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ヴァンの過去

 広場を後にしたヴァンたち三人は、大通りの端にある公園内にある噴水の淵に座って少し遅めの昼食を取っていた。

 リードは手にしたジャンボサイズのバーガーを口に運び終えると、残った包み紙をクシャッと丸めて袋に放り込む。

 っと、これまたジャンボサイズのドリンクを取り出して、ズズイ――っと一頻り飲み込んだ。

「いやあ! それにしてもさっきは本当にビックリしたぜ。あれは、ここぞって時に使う一撃必殺の技だ。強力だが、それ故に自身にかかる負担も大きい。お前、あれを放ってから暫く手が痺れて使えなかっただろ」

 リードの質問に、ヴァンは飲んでいたコーラ入りのコップを一旦離す。

「ええ、驚きました。でも、なんであんなふうになるんですか?」

「それはだな……」

 ヴァンの質問に対しリードは勿体ぶるように、一間を置いてから答える。

「互いのガンブレードが発する粒子の流れを統一することで、粒子同士が共鳴する。その共鳴によって互いの粒子濃度が高まることで、ブレードが通常より長くなって、より強くなるんだ」

 その説明にヴァンは驚きの声を上げた。

 リードは竜騎士の中ではそこまで頭がいい方じゃないって聞いてたけど、なかなかどうして、全然そんなことないじゃないか!

「まっ! これは俺の知り合いの科学者が言ってた言葉をそのまま言っただけなんだけどな! 俺も始めて見た時は原理がまったく分からなかった」

「他人の受け売りかよ!?」

 思わず突っ込みを入れてしまった。それと同時にさっき感心したことを後悔する。

 はっはっは! っと大口を開けてリードは快活に笑った。一頻り笑った後、真顔に戻って再び語りだした。

「だが、いいことばかりって訳でもない。当然ながら、お前が持っているガンブレードは片手で持つのを前提で造られている。そのために両手で持つのには不向きなんだ。しかもそれを重ねて使うだなんて、誰も想定しないだろう? そんな無茶な使い方をすれば、負担が一気に跳ね返ってくるのは当然のことだ」

 リードの説明を聞いて、ヴァンは「なるほど」と相槌を打ち、納得した。

「だからあんなに手が痺れたんですね……多用は禁物ってことか」

「もしも、お前が将来、鋼竜騎士団に入れたとしたら両手持ちに適したガンブレードを用意する事も出来るのだろうが……。もっとも、それでもおまえはそれを使い続けるんだろうがな」

「俺が正規の竜騎士に、鋼竜騎士団に入れたら……。そう、ですね。俺はこのガンブレードが一番だから」

 自分の腰に差してあるガンブレードを見て、言う。

「へえ、そんなに大切な武器なのか?」

 意味深なそのセリフが気になったのか、ドリンクを口に運ぶのを止めたリリアがこちらに好奇心の眼差しを向けて聞いてきた。

「ああ。このガンブレードには、沢山の思い出が詰まっているんだ。だってこれは……親父の形見だから」

 形見だと聞いたリリアはその眼を一度大きく開き、すぐに眼を逸らして肩を落とした。さっきまで明るく笑顔を振りまいていた表情が曇る。

 リリアの反応に苦笑してしまうヴァンは、リリアに「元気出せ」と言った。

「少し、親父たちの話をしようか」

「え? いや、いいよ。だって辛いでしょ?」

 リリアは曇り気味の顔をあげると、困った顔で手をパタパタさせた。

「俺なら大丈夫。それに、もう昔のことだ」

「おいおい、本当にいいのか?」

 ヴァンの言葉にリードが口を挟んで問いかける。

「ああ。確かに昔は言葉にするのも辛かったけど、いつまでもウジウジしてたら親父たちに怒られちまいますって。それに……」

 ヴァンは上を向いて、晴れ渡る空を見て、言った。

「それに、今は親父たちのことを、このガンブレードを持つことを誇りに思っている。だから今は、むしろ知ってほしいんだ」

 ヴァンの言葉に、リードは優しい視線を送る。

 リリアはそれでも逡巡していたが、やがて、

「うん……じゃあ、聞かせて」

 ヴァンは頷くと、噴水の淵に深く座り直して語り始めた。

「俺の親父とお袋は、竜騎士だったんだ。親父は団長で、お袋は数少ない女性の竜騎士だった。親父は接近戦に突化した二本のガンブレード。つまり、今俺が持っているのを使っていたんだ。お袋のガンブレードは狙撃重視だった」

「ヴァンのお袋……アイナは射撃のセンスは一流だった。俺もその射撃に何度命を助けられたか。おっと、お世辞じゃないぜ。本当の話だ。特にダリアンとコンビを組んだ時は息がピッタリでなあ、まるで遠くにいながら意思疎通が出来ているかのようだった。けどなあ……」

 話し始めたヴァンの言葉を補うように話すリード。だがリードはそこで一度言葉を切り、ヴァンのほうを見た。

 ヴァンは「大丈夫」と頷き、リードはそれを確認してから話を続けた。

「今から五年前、アースドラゴンがこの地に迫ってきた」

 アースドラゴン――最強にして災凶。崇拝と畏怖の対象。天を裂き、地を割り、この世の頂点に君臨する王。アースドラゴンが通った後には、何も残らないとさえ伝えられていた。

「うん、五年前の事は、僕もよく覚えてる。アースドラゴンは動く天災と言われるほど強大な力を秘めていて、その侵攻にあった国は一夜にして滅びるって……。アースドラゴンの接近を察知したガイアは、国を守るためにディオーネと協力してアースドラゴンに戦いを挑んだ……。両国の全勢力を合わせて、やっと撃退することが出来たって……」

 リリアもその時のことを思い出しているのか、その表情には畏怖の色が滲んでいた。

 ディオーネからするとガイアよりも遠くに位置する、かつて自然豊かだった土地はその時の戦いで荒廃し、激しい傷跡が五年経った今でも深く刻まれている。その光景かつての戦いの激しさを物語っていた。

「そう……親父たちはアースドラゴンの侵攻を止めるため、ガイアだけじゃなく、ディオーネの両国を守るために出発した。あのとき、俺は十二歳の子供だった。俺は、親父とお袋が侵攻を食い止めるために家から出発するのを、俺は見ていることしか、できなかったんだ」

 自然と、拳に力が入っていた。夢で見た光景が脳裏をよぎる。

「ああ、その時、俺も戦ったんだ。この世界の頂点に立つとさえ言われるアースドラゴンの力は強大だった。まさに天災といえるほどにな。長い戦いの末、なんとか撃退することには成功したが、しかし、その戦いで両国の鋼竜騎士団、総勢二十名の内、約半数が帰らぬ人となった。ガンシップ、空中戦艦は何機落ちたか知れないほどだ。そして、ダリアンとアイナは共に命を落とした……大切な者を守るためにな」

 リードは、優しい眼でヴァンを見て、ヴァンの頭の上に手を乗せた。

「激しい戦いの後に残されたのは、この二振りのガンブレードだけだった。大切な者を守るためにダリアンと共に戦った武器だ。だから、これはヴァンが持っているべきだと思った。その後、一人でも生きていけるようにと、稽古もつけてやった」

 ヴァンは「ちょっ……やめてくれよ」と言いワシャワシャと掻きまわすリードの手を退け、話を続ける。

「そのおかげで俺は、こうしてギルドで稼いで一人暮らしが出来る……って、お、おい!?」

 リリア白い頬を一粒の大きな涙が流れた。そのエメラルドグリーンの瞳には涙が溜まっている。

「ちょっ……そんな、泣かなくても……」

「だ、だって、だって……え、う……うわあああん!」

 まるで、俺の言葉を合図にするかのようにリリアの涙腺は決壊。

 とめどなく大粒の涙が溢れだし、ついには声を大にして泣き出してしまった。

 突然の事でどうしたらいいかとあたふたする中、リリアは声を上げながら涙を流し続けた。

 周りの人たちが何事かとこちらに視線を注ぐ。


 * * *


 青年はモーヴィルと呼ばれる乗り物の窓から、目の前を流れる景色を見ていた。少し重く感じる瞼を擦り、ふう――と肺から重たい空気を抜く。

「大丈夫ですか? 昨日は夜遅くまで起きていらしたようですが……」

 溜め息に気付いて何か感じ取ったのだろう。隣に座る女性が優しく声をかける。

「ああ、大丈夫だよ、ミリア。僕よりも君の方が遅くなっただろうに、すまないね」

「い、いえ……そんな。私は全然平気ですよ。でも、ありがとうございます」

 そう言い、微笑みを向けてくれる彼女を見ていると張っていた気が緩んでしまう。

 艶のある長い髪を仕事の邪魔にならないよう頭上で団子状に纏め、赤くて細い縁のメガネをかけている。

 その奥には少し垂れ目でちょっと赤みを帯びた瞳が僕を見つめていた。

 彼女の優しい微笑みに僕は答えるように微笑むと、再び外の景色を見やった。

「おや? あれは……」

 目の前に公園が見えてきた。その中心にある噴水の前に立っている大柄の男の背が目に付いた。腰には折りたたまれた棒。その横にはハサウェイのマントと思われる布が置かれている。

 もしかして、リード……?

「すまない。ちょっとそこで停めてくれないか」

 僕の一言でモーヴィルは公園の出口に停まった。

 先ほどまで隣に座っていたミリアが先に出て回り込み、僕が居る側の扉をスライドさせ開けてくれた。

 僕は「ありがとう」と彼女に言い外に出た。

 先ほど見えた大柄の男を目指し、そこそこに群がる人々の間を抜け進んでいく。

 近づくにつれ、何やら男は慌てふためいている様子に気付いた。

 その隣には彼よりは背の低い青年がおり、同じような反応をしている。

 幅の広い背中で姿は見えないけれど、どうやら誰かが泣いているらしい。

 近くまで行き、声をかける。

「大声で泣いて、いったいどうしたのですか?」

 声に反応し、その場に居た者たちが振りかえった。

 大柄の男は私を見るなり畏まり、青年は驚きの表情を浮かべ固まっている。

 そしてその奥を見ると、泣いていたのは少年――そして、顔を上げた少年と目が合う。

 涙を浮かべたその瞳は、綺麗なエメラルドグリーンをしており、涙と相まってその輝きは一層増しているかのようだった。

 そして少年は驚きの表情に変わると、声を大にして呼んだ。

「あ、アロイス王子!?」

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