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真実

「団長! 敵機の数が多すぎます! このままでは、いずれ――」

「弱音吐いてんじゃねえ! それでも竜騎士か!」

 リードは団員に怒鳴り声を上げながら、目の前の一機のガンシップに照準を合わせてトリガーを引く。

 赤いカラーリングが施されたドラグノイドから発射されたエネルギー弾はガンシップのど真ん中をいとも簡単に撃ち抜き、そして爆発した。

「よし、次!」

 敵機を払い終えたリードは、次の攻撃に備えて神経を研ぎ澄ませた。

 そのとき――視界の隅でガンシップの噴く粒子を掻き分けるように突き抜けて飛ぶ白い竜が見えた。

 あれは、ヴァン! なんであいつがこんなところに!

 リードは即座に通信を入れ、ヴァンに向かって叫んだ。

「こんなところでなにやっている! 民間人が戦争に加わるもんじゃねえ!」

「リード! 戦争に加わるんじゃない。止めるんだ!」

「止めるだと? 竜騎士でもないひよっこがなにを――」

「聞いてくれ! 王宮に行けば、何とかなるかもしれないんだ!」

「なに!? それは本当か!」

「ああ、だから一刻も早く、たどり着かなくちゃいけない」

「お前、何か策が――!?」

 話し終わる前にアラームが鳴り響いた。

 反射的に機体の操作して回避行動を取る。

 次の瞬間、直前までリード機がいたところを巨大な光球が通過した。

 これは、ドラグノイドのエネルギー砲!

 砲撃が飛来した方向を見上げる。その先には漆黒の竜の姿があった。

「黒いドラグノイド……ライデンか。厄介なのが来やがった」

「あいつは……昨日の!」

「奴を知っているのか?」

「ああ、ものすごく強いやつだ」

「それが分かっているなら、だったら、早く行け! あいつは俺が相手する」

「待ってくれリード! あいつの強さは尋常じゃない。二人掛かりでないと危険だ!」

「だったらなおのこと。お前と奴を戦わせるわけにはいかねえさ」

「リード……」

「お前がどんな策を持っているのか分からんが、それで戦いを止められるっていうのならこんなところで立ち止まってんじゃねえ。早く行け! 行って、さっさとこの戦いを止めるんだ!」

 通信の向こうで、ヴァンが逡巡しているのか、一間を置いて返事が返ってくる。

「わかった。王宮に行ったら、すぐに戻る! それまで持ちこたえてくれ」

 通信が切れ、ヴァンの駆るドラグノイドはリード機の後ろを通り過ぎて王宮に向かった。

「へっ……ヴァンのやつ、生意気言ってくれるじゃねえか……さぁて」

 ライデン機はヴァンに見向きもせずに真っ直ぐリード機の前まで接近すると、コウモリのような漆黒の翼をはためかせて滞空した。

 ライデン機から通信が入る。リードは繋ぐと真っ先に喋りだした。

「よう、ライデン。久しぶりじゃねえか」

「……」

「無言か。へっ……久々の対面だってのに、釣れないやつだ。まあいい。結構前にお前は俺に言ったよな? 強いやつと一対一でやり合うのは好きだが、戦争というのはむやみに多くの血が流されるから嫌いだと……それが、どうしてこんなことになっている」

 暫らくの沈黙があって、

「ああ、嫌いだとも……しかし、王に付き従うのが我ら竜騎士の誓い。ならば、せめて圧倒的な力を見せつけてディオーネに降服をさせるまでだ。早急に戦争を終わらせるために……」

 確かに、すべてのガンシップがアースクリスタルの恩恵で戦闘力を飛躍的にあげている今の状況は、どう見ても不利だ。そんなの、素人目でも、判る。けど、だからって……!

「圧倒的な力を前にしても、すぐに逃げ腰になるような柔な国じゃねえぜ……ディオーネなめんじゃねえぞ!」

「だが、力の象徴である竜騎士を倒せばその強がりも持ちはしない」

「ほほお、俺を見せしめに、ディオーネに降服させようと?」

そうだ。そのために――」

 漆黒の竜のコクピットが開き、パイロットが出てくる。コクピットに入らぬその巨大さ故に、ドラグノイドの左右の翼に付けられたガンランスを手に取ると、粒子の刃を展開する。そしてランスの切っ先をこちらに向けて、言った。

「お前を、殺す」

 久々に聞く声は、相変わらず感情が薄く、そして淡々としたものだったが、そのうちに秘めた熱い心は瞳が語っていた。

 それに答えるように、こちらもハッチを開いてドラグノイドの背に立つと、腰に差していたガンスピアを手に取る。

「逆によぉライデン。お前を落とせばガイアの戦意を削ぐことが出来るってわけだ。そうすりゃディオーネにもまだ勝機がある……」

 折り畳まれていたガンスピアを展開。先端に粒子の刃を発生させ、それを振り回すと切っ先をライデンに向け、構える。

「なら、こんなチャンス逃しゃしねえ。行くぞ!」

 その言葉を合図に、両者は機体を加速させた。


 * * * 


「もうすぐ王宮だ!」

「うん。王宮の左側……あそこのベランダに乗り付けて。そこから入れば、アロイス王子に会える筈なの」

「なんだって? なぜそんなことが分かる?」

「分かるわ。だってあたし、小さい頃から何度もあの王宮に出入りしてたんだもの」

「なっ!」

 それは、あまりにも突拍子もない言葉だった。

 ベランダにドラグノイドを付け、リリアがコクピットから出てくる。

 今しか、聞くことは出来ないだろう――そう思い、口を開く。

「リリア……教えてくれ。君は一体……」

 ガイア生まれである筈のリリアが、ディオーネ王宮に小さい頃から出入りして、しかも王子の居る場所が分かるなんて、あまりにも異常なことだった。

 ベランダに降り立ったリリアは、その質問がくるのを分かっていたかのように、小さくため息を付き、俯きながら振り向いた。

 胸に手を当て、やがて顔を上げる。

「ごめんね……あたし、ヴァンを騙してたの。リリアという名は嘘……」

「な……に? それはいったい、どういう……ことだ」

 何かある……とは思っていたけれど、それでも、言われたことが信じられなかった。

 リリアは――いや、リリアであった彼女は、話すのが辛いというように押し黙っていたが意を決したように顔を上げ、真実を話し始めた。

「あたしの本当の名前は、リリーナ……。リリーナ・オルタニア。ガイアの王の娘……それが、本当のあたし」

「リリーナ? そ、それじゃぁ……ガイアの、王女!?」

 あまりのことに、俺は間抜けな声で思わず復唱してしまった。

 そうか……そういうことだったんだ。

 これまでに腑に落ちなかった疑問が一気に解消されていく。

 モンスターに襲われていた時、王家のマークが刻まれたガンシップに乗っていたこと。

 わざわざライデンたち竜騎士が捜索に出ていたこと。

 外に行くとき、自分が有名人だと言っていたこと。

 アロイス王子の前では帽子を目深に被っていて、俺の居ない場では王子と親しく話していたこと。

 その全てに、納得がいった。

 驚きに見開かれたヴァンの眼を真っ直ぐに見つめ彼女は、リリーナは続けた。

「出来れば、ヴァンには知られたくなかった……本当のことを話せば、今の関係が崩れてしまうだろうから。でも、もう……そうも言っていられなくなっちゃったね……。嘘付いててごめんね。でも、これはあたしにしか出来ないこと。なぜガイアがこんなことをするのか分からないけど……このまま戦いが続けば、混乱しているディオーネはすぐに陥落してしまう。だから、アロイス王子に会ってくる。戦争を止める為に」

「リリア……」

 彼女の瞳は、とても悲しそうで、

「ありがとうヴァン。この二日間、とても楽しかった……さよなら!」

 彼女は翻り、その場に眼から溢れた雫を残して王宮の中へと消えていった。

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