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戦争

 その姿を、ヴァンは黙って見送った。

 いや……真実を打ち明けられ、最後には涙を流して去っていく彼女を、混乱しているヴァンは何も言うことが出来なかったと言う方が正しかった。

 彼女の残した言葉が耳から離れない。

 まるで心臓をえぐり出されるかのような痛みとなって、苦しく、辛い。


 ――さよなら!


 なんだよ、その言い方。まるで、もう会うことが無いような言い方じゃないか……いや、事実、そうなんだ。ガイアの王女とディオーネの一般人――その差は言うまでもなく大きい。事実を知った今、もし会えたとしても、この二日間のように楽しく話すことなんか出来ないだろう。それは同一人物ではあっても、既に全くの別人とも言える。つまり、そういうこと……。

 胸の痛みと体から力が抜けていく。ヴァンは彼女が消えたベランダの出入り口を見つめていた。

 そこに、何かの風切り音――


 ドオン!


「な、なんだ!?」

 沈み気味だった俺を、間近で起きた爆発が現実に引き戻した。

 爆風で揺れる機体バランスを制御しながら、爆発音がした方向を向いた。

 その視界に入ってきたのは、ガンシップの無残な残骸。

 味方のガンシップが王宮に墜落した!?

 空を見ると、防衛ラインを突破した三機のガンシップが王宮に向かっているのが見えた。

 塞ぎこんでる場合じゃない。このまま王宮に攻め込まれたら、彼女が――!

「彼女はこの戦争を止めるために頑張っているんだ。これ以上、王宮に被害を与えさせるものか!」

 ドラグノイドの翼をはためかせる。それと同時に粒子が爆発的に放出され、一気に機体を上昇させた。

 こちらの動きに、敵の動きが変化する。急激に上昇してきたこちらを撃墜しようと、ガンシップの機関銃が容赦なく唸りをあげた。

「速度が底上げされたくらいで、ドラグノイドに敵うと思うな!」

 うまく射線を回避しながら、敵機に向け加速をかける。

 両の手に握ったガンブレードを射撃モードに切り替えると、銃口を敵に向け構えた。

「俺は先頭の機体を、ハルは後続の敵機を頼む」

『了解』

「よし、いくぞ!」

 ガンブレードを手に取ると切っ先を敵機へと向ける。先端にある銃口が蒼い炎を噴き、蒼く輝くエネルギー弾が連続で撃ち出すされていく。それから数秒遅れて、ドラグノイドのエネルギー砲が火を噴いた。

 先頭のガンシップはこちらの攻撃に気付き回避行動を取る。だが、速度が底上げされても機動力が上がる訳ではなかった。

 敵機は回避が間に合わず数発のエネルギー弾が主翼に命中。非弾したガンシップは主翼から火を噴くと次の瞬間には空中分解して爆発を起こした。

 それと同時に後続の一機も爆発。ドラグノイドのエネルギー砲をまともに喰らったようだ。

「あと一機!」

 残った敵機に機体を向ける。しかしその距離は互いの速度が相まって既に目前まで迫っていた。

 しかし敵機は逃げてもかなわないと悟ったのか、回避行動を取ろうとしない。

 まさか、特攻する気か!?

「この……馬鹿やろおおおおお!!」

 ドラグノイドの翼を左右別々に可動、機体をアクロバット飛行。螺旋の軌道を描き天地がひっくり返る。

 ガンシップはこちらの動きに反応できず、こちらの頭上を通過しようと――


 ザン!!


 手にしたガンブレードの刃が煌き、すれ違いざまに金属が鋭く斬れる音が響いた。

 螺旋軌道を止め、天地が元に戻ったところで後方を確認する。

 すれ違ったガンシップは片翼が本体から離れていた、制御の利かなくなった機体はクルクルと回りながら降下し、ディオーネを通過しそのしたに広がるアースの大地に向かう。その先は見るまでもなく明らかだった。

 視線を逸らすも、その耳に届く爆発音。恐らくはパイロットも……。

「これが……戦争」

 モンスターを相手取ることは何度もあった。それは外界を生業とする者にとって避けられないこと。しかし、人を殺めたのはこれが初めてだった。

 人を殺めたという事実が、心に重くのし掛かる。

 やり場のない悲しみと怒りを感じながら、戦場の向こうに佇む漆黒の戦艦を睨んだ。

「なんで……こんなことになるんだ!!」

 腹の底から叫んだ言葉は、しかし戦場の喧騒に虚しくかき消されてしまう。

 その時、戦艦を睨む視線を横切るように、赤と黒が激しく交差しているのが見えた。

 その二機は交差する度に激しい火花を散らせ、そして離れたときはドラグノイドとガンブレードのエネルギー砲が光りを放つ。だがしかし、互いにギリギリで回避し再び接近戦が展開される激しい攻防。

 それがリードとライデンのドラグノイドが繰り広げる死闘の光だということはすぐに分かった。

「リード! すぐに加勢に向かう!」

 そして、二機の蒼い軌跡を追うように機体を加速させた。

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