フルメタルドラグーン

強行突破！

　＊　＊　＊

「素晴らしいじゃないか！　一撃であれだけの損害を与えられるとは！」

　モビーディックのブリッジに設置されている巨大モニターに映し出された光景にカーティスが歓喜の声を上げる。

　モニターには、バハムートの一撃を受けて地に落ちた艦から絶えることなく黒煙を吐く映像が映し出されていた。

　しかしカーティスの横に立つ人物は反対に焦りの表情を浮かべ、

「しかし、標的はアロイス艦だったはず。にも関わらず別の艦への発射。それにともない射線上に居た味方ガンシップの被害も甚大です。……やはり、制御しきれていないのです」

「かまわないさ、艦長。最終的に奴らを葬ることさえ出来れば、な」

「王……！」

　嬉しそうに語るカーティスの横顔に背筋が凍りつくのを感じ、艦長は焦りの色を更に濃くしながらそう呟いた。

「敵艦、後退を始めました！」

「ここまできて、逃がすと思っているのか？　一気に終わらせてやる！！　全艦、全速前進！」

　カーティスがクルーに指示を飛ばす。しかし、

「ディオーネ鋼竜騎士団、集結しつつ、こちらに高速で接近してきます！」

「なに？」

　映像が切り替わり、顔を上げモニターを見やる。

　そのモニターには大型ドラグノイドの背中がその大半を占めていたが、その隙間から覗く向こう側からこちらへ接近する敵ドラグノイドの姿を捉え、目を細める。

　竜騎士だけだと？　どういうことだ？

　カーティスは眉根を寄せて一瞬考えてから、

「バハムートに迎撃指令を出せ。鋼竜騎士団とガンシップ部隊にもな」

　クルーが復唱するのを聞き、席に腰を下ろす。

　右拳を顎に当てる。モニターに向けていた瞳を閉じて一度息を大きく吸ってからゆっくりと吐いていくと、心中で何か引っかかるものに思考を巡らし始めた。

　まさかバハムートを竜騎士だけで倒せるとでも？　それとも、単なる最後の悪あがきか……いや、あのアロイスがそこまで無謀なことをするだろうか？　竜騎士が何人集まろうと、バハムートを倒すなどまず無理だ。そんなことは一目瞭然のはず……それこそ、バハムートを行動不能にするだけの隠し玉があるのか？　行動を……不能に？　まさか――

「……カーティス王？」

　突然立ち上がり踵を返してブリッジの出入り口へと歩きだしたカーティスに艦長が呼び止める。しかしその歩みは止めず、

「艦長、ここは任せる。敵はこの艦へ一点突破し進入するつもりだろう。絶対に突破させるな」

　艦長は一瞬、頭の上に「？」マークを浮かべるように間抜けな顔を浮かべたが、すぐに顔を引き締め、

「はっ！　……して、王はどちらに向かわれるのですか？」

　カーティスはそこでやっと歩みを止めると腰に差しているレイピアの柄に手を添えて肩越しに振り返った。そして口端をつり上げ、

「もちろん、客人を迎える準備さ」

　＊　＊　＊

『敵ガンシップ、一斉に砲撃を開始！　敵竜騎士、続いて接近！』

　ハルの警告を合図に、前方から幾多の鉛弾が飛来する。

「回避！　敵竜騎士も構うな！　俺たちの目標はモビーディックだけだ！」

　機銃の嵐をかい潜りながら強引に突き進む。翼や胴体が避けきれなかった弾を受けて激しい火花を散らした。コクピットに潜っていなければ、既に命は無かっただろう。

『バハムートが動き出しました。粒子が集束していきます！』

「さっきのがまたくるぞ！　みんな、避けろーー！」

　ハルが警告を発し、仲間たちへ一斉に呼びかける。

　宙に留まっていたバハムートの頭部が持ち上がり、その口から光が溢れだした。次の瞬間“光の帯”が放たれた。

　竜騎士の操るドラグノイドが無駄のない動きで各々に回避行動をとり散らばっていく。

　ヴァンもすれすれで回避。再び密集して再加速していく。

「いいぞ……このまま、作戦通り――」

　カッ！！

　間発入れず、再び“光の帯”が煌めいた。集結しかけていたのを光の壁が分断し、眼下の森が熱線に焼かれて炎に包まれていく。

「なんだこいつ！？　　あれだけの威力を誇る粒子を、こんな短時間でチャージ出来るのか！？　――！！」

　更に放たれる“光の帯”を回避。

「一斉砲火ーー！」

　竜騎士のかけ声と共に全機からエネルギー砲が放たれる。

　全ての弾が大型ドラグノイドの胸部に命中し、派手な煙が上がった。

「はっは！　どうだ！　――なに！？」

　煙が風に流され尾を引いていく。しかしその姿は、まるで鉄壁の要塞のごとく、微動だにせず宙に佇んでいた。

「こいつ、全く効いてねえ！」

　リードの部下の一人が驚きに声を上げる。

「倒そうとは考えるな！　やつの気を逸らせればそれでいい！」

　再び光が瞬き、仲間の竜騎士の悲鳴が響く。

「おい！　大丈夫か！？」

「か……かまうな！　翼を少しもってかれただけだ！」

「く……！　みんな、もう少し持ち堪えてくれ！」

　大型ドラグノイドの口が再び光り始める。恐ろしいほどに煌々と輝き、その首が横に振られ――

　ドオオオオオ！

　“光の帯”が横薙ぎに戦場を駆け抜ける。前線に出ていた敵の戦艦やガンシップが一瞬で光に呑まれ、大地を穿ち次々に火柱が上がった。

「そんな、味方ごと……！？　どうなっている？　見境が、ないのか！？」

　回避のため散り散りになっていた仲間たちが再び集まる。

　目の前までバハムートの巨体が迫る。その威圧さに、恐怖が走った。

　ヴァンはかぶりを振って恐怖を払い、バハムートに意識を集中する。

「みんな、手筈通り頼む！　いくぞ！」

　かけ声に応え竜騎士が立て続けにエネルギー砲を放ち、光弾がバハムートの頭部に命中、爆煙が立ちこめバハムートの視界を奪う。

「散解！！」

　ヴァンともう二機は右へ、反対側へもう三機と分かれて大型ドラグノイドの巨大な腕が横薙ぎに振られ迫る。

　粒子を下方へと放出させて機体を急上昇。一瞬前までいた空間を巨大な鋼鉄の腕が通過した。本体を通り過ぎたことに安堵した。が、その直後、巨大な鋼鉄の壁が目前に迫った。

「尻尾！？　この――！」

　反応が遅れるも、翼を左右別々に動かす。機体の空気抵抗が変化し、螺旋状にぐるりと機体が回り始めた。

「抜けろおお！」

　巨大な鋼鉄の尻尾が空気抵抗を受け轟音を立てる。はたして、

　バキイ！！

「あああ！？」

　避けきれず機体が接触。バラバラになるのではないかと思うほどにキリモミしていく。警報が耳を突きメーター類がデタラメに跳ね上がる。と、突然大きな衝撃に襲われると同時に機体が安定した。

「大丈夫か？」

　見ると、仲間のドラグノイドが四肢でヴァンの機体を掴んでいた。その機体は既にボロボロになっている。

「ああ、ありがとう！　すまない、みんなにこんな無茶を……」

「そのセリフはこの作戦が成功してからだ。後は――いけるな？」

　リードの部下である青年が問う。

　ヴァンは、ハッキリした声で、

「はい！」

「よし、頼んだぜ。あのデカブツや敵竜騎士たちは俺たちが引きつける。団長の分まで、かましてこい！」

「死なないでください……すぐに戻ってきます！」

　機体を支えていた四肢が離される。

　竜騎士は笑顔で返すと、一直線に迫る敵竜騎士たちへと向け機体を加速させた。反対側からバハムートを抜けた仲間たちも、ヴァンを守るように各自で応戦していく。

「あと少しだ。お前の加速性能、今こそ見せてもらうぞ！」

　スロットルを一気に最大まで押し込む。猛烈なＧが身体を襲い、視界がブレて暗くなっていく。

「この……ま、け、る、かあああああ！」

　前方から更に敵竜騎士が迫る。放たれるエネルギー砲を回避しその横を一気に突き抜けると、ソニックブームで敵は弾かれるように機体をふらつかせた。これまでのドラグノイドでは追撃不可能な速度で突き進み。モビーディックの姿がどんどん近くなっていく。

『モビーディックと周辺の艦隊より砲撃！』

「しつこい！」

　砲撃が雨のように迫るなか、機体を急上昇。曇天の雲を――突き抜ける！

「わ……」

　雲の下の喧騒が嘘のような澄んだ空。夕日に変わりつつある太陽が眼下の広大な雲の海を照らし、一瞬ここが戦場であることを忘れるほどの、綺麗な光景が広がっていた。

　上昇を止め、降下していく。

　再び雲を突き抜けると、見計らっていたかのように砲撃が再開された。

　全包囲から迫る砲撃が機体の翼を、尻尾を、四肢を掠めていく。モビーディックの黒い装甲は、目の前まで迫っていた。

「モビーディックの装甲をぶち破る！」

『一発や二発では歯が立ちません』

「だったら……いくらでも撃ち込んでやるまでだ！」

『しかし、一カ所に何度も砲撃するだけの猶予など敵は与えてくれないでしょう。その間にこちらが追いつめられます』

「そんなの、やってみなきゃわかんねえだろ！？」

　ヴァンのセリフに、ハルは『ヴァン。君は本当に面白い』と言い、

『試してみたいことがあります。私に任せてくれますか？』

「ハル？」

　ハルの言葉に驚きの声をあげる。そして、ヴァンは迷うこと無く答えた。

「ああ、信じてるぜ！　相棒！」

『了解』

　ドラグノイドの口が開き、その奥のエネルギー砲がせり出す。と同時に両翼の付け根に固定されていたガンブレードの切っ先が前に突き出した。

　三つの砲から光が溢れはじめる。三つの粒子の塊は互いに共鳴して一つとなり、更に強い光を放ちはじめた。

　これは、ガンブレードを重ねた時と同じ――粒子の共鳴！？

『一発で穴が開くかどうかは分かりません。ヴァン？』

　もう、迷いはなかった。

「ぶちかませ！」

『了解！』

　目と鼻の先まで迫った黒い壁めがけ、巨大な粒子の塊が解き放たれる。

　モビーディックの分厚い装甲に衝突し、凄まじい爆発を起こした。

「うおおおおおおお！！」

　煙が視界を遮り、穴が開いてるかどうかも分からない煙のただ中にそのまま突っ込んでいく。

　直後、機体が何かと激しくぶつかる衝撃に襲われてヴァンの脳をシェイクする。奥歯を噛みしめて意識が飛びそうになるのを必死で繋ぎ止め、

　ガアン！！

　鉄の壁との激しい衝突音が響きわたり、やっと機体が停止したのだった。