戦闘介入
「もうそろそろ、追いつくはずだ……」
静寂に包まれた空間に甲高い音が響き渡っていく。白い霧の中、エンジン音と風切り音が耳を突いた。
それからしばらく、急激に霧が薄くなり始めた。そして、
ブワッ!
突然、先の見えなかった視界が広がっていく。曇天の雲を抜け、雲間に降り注ぐ日の光に目を少し細めた。一間を置いて目を開くとガンシップから眼下を見降ろした。
「……もう、戦争が始まっている!」
その光景にヴァンは息を呑んだ。二国の保有するガンシップが入り乱れ、あちらこちらで爆発の光が瞬いては消えていく。
その中、アロイス艦を守るように前線寄りにいた戦艦が敵ガンシップに取り囲まれ、黒煙を噴きながら降下して地面に突き刺さり、遅れて大爆発を起こした。
「なんて……ことをっ!」
数秒遅れて爆発の余波がヴァンの機体までも揺さぶる。
操縦桿を握る手に無意識に力が入り、ギリギリと音を立てた。
「行くぞ! まずは戦艦に取り付いている敵機を引き離す!」
「ああ、これ以上ガイアの好き勝手にさせる訳にはいかないからな!」
ヴァン機の斜め後ろで追従するように飛行するガンシップから返事が返ってくる。モニターには癖っ毛の小生意気そうな少年、サムが映っていた。
操縦桿を倒しスロットルレバーを全開まで押し込み下降しながら一気に加速していく。
戦艦を沈めた敵機の群れがこちらの接近に気付いたのか、一斉にこちらへと向かい始めた。
「おいおい、多過ぎだって!」
「なんだ、いきなり弱腰か?」
「そ、そんなんじゃねえ!」
サムはモニター枠一杯に映り込み叫んだ。そんなサムに、ニヤリと笑って返すも、その額に一筋の汗が流れた。
「けど正直、いきなりのピンチだ……早速だが使うぜ!」
「オッケー! これ以上ガイアに好き勝手にさせたくないからな!」
「タイミングを合わせろ! 行くぞ!」
こちらに向かってくる敵機が群を成し、一斉に機銃が唸りを上げ始める。
「今だ!」
ガキン! っと金属音を立てて両翼の下部に設置されていた筒が切り離される。同時にヴァンとサムはそれぞれ回避行動を取り弾幕を回避していく。二機から切り離された四つの筒のようなものは数秒後に外装が外れ突起物が露出。そして、
ズババババ――――!!
一斉に撒き散らばる突起物が敵機の群れに降り注いだ。互いの速度も相まって突起物の威力は何倍にも高められ、敵機のボディーを容赦なく打ちつけ破壊、複数のガンシップから黒煙が噴き上がり、戦線を離脱していく。
「「よっしゃあ!!」」
サムが親指を立て、それに応えるようにヴァンも親指を立てた。
「複数のモンスターを一網打尽にする為にギルドが開発した特殊兵装だ! ガンシップ相手でも効果絶大だな!」
「ああ! ――!?」
アラームが鳴り響き機体を上昇させる。直前まで居た空間に横からの銃撃が通り過ぎ、直後には敵機が横切っていった。
「さっきの攻撃で落としきれなかった連中か!」
アースクリスタルの恩恵を受けたガイアのガンシップはその速力を活かして一気に旋回。すぐ後ろに回り込み撃墜しようと迫る。
「流石に速い――けど!」
スロットルレバーの横に増設された緑のボタンを勢いよく叩き付ける。すると機体上部に増設されたブースターが点火。瞬間、強烈なGにヴァンの身体がシートに押さえつけられてヴァンは顔を歪ませ、直後に敵機の機銃が唸りをあげた。回避する毎に機体各部がギシギシと異音を立てながら機体を無理やり押し進めていく。
「サム!」
「ああ!」
見るとサムも後続の敵機の追撃を振り切ろうとブースターを点火。互いに向い合い加速していく。
ヴァンは後ろの敵を無視し、サムの後ろを取っている敵機に狙いを定めると、トリガーを引いた。機首の機銃と両翼に増設された機銃が火を噴き、サムを狙っていた敵機へと伸びる。直度、敵機が火を噴き爆発に呑み込まれ、同時にヴァン機の後ろからも爆発音が響いた。
「サンキュー! 助かった!」
「ああ、サムもよくやってくれた!」
そう言うと再び機体を旋回させた。
「――ヴァン!?」
「あ、アロイス王子!?」
突然の通信に驚きながらも返事をする。しかしアロイスも同じように驚きの表情を浮かべ、
「なぜ、ここに居るのです! この戦いに民間人を巻き込むわけにはいきません。早く戦線から離れてください!」
訴えるアロイス。しかし、
「……いいえ、アロイス王子。これは、空に生きる者のプライドをかけた戦いなのです!」
「プライドをかけた? 一体、なにを……」
「ディオーネの方向を、見てください」
ヴァンの言葉に、アロイスはクルーに指示を飛ばす。艦のモニターに映し出された光景に感嘆の声を上げた。
ヴァンたちが出てきた空から、後を追うかのように次々と戦艦やガンシップが姿を現していく。それぞれ個性的なカラーや装備で固められたそれは、一見なんの統一性もない集団のようにも見えるだろう。しかし、
「まさか、ギルド!? 民間の請け負い企業であるギルドが、援軍として来たというのですか!?」
「そう……みんな、こんな戦争を終わらせたい。ディオーネを守りたいと願う者たちです。アロイス王子」
一度言葉を切り、力強く、
「共に、戦わせてください!」
アロイスは逡巡していたが、やがて顔を上げ、
「分かりました。ギルドの協力に感謝します」
「はい!」
「話してるとこ悪い! 敵の後続部隊が迫ってくるぞ!」
サムが急かすように声を張り上げる。
ヴァン機の横にサム機が並ぶ。ヴァンはコクンと頷き、共にブースターの速力を活かして戦場を駆け抜けていく。
「突貫工事だから機体バランスは滅茶苦茶……両翼に増設された機銃も真っ直ぐ飛んじゃくれない。それでも……」
操縦桿を握る手に力を込める。
「それでも、これで戦える!」
後から合流してきたギルドの仲間たちも続々と戦闘に加わり、サムと協力して戦艦に取り付いている敵機を次々に撃破していく。見方のガンシップを助けながら、別のディオーネ艦を取り巻いている敵機へと加速をかけようと操縦桿を操作しようと、
――なんだ?
一瞬、雲間から照らす日が途絶えた気がした。
ヴァンの背筋を嫌な感じが走り抜け、同時に弾かれるように空を見上げる。太陽の中に、黒い影が揺らいだ。
まさか――ライデン!
すぐさま機体を旋回させようとロールさせる。直後、鈍い衝撃が機体を襲った。
エネルギー砲がブースターをかすった!?
「くっ!」
ブースター点火スイッチの隣の赤いボタンを叩き付ける。機体上部の増設されたアームが小さく爆発しブースターが切り離される。直後、ブースターが派手に爆発した。巻き起こった爆風と炎が機体を呑みこんだ。
「ううあああ!」
機体を激しい衝撃が襲う。ヴァンはバーニアを最大にして灰色の煙の尾を引き爆炎の中から飛び出した。ヴァンは頭を振り、
畜生……頭ん中を一気にシェイクされたみたいだ!
「ヴァン!?」
「逃げろサム! 竜騎士相手じゃ幾ら追加武装したガンシップでも分が悪い!」
叫びと同時に操縦桿をめいいっぱい引き起こして急上昇。ライデンが操るドラグノイドはサム機の狙いを定めてエネルギー砲発射態勢に入っていた。
「させねえ!」
トリガーを引き四つの機銃が唸りを上げる。ライデンはドラグノイドの翼を羽ばたかせて難なく 回避すると同時にエネルギー砲をヴァンへと向け撃ち出した。回避行動。エネルギーの塊は機体の下をギリギリのところで通り――
バシィッ!!
「うわっ!?」
直後に計器類が火花を散らし、顔を腕で覆う。
「ヴァン!! 避けろおおお!!」
前を見ると、敵ドラグノイドが再び発射態勢に入っていた。再び操縦桿を倒す。しかし、
そんな、操縦系まで!?
ドラグノイドから放たれた光が迫る。瞳孔が狭まり時間が引き延ばされ、全身を死の恐怖が駆け巡った。
や、やられる!
グワア!
「……え?」
エネルギー弾はヴァン機に命中する直前、横から来た“何か”によって爆発、四散した。更に数発、ライデンを追い払うように光弾が横切っていく。
横に視線を移す。そこには赤と白のドラグノイドが高速で迫っていた。
「リード!?」
「こいつは俺が引き付ける! お前はそいつと一旦離脱しろ!」
深紅のドラグノイドの背に立つリードはライデンとの距離を一気に詰めるとガンスピアを突き出した。ライデンの突き出したガンランスと衝突して青い粒子の火花を散らした。
「そいつって――!?」
気付くと、リードと共に飛行していたドラグノイドがガンシップの横に並んでいた。
「お前は……いったい?」
純白を基調としブルーのラインが入ったボディー。頭部の左右からは後方に向けて角が伸び、対して額からは一本角が前方に向け伸びていた。ブルーのツインアイが一際強く輝きを放った。
『来ると思っていました。ヴァン』
聞き慣れた、機械音声。
「ハル!? ハルなのか!」
『はい。さあ、早くこちらへ飛び移ってください。そのガンシップはもう保ちません』
「……ああ!」
機体から身を乗り出して大空に身を投げる。一瞬の無重力から、ドラグノイドの背に降り立った。直後、ガンシップのエンジンから煙が噴き上がり、落下していく。
ヴァンはすぐに振り返り、親父たちの形見であったガンシップが小さくなっていくのを、自然と目で追っていた。
「……ここまで連れてきてくれてサンキュー。後で必ず、回収しにくるから!」
目を離して、ハルに問う。
「助かったぜハル! 中には誰が?」
『いいえ。この機体は私のみで操作しています』
「え!? じゃあ、この見たことない機体は?」
『この機体は、試作機によって得られたデータを元に既に完成していた機体です。プロジェクト凍結と同時にこの機体も倉庫の奥に眠っていたのを今回マリー博士が引っ張り出したものです。それよりも、やらなくてはならないことがあるのではないですか?』
ヴァンはモビーディックを見る。そして、
「ああ……力を貸してくれるか?」
『勿論。その為にここに居ます』
その言葉に、ヴァンは笑みを浮かべた。足元がロックしハルの自動操縦から外部操縦に切り替わった。
「よし、行こう!」
リードの援護に回るため、ヴァンは機体を旋回させた。




