるようにして身を捻る。

 直後、背中全体を鈍器で叩かれたかのような痛みに襲われて肺の空気が絞り取られる。

 揺れはすぐに収まり、

「ぅ……大丈夫か?」

「うん……ありがとう、庇ってくれて。あたしは大丈夫。ヴァンこそ背中、痛かったでしょ?」

 リリーナが身体を起こして心配そうな顔を浮かべる。

 ヴァンはリリーナの頭に手を添えて「大丈夫だ」と答え、

「俺は、リリーナのボディーガードだからな」

 そう言って、笑顔を浮かべた。

 リリーナの瞳が大きく開き、笑顔で返す。それだけで、心が安堵で満たされていった。

 しかし、それも束の間でヴァンはすぐに身を起こし、

「カーティスは!?」

 周りを見回す。しかしカーティスの姿は無く、部屋の隅に細剣が転がっているのみだった。

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