救出、昼寝のち離脱
「よし、ここまでくればイイだろう」
モンスターを引き離した後、追手が来ないのを確認してから地面に広がる草原へと高度を下げていく。
機体を地面すれすれで操作し、四肢で掴んだ傷だらけのガンシップをゆっくりと草原の大地に降ろした。
自分の機体も地面に着地させ、通信を繋いで呼びかける。
「もう安心だぞ。……おい、大丈夫か?」
返事が無い……。最悪の事態を想像してしまい血の気が引き、背筋が冷たくなる。
「くそっ! ハル、外に出るぞ」
ハッチを開放、すぐ外に出るとガンシップの側に駆けよりハッチ強制解放のレバーを引いた。
するとハッチは音をたてて少し開いたが、モンスターの攻撃でボディが歪んでいるのか、途中で引っかかって全開にならない。
「待ってろ、今助け出してやるからな!」
ハッチの隙間に両手を入れて掴むと、力一杯に引っ張り上げる。
「ぐ……ひ、ら、けーー!」
ギギギイッ! っと音を立てながらハッチが全開になった。
「よし、大丈夫か!? ……え?」
操縦者の安否確認の為に中を見て、俺は驚愕した。なぜならば、そのコクピットに座っていたのは女の子だったのだ。
一五歳前後といったところだろうか。パイロットスーツを着用しておらず、その格好は、操縦するにはあまりに不向きなワンピース姿だった。ライトブラウンの髪は肩より少し長い。よほど必死だったのだろう。操縦桿を強く握ったまま気絶していた。
「どういうことだ? なぜこんな女の子が、ガンシップに乗っているんだ」
ひとまず少女を抱えてコクピットから出し、草原に仰向けにする。
「ほんと、一体どうしたってんだろうな……。それに――」
ガンシップの横に描かれたマークを一瞥する。
「あのガンシップのマーク、あれはガイアの王家の紋章じゃないか?」
『はい。そのマークはオルタニア王家の紋章です。どうやらこの機体は王家防衛用ガンシップのようですね。ガイアのデータベースに登録されていました』
「やはりそうか……。ん? おい、おまえ、また勝手にハッキングしたのか? おいおい止めてくれよ、足が着いて捕まるのは俺なんだぜ?」
『そんな間抜けなことを私がする筈がないじゃないですか』
ヴァンはジト目でハルを見た。
時々、こいつはAIとは思えない発言をする。それだけの強き発言をする自信がその小さいケースのどこにあるというのだ?
「ハア……、ならまあイイけど。しかしボロボロになった王家のガンシップに正規パイロットとは到底思えない女の子。正直、危険な匂いがプンプンするぜ」
『だから言ったでしょう。自分から厄介事に首を突っ込むことが多いと』
ほっとけや。
「そんなこと言ってる暇があったら、そのポンコツからデータを引き出してくれ。何か情報が得られるかもしれない」
『了解』
ハルはそう答えると、ドラグノイドの尻尾をガンシップに向ける。尻尾の先端から配線が伸びてコクピット内のコンピューターに接続、ダウンロードを開始した。
「ダウンロードが終わって、なにか情報が掴めたら教えてくれ。それまで俺も横になってるよ」
『了解』
「頼んだぜ」
ハルの返事を聞き、そう答えると俺は草原に横になって目を閉じた。
「ん……。しまった、休憩するだけのつもりが寝てしまってたのか」
大きく欠伸をして眠い目を擦る。小一時間は寝ていただろうか。太陽の位置が昼過ぎであることを示していた。
「ハル、なにか情報は掴めたか……あれ、ハル?」
身体を起こして周りを見回す。しかしそこには少女の姿も、ドラグノイドも無かった。あるのはボロボロになったガンシップだけだ。
「ええ!? いったいどこに行ったんだ!?」
ま、まさか、あの子は実はガイアのエージェントで、ハルを破壊してドラグノイドを乗っ取ってトンズラしたんじゃ!
「う……うそだろ? こんなところでどうしろってんだ」
通信機はコクピットに置きっぱなしだった。これではギルドと連絡を取って助けを求めることもできない。
辺り一面を見回す。自分の横にはボロボロのガンシップ。背の方向には、さっきあの子を助けた山脈がそびえ立っている。目前には草原は広がっており、その中心には川が流れ、その奥地には広大な砂漠が広がっていた。
故郷であるディオーネはこの砂漠を挟んだ向こう側にあり、帰ろうにも砂漠を抜ける前に食料不足で餓死するであろうことは容易に想像できた。
そもそもディオーネは浮遊島だ。辿り着けても飛べなければ帰れない。
「参ったな、こんなところをモンスターに襲われでもしたら……」
警戒しながら、周りを散策する。もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれない。
数分後――。
「何も手掛かりがなーい!」
俺は途方に暮れていた。本当に、何も無いのだ。「はぁ――」とため息をつき、やりきれない気持ちを紛らわせるために足元にあった石をおもいっきり投げつけた。
ゴン!!
あれ? おかしいな。草原でそんな擬音がするような固いものはないんだけど……。
すると、音のした所の地面が盛り上がった。
背中に草花を生やして周りの風景に溶け込み、近くに獲物が来ると襲いかかる巨大な甲殻類がそこには居た。
「ギシャシャシャ!」
こちらを向き、威嚇の音をクチバシから発しながら、鎌のような前足を上げて臨戦態勢を取る。
体に生えた草花の奥から赤く光る目がこちらを捉えていた。
「えっと……お休み中だったかな? ごめんね起こして、もう起こさないから、許してほしいな~~なんて……は、はは」
冷や汗をかきながら後ずさりを開始する。こういうときは敵に背を向けたらダメと決まっているものだ。
しばらく止まって様子を伺うモンスター、だがしかし、地響きを立ててこちらに突進を始めた!
「き、きたああああ! やっぱ見逃してくれないかあああ! うおっ!」
モンスターは前足の鎌を振りかざし、大振りに叩きつける!
しかし、後ろにジャンプしてそれを回避する。
「くっ、しゃあねえ、こうなったらやるしかないか」
今度は両の鎌を広げて挟み撃ちしてくる。広範囲をカバーするその攻撃から逃げきるのは困難だ。
だがしかし、俺は呼吸を整えて心を静める――集中力を高め、腰の二振りの柄に手をやる。
そこに左右からの鎌がーー
ザン!
モンスターの鎌が宙を舞い、倒れるモンスター。握った二振りの柄の先からは、青い光の束が発生していた。
ガンブレードーーエネルギーを柄の先から発生、それを刃とする事で敵を斬ることができる。銃のようにエネルギーを撃ち出すことも可能な特殊武器。その切れ味は先の飛行モンスターの高速カッターをも凌駕する。
「……ふぅ。あまり使いたくはなんだけどな」
そう言うと、青い刀身を消し、柄を腰に納めた。
だがしかし、失敗だった。何が失敗だったかと言うと、倒してしまったのが失敗だった。気が付けば俺は、今しがた倒したモンスターの仲間達に囲まれてしまっていたのだ。仲間を殺されたことで群の全てを敵に回してしまった。その目の色は怒りの赤に染まっている。
汗が頬を伝い、落ちる。まるでそれを合図のように、一斉に襲いにかかる!
「「「「「ギシャシャシャシャシャ!!」」」」」
「ちょ、ちょっとまったああ!」
敵の攻撃を、ぎりぎりでかわしてジャンプ! モンスターの背に乗り、また別の背へとジャンプして逃げる。
甲殻類は左右の攻撃範囲は広いが、上下には弱い。
しかし、モンスターは仲間の背を登り、執拗に追いかけてきた。
「こ、こんなにいっぺんに相手できるか!」
『楽しそうですね、ヴァン』
ハルの声が聞こえた。だがその姿は相変わらず見当たらない。
「ハル!? 今どこに……いや、それより早く助けてくれ!」
『あなたの真上に居ます』
見上げる。青い粒子を翼から発しながら、上空から勢いよく降下してくる白き翼の竜が見えた。その口が開いてエネルギー砲が火を吹いた。
着弾!
爆発で土煙が上がり、モンスター達は突然の空爆に混乱していた。
その隙にドラグノイドが目の前に降りる。その背に飛び乗ると、すぐにこの場から離脱した。




