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ディオーネが誇る騎士

「わあ! なあヴァン、こっち来てくれよ。可愛い動物がいっぱい居るぞ!」

 そう言いながら俺の袖を引っ張って急かす少年は、小さい体躯より幾分大きめの衣類を着こみ、頭に被った帽子の奥からはエメラルドグリーンの瞳を輝かせて動物たちを見ていた。

 実はこの少年、リリアなのである。なぜこのような格好で外に出ているのか、それは1時間ほど前にさかのぼる――。

 朝食を済ませた俺たちは、クライアントであるリリアのご要望通り、買い物に出るために着替えることにした。

 ちなみに俺は買い物を済ませたらギルドに行くつもりなのでパイロットスーツ。

 そして今はリリアの着替えを待っているところだ。

「お待たせ!」

 そう言い部屋から出てきたリリアは、大きめの白いカジュアルなシャツに、やはり大きめで茶色のジーンズを穿いていた。

 袖と裾は大きさを調整するために少し折り曲げており、セミロングの髪は頭に被った茶色い帽子の中に隠している。つばに手をやって目深に被った格好でこちらを見るリリアはボーイッシュな感じになっていた。

 実は、それらは全て俺の持ち物だ。

「どう? 似合ってるかしら。変じゃない?」

「ああ、とても似合っているぜ。けど、なんでわざわざ俺の服を? 昨日、服も買っただろ?」

「家出中だからね。これでバレないように変装するの。これでもあたし、結構有名人なのよ?」

「そうなのか?」

「そうなの。ヴァンは知らないみたいだけど」

 そのお陰でこうして一緒に居られるんだけれど――何故か、正体がバレたら一緒に居られなくなるような、そんなことを言うのが気にかかった。

「おっしゃ! じゃあ早速、町に繰り出そうぜ!」

「男言葉!?」

 っと、いう経緯を経て今に至っている。

 大通りは様々な商店が軒を連ねていた。更に通りのあちこちにはクレープやアイスなどの出店で彩られ、沢山の人で賑わっている。

「なあなあ、こっちの白くてモコモコのカーバンクルとこっちのオレンジでフワフワなカーバンクル、どっちがカワイイ!?」

 大きめのリスのような愛らしい容姿、額には赤く輝く宝石が付いているその動物を2匹抱え上げ、リリアはとろけるような満面の笑顔ではしゃいでいる。

 いつの間にか、その笑顔で俺もつられて笑っていた。見てくれや話し方は変えても、その見ている者を幸せにする笑顔は変わらないらしい。

「お、ヴァンじゃないか!」

 不意に、後ろから声が聞こえた。声に反応して振りかえる。

「リード!?」

 見ると、ディオーネ王族のマークをあしらったマントで全身を覆った男性が立っていた。

 こちらの反応を見て、それに応えるように白い歯を見せてニカッと笑う。

 麦色のかき上げた短髪に無精髭、こちらを見る黄色い眼は何事をも見透かすかのような強い眼光を秘めている。

 更に、ガタイがいい上に背が高いため雑多の中でも良く目立っていた。

「聞いたぞ。昨日はモンスターに襲われて大変だったらしいな。大事なドラグノイドもキズものにされたっていうじゃないか」

 人ごみをかき分けて合流したリードからいきなり昨日のことをいわれ、驚くと共につい苦笑してしまう。

 大方、サムのやつが情報を流したんだろう。

「もう知ってたんですか? まあ、確かに大変だったけど大丈夫です。今日はどうしたんですか? こんなところで会うなんて珍しい。その格好をしてるってことは仕事中ですよね?」

「ああ、まあ町中の巡回ってやつだ。しかしたまにはこういうのもいいもんだな。こうやって偶然会えるとは。そっちは買い物か。ん? 一緒にいるのは?」

「ああ、えっと……」

 ヴァンの心臓が一気に速度を増す。一緒にいる人物とはもちろんリリアのことを指している。そして当のリリアは、リードと目を合わせないように帽子を目深に被ってこっちの反応を窺っていた。

「もしかして、新しいギルド仲間か?」

「そ、そう。うん。そうなんだ」

 どう説明したものかとあぐねていると、リードは勝手に予想を立ててっくれたおかげで助かった。

 それに合わせて話しを進めるべく俺はしきりに頷く。だが、そこまでが限界だった。

「ほお、仲間が増えるのは良いことだ。名前は? 良かったら紹介してくれないか」

「な、名前!?」

 想定外の事態だ……こうして知り合いに会うなんて思っていなかったから、偽名なんて考えていなかった。有名人って言ってたから「リリアです」ってそのまま言ったらマズイんだろうし、そもそも今のリリアは少年に変装している。名前を聞けばきっとこの格好とのギャップに違和感を感じるだろう。男でリリアと名付けられることはまず無い。言えば、下手すれば女性だとばれるという危険も……。

 ああ……こんなことなら外に出る際に呼び名を考えておけばよかった!

 ちらりとリリアに目を向けると、眉を落とし不安そうな眼差しでこちらの成り行きを見守っていた。

 ……今、この場で決めるしかない。俺は視線を大通りに馳せる。なにか、なにか無いか!? ――あった!!

「い、いいぜ。こいつは……こいつはマロってんだ!」

「マロ!?」

 ビックリした顔で、大通りの商店街に一角にある同じ名前の飲食店と俺の顔を交互に見る。

 リリアの視線がチクチクする。その視線は「ちょっと! なんでそんな変な名前なの!?」と語っていた。

 許せ……もう思いつきで対応するしかなかったんだ!

「へえ、ちょっと珍しい名前だな。俺はリードってんだ。よろしくなマリオ」

「あ……はい、よろしくお願いします」

「それにしてもヴァンがサム以外でギルド仲間をつくるなんてなあ。ヴァンとはどういう風に知り合ったんだ?」

「あ、あのですね……まだギルドに入ったばかりの新人で、慣れない手続きに困っているところをヴァンが色々と世話を焼いてくれたんです。そ、それで仲良くなって……」

 頬に汗をかきながら何とか辻褄を合わせるリリア。

 いきなりの展開で力んでいるのだろうか、両腕に抱えられたカーバンクルが苦しそうにもがいている。……下ろしてやれよ。

「そうか。マロ、ヴァンと仲良くしてやってくれ。こいつは昔から厄介事に自分から飛び込むところがあってなあ。そん時は止めてやってくれや」

「はい。任せてください」

「その厄介事の元だってのに、よく言うよ」

 ゲス!

「~~~~~~~~~~~!!」

 足をおもいっきり踏まれた。しかもかかとで。

「ははは! そりゃ頼もしいぜ。ん? どうしたヴァン。やけに汗をかいてるな」

「だ、大丈夫っす。気にしないで……ははは」

「そうか? まあイイ。おっと、今は巡回中だったな。そっちも買い物中なんだろ? 邪魔したな。また今度ゆっくりと話そうや」

「あ、待ってください!」

 後ろを向き、手を振って去ろうとするリードを俺は引き止めていた。

「ん、どうした? ……随分と真剣な眼をしているな」

 再びこちらを向いたリードさんは俺と眼を合わせると、眼を細くして言った。

 そう、真剣なのだ。昨日、リリアと一緒に居て、心に決めたことのために。

「これから、手合わせ願えませんか? 俺、今より強くなりたいんです」

「なに?」

 リードは無精髭に手を当てて考え込む。こちらの申し出を吟味しているようだ。俺を見る眼が鋭い眼光を放っている。

 やがて、声を出して笑い始めた。

「いいぜ。久々に鍛えてやろう! 付いてきな」

「はい! よろしくお願いします!」

 チョンチョン――っと、カーバンクルを下ろしたリリアが背中を突きヴァンに訪ねる。

「ねえ、リードさんって、どういう人なの? あのマントってディオーネ王族の、ハサウェイのマークよね?」

「ああ、リードは親父たちの古くからの友人なんだ。親父たちが死んだあと、身寄りのない俺の保護者役を買って出てくれた人で、俺にガンブレードの扱い方を教えてくれた師匠。そして……」

 俺は前を行く大きな背中を見て、言った。

「ディオーネが誇る最強の騎士。鋼竜騎士団の団長さ」

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