再戦
機体を激しい攻防を展開しているリードとライデンに向け加速。
腰に付けていた剣先の折れたガンブレードを手に取り、ライデンへと銃口を向けて構えた。
『その武器でライデンを相手取るなんて無謀です!』
「ドラグノイドのエネルギー砲じゃあ威力が高すぎて間近にいるリードにも危険が及ぶ。今は……これしかないんだ!」
『いいえ、武器ならあります』
「なに?」
ハルがそう言うと、両翼の付け根からパーツがせり上がる。
機体と同じく純白に輝き、切っ先からパーツの付け根まで伸びる青いライン。その反対側は黒いグリップとトリガー。その見慣れた形状にヴァンは「こ、これは……」と声を漏らした。
「まさか、ガンブレード!?」
『はい、この機体オプションパーツですが、使ってみては?』
ヴァンは、ニヤリと笑みを浮かべ、
「ああ、もちろん!」
左右のガンブレードを手に取って銃口をランデンに向けると同時、トリガーを引く。先端から粒子の光が溢れ、それは一直線にライデンへと向かっていった。
しかしリードを弾き返したライデンはその場で空中回転し回避。それと同時にランスの切っ先がこちらを向くと先端が光を発し撃ち返してきた。
ヴァンも機体を操作し光弾をやり過ごす。手にしたガンブレードに粒子の刃を発生させ、
「はあああ!!」
すれ違いざまに強烈な一撃を放つ。しかし強固な盾に遮られてしまう。そのまま一撃離脱しすぐさま旋回、ライデンと対峙するリードの横に並んだ。
「ようヴァン。あれだけ突き放したってのに……結局きちまったんだな」
そう言い、リードは溜息と共に肩を落とした。
「はは……悪い。でも、さっきは助かった」
「礼ならハルに言ってやんな。ハルがいきなりヴァンが居ると言い出して来てみればこれだ。言いたいことは沢山あるが……どうやら今はそれどころじゃないらしい」
リードはガンスピアを構え、ライデンを見据える。
「前の戦いでフルバーストを受けて、それでもなお生きているとはな」
「喰らう直前、ドラグノイドの背から飛んで回避したのさ。おかげで大事な愛機を失っちまったがな……後は運任せだ。下が森でなけりゃ一瞬でお陀仏だったぜ」
ライデンは抑揚のない声で「そうか」と言い、続いてヴァンへ視線を移すと、視線の鋭さが増した。
「貴様、これ以上関わるなと言ったはずだが?」
「あいにく、簡単には諦めないのが信条でね」
「ならば、その信条諸とも貫き砕くまで!」
ガシャリと音を立てながら、ガンランスを構える。それが開戦の合図となった。
「ヴァン、援護を頼む!」
「おう!」
漆黒の機体が急加速しこちらに迫る。
リードが迎え討つべく加速。ヴァンはガンブレードの切っ先をライデンに向けトリガーを続けざまに引く。
「その程度では牽制にもならんぞ!」
ライデンは盾とランスで射撃を弾き、速度はそのままに、リードに速度の乗ったガンランスが一気に突き出された。
しかしリードは動じず、腕を引いて力を溜めたスピアを一気に突き出す。互いの武器がぶつかり合い、一層激しい衝撃が大気を駆け抜けた。粒子が弾けて互いに距離をとる。
その隙を狙いガンブレードを構えて急加速、即座にガンブレードを構えライデンに迫る。
しかし盾に弾かれ、直後に薙払いが空を裂き迫った。ブレードでガードし一旦距離を取る。
そこにリードの突き。しかしライデンは返す刃でその突きを弾き返す。
「まだまだああ!」
威勢と共に猛烈な連撃を繰り出すリード。防戦一方のライデンの表情が歪む。
その間にヴァンは後ろへと回り込む。ガンブレードを構え、
「ここだ! ――なに!?」
しかし突然粒子の壁で視界を遮られ、直後、黒い鞭のようなものが横から機体を襲い弾き飛ばされていた。
こいつ……! 粒子とドラグノイドの尻尾で死角をカバーしやがった!
きりもみする機体を安定させて顔を上げる。
ライデンがリードの連撃を一気に押し返した。
その瞬間、ライデンが機体ごとグルリと右回転を始め、同時に手にしたガンランスに力が溜め込まれていく。
周りに粒子が舞い、構えたランスが一際強く光を帯びた。
リードの表情に焦りの色が浮かぶ。迫りくるガンランスの方へとっさにガンスピアを縦に構えた。
「はあああ!!」
ライデンの破気と共にガンランスが横薙ぎに空を裂いてガンスピアとぶつかり激しい衝撃音と共に火花が散り、リードは機体ごと真横に吹き飛ばされていた。
すぐさま機体を立て直そうとする。しかしリードは苦悶の表情を浮かべ、明らかにもたついていた。
「リード!?」
脇腹を押えている? まさか、傷口が開いたのか!
「今度こそ、終わりだ!!」
勝ち誇った声と共にライデンのガンランスが開き、溢れる粒子がその中心に収束を始めていた。
あれは――前回もリードに放った技!
「フルバースト!!」
撃ち出されたエネルギーの塊が周囲の空気を焼き、轟音を響かせてリードに向け放たれ迫る。
脇腹の痛みがリードの身体の自由を奪う。リードは奥歯を強く噛みしめ、目の前に迫った“死”に、キツく目を閉じた。刹那――。
バシイイイ!
「……なに!?」
閉じていた目を開ける。
激しい粒子の奔流が周囲へとほとばしらせ迫っていた巨大なエネルギーの塊は、リードの手前で制止していた。
その光景に、反対側のライデンが動揺を露わに、
「これはどういうことだ……そんな、まさか!?」
「はっは……やるじゃねえか……」
ライデンが事態を呑み込み、リードは苦笑を浮かべる。目の前の人物に向け、苦しそうに声を振り絞った。
止めるは、一本の巨大な剣――。
「もう……やらせやしない! やらせてたまるかあああ!」
腕に力を込め、押し返さんとドラグノイドが粒子を大量に放出される。
ヴァンの手には、重ねられた二本のブレード。いや――重ねられたそれはもはや、一本の大剣のように長大な粒子の刃を発生させていた。それがエネルギーの塊とぶつかり、激しくスパークを起こしながらその場に留めている。
「この戦いを終わらせるんだ……もう、大切な人たちを――」
脳裏に自分を支えてくれた人たちの姿がよぎる。リード、サム、アロイス……今は亡き両親。そして、リリーナの笑顔が浮かび――。
「失って、たまるかああああああ!」
声に呼応するかのように、大剣を握る腕に力を込める。
そしてエネルギーの表面に亀裂が生じた。瞬間、
ドオオオ!!
形態を維持しきれなくなった巨大なエネルギーの塊がその場で爆発。周囲に大量の粒子が爆風と共に周囲へ飛散していく。
「くっ!?」
ライデンは粒子の爆風を盾で防ごうと、
ブワッ!
「うおおおおおお!」
「なに!?」
粒子の霧から飛び出したヴァンが大剣を頭上に大きく振りかぶる。ライデンはとっさに盾を構え、
ザン!
一閃が、大気を斜めに裂いた。
構えられた盾は二つに分れ、ドラグノイドの頭部が切り落とされる。一瞬遅れ、ライデンの胸部から鮮血が飛び散った。
「か……は……」
弱々しい言葉と共に、浮力を失った漆黒のドラグノイドが落下、同時にライデンの身が力なく宙に放り出され、落ちていく。
「勝った……のか……俺」
一本の大剣を二振りのガンブレードに戻し、小さくなっていくライデンの姿をしばらく呆然とその姿を見下ろしていた。
「……っ!」
頭を振り、ヴァンは弾かれるように機体を急降下させた。
『ヴァン? どうするつもりですか?』
「決まってんだろ!」
落下していくライデンに追いつく。気付いたライデンは驚きの表情で、
「き、貴様……なにを」
「時間がない! 勝手に暴れて掴み損ねたら知らねえぞ!」
ドラグノイドの四肢がライデンを掴みあげる。森の大地はすぐ目前まで迫っていた。
ヴァンはすぐさまドラグノイドの両翼をめいいっぱい広げる。
大量の砂煙と木々の葉、そして粒子が辺りに立ち込めて機体を呑み込んだ。
それから一瞬遅れて中から煙の尾を引き白い機体が翼をはためかせて勢いよく飛び出した。
十分に高度を上げたところで上昇速度を緩め、ヴァンは額の汗を手を甲で拭った。
「ふぅ、ギリギリだった」
「なぜ……」
「ん?」
ライデンはドラグノイドに鷲掴みされたままでこちらに怪訝そうな顔を向け、
「なぜ、敵である俺を助けた?」
「ああ――」
ヴァンは少し間を置いて、
「あんたほど強い奴がこんなとこで死ぬなんて、惜しいなって、思ったんだ」
ライデンは呆気に取られた顔を浮かべて暫らく硬直していたが、ふっ――と笑みを浮かべ、
「……礼は言わんぞ」
「別に、期待してねえよ」
上昇スピードを緩めリードの元へ向かう。戦局は、ディオーネ軍が押し始めていた。




