作戦
「ハリスシステムの、奪還!?」
提案を伝えての第一声は、アロイスの驚愕に満ちた声だった。
リードは提案を吟味するかのように目を瞑り思考を巡らせ、ドラグノイドの下からはライデンが「そんなことが……」などと呟いている。
「はい。そうすれば、あの大型ドラグノイド――バハムートを無力化し、モビーディック自体もハルの管理下に置くことが出来るでしょう。最悪、ハリスシステムさえ破壊すればバハムートだけでも止めることが出来る!」
アロイスは顎に手を当て、しばらく考えてから、
「確かに、それが出来れば一気に形勢逆転出来るでしょう。しかし、それはあのバハムートやモビーディックを取り巻く敵部隊をくぐり抜けて単身モビーディックに侵入するということ……危険過ぎる!」
「それに、疑問が一つある。無事に辿り着けたとして、そのドラグノイドはどうなる?」
続くリードの疑問に、ヴァンはドラグノイドに目を落とし思わず唸った。
そうか。こいつは元々遠隔操作用に造られたドラグノイド。今はハルの管理下にあるから大丈夫みたいだが……まさか?
ハルはそんなヴァンの心を読むかのように、
『はい。ご指摘の通り、私を抜いた途端にこの機体はシステムに乗っ取られてしまうでしょう。その時一番近くにいるであろうヴァンを攻撃対象と見なし危害を加える可能性は、ほぼ確実と思われます』
ハルの言葉に、アロイスとリードの表情が強張り、視線がヴァンへ集中する。
ヴァンは少し頭を捻ってから、
「……ハル、お前を抜いてシステムに乗っ取られ動きだすまでに要する時間は?」
『おそらく、五秒ほどかと』
「五秒か……抜いた瞬間じゃない分、いくらか望みはあるな」
「ヴァン!?」
「どの道、あんなものを出した以上カーティスはこちらを逃がすつもりなど無いでしょう……生き残る可能性があるなら、それに賭けたい」
アロイスが信じられないと言う風に呆気にとられた顔を浮かべ、そして横ではリードが高笑いを響かせた。
「王子、この作戦に賭けましょう……我ら鋼竜騎士団が援護します! 速度と小回りの利くドラグノイドで奴の注意を分散させれば、危険はグッと減る。アロイス王子はその間に少しでも離れてください」
「……分かりました。この作戦に、全てを託します」
アロイスの言葉に、リードは力強く頷き、
「よし、話は聞いてたな? お前ら! 鋼竜騎士団の誇りにかけて、この作戦を後押しするんだ!」
リードが声を張り上げ、散らばっていた竜騎士が集まり始める。リードは押さえていた脇腹から手を離して立ち上がった。
「さて、ヴァンよ――」
「ああリード、悪いけどリードにはやってもらいたいことがあるんだ」
「は? うおっ!?」
リードの言葉を遮り、ドラグノイドで掴んでいたライデンを放り投げる。リードは驚きながらもドラグノイドの四肢でライデンをキャッチする。
投げられたライデンは傷が痛んだのか、苦悶の表情を浮かべた。
「ディオーネ艦の医療室に連れてってくれ。ついでにリードも見てもらってくれよ」
「なに!? ふざけるな! 今すぐに機体を入れ替えろ! モビーディックには俺が乗り込む! お前が行くことはない……お前は……生きるんだ!」
声を荒げるリードに、しかしヴァンは困ったように笑みを浮かべた。
「そう言うだろうと、思っていたよ。けど、今のリードには無理だ」
「て、てめえヴァン! ふざけるな! ぐっ……っ!」
カッとなり怒鳴るリード。しかし再び脇腹に痛みが走ったらしく、表情を歪めた。
「もちろん、死にに行くつもりはないさ。……けど、親父たちはディオーネのみんなを、大切な人たちを守るために戦った。だから今度は、俺が大切な人たちを守りたいんだ。今なら、親父たちの気持ちがよく分かる……」
「お前……」
「大丈夫さ。俺が強運の持ち主だってのは、リードが一番知ってるだろ?」
リードは笑みを浮かべると、ため息を一つ吐き、
「ああ……そうだったな」
「そうさ。……じゃあ、行ってくる」
機体をガイア軍に向ける。ドラグノイドのハッチを開放してヴァンはその身を中に滑り込ませた。ハッチが閉じ、外部の映像が映し出される。
「さあて、こっからはスピード勝負だ……行くぞ!」
ドラグノイドの翼が羽ばたく。それを合図に凄まじい量の青い粒子が放出されて機体を一気に加速させていった。アースクリスタルの恩恵で得られたエネルギーが生み出す加速力は、ガンシップに積まれていたブースターを遙かに越え、急激なGがヴァンの身体を襲った。
「……ぐっ!!」
『どうしました? ヴァン』
加速を緩めるヴァンにハルが訪ねる。
「ハル……この機体、前のより加速や旋回性能が上がってないか!?」
『ご明察。この機体は元々無人の運用を想定していましたから、人体の限界を越える加速性能が与えられています。今更ですが、加減することをお勧めします。なんなら私の方でリミッターを設けますが?』
そんなハルの申し出を「はっ! いらねえよ!」と一蹴してやった。
「こんくらいじゃじゃ馬なほうがイイ。なによりこの性能は、今一番の武器になる!」
『それでこそです』
ハルの言葉に応えると、ヴァンは大型ドラグノイドを、そしてその奥に控えるモビーディックを睨みつける。
周りには味方の竜騎士たちが集結しつつあった。
「必ず止めてやるぞ! カーティス!」




