広場での攻防
大通りから細い道に入って抜けたところにある路地裏の広場でリードとヴァンは対峙していた。リリアは隅っこの木箱に座って見守っている。
リードがマントを外すと、後ろ腰に差してある武器を手に取る。二つに折り畳まれていた棒が展開して一本の長い棒になった。リードはそれを構えると、棒の先から青い刃を発生させた。
リードの武器はガンスピアと呼ばれている。
柄が長く、先端にエネルギー刃を発生させたそれは、まさに槍と言えるものだった。
そして、ガンスピアの刃がヴァンに向けられる。
対峙するヴァンもそれに答えるように、腰の二振りのガンブレードを構えた。
「勝負はいつも通り、一本勝負。いいな?」
「はい。手加減無しでお願いします」
「ほお? 随分と自信があるじゃないか。そうでなくっちゃ面白くねえ。よし、いつでも来な!」
「行きます!」
ヴァンは足を踏み出し、一気に距離を詰めようと迫る。
リードは静かに構えていたが、、槍の有効範囲に入った途端、槍がヴァンの目前に高速で撃ち出される!
だが、ヴァンは体をひねってギリギリのところで回避に成功。先制攻撃に失敗したリードだが、今度は柄の方で強打を狙ってきた。
ヴァンの目の前に柄が迫る。
咄嗟にガンブレードを槍のライン上に構えて受け止め、耐える。
二振りのガンブレードで弾き返し、続いて一気に懐に潜り込もうと腰を低くし地を蹴った。
だがリードは不敵に笑い、
「あまい!」
懐に入り込まれないようにリードは後方にスッと下がりながら、槍を弾かれた力をそのまま利用して槍を前方で歯車のように高速回転。こちらが入り込む隙を塞がれてしまった。
相変わらず、攻防の切替がうまい!
ヴァンは仕切り直しのため後方に跳躍し距離を取ろうとしたが、今度はリードがそれを追いかけるように詰め寄る。
更に、遠心力を効かせた横殴りの強烈な一打を繰り出してきた!
「おらあ!!」
猛烈な速度の乗った攻撃が迫る。
ヴァンは迫りくる一打を再びガンブレードでガードするも、重い衝撃がガンブレードを通して両腕にビリビリと伝わってきていた。
なんとか弾き返そうと力を込めるが、遠心力の効いた強烈な攻撃は弾くどころか止めきれるものですらなかった。
堪らず押し切られてしまい、横へと飛ばされてしまう。
「うわああ!?」
足を飛ばされる方向に精一杯出して地に足を付け、後方に倒れそうになるのを何とか踏みとどまる。
二メートルはあろうかというブレーキ痕。
そこから舞い上がる土煙が、両の手の痺れがその攻撃力を示していた。
さすがはディオーネ鋼竜騎士団団長……ライデンの攻撃に迫るほどの威力!
「ヴァン!」
リリアが駆けつけようとする。だがしかし、ヴァンは「来ちゃ駄目だ!」と制止した。
「大丈夫だ、心配しないで」
心配そうな表情を浮かべるリリアに笑顔を向けると、柄を握りなおしてリードと再び向き合った。
「……ヴァン、イイ目をしているな。死んだ親父さんそっくりな、真っ直ぐな目だ。何か守りたいものでも出来たか?」
俺は、リリアを一瞥してから、
「そうかい? へへ……今、ボディーガードの依頼を受けているからかもしれないな」
「いいや、それだけじゃあない。今、お前の目に映っているのは、依頼だとかそんなもんじゃあない。もっと大切な何かだ」
「よく分からないけど、だとしたら、俺は親父に近づけてるのかな」
「ああ、違いねえ。だが、まだまだだ。自分でそれがなんなのか、分からないようじゃあな」
再び、槍を構えるリード。全ての力が槍に込められていくのを感じる。
「次で終わりにしようや。お前の全ての力を見せてみろ……さあ、かかってこい!」
「はい!!」
再び、接近する両者。
リードは駆ける勢いをそのままに、槍を高速回転させながら跳躍した。走力、ジャンプ力、遠心力、腕力の全てを槍に注がれ、最大級の力で振り下ろされる!
だがしかし、ヴァンもその一撃が繰り出されるのを黙って見てはいない。その最大級の一撃を迎え撃つために全速力で前に出ながら手にした二振りのガンブレードを重ねる。その刃を地面に接触させ、青い火花を散らしながら進んでいく。
するとリードの眼が、なぜか驚きに開かれた。
「ガンブレードを重ねての一撃だと!?」
「うおおおお!!」
振り下ろされる槍を目がけ、足を踏ん張り、腰を軸にして回転を加えてガンブレードを振り上げる。
地の抵抗から解放された一振りは、銃から発射された鉛の如く、猛烈な勢いで撃ち出された!
両者の渾身の一撃が正面からぶつかり、衝撃波が空気を震わせた。
そして気付く。ヴァンの手にしたガンブレードが、これまでの刃より長く、そして強く輝いていることに。
「な、なんだこれは!?」
ヴァンは驚きに眼を見開き、思わず叫んでいた。衝突した力は拮抗し、すさまじい火花を散らす。そして――。
バキーーン!
ヴァンの手から、重なったガンブレードが弾き飛ばされて地面に落ちた。
勝敗は決したのだ。
「はあ……はあ……はあ……。負けたーー!」
ヴァンは、全ての力を出し切ったというように、地面に仰向けに倒れた。
「ま……まだまだ、負けるわけにはいかないんでな。う……」
肘を着くリード。息が上がり、肩が大きく上下していた。
「しかし、お前の強くなりたいという思いはひしひしと伝わってきたぜ。何かあったのか? それに、さっきの技はどうした? あれは……」
仰向けに倒れるヴァンは天を仰いだ。空を流れる雲。飛んでいる鳥は更に高く、高く飛ぼうと翼を羽ばたかせている。
まるでそれを手助けするように風が吹き、ヴァンの熱を帯びた身体を撫でる。
「……この間、すごく強い奴とやり合ったんだ。そしてその時、自分がいかに弱いかを思い知らされた……あのときから考えてた。今よりも、もっと強くなろうって……。でも、さっきのは無我夢中で自然と出た。まさか、あんなふうになるとは思ってもみなかったけど」
ヴァンは、地に落ちたガンブレードに目をやり、さっきの光景を思い返しながら言った。
両の手のこれまでにないほど痺れている。
「あれは、あの技は……」
なんとか身を起こして、リードの方を向く。
ヴァンの目をまっすぐに見て、リードは驚くべきことを口にした。
「親父さんの……ダリアンの技だ」