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異変

 ぶ厚い雲が空を流れる。

 その隙間から射す太陽の光は大地の森や川を照らし、雲の動きに合わせて射し日が動いていく。

 白い翼を持つ機械の竜は雲間から射す光に照らされ輝き、青い粒子をはためかせながらゆっくりと飛んでいた。

「あとどれくらいでガイアに着きそう?」

「そうだなあ……このペースなら、あと1時間くらいで着くだろうな」

「そっか……もうすぐお別れなんだね」

 元気のない声でリリアは答える。きっとコクピットの中で暗い表情をしているのだろう。

「この世界の反対側に行く訳じゃないんだ。ディオーネとガイアの交流が続く限り、またいつか会える。そうだろ?」

「うん、そうだね。でも……きっと今のようには話せないと思う」

 今にも消え入りそうな、言葉。

 その言葉にヴァンは眉をしかめる。その寂しい言葉には、どんな意味が込められているのか、

「なあ、それって一体――」

 疑問を投げかけようとするが、最後までは言えなかった。

 なぜなら、ハルの音声が話の途中に割り込んできたからだ。

『ヴァン、お話中に申し訳ありませんがレーダーに反応がありました。前方から何かが接近してきます。おそらく、戦艦と思われます』

「なに?」

 ハルの説明に、ヴァンは外部モニターに映し出されたレーダーに映っている影を確認する。

 映っているその影は、確かに戦艦なのだろう、だが、そう断定は出来なかった。なぜならレーダーに映るその影は、これまでの戦艦に比べてとても大きかったのだ。

 レーダーが反応している方角を見やるが、厚い雲が幾重にも重なって何も――。

 いや、雲に向こうに蠢く影が見えた。その影は次第にその大きさを増していく。

 そして、厚い雲の壁を裂き、巨大なそれは姿を晒した。

「な、なんだあれは!?」

 次第に全貌を日の下に晒していくそれを見て思わず声が出た。

 黒い装甲は射し日を浴びて怪しく光り、艦の左右から張り出した鋼鉄の台にはいくつもの巨大な砲台が配されている。

 しかしその巨体を支える為の翼は無く、船体の下部からはアースクリスタルの青い粒子の光を発しながら進むそれは、見たことのない超ド級の空中戦艦だった。

 まさに死角なし。空に浮かぶ要塞のごとき戦艦が、雲の中からその全貌を露わにした。

 そして、戦艦に描かれた紋章にヴァンは目を見張った。

「あの紋章は……ガイア!? ガイアの戦艦なのか!」

「そんな、あんな戦艦見たことないわ!」

 目の前に現れた戦艦に驚愕の声を上げる。だが、異変はそれだけに止まらなかった。

「何か、また雲の奥から出てくる!」

 巨大戦艦に追随する形で、雲を裂いて更に出てくる戦艦、戦艦、戦艦……その数はどんどん増えていく。

 その光景に、戦慄が背中を走った。

 巨大戦艦を筆頭に、左右五隻づつの戦艦。計十一隻もの戦艦が目の前に出現した。

「戦艦があんなに……そんな、ガイアの保有する全ての戦艦がこっちに向かっているの? どうして……」

「そんなの、こっちが聞きたいぜ……。」

 ガイアの巨大戦艦を中心とした大艦隊を前に、ヴァンは全身を包み込んでいく恐怖に囚われないようにと深く深呼吸をした。


 * * *


「進行方向に機影! ディオーネのドラグノイドと思われます」

 戦艦のブリッジの中、クルーから報告が入る。

「まさか、このようなところでディオーネの竜騎士に発見されてしまうとは」

 髭を肥やした、ガタいのいい男性が直立不動で立ちながら答える。

 男性はその横、ブリッジ中央に備えられた席に座る青年に向かい口を開いた。

「どういたしますか? カーティス王子、いえ、カーティス王」

 カーティス王と呼ばれた青年は、ブリッジの上部スクリーンを見る。グレーを基調とした軍服を着込んでいるが、しかし通常の軍服とは違い高貴さを漂わすように金の刺繍がさりげなく入れられており、赤色のマントが片腕を覆うように被さっている。

 エッジの効いた髪はダークブラウン。そして、内に闇を秘めたような深い緑色の瞳は、最大ズームで荒々しく映し出されたドラグノイドを見て目を細める。

 そして、青年はゆっくりと口を開いた。

「……撃ち落とせ」

 ブリッジのクルーに緊張が走る。低い声の筈なのに、その声は冷たく、そしてブリッジによく響いた。

「ほ、本当によろしいのですか。そんなことをすれば……」

「艦長、私はなんと言った? 同じことを2度言わなければ分からないのか」

 艦長と呼ばれた男性から言われた最終確認。いや、遠回しに「やめてください」と言っているような艦長の物言いに、青年は目を鋭くして答えた。

 相手を噛み殺さんとする青年の冷たい視線に射抜かれ、艦長は身を竦ませる。

「はっ! 申し訳ありません! 全艦、主砲発射用意! 目標、前方のドラグノイド……」

 艦長は一度目を閉じる。もう、止められないと感じながら、重々しく、しかしはっきりと命令を下した。

「撃てーー!!」


 * * *


『ヴァン! ガイア艦の主砲がこちらに狙いを定めています!』

「なに!?」

 ハルの忠告にガイア艦を見る目を見開く。瞬間、大気を震わす轟音が鳴り響き、前方に見える物騒な戦艦の群れから破壊しか生まない鉄の塊が撃ち出された。

「ま……マジかよ!!」

 迫る砲弾にヴァンは急いで回避行動を取った。ドラグノイドを操作し、降り注ぐ砲弾の雨をギリギリで回避していく。

「きゃああ!」

 緊急回避にコクピットのリリアは揺さぶられ悲鳴をあげるが、しかし気を配る余裕は無い。一発でも当たれば即死は免れない。

「どういうことだ!? なぜいきなり砲撃する!?」

『巨大戦艦からガイア鋼竜騎士団の発進を確認! 扇状に展開していきます。こちらを包囲する気のようです。このままでは、逃げ切れなくなります!』

 完全なる敵対行動。圧倒的な力の誇示。こちらを慈悲も無く潰そうとする意思が一気に押し寄せる。

「く……っ!」

 砲弾の嵐を回避しながら急速旋回をかける。元来た空を戻りながらも後方から降り注ぐ砲弾を回避しながら一気にスロットルを上げた。一刻も早く離れなければ、あっと言う間に鋼竜騎士団に包囲されてしまう。

「なぜなの!? なんでガイアが……こんな、こんな……!」

「落ち付け! 今はとにかく、ここから離れないと――」

 ドオン!!

 前方からの爆発音に前を向く。瞬間、数多の岩が雨のように降り注ぎヴァンの身体を襲った。

 密集した浮遊岩!? しまった、後ろの砲撃に気を取られ過ぎて気付くのが遅れた!

「これは、やば――」

 ゴッ!

 低い音が聞こえて頭に鈍い痛みを感じたのを最後に、ヴァンの意識は暗転した。


 * * *


「ディオーネ竜騎士、機体損傷した模様。降下していきます!」

 クルーから報告が入る。

 巨大なスクリーンには、白煙を噴きながら降下していくドラグノイドの姿が映っていた。

 ドラグノイドは森の中に落ちると、その直後に土煙りが上がった。

「竜騎士を撃墜! やりました!」

 クルーたちから上がる歓声。

 全員が喜んでいるなか、カーティス王と艦長は静かにスクリーンを見ていた。

「艦長、これでもう引き返すことは出来ない。我々はなんとしても勝たなくてはならないのだ。それが父上の……前王の意志と知れ」

 艦長はカーティスの言葉を聞きとどけると、静かに返事をしてクルーたちに指示を出した。

「鋼竜騎士団に帰艦命令を出せ。全機格納後、最大船足でディオーネに向かう!」

「待っていろアロイス王子。それにディオーネの竜騎士ども。必ず、息の根を止めてやる……!」

 艦長がクルーに指示を飛ばすその横で、カーティスは静かに言った。

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